日本のチカラ 2015.04.26


世界に一つしかないオリジナルの糸。
新たな発想から生まれた数々の糸が世界のファッション界で大きな注目を集めています。
(英語)
(英語)イエス。
良質な原料を求めて世界を飛び回り…。
それを紡ぐ時に活躍するのがなんと半世紀以上も前に作られた古い機械。
本当にいいものを作ろうという気持ちがないといいものなんか出来ないから絶対。
自分たちにしか出来ないものを作りたい。
山形にある小さな繊維工場の若手経営者が会社の運命を変え…。
そして世界の繊維業界の構図を変える挑戦が始まりました。
いいじゃん。
ありがとうございます。
ハハッ。
いいいい。
『日本のチカラ』。
今週はオリジナルの糸で世界に新たなファッションを発信する繊維工場の物語です。
さくらんぼの里として知られる山形県寒河江市。
人口およそ4万人山形の小さな町で世界品質のもの作りを続けているのが佐藤繊維。
原料の調達から糸作りそれを使ったニット製品までを手がける従業員およそ180人の会社です。
会社を率いるのは金髪がトレードマークの4代目佐藤正樹さん48歳。
一度会ったら忘れることが出来ない風貌。
この社長が小さな町工場を世界の企業に変えたのです。
社長室の壁に飾られた一枚のカーディガン。
世界の目が集まりました。
2009年1月オバマ大統領の就任式でミシェル夫人はカーディガンを着て現れました。
当時世界のファッション業界は騒然となったと言います。
ニットをフォーマルな場で着るのはふさわしくないとされていたからです。
このカーディガンに使われた糸がまさに佐藤繊維が生み出したこれまでの常識を打ち破る極めて細いモヘア糸だったのです。
正装の場でニットが着られるっていうのは多分歴史的にも初めてのことで。
まあそういった意味で今までにないぐらいに細い糸が作れたことがまあちょっと今までのニットとまた違うファッションアイテムとして使って頂けたのかな。
世界のファッションの常識を変えた極細のモヘア糸。
最も細いものはアンゴラヤギの毛1グラムからなんと52メートルもの糸を紡ぎ出します。
これはこれまで限界と言われた細さの半分以下の数字です。
これまでにない細いモヘア糸が普段着としてのニットに優雅さと気品を与え特別な装いとしてのニットを生み出すことに成功したのです。
1932年に創業した佐藤繊維。
羊を飼い手紡ぎの毛糸作りを始めたのがスタートでした。
高度成長期にはニット製品の下請け生産を開始。
しかし1990年代に入ると安い海外製品が大量に出回り仕事は急激に減っていきました。
26歳で後を継いだ佐藤社長は経営をいかに立て直すかを考えていました。
そんな時にイタリアの糸工場を見学したのです。
そこで転機が訪れました。
(佐藤さん)…っていうところが衝撃を受けまして。
その時下請けだけの仕事から抜け出し独自のもの作りをすることを決めたのです。
まずは誰も見たことのない糸を作る。
佐藤社長は自ら世界中を飛び回り理想の原料を探しました。
南アフリカで見つけたアンゴラヤギ。
モヘア糸を作るため5年かけて探した原料は人間の髪の毛の3分の1という細さでした。
この原料をもとにあの極細のモヘア糸が誕生したのです。
この日大阪のアパレルメーカーの担当者が工場見学にやって来ました。
ミシェル夫人のカーディガンでその名を知られるようになった佐藤繊維。
こうした見学の依頼が後を絶ちません。
紡績工場での糸作りの様子そこで意外な事実が明かされました。
この機械この機械ですね私この会社に来た時に今から23年前廃棄する予定だったんです。
機械に書いてあるのは「TOYODA」の文字。
ここにあったのは大正時代に創業し世界のトヨタの礎を築いた豊田自動織機製作所が作った機械でした。
さらに糸を開発する部屋にあったのも1950年代に作られた機械。
こうした古い機械を使ってオリジナルの糸を作っているのです。
すごい難しい原料でも昔の機械であれば出来る可能性がある。
要はあくまでも丁寧なもの作りを前提にしているので。
だから新しい糸作りっていう時に一番役に立ったのはその古い機械。
コンピューター制御で生産性を重視した最新の機械は自分たちで手を加える余地がほとんどありません。
古い機械は比較的構造が単純なため部品を交換することで様々な糸作りに対応出来ると言います。
このギアとこのギアを変えることによって上のローラーの回転数と下のローラーの回転数をここで…こことここで変えるんですけど。
そうすることによってえー…糸の太さを決めてまた下のギアを変えることによって撚りを決める。
だから3つギアを変えるだけで簡単に…。
世界中を回って手に入れた原料と古い機械を駆使して作るオリジナルの糸。
今その数は2000種類以上にも及び世界のトップブランドで使われています。
そして2001年佐藤社長は念願のアパレルブランドを立ち上げました。
糸作りからニット製品までを手がけることでより素材の特徴を生かしたもの作りが出来ると考えたからです。
うちは糸から作ってるというその…佐藤繊維だからいろんな原料から特徴のある素材を作って表現出来る。
世界に知られるようになった佐藤繊維のニットは単価が2万円から5万円ほど。
それでも海外の有名ブランドの同じくらいの品質のものよりも割安感があると消費者の心をつかみ続けています。
(女性)やっぱりねいくらよくてもみんなが手軽にね買えたりしなければ…。
まず他のやつ…ニットと比べた時に。
こちらは途中で太さが変わり色も変わる糸。
その糸で作ったのがこちら。
糸が美しいグラデーションを描き表面に立体感が出るのが特徴です。
一方こちらは糸の芯に和紙を使いその周りにウールを巻いた糸。
ウールのやわらかさと和紙の軽さを両立したものでこのニットでは肩の部分などに使われています。
こうした独自の糸やニット製品の開発は高く評価され第3回ものづくり日本大賞で経済産業大臣賞を受賞しました。
しかしここまでの道のりは平坦だったわけではありません。
2007年から毎年出展している世界最大の糸の展示会イタリアピッティ・フィラーティ。
出展した当初は全く知名度がなく苦戦を強いられました。
そこで佐藤社長はあるものを展示会に持って行きました。
それがこの日の丸のうちわです。
俺たち日本で作ってるんだっていうことをPRするのにまあ展示会場夏で暑いものですから。
そしたら展示会場中が日の丸だらけになってですねみんなもううちわで作戦どおり成功したという思い出のうちわです。
ファッションの先端を行くこの街に4年前佐藤繊維は新たな拠点を作りました。
(男性)いらっしゃいませ。
(男性)いらっしゃいませ。
この日行われていたのが今年の秋冬物の展示会。
そこには緊張した面持ちの佐藤社長の姿がありました。
(佐藤さん)展示会で全部伝えきれないともちろん注文もつかないですし自分の中でイメージをちゃんと作ってやらなくちゃいけないというところが。
いつも展示会の時にはすごい気を張って。
今回の展示会にはより素材の持ち味を生かしたデザインや海外での人気が高いかわいらしさを強調したものなど世界展開を視野に入れた商品が並びました。
早速大勢のバイヤーたちが詰めかけ商品の出来栄えをチェックします。
(佐藤さん)ハローナイストゥーミートユー。
展示会には海外からのバイヤーもやって来ます。
こちらはフランスの方。
佐藤社長は懸命に商品を売り込みます。
(佐藤さん)サラッとしたすごく特殊な素材でウールでも撚りをかけているのでちょっと今までにあんまりヨーロッパとかでない今までにない…。
すごいですねこれね。
結構今いろんなブランド…。
(フランス語)
(フランス語)バイヤーたちの反応は上々。
こんなふうにあまり色が…。
大きな手応えを感じた一日となりました。
(男性)おはようございます。
(一同)おはようございます。
独自のもの作りは10年ほど前から会社にある変化をもたらしました。
全国から就職希望者が急増し社員のおよそ3割を20代が占めるようになったのです。
100でやんなきゃ駄目なのよ。
だって失敗したじゃあこうすりゃよかったとか言っても終わっちゃうでしょ?会社。
みんなもう作っちゃってるんだから。
この日社長の声が社内に響いていました。
入社6年目の営業担当者が叱られていたのです。
どうするとそういう商品があがるか。
いいものを作れるかっていうことを営業としてちゃんと考えないと。
担当したニットの試作品の仕上がりが社長の納得いくものではなかったのです。
佐藤社長は急きょ社員たちを集めました。
ここに来る襟が今どこにあるかっていうとここに来る襟がここにあるんだからな今。
これいちいち作ってから教えなければならないのか?こんな話。
自分が消費者にならなければ駄目だってことなのよ。
自分が要は日本製のものっていうのは上代2万円超えるわけだ。
自分が2万円出して買う目線でものを作らなきゃ駄目だって。
本当にいいものを作ろうという気持ちがないといいものなんか出来ないから絶対。
埼玉県出身の齊藤愛さんは専門学校でニットデザインを学びこの会社に就職しました。
齊藤さんにとって社長は誰よりも尊敬出来る存在です。
(齊藤さん)もの作りにすごいストイックでめちゃくちゃ真剣でこの人以上の人はあんまりいないんじゃないかっていうぐらいすごい人なのでそういった声を真摯に聞いてやっていきたいなって思いましたね。
全国から山形にやって来た若者たち。
社長のもの作りへの情熱に魅せられ新たなものを作る楽しさを求め続けています。
熱伝導みたいなのいいんじゃない?学生の時にこの会社を知ってすごい面白そうなことを山形でしてるんだなと知って。
モチベーションを上げるのがすごく上手でなんていうんですか…激励が上手というか。
佐藤繊維にアパレルメーカーの担当者がやって来ました。
佐藤社長は取り出した布を机の上に並べ始めます。
(佐藤さん)触って頂くとわかりますけどもう格段に風合いがあって。
世界と戦うっていうことで実はこれ開発してまして…。
それはファッション性よりも機能性を重視して開発した糸で編んだサンプル。
洗っても縮まないウールの糸。
しかもしなやかでやわらかいのが特徴です。
値段の安い中国製品が世界のニット市場を圧倒する中この糸にはそれに対抗しようという思いが込められていました。
日本だから作れるというものを作っていかない限りは多分日本に戻ってこないと思うんです。
今回実はこの素材っていうのは要は中国で今流れてるレギュラーなウールにない本当に薄くて繊細なニットを作れる糸っていうことで私の挑戦は中国から日本に糸から製品を全て日本に戻す。
日本の繊維産業の行く末をも占う糸。
世界市場を狙うプロジェクトです。
まず28日までに出来ることならちょっとサンプルたたき台だけ上げてほしい。
28日俺帰って来た時にそこで打ち合わせするからもう一回。
10日あまりの短い時間で新たな糸を使ったセーターの試作が命じられました。
社長のリクエストはいつもこんなものなのでなんとか…。
よし!社員たちが試作をしている間佐藤社長の姿はニューヨークにありました。
すでに10年も前にニューヨークに拠点を構え毎年展示会に参加しています。
その頃佐藤繊維では試作品のデザインを基に型紙作りが始まっていました。
目指す形になるようにパソコンを使って正確に仕上げます。
出来上がった型紙は編立と呼ばれる部署に回されます。
今回の試作品で編立を担当したのが福島県出身の國井道悦さんです。
型紙を確認すると國井さんはパソコンの前に座りました。
編立は糸を編む機械にどう編ませるのかのプログラムを作る仕事です。
しかし単純にデータを打ち込めばいいというものではありません。
さらに編立の仕事は続きます。
プログラムどおりに機械を動かすために細かな調整が必要です。
新たな糸を使ったセーターが少しずつ形になろうとしていました。
國井さんが編立を担当した試作品が一つの形になりました。
一見すると普通のセーター。
しかしこれがメイド・イン・ジャパンのニットを復活させる重要な役割を担っています。
細かくチェックする國井さん。
すぐに修正が必要なところを見つけました。
ここもうちょっと修正したほうがよさそうですね。
あとここ数目襟が長いので。
襟の部分のわずかなたるみが気になります。
セーターの顔になってくるところなんでここのおさまりがいいか悪いかだけで全然商品の見え方が変わってくるんで。
他の社員からも同じところが指摘されます。
気になるの襟だけですかね。
あとは…。
そうだね襟だね。
襟を直して最終チェック。
担当者の間で話し合った結果襟の部分を直して社長のチェックを受けることになりました。
新たな糸で作った試作品を社長がチェックする日。
たるんでいた襟の部分もきれいに修正されました。
はい大丈夫です。
しかし社員たちは不安の色を隠せません。
社長もオッケー出して頂けるんではないでしょうか。
(大場さん)うん。
ちょっとまだ読めないですけど。
あっ!っていうところに気づきますからね社長。
ニューヨークから社長が帰ってきました。
果たしてその評価は?ここをきれいに見えるようにするためにこの成型の見え方全部きれいに出るように見せたほうがいいな。
(國井さん)全体…?
(佐藤さん)うんうんここがほらすごく汚いからこれ。
早速細かな指摘が飛び出します。
編立を担当した國井さん気が気ではありません。
しかし社長から大きな修正の指示はありませんでした。
いいじゃん。
ありがとうございます。
ハハッ。
いいいい。
思わず安堵の笑みがこぼれます。
若干の修正はありましたけどまずまずかな。
合間を見つけて少しずつしか出来なかったですけどそれなりの結果が得られてよかったと思います。
じゃああともうちょい微調整よろしく。
日本のもの作りのプライドをかけたニット。
社長の驚くべき狙いとは?
(佐藤さん)こんなもの作れたらいいなと思ってるものが出来上がった時っていうのはそれはやっぱり嬉しいですね。
もちろん私も嬉しいし社員がやっぱりいい顔しますよね。
私がこの一つの歴史を作っていく作っていくんだっていう気持ちにそこの環境に携わってることがやっぱ私たち製造業ものを作る仕事のやっぱりもうこれDialogue:0,0:282015/04/26(日) 06:00〜06:30
ABCテレビ1
日本のチカラ[字]

オバマ大統領のミシェル夫人が大統領就任式で着用したカーディガン…使用された極上モヘア糸は、なんと山形の小さな工場で作られました。世界品質の秘密に迫ります!

詳細情報
◇番組内容
人口約4万人の小さな街、山形県・寒河江市に世界品質のもの作りを続けている会社があります。原料の調達から糸作り、それを使ったニット製品までを手がけ、世界のファッションの常識を変えてきました。ミシェル夫人のカーディガンに使われた極細のモヘア糸…これまでの常識を打ち破る糸が「普段着」としてのニットに優雅さと気品を与え、「特別な装い」としての新たなニットを生み出したのです。
◇番組内容2
値段の安い海外製品が押し寄せ、苦しい経営が迫られている日本の繊維業界。独自のもの作りをすることで、生き残りを図っています。その答えが世界に一つだけの糸。半世紀以上前の古い機械に手を加え、様々なオリジナルの糸を開発、その糸で編んだニット製品は、ファッション界注目の的!世界品質を追求するもの作りの現場に密着します。
◇番組内容3
全国各地の「魅力あふれる産業」を通して、地域の歴史や文化・人々の英知や営みを学び、日本の技術力・地方創生への道・温かいコミュニティー、生きるヒントを描き出す、教育ドキュメンタリー番組。
◇ナレーション
青山友紀(山形放送アナウンサー)
◇音楽
高嶋ちさ子「ブライト・フューチャー」
◇制作
企画:民間放送教育協会
制作著作:山形放送
協力:文部科学省/中小企業基盤整備機構
◇おしらせ
☆番組HP
 http://www.minkyo.or.jp/

この番組は、朝日放送の『青少年に見てもらいたい番組』に指定されています。

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz

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