今からおよそ5,000年前に誕生した…そびえ立つピラミッド。
壮麗な巨大神殿。
それらを造らせたのは古代エジプトの王ファラオでした。
生前の姿を今にとどめるファラオのミイラ。
古代エジプトは絶対的な力を持つファラオによって3,000年の繁栄を成し遂げたとされてきました。
一方古代エジプトの民たちはファラオの下で過酷な暮らしを強いられたといわれてきました。
しかし今大英博物館の調査からその常識が覆されようとしています。
収蔵庫に眠っていた2,700年前の庶民のミイラ。
今回初めて科学のメスが入りました。
現れたミイラから意外な事実が分かってきました。
一般の人々が必ずしもひどく苦しんでいた訳ではありません。
人々の食生活は驚くほどバランスがよかったのです。
庶民が残した大量の文書もありました。
3,000年前のラブレター。
子どもたちの学習ノート。
労働者の勤務表。
人々の思いや暮らしぶりが生き生きとよみがえります。
古代エジプト人たちは現代の私たちと同じ人生を送っていたのです。
そして収蔵庫にあった古代エジプトの数学問題集。
記されていたピラミッド建造の問題。
エジプトの繁栄を支えた庶民たちの驚異の知恵がひもとかれます。
大英博物館の未公開コレクションを中心に古代エジプト文明の新たな真実に迫ります。
古代エジプト文明の真実を求め大英博物館を訪れたのは…大英博物館が誕生したのは…以来イギリスの発展とともに収蔵品を増やしてきました。
その数およそ800万点。
しかし実はその99%は人知れず収蔵庫に眠っています。
展示室で公開されているのは僅か1%にすぎません。
ここは古代エジプトの展示室です。
ファラオたちの栄華を物語る遺産が一般に公開されています。
古代エジプト文明が誕生したのはおよそ5,000年前の事です。
以来3,000年にわたり繁栄し続けました。
実は私たちが知っている古代エジプトの歴史はファラオなど権力者の歴史です。
しかしそれは古代エジプトのほんの一部にしかすぎません。
国民の大半を占めていた民衆については…。
この映画のように虐げられたイメージがあるぐらいでその実像は知られていません。
ところが今回古代エジプトの一般庶民のイメージを覆す事実が大英博物館の収蔵品から明らかになってきました。
知られざる庶民たちの実像に迫ります。
今回特別に撮影が許された大英博物館の裏側。
薄暗い廊下。
入り組んだ階段。
そして次々と現れる扉。
古代エジプト文明の収蔵庫は迷路のような空間の先にあります。
ここがエジプト部門で最大の収蔵庫です。
イギリス国王エドワードの名が付けられた収蔵庫。
古代エジプト部門はおよそ15万点の収蔵品を保管しています。
立ち並ぶ人物の彫像。
女神像。
展示室に勝るとも劣らない至宝の数々が人知れず眠っています。
そして更にその奥に古代エジプト文明の常識を覆す貴重な手がかりがありました。
それは名もなき庶民たちが残した品々です。
この収蔵庫には人々が使っていた物が収められています。
棚の中には庶民の墓や住居から出土したおびただしい数の品々が眠っています。
収蔵品からは当時の人々の暮らしぶりがうかがえます。
これは古代エジプトのパンです。
3,000年以上前のものです。
人々の暮らしに欠かせないものでした。
人々の主食であり給料でもあったパン。
3,000年前の形をとどめています。
これは衣服の一部。
麻で織られ素朴な装飾が施されています。
女性たちは化粧も楽しんでいたようです。
収蔵庫の一角に庶民の実態を知る最大の手がかりがあります。
それはミイラ。
古代エジプトではファラオだけでなく多くの庶民のミイラも作られました。
しかし庶民のミイラはこれまであまり注目されず調査はほとんど手付かずのままでした。
謎に包まれてきた庶民の実像。
その解明のため2体のミイラの科学調査が行われる事になりました。
テーブルの上にあるのは2体のミイラです。
1つは大人の女性のものです。
身長142センチのこのミイラ。
今から100年近く前に大英博物館が購入したものです。
分かっている事はおよそ2,700年前の女性という事だけです。
もう一体は身長52センチのミイラ。
表面には幼い子どもの姿が描かれています。
しかし個人を特定するものが何もないため謎のミイラとされてきました。
これらのミイラの情報は少なく見つかった場所さえも分かっていません。
中に何があるのか。
どんなミイラが入っているのか。
最先端の科学調査で何が分かるのか興味深いところです。
2体のミイラは大英博物館と提携している病院に運び込まれました。
調査には生物考古学者のダニエル・アントワーヌ博士も同席しました。
表面からでは分からない庶民のミイラをCTスキャンで解き明かす試みです。
最初に調査するのは子どもの姿が描かれたミイラです。
開始して間もなくCTスキャンが意外な事実を映し出しました。
中には何もなく空洞だったのです。
更に思いがけない物が見つかりました。
釘が打ちつけられていたのです。
こうした釘は古代エジプトにはありませんでした。
そのため後世の何者かによってミイラが取り出された可能性が高い事が分かったのです。
中にあったミイラは博物館に来る前にどこかで取り出されてしまったようです。
今後詳細に検証すれば体を包んでいた布の中に何か痕跡が見つかるかもしれません。
古代エジプトのミイラはかつてヨーロッパのコレクターたちに大変人気がありました。
そのため手に入りやすかった庶民のミイラはその多くが略奪されてしまったのです。
続いてCTスキャンにかけられるのは大人のミイラ。
今度は何が映し出されるのか。
固唾をのんで見守ります。
3D画像で確認したところこのミイラは体のあちこちの骨が折れていました。
両足の腓骨は真っ二つ。
左腕の骨は胸の辺りまで飛び散っており生前の骨折とは考えられません。
庶民のミイラは発掘や輸送の際に乱暴に扱われ破壊されてしまう事がありました。
このミイラも例外ではなかったのです。
更に意外なものが映し出されました。
頭蓋骨の中に小さな白い影が映っていたのです。
更に内部を見ていくと後頭部に縦3センチ横4センチほどの固まりがありました。
これは乾燥して小さくなった脳でした。
実は古代エジプトのミイラに通常脳はありませんでした。
脳はミイラを腐らせる有害なものだと考えられていたため鼻の骨を砕きそこから脳をかき出していました。
心臓以外の全ての臓器も取り出しました。
肝臓肺胃腸の4つは専用の壺に入れてミイラと共に埋葬しました。
ところがこのミイラは違っていました。
脳を取り出すなどの高度な処理がなされておらず簡単な方法で作られていたのです。
この事実は大変興味深いです。
庶民は庶民なりに自分たちでできる範囲のお金を使い大切にミイラを作っていた事がうかがえます。
簡素な処理が施されミイラとなったこの女性。
あの世での復活を夢みた人々の思いはファラオも庶民も一緒だったのです。
ファラオについては既に多くの事が知られています。
しかし一般庶民の実像は今分かり始めてきたところなのです。
名もない人々の実像がようやく分かってきました。
残されたミイラは人々が永遠の命を信じながら生きていた証しです。
それでも実際に彼らがどのような生活を送っていたのかその詳細を知る事はほとんどできません。
なぜなら現存する古代エジプトの遺跡はその大半がファラオのもので一般庶民に関するものはほとんど見つかっていないからです。
ところが今人々の暮らしぶりをうかがわせる画期的な調査が進んでいます。
その現場はスーダン。
そこはかつて古代エジプトだった場所です。
実はここで庶民が暮らした町の跡が見つかり大規模な発掘が進められているのです。
そこから人々の驚くべき暮らしぶりが明らかになってきました。
漆黒の闇に響くエンジン音。
ナイル川をモーターボートで進んでいるのは大英博物館の調査隊です。
古代エジプトの庶民が暮らした町の跡はナイル川のほとりの砂漠地帯で見つかりました。
今からおよそ3,300年前の町の跡です。
大英博物館はここで2008年から発掘調査を続けています。
ある家の中から先のとがった土器が発見されました。
出てきたのはワイン用の壺でした。
ワインはファラオや貴族など裕福な人々の飲み物でした。
庶民は主にビールを飲んでいました。
しかしこうしたワイン壺が発見されるという事はこの町に暮らした人々の中にはかなりの富を蓄えた住民もいた事がうかがえます。
町の通りからは奇妙なものが見つかりました。
ここから何層にも重なったゴミが見つかりました。
それは土器のかけらや動物の骨が交じった大量のゴミでした。
ここが3,300年前に造られた当時の床です。
この家に住んでいた人々はここから通りに向かってゴミを投げ捨てていました。
すると通りのゴミがどんどん高くなり家の入り口はこの位置になってしまいました。
通路にたまってしまったゴミのためとうとう住人は家を建て替えざるをえない状況になりこの高さまで埋めてその上に新しい家を造らなければならなくなったのです。
現代でも大きな社会問題となっているゴミ問題が3,300年前の町で既に起こっていました。
更に興味深い住居がありました。
2世帯住宅の跡です。
左右2つの家を遮る中央の壁。
年代測定の結果後から取り付けたものだと分かりました。
この住居はもともと1軒だった家を2世帯が住む家に造り替えられていたのです。
古代エジプトの人々が家族単位のプライバシーを大切にしながら暮らしていた事がうかがえます。
これまでの研究を基に当時の町の様子を再現してみます。
高さ8メートルの城壁に囲まれた町に400人ほどの人々が暮らしていました。
ナイルのそばに広がる豊かな耕作地。
人々はここで家族と共に日々の暮らしを営んでいました。
アマラ西の住居跡から西へ500メートル。
ここでは墓地の発掘が行われています。
深さ2メートルほどの墓の中に散乱する人骨。
これらはミイラになるほどの余裕はなかった人々の骨です。
墓には少なくとも12人が葬られていました。
アマラ西の人々は1つの墓を同じ一族で使っていました。
親族が何世代にもわたりここに来て先祖を大切に埋葬していたのです。
3,300年前の人骨。
これらは当時の人々の健康状態や食生活を解き明かす重要な鍵でもあります。
発掘された骨は大英博物館に運ばれ分析作業が行われました。
取り出されたのは腕の部分の骨です。
骨粗しょう症だったこの人物。
分析の結果50代の女性である事が分かりました。
高齢女性の骨が出た事はとても興味深いです。
この事実は古代エジプト人が短命だったとするこれまでの認識を覆すものです。
更に興味深い骨がありました。
表面のくぼみが痛風の痕だというのです。
痛風は贅沢病ともいわれる病。
食生活と関わりが深い病気です。
現代人を苦しめる痛風が昔からあったと思うと興味深いです。
庶民の食生活を知る手がかりになるはずです。
食生活の実態を探るため発掘された骨の更なる科学分析が行われました。
注目したのは骨のコラーゲン。
コラーゲンに含まれる炭素と窒素を分析する事で人々が食べていた物の種類を特定する事ができるからです。
3,300年前の人骨から抽出した…この白い物質に答えが隠されていました。
これが分析結果です。
炭素からは人々が小麦のパンを食べていた事が。
そして窒素からはヤギやヒツジなど草食動物の肉を食べていた事が明らかになりました。
ベジタリアンでもなく肉ばかり食べていた訳でもない。
バランスのよい食生活でした。
一般の人々が絶えず苦しみとても不健康でいつも飢えていたというのは間違った認識です。
ほかの文明と比べても突出して豊かな暮らしだったのです。
人々は意外と豊かな食生活を送っていたんですね。
食卓にはパンと肉そしてワイン。
いい暮らしです。
それでも遺跡の発掘調査からでは人々の想いや考え方までは分かりません。
ところが今謎に満ちていた庶民の心の内までもが解明されようとしています。
それを可能にしたのは文字の解読です。
これはロゼッタ・ストーンです。
石の表面には2種類の古代エジプトの文字が記されています。
1つは神聖文字。
ファラオの神殿や墓などに使われています。
そして民衆文字。
広く普及していた文字です。
実は1822年にロゼッタ・ストーンに書かれていた神聖文字が解読され古代エジプトの世界は徐々に明らかになっていきました。
更に近年民衆文字の解読も急速に進みさまざまな事が分かってきたのです。
一体古代エジプトの民は何を感じ何を考え生きていたのでしょうか。
大英博物館の一角に特別な部屋があります。
博物館が収蔵する古文書の修復を行う部屋です。
古代エジプト文字の解読を専門とする世界的権威です。
ここで修復されているのは植物の繊維で作られたパピルスと呼ばれる古代エジプトの紙です。
修復には小さな和紙が使われます。
のりをつけた和紙でパピルスを補強しながら一つ一つつなぎ合わせていくのです。
(パーキンソン)これらのパピルスは腐りかけた木箱から発見され断片が散乱していました。
それらをつなぎ合わせ理解すれば古代エジプトで起こっていた事がより明らかになってくるのです。
文字の解読から次第に明かされてきた庶民の心の内。
収蔵庫の奥にある人物の彫像が保管されていました。
これはケンヘルケプシェフの彫像です。
ケプシェフは200枚ものパピルスを残した事で知られその人生の詳細が分かってきています。
ケンヘルケプシェフは3,200年前の人物です。
ケプシェフが残したパピルスの多くが大英博物館に保管されています。
解読の結果手紙教科書会計簿など暮らしに関わる多くのものがありました。
ケプシェフがどのような人生をたどったのか。
パピルスを手がかりに探っていきます。
エジプト中部の町ルクソール。
古代エジプト最大のカルナック神殿が造られたかつての都です。
ケプシェフが暮らした町はルクソールの外れの山あいにあります。
南北132メートル東西50メートル。
今からおよそ3,500年前の遺跡です。
パーキンソン博士はこれまで何度もこの遺跡を訪れケプシェフについて調査を続けています。
最盛期ここには70戸から120戸の家が建ちおよそ400人が暮らしていたと考えられています。
町のメインストリート沿いにケンヘルケプシェフが暮らした家がありました。
今から3,200年前ケプシェフはこの町で家族と共に暮らしていました。
一家は仕事の都合で移り住んできました。
兄弟がいた記録はありません。
ケプシェフは常々父親からある事を言い聞かされて育ちました。
これはケプシェフが残したパピルスです。
そこには子どもの頃に聞かされていたと思われる言葉が記されています。
こうした言いつけを守り勉強に励んだ古代エジプトの子どもたち。
ケプシェフたちはある職業を目指していました。
それは書記。
当時の庶民がなれる最も地位の高い職業だった書記になるため日々努力を重ねていました。
こうした事実を裏付けるパピルスが見つかっています。
子どもたちの学習ノートです。
文字の中に赤いバツ印があります。
これは教師が間違いを指摘した跡と考えられています。
その下には教師と思われる筆跡で問題の正解が書かれています。
やがてケプシェフは思春期を迎えます。
古代エジプトの若者にとって最大の関心事は恋愛でした。
ケンヘルケプシェフが残した中で最もすばらしいパピルスはラブレターだと思います。
当時の男女の恋愛の様子が手に取るように分かります。
これがケプシェフが残した通称ラブレターと呼ばれるパピルス。
そこには17編の愛の歌が書かれていました。
女性から贈られた愛の歌も残されています。
仲むつまじい男女の姿は古代エジプトの彫像にも表されています。
夫の肩を優しく包む妻の手。
恋愛をし結婚して子どもをもうける事は古代エジプトの庶民にとって何よりも大切な事でした。
パピルスには夫婦円満の秘訣も書かれています。
ケプシェフはその後子どもの頃から憧れた書記になります。
その職場は歴代ファラオの墓が造られた…ここで墓造りをする職人たちを監督する仕事に就いた事が分かっています。
パーキンソン博士が向かったのは王家の谷の西側にある崖。
そこにケプシェフの痕跡があるといいます。
ありました。
とても鮮明です。
あの岩に名前が書かれています。
ケンヘルケプシェフ直筆のサインです。
王家の谷ではこうしたケプシェフのサインがいくつも発見されています。
王家の谷で働いていたケプシェフ。
国家事業である王墓建設を任されたストレスは大変なものだったようです。
口うるさい上司もいたらしくそのつきあい方を説いた言葉もあります。
ケプシェフは部下にも悩まされていた事をうかがわせるものが残されています。
それは40センチほどの石版です。
ここには労働者たちの出勤記録が書かれています。
石の右側に書いてある黒い文字が労働者一人一人の名前です。
名前に続いて日付と欠勤理由が綴られています。
黒い文字が仕事を休んだ日付。
その上の赤い文字がその理由です。
コンスという職人は自分の誕生日という理由で2日連続休んでいます。
サソリに刺された職人や…イエルニウテフという職人は二日酔いで休んでいました。
現代では考えられない理由で仕事を休む労働者たち。
ケプシェフにとって頭の痛い問題だったはずです。
そうした苦悩はケプシェフ直筆のお守りからもうかがえます。
ここに書かれているのは…これは眠れない時に使われた呪文です。
ケプシェフは不眠症に悩まされていたのです。
ケプシェフはその後43年にわたり書記を務めこの町に住み続けました。
町を望む高台にケプシェフのものと考えられている墓があります。
記録によればケンヘルケプシェフは60代の後半でこの世を去りました。
ケプシェフが残した記録のおかげで当時の一般の人々の暮らしぶりや考えを知る事ができます。
人々は人生を楽しみストレスを感じ問題にも直面しました。
3,000年以上前の古代エジプトの人々と現代の我々は全く変わらないのです。
3,000年以上も前の一人の人物の人生をこれほど詳しく知る事ができる事に驚きます。
パピルスに綴られていた言葉にはほかにも今の私たちに通じるものがあります。
実はパピルスにはこのような人々の生き方以外にもある重要なメッセージが隠されています。
それは3,000年も続いた古代エジプト繁栄の秘密です。
大英博物館にあるパピルスを収めた収蔵庫があります。
布の下から現れたのは3,600年前に書かれた数学の問題集でした。
これは大英博物館が収蔵する最も重要なパピルスです。
リンド数学パピルスの名で知られ古代エジプトの数学を今に伝えるパピルスとしては最大のものです。
人々が高度な知識を持ち合わせていた事を物語っています。
長さ5.64メートル幅33センチ。
このパピルスはケプシェフが暮らしたデル・エル・メディーナの近くで発見されました。
そこには87の問題が載せられています。
こうした庶民の暮らしに役立つ問題に加え高度な数学問題もあります。
解き方も記されています。
数式にするとこうなります。
この場合答えは64。
現代の公式で計算すると答えは63.585。
円周率を知らなかった人々は独特の方法で円の面積を求めていました。
こうした高度な知識を人々が広く共有する事は古代エジプトの基盤をしっかりと固め発展を促していく上でとても重要な事でした。
遠い古代の人々が非常に洗練された知識を持ち合わせている事は驚きです。
このパピルスからは古代エジプトの庶民たちが私たちと同じように物事を理解していた事をうかがわせます。
更にこのパピルスにはもう一つ注目すべき問題があります。
ピラミッド建造の問題です。
ピラミッドの図形が描かれその横に問題文が記されています。
しかしこのパピルスが記された頃既に巨大ピラミッドは造られていませんでした。
その1,000年も前に建造は中止されていたのです。
ではなぜ造る当てのないピラミッドの問題が書かれているのか。
実はそこにこそエジプト繁栄の秘密があるのです。
その秘密を解く鍵はパピルスの最初の部分に書かれていました。
つまりこの問題集ははるか昔から代々受け継がれてきた事が分かったのです。
貴重な知識を失わないよう人々が広く伝承してきた事が長期にわたる繁栄を可能にしたのです。
それを裏付ける記述が古代エジプトを旅した歴史家ヘロドトスの著作にあります。
古代エジプトでは物事を受け継ぐ事が重要でした。
知識の伝承はさまざまな分野で行われその事が古代エジプトが繁栄を保てた原動力だったのです。
3,000年にわたり栄え続けた古代エジプト。
頂点に君臨していたファラオも民衆の力と知恵が繁栄には欠かせない事を十分に理解していました。
その事を示すパピルスが残っています。
歴代ファラオに受け継がれてきた格言です。
ファラオは民を栄えさせるためさまざまな情報を広く一般に伝えていきました。
エジプト南部に残る…ここにある碑文が残されています。
これは世界で最初に作られた暦です。
古代エジプトは一年が365日である事を初めて見つけた文明です。
農民たちに種まきや刈り取りの時期を知らせるためファラオはこの暦を刻んだのです。
更に神殿の一番奥に興味深いものが記されていました。
古代エジプトには優れた医者がたくさんおり当時最先端の医療情報も公開されていました。
手術で使う医療器具。
薬の処方箋。
人々の健康を左右した最新の医療情報。
ファラオがこうしたさまざまな情報を積極的に公開した事が社会全体を活性化させていったのです。
ここに書かれている事は全てのエジプトの庶民に知らされていました。
情報は共有され知識レベルは優れていました。
高度な情報を公開した事で知識は広まりやがて社会全体のものとなったのです。
ファラオと庶民。
その関係を如実に表す一枚のパピルスが残っています。
史上初のストライキの記録です。
デル・エル・メディーナの職人たちがストライキを起こします。
毎月1日にファラオから支払われるはずの給料が遅れていたのです。
当時エジプトを治めていたファラオは…このころエジプトは外国との戦争に追われていました。
国は混乱し政府の穀物倉庫は底をつきかけ給料の未払いが生じていました。
仕事を休み政府の出先機関で座り込む職人たち。
給料を支払ってほしいと訴えます。
その切実な声がパピルスに記されています。
古代エジプトはほかの文明と比べてもより公平でファラオへの抗議も可能でした。
緊張関係もありましたがファラオと民衆の間には確かな対話が存在したのです。
ストライキ開始から数日後。
訴えを聞いたファラオは給料だったパンや麦を人々に与えるよう指示しました。
戦争の影響で国全体の穀物が不足していたにもかかわらずファラオは民の声を優先しました。
こうした良好な関係が互いの信頼関係を生み古代エジプト社会の安定をもたらしたのです。
3,000年にわたる古代エジプトの繁栄はファラオの力だけではなしえませんでした。
一人一人の民衆の存在が大切でした。
古代エジプト文明を担っていた真のエジプト人は庶民たちだったのです。
今から5,000年前に誕生しその後3,000年の長きにわたって存続した古代エジプト文明。
驚異の繁栄を実現した古代エジプトはまさに庶民によって支えられた文明だったのです。
一人一人の庶民の知恵や努力の積み重ねが高度な文明の礎になっていたんですね。
これまで光が当てられていなかった一般庶民の研究から分かってきた繁栄の秘密。
権力者が残した記録からだけでは真の歴史は分からない。
古代エジプトの例はその事を私たちに物語っているのかもしれません。
2015/04/26(日) 00:55〜01:54
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 知られざる大英博物館1.古代エジプト民が支えた3千年の繁栄[字][再]
大英博物館の収蔵庫に眠る未公開の品々から、歴史の真実に迫るシリーズ。第1回は古代エジプト。謎のミイラ、3000年前のラブレター等が語る繁栄の秘密!出演、堺雅人。
詳細情報
番組内容
大英博物館の収蔵庫に眠る未公開の品々から、歴史の真実に迫るシリーズ。第1回は古代エジプト。これまで古代エジプトの繁栄は、絶対的な権力を持つファラオによって成し遂げられたといわれてきた。しかし大英博物館には、名もない庶民が残した大量の品々が残る。謎のミイラの徹底解剖、3000年前のラブレター、ピラミッド建造の数学問題集。それらの研究から、知られざる庶民の実像と繁栄の秘密を描く。【ナビゲーター】堺雅人
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