美の巨人たち 葛飾北斎『美人愛猫図』日本が誇る浮世絵師が魂を込めた肉筆画の謎 2015.04.25


東京都墨田区両国。
この界隈にはある絵師の名前がつけられた通りがあるんです。
ヒントはこちらの絵。
もうおわかりですよね?葛飾北斎です。
北斎が生まれた場所本所南割下水は墨田区亀沢1丁目2丁目界隈。
現在北斎通りと名づけられおよそ1キロにわたり両側の街路灯に計94点の北斎の絵が飾られています。
北斎の絵を見ながら歩いていると…。
あっあられ屋さんを発見。
ちょっと寄り道してみましょう。
東あられ。
香ばしい香りが…。
へぇ〜お店で揚げているんですね。
今揚げていたのはどれかな?いらっしゃいませ。
こちらが当店名物の北斎揚げでございます。
北斎揚げ?あっパッケージが富士山の形。
北斎の絵ですね。
北斎柄の手ぬぐいで包んだものもあるんだ。
これにしよう。
おじゃましました。
さてと次はどこへ行こうかな。
あっここにも絵があった。
北斎といえばやっぱり「冨嶽三十六景」ですよね。
おっお姉さん北斎好きなの?えぇ好きですけど。
お姉さんどことなく北斎の美人画の雰囲気があるもんね。
えっ?北斎って美人画も描いているんですか?えっ知らないの?だって北斎といえば富士山でしょ?葛飾北斎の代表作といえば「冨嶽三十六景」ですが美人画も描いているんですよ。
それがなかなかの美人。
独特の曲線美香り立つ色香。
今日は北斎の美人画からとっておきの一枚を…。
昭和11年に建てられました。
大切な美術品を保管する場所にふさわしく重厚な造りになっています。
一歩中に入ると大理石の大ホール。
豪華なシャンデリアの向こうにステンドグラスも。
ここでアメリカの実業家が収集した肉筆浮世絵を紹介する展覧会が開かれています。
その中に日本初公開のあの美人画が。
今日の一枚…。
縦およそ72センチ横28センチの肉筆画です。
版画ではなく絹本。
すなわち絹に描かれたもの。
すらりとした女性の立ち姿。
着物は灰色を基調とした地味な印象ですが袖口や襟元からのぞく襦袢やかんざし口紅の赤が女性の色香を際立たせています。
左手は袖を通さずに懐へ。
その手に猫が。
猫の首輪も女性の襦袢と同じ鮮やかな赤です。
絵に使われた色は主に灰色と赤の濃淡。
少ない配色ながら艶やかさが表現されています。
女性は懐の猫を見つめています。
どんな思いで見つめているのか。
この女性のモデルはいるのか。
実はまだ答えが見つかっていないのです。
日本初公開の北斎の美人画。
今日はその謎をこちらの2人と一緒に解き明かしていきましょう。
いらっしゃい。
相変わらず暇そうだなコーヒー屋。
俺以外に客入ってんの見たことないよ。
バカお前が疫病神だっつうんだよ。
ハハハハ。
今日の案内人は北斎が生まれた下町で暮らす30年来の幼なじみ喫茶店のマスターと呉服屋の息子です。
お前店はいいのか?いいんだよ。
着物なんて一日に何着も売れるわけじゃないんだから。
おふくろに任せとけばいいんだよ。
いつまでもふらふらして結婚もしねえでろくなもんじゃねえな。
お互いさまだよ。
それよりまたいい女見つけちゃったよ。
懲りもせずにどうせまた振られるんだろ。
今回は振られないよ。
なんだよ絵かよ。
どうだ?北斎の美人画。
きれいだろう?お前なんてね美人の絵にも振られるよ。
それにねこの着物なかなかのセンスなんだよ。
呉服屋の俺はねこの美人からもそうやって勉強してるんだよ。
ただあれだな猫がかわいくねえな。
北斎ともあろうものが猫に手を抜くとはね。
おいおいおい手は抜いてないだろう。
あの北斎さんのことだからなんかこう意味があるんだよ。
どんな意味があるんだよ?えっ。
それは…あのあれだよ。
どれだよ?あれ…。
この2人に謎が解けるのか少し不安ですが…。
今日の一枚『美人愛猫図』は肉筆美人画です。
肉筆とは木版画の錦絵とは違い下絵から彩色までを絵師1人で仕上げる作品のことです。
錦絵は版元の企画のもとに大量生産される大衆向けの商品で絵師の表現には制約がありました。
一方の肉筆画は一点物。
時間をかけて制作され値段も高価でした。
絵師の芸術性技術力が問われます。
だからこそ絵師は特別な思いを込めて描きます。
では北斎がこの一枚に込めたものとは?懐に大事に抱えた小さな猫。
子猫のような愛らしさはなくどこか不気味。
見つめる美人の眼差しも愛おしさよりも哀れみを感じているような。
北斎はどんな思いで美人と猫を描いたのか?その謎に迫ります。
今日の一枚…。
日本初公開のためこれまで研究の機会がなく謎の多い作品です。
しかしだいたいの制作年はわかります。
実は北斎30回も画号を変えているのです。
この作品の号は…。
北斎を名乗り始めたのは40歳前後です。
そしてその下に印が押されています。
亀毛蛇足の印。
それは40歳頃から50歳頃まで使っていたもの。
つまり『美人愛猫図』の制作年は1800年から1810年頃と推測できるのです。
葛飾北斎が美人画をもっとも多く描いたのは北斎の号を使う前宗理の時代。
30代の頃です。
宗理型美人と呼ばれるスタイルを作り人気を集めました。
一方『美人愛猫図』は北斎と画号を変えて挑んだ新たなスタイルの美人画です。
さてあなたにはその違いわかりますか?あ〜ぁ…。
相変わらず暇な店だね。
なんだ疫病神かよ。
ん?大福にコーヒー。
どうしちまったのこれ。
いやぁ最近な客の入りが芳しくないからなんか新しいメニューでも考えなきゃと思ってな。
大福好きの北斎にちなんで北斎セットっていうのはどうかなと思って。
くだらねえな。
そんなことよりこれ見てよ。
なんだよまた美人画かよ。
ほら俺はさ呉服屋だからさ改めて北斎の美人を見比べてみたのよ。
そしたら発見したんだよ。
なんだ発見って偉そうに…。
どう?見てみて見比べてみて。
着物の感じが変わってると思わない?わかんねえなぁ。
北斎といえば富士山だろ!はぁ…ダメだこりゃ。
葛飾北斎は言わずと知れた江戸時代を代表する浮世絵師です。
「冨嶽三十六景」や『諸国瀧廻り』など風景画が有名ですが作品は3万点にも及び読本や挿絵など多岐にわたっています。
実は30代半ばから40代の頃の北斎は美人画の名手として名をはせていました。
江戸時代浮世絵は庶民の娯楽。
なかでも人気だったのが美人画でした。
例えば江戸初期の美人画の代表作は菱川師宣の『見返り美人図』。
そして江戸中期になると鈴木春信が登場。
可憐な少女を描きました。
春信と対照的な美人画を描いたのは鳥居清長。
八頭身で手足の長い東洋のビーナスと呼ばれるスレンダー美人です。
喜多川歌麿は女性美を上半身に集約した大首絵美人画を描きました。
そして北斎が宗理時代に描いた美人画です。
華奢な体にうりざね顔。
小さな目鼻立ちを特徴とする上品な美人は大衆の人気を集めました。
今日の一枚。
『美人愛猫図』は宗理時代のあと北斎を名乗った頃に描かれました。
違いはあるのでしょうか?並べてみると…。
宗理時代は体も着物のシワも細い繊細な線で描かれています。
一方北斎時代の『美人愛猫図』を見てみると着物に太さの異なる線が多用されているのです。
これは何を意味するのか?北斎を名乗った頃からその美人画に新たな時代が始まったと美術史家河野元昭さんは言います。
北斎は『美人愛猫図』で均整と調和を表す繊細な線ではなくさまざまな太さの線を用いることで動きのある表現に挑みました。
ずり落ちそうな着物。
たくし上げた袖の重み。
太さの異なる線での表現が今にも動き出しそうな印象を与えているのです。
着物の地味な色にも狙いがありました。
灰色の濃淡を中心とした色使いは襦袢や口紅の赤を際立たせるためではなく着物の黒い線を強調するため。
北斎は線の動きを見せることにこだわったのです。
往年の肉筆美人画の傑作。
その線はもはや線というよりも陰影のような効果をもたらしもたれかかる美人の存在感を強調します。
線を操り独自の美人を作り出した北斎。
今日の一枚『美人愛猫図』は新たなる北斎美人の誕生を告げる記念碑的な作品だったのです。
うん大福とコーヒーってなかなか合うね。
あのさ江戸時代っていうのはさ二十歳も過ぎれば花も終わりっていう時代だったらしいぜ。
ん?もうおばちゃんってことか?なっこの美人実はおばちゃんだったのかもな。
うん確かに着物の色がだいぶ渋いもんな。
うんあっあっ!この猫!あっ!おや?猫に何か感じたようですね。
今日の一枚『美人愛猫図』。
もう1つ解き明かしたいのが猫の存在です。
北斎が生み出した妖艶な美人。
しかしその胸元から顔を出す猫は目が落ちくぼみ愛らしいというよりは不気味。
なぜこんなかわいらしくない猫を描いたのか?そこにモデルの謎が…。
再び北斎のゆかりの地をお散歩。
榛稲荷神社界隈は北斎が晩年を過ごした場所です。
生涯で93回も引っ越しをした北斎。
弟子が部屋の様子を描いています。
贅沢とは無縁の生活でした。
食べる物にも着る物にもこだわらずただただ絵を描いていたとか。
自ら画狂人と名乗るほど絵を描くことに人生をかけた北斎。
100歳になる頃に本物の絵師になれると信じ絵にすべてのエネルギーを注いでいました。
その絵師が描いた猫はやはり特別なのです。
今日の一枚『美人愛猫図』。
美人の視線は猫へ向けられていますがその感情は哀れみか戸惑いか…。
北斎が猫と美人をモチーフにした理由がありました。
『源氏物語』「若菜」のお話です。
光源氏の親友の息子柏木が六条の庭で蹴鞠をしていると小さな猫が別の猫に追われ光源氏の妻女三宮の座敷から逃げ出そうともがいているのに気づきます。
そのとき子猫の首につけた紐で御簾が乱れ柏木は思いがけず女三宮の姿を見るのです。
初めて目にした女三宮の美しさにひと目惚れ。
やがて2人は惹かれ合います。
しかし相手は光源氏の妻。
2人が結ばれることはなく柏木は失意のうちに亡くなるのです。
『源氏物語』をイメージしながら見てみましょう。
子猫の首に御簾を乱した赤い紐。
着物が乱れているのは慌てて猫を追いかけたからなのか。
戸惑ったような表情は思いがけない出会いへの驚き。
なるほど想像が膨らんできます。
それを確かに表現している。
見たままを写し取るのではなく芸術家としての魂を注ぎ込んだ美人画。
それを表現するには肉筆画でなければなりませんでした。
絵師の思いとそれを表現する技術があってこそ見る者にさまざまな物語を想像させるのです。
ただ鑑賞するだけの美人ではないところが画狂老人北斎らしい美人画です。
ぼ〜っと生きてるとあっという間に歳とっちゃうよ。
え?俺に言ってんのか?そのままお前にお返しするよ。
北斎ってさ90歳まで生きてず〜っと絵を描いてきたんだよ。
もうそれは執念だよな。
もう帰れよ仕事しろ仕事。
客なんか来てねえじゃん。
ほ〜ら来た!いらっしゃい。
あら。
北斎セットだって。
へえ大福とコーヒーか。
おもしろいね。
ほ〜ら忙しくなるぞ。
あっ俺も北斎流コーディネートをやって着物を売っちゃおうかな。
いいね!それ。
ああだろ?売れるんじゃないかそれ。
売れるかな?アメリカに渡った北斎の美人画は今日本に戻って来ています。
今にも動き出しそうな美しい立ち姿です。
その視線は猫へ…。
少し寂しげな目です。
今にも飛び出しそうな猫。
その姿は芸術に貪欲に生きた絵師の姿に重なります。
葛飾北斎作『美人愛猫図』。
新たなる美人画誕生を告げる一枚。
今日で2年生の授業最後ですから元気よく歌って1年間の締めにしましょう。
2015/04/25(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 葛飾北斎『美人愛猫図』日本が誇る浮世絵師が魂を込めた肉筆画の謎[字]

毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、葛飾北斎作『美人愛猫図(びじんあいびょうず)』。

詳細情報
番組内容
▼4月からはナレーター小林薫&蒼井優、音楽は辻井伸行が担当!▼今日の作品は、葛飾北斎作『美人愛猫図』。すらりとした女性の立ち姿が絹に描かれ、襦袢やかんざし、口紅の赤が女性の色香を際立たせています。左手は袖を通さずに懐へ。その手に抱かれた、どことなく不気味な猫の首輪も鮮やかな赤。少ない配色ながら鮮やかさが表現されています。
番組内容の続き
またこの作品はすべて絵師一人で仕上げる肉筆美人画。だからこそ絵師は特別な想いを込めて描くのです。北斎は一体どんな思いで美人と猫を描いたのか。その謎に迫ります。
ナレーター
 小林薫
 蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ

http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/

お知らせ
番組はこの春で15周年。5月には放送750回を迎え、さらなる発展を目指してバージョンアップ!ナレーターは、俳優・小林薫に加え、新たに女優・蒼井優が務めます。さらに音楽もオープニング&エンディングテーマをピアニスト・辻井伸行が作曲。その他、番組自体も、これまでより一層見やすくなるよう、各所に工夫をこらしていきます。放送16年目の『美の巨人たち』にどうぞご期待ください!

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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