大都市のあり方を直接、住民に問う、過去に例のない試みだ。後戻りできない重い選択であることを大阪市民は十分に考え、投票にのぞんでほしい。

 大阪市を廃止し、5特別区に分割する協定書への賛否を問う住民投票が、きょう告示される。橋下徹大阪市長は「大阪都構想」への賛否を問うという。反対派は、市を解体することの是非を問う投票と主張する。

 いずれにせよ、賛成が1票でも上回れば、政令指定都市の解体は決まる。市の行方は211万人の有権者に委ねられる。

 協定書によれば、人口34万~69万人の5区が誕生し、公選区長と議会を持つ。広域行政は大阪府が担い、市営地下鉄や都市計画決定権の多くも府に移る。

 この構想の最大のメリットは、府と市の長年の対立が解消し、強力な大阪府が誕生することだろう。橋下氏は「府域全体を見渡した成長戦略が実行できる」とし、カジノを中心にした大型複合施設の誘致や、鉄道・高速道路の整備を掲げる。都への名称変更にも意欲を示す。

 半面、懸念されるのは、誕生する5特別区の財政だ。

 大阪市の税収6300億円のうち、特別区の自主財源になるのは1700億円。残りは府が区の財政力に応じて配分する。

 初期費用として、新たな区役所の建設や住民票システムの変更などに600億円かかる。発足後の17年間で、5区合わせて2762億円の黒字を積み上げられるというが、市有財産の売却や職員の削減が前提だ。

 かつて、東京でも同じような制度変更があった。

 戦時中の1943年、首都の行政機構を簡素化するため、東京府と東京市が廃止され、東京都が誕生した。旧市域は現在、23の特別区が基礎自治を担う。

 協定書のモデルは東京都だが、大阪の特別区は児童相談所の設置、保育所の認可など、東京23区を上回る権限を持つ。大阪は少子高齢化、貧困層の増加といった課題が特に深刻だ。特別区が時代に合った行政サービスを担えるかがカギとなろう。

 市主催の説明会や、反対派の集会には多くの市民が詰めかけ、関心は高まっている。

 ただ橋下氏の説明ぶりには疑問を感じる。構想のデメリットはほぼ語らず、質疑では「反対の人とは議論しない」「もっと勉強して」との発言も。異論を認めない姿勢が目に余る。

 住民投票は橋下氏の信任投票ではない。投票日は5月17日。市民は政党や個人への支持・不支持を超え、協定書の中身を吟味して、賛否を決めてほしい。