村上さま はじめまして。「村上春樹は自作が他言語に翻訳されることを前提として作品を書いている」と論じられていることがしばしばあります。これはどの程度当てはまりますか。差し支えなければぜひお聞かせいただきたいです。
(nonfatmilk、女性、28歳、学生)
正直に申し上げまして、僕にはそんな器用な小説の書き方はとてもできません。小説を書くときは本当にぎりぎりのところで書いているのです。「こうすれば翻訳しやすいだろう」みたいな余分なことを考えるゆとりはとてもありません。手持ちの日本語の文体をフルに使って、頭に浮かぶ物語を追っていくことで精一杯です。それにだいたい翻訳されるようになる以前から、僕はずっとこういう文体でこういう作品を書いてきました。
「村上春樹は自作が他言語に翻訳されることを前提として作品を書いている」というのは「言いがかり」とまでは言いませんが、ただの根拠のない推測です。そんなことなら誰だって好きに言えます。根拠を示して論証しなくていいんだから簡単ですよね。しかしそういうものをもとに「風説」みたいなのが勝手に作られていくのって、あまり気持ちの良いことではないですね。
そういう論が世間にあることについて、あなたはどう考えますか? 僕としてはむしろそれを知りたいのですが。
村上春樹拝