米アップルが腕時計型のIT(情報技術)機器を主要国で発売した。こうした端末はウエアラブルと呼ばれ、関連サービスを含めて裾野の広い市場に育つ可能性がある。日本企業も後れを取らず、新たな産業の創出に向け戦略的に事業を進めるべきだ。
かつてコンピューターは巨大な装置だったが、1970年代に机に載るパソコンが登場し、ここ数年はポケットに入るスマートフォン(スマホ)が普及した。次の潮流であるウエアラブルは「身につけられる」を意味し、腕時計や眼鏡のような形状が多い。
情報をやり取りするスタイルが変わるだけでなく、端末のセンサーで身体データを集め、健康管理をするといった使い方もできる。人とコンピューターの関係が再び変革期を迎える。
パソコン、スマホの技術進化を主導したのは米国企業だった。製造分野ではコスト競争力をつけたアジア勢が台頭した。日本のIT業界は、世界の勢力図で影が薄れている。ウエアラブル時代の到来を巻き返しの契機にしたい。
機器の小型・省電力化やセンサーに関する技術は、日本企業の強みだ。例えば、セイコーエプソンは腕時計、ディスプレー分野で蓄えたノウハウをもとにウエアラブル事業に進出した。社内に眠る技術を生かせないか、他の企業も点検してはどうか。
ただし、単に端末をつくればすむほど競争は甘くない。それを使えばどんな便利さがあるのかを利用者に示す必要がある。センサーデータを活用して暮らしや仕事に役立つサービスを編み出すなど、柔軟な発想が問われる。
個人情報の保護も気を抜けない。ウエアラブルは利用者の居場所や健康状態などプライバシーにかかわるデータを扱う。専門家からはハッカーの標的になるとの見方も出ている。サイバー攻撃への備えをこれまで以上に手厚くしなければならない。
そういうソフト面の力が日本企業は弱いとされてきた。データ分析や安全対策のための人材育成が欠かせない。アイデアや技術をもつ起業家がいれば、資金や販売力のある大企業が協力し事業として伸ばしていく姿勢も大切だ。
世界を見渡せば、ファッションなどIT以外の業界からウエアラブル市場に参入する例も目立つ。競争で埋没しない奮起を日本企業に望みたい。