社説:「大阪都構想」告示 投票日まで徹底議論を
毎日新聞 2015年04月27日 02時30分
人口約269万人の政令市を廃止するのか、存続させるのか。大阪市を五つの特別区に分割する「大阪都構想」の可否を決める大阪市民による住民投票がきょう告示される。
来月17日の投票当日まで政党や団体が賛成、反対の支持を求める運動を展開する。賛成が1票でも上回れば2017年4月に再編される。住民投票の主体である大阪市内の有権者約215万人の選択は重い。
住民投票の前哨戦とされた統一地方選前半戦の大阪府・市議選は、橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会が構想を公約に掲げて両議会の第1党を確保した。だが、得票率では構想に反対する議会野党と伯仲した。毎日新聞の世論調査でも市民の賛否は拮抗(きっこう)している。
経済が低迷した大阪の再生策として登場したのが都構想だ。橋下氏は「府と市の二重行政を解消すれば活性化できる」と訴え、反対派は「知事と市長の調整で事足りる」と大阪市の存続を求める。
広域行政は府に集約されるが、国民健康保険や水道事業などは5区が一部事務組合を設けて共同運営する。業務の効率化が理由だが、逆に府と区、事務組合の三重行政が生まれるという指摘もある。再編効果額について府・市の試算では17年間で累計約2700億円だが、市を残したままでも実現できる市営地下鉄民営化などを含めており、反対派は再編効果はほとんどないと反論する。
大阪市の住民や事業者が納める税の一部は府にいったん入ることになる。そのため市外の事業に税が使われるのではないかという指摘がある。特別区間の財政調整制度を設けるが、格差が生じれば住民サービスに影響が出ることも心配される。
都市の再編で日常の暮らしや地域の姿はどう変わるのか。構想の中身を十分に理解したうえで票を投じたいと思う市民は多いはずだ。しかし、内容がよくわからないという声は今でも少なくない。
今回の住民投票は事前運動の制限がなく、多額の費用を投じたPRもできる。維新は広報費に数億円をかけて既にテレビCMを流しているが、イメージ戦略に終始するのは望ましいことではない。都構想のメリットとデメリットをきちんと示す責務は一義的には提案した橋下氏らにあることを忘れないでもらいたい。
賛成派と反対派が同じ場で意見を戦わせれば、論点が明確になり市民の判断材料となるだろう。公開討論の機会を増やしてはどうか。
住民投票は、橋下氏の唱える改革が前進するか頓挫するかの分岐点でもある。改革の方向性を含め、大阪の将来像について各党は議論を尽くし市民の関心を高めてほしい。