堀込泰三 - 仕事術,生産性向上 07:00 PM
すべきことと誘惑をセットにして、より良い習慣を確立しよう
習慣の確立は、犬の訓練と同じようなもの。「いい行動」をしたあとのご褒美は言うまでもありませんが、もう1つ有効なテクニックが、「誘惑の抱き合わせ」です。この方法は、習慣を確立する過程でもご褒美を得られるのが特徴です。
誘惑の抱き合わせとは?
誘惑の抱き合わせとは、もっとやるべきと自分でわかっていることと、ちょっとした罪悪感を伴うインスタントな喜びをセットにすることです。ウォートンスクールのKatherine Milkman教授は、この方法を取り入れることで自身の人生に大きな変化があったと言います。
数年前、定期的にジムに通うことができずにいた女性が、エクササイズ中に限り、あまり知的とは言い難いオーディオブック『The Hunger Games』を聴くことを自分に許しました。その結果、週5回ペースでジムに通えるようになったのです。
Milkman教授は後に、研究とトライアルを実施して、その詳細を『Management Science』に発表しました。この論文は主に運動と誘惑の抱き合わせを対象としたものでしたが、同じ方法は、人生における他の領域にも応用できます。
『Management Science』から引用した上のグラフは、「すべき」行動の有効性と誘惑のそれを比較したものです。誘惑は、「すべき」行動と逆の傾向を持っていることがわかります。つまり、両者はお互いを完全に補完し合う関係なのです。このように誘惑とすべき行動を抱き合わせることで、双方のメリットを享受しつつ、デメリットを打ち消すことができるのです。
自分なりの「すべき」行動と誘惑を見つける
では、この誘惑の抱き合わせを、自分の人生に当てはめてみましょう。長期的に得られるものがあるのに、つい避けてしまっている行動は何ですか? それを「すべき」行動と呼ぶことにします。「すべき」行動は、運動や勉強、あまり好きでない家族と過ごすことなど、達成したいポジティブな変化につながる行動を意味します。その内容は、1人ひとり違って構いません。
「すべき」行動をリストアップしたら、次に誘惑について考えましょう。ときどきやりたくなるけれど人生にはそれほど重要でない、罪悪感を伴う喜びはありますか? これは、「すべき」行動を終えたあとのご褒美ではなく、「すべき」行動の最中にあなたを刺激してくれるものです。つまり、あるオーディオブックやポッドキャストを聴くことだったり、ひそかに好きなくだらないテレビを見ることだったり、好きな飲み物を飲むことだったりします。
誘惑を抱き合わせる
2つのリストがそろったら、「すべき」行動と誘惑を抱き合わせましょう。Milkman教授は、遅れている仕事のメールに追いつきながらペディキュアを塗ってもらうことや、家事をしながら好きな音楽を聴くことや、気難しい親族と会うときは大好きなレストランに行くことを例に挙げています。
誘惑が「すべき」行動のパフォーマンスを下げるようなことがあってはいけません。たとえば、勉強中に音楽を聴く人がいますが、筆者にはそれができません。音楽をかけていると、どうにも集中できないのです。
「すべき」行動をしていないときに誘惑に負けてしてしまうと、誘惑の抱き合わせの効果が下がってしまいます。これは厳しいかもしれませんが、ジムでくだらないテレビを見ると決めたなら、それ以外のときは絶対に見ないようにしてください。
不要になったら、誘惑を徐々に減らす
「すべき」行動は、いずれは、それ自体がご褒美になります。そうなったら、誘惑に依存する必要はなくなります。少しずつ、誘惑の頻度を下げていきましょう。健康系ライターのBrad Stulberg氏は、『Men's Fitness』にこう書いています。
エアロバイクをこぎながら、健康関連の最新研究に関する読み物を書き進めます。2時間もするとだんだん飽きてくるので、医学系ジャーナルをやめて、大好きなラップミュージックに切り替えます
このやり方を逆転して、「すべき」行動を始めるきっかけとして誘惑を用いるやり方もあります。たとえば、エリプティカル・マシン(ペダルを踏む運動器具)で運動をしながら、ある番組のエピソードを1つだけ見て、それからテレビを切るという方法です。
また、誘惑には、長期的なコストを伴うものがあります。「すべき」行動に着手するきっかけとしてはよくても、たとえばジャンクフードを食べるなど、持続性のないものもあります。テレビを見なければ勉強することができたという、機会コストも存在します。
時とともに、誘惑によって得られるモチベーションが不要になり、日常の中にある習慣として確立させることができるでしょう。ですから「すべき」行動そのものが報酬になるように、進捗の管理を始めましょう。
すべきことを誘惑と抱き合わせることは、シンプルなようでいて、変化をもたらすのに有効なツールです。あなたもきっと、知らないうちにやっているかもしれません。でも、これからは意識的に抱き合わせを行うことで、もっと大きな変化が得られるでしょう。
Herbert Lui(原文/訳:堀込泰三)
Photos by kristinausk, CherryPoint, and ryan harvey
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