4月末に中国とパキスタンが総額460億ドルにものぼる投資プログラムを発表しました。これにはパキスタンを縦貫する高速道路、鉄道、パイプライン、発電所の建設、さらにグワダル港拡充、グワダル国際空港の拡張が含まれています。

パキスタンはインフラストラクチャが整っていない国なので、ちょっとの投資で大きなリターンが得られることは必至です。

中国は「真珠の首飾り(The String of Pearls)」と呼ばれるインド包囲網を構築している最中で、パキスタンのグワダル港の他にもスリランカのハンバントータ港、バングラデシュのチッタゴン港、ミャンマーのダーウェイ港の整備に力を貸しています。

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これらの港は中国の潜水艦が寄港できるように設計されていると言われています。

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(グワダル港 出典:ウィキペディア)

パキスタンはインダス川流域にある国で、人類最古の文明のひとつであるインダス文明の発祥の地です。その関係で5,000年もの歴史があります。

インド=アーリア系の住民が住むこの地域は、ペルシャ人、ギリシャ人、アラブ人、トルコ人などからの侵略を度々受け、それらの影響を受けました。特に16~17世紀に栄えたムガール帝国は有名です。

その後、パキスタンは英国の支配を受け、インドの一部として統治されました。1947年に英国が植民地統治を諦めた際、パキスタンが独立しました。当時はインドの中から回教徒の居住地を分離するという方法で行われたので、インドを挟んで東に東パキスタン(現在のバングラデシュ)、西に西パキスタンという離ればなれになった二つの国土を持つ国になってしまいました。東パキスタンと西パキスタンでは人種も違うので、この建国ははじめから波乱含みでした。

一方、パキスタンとインドはカシミール地方の領有を巡って争い、1948年、1965年、1971年の3回に渡って武力衝突しました。1971年の戦争ではインドが東西パキスタンの不仲を利用し、東パキスタンがバングラデシュとして独立することを促しました。

パキスタンとインドの関係は現在も冷たく、インドの核兵器プログラムに対抗する形でパキスタンも独自の核兵器開発プログラムを進めています。

アメリカは歴史的にインドと不仲だったので、パキスタン寄りの外交を続けてきました。なおパキスタン国内には反政府活動家なども存在し、ビンラーデンの隠れ家があったことでも知られています。近年、パキスタンとアメリカとの関係は少し冷めてきています。アメリカは最近、インドに接近しています。

パキスタンは中国と手を組むことでアメリカへのあてつけにもなるし、インドにプレッシャーをあたえることもできるというわけです。

2008年にムンバイのホテルなどをパキスタンの過激派が襲撃する事件が起き、パキスタンとインドの関係は悪化しました。現在は少し関係修復に向けて歩み出している状況です。



パキスタンは多言語、多民族国家で、一番多い人種はパンジャブ人(45%)です。最大の都市はカラチ(1,600万人)で、ラホール(850万人)がその次に大きいです。首都のイスラマバードは120万人に過ぎません。

パキスタンの主な輸出品目はテキスタイルです。地下経済が大きく、失業率をはじめとした経済統計は同国経済の実態を必ずしも反映していません。

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2007年に政治的混乱が原因でパキスタン・ルピーが下落し、パキスタン政府はIMFの支援を要請します。IMFは一旦、パキスタンへの支援をしたものの、政治改革が無かったので支援を繰り上げ打ち切りした経緯があります。いまはIMFの支援が再開され、これまでのところIMFはパキスタンの財政赤字削減の努力に満足している様子です。

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しかしながらパキスタンのガバナンスの問題は依然として大きいです。海外出稼ぎ労働者からの仕送り(毎月10億ドル)が同国にとって重要な外貨獲得手段となっていますが、原油価格下落で中東の経済が悪くなると、これが減少するリスクがあります。


さて、中国・パキスタン経済走廊は既存のカラコラム・ハイウエーの拡充工事になると思います。このハイウエーはパキスタンからヒマラヤ山脈を越えて新疆のカシュガルへ通じる道路です。

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(出典:ウィキペディア)

その拡充工事はカシミールに近いのでインドを刺激することになると思います。

さて、パキスタンに投資する方法ですが、Db x-トラッカーズMSCIパキスタンETF(ティッカーシンボル:DPAK シンガポール)というETFがあります。

パキスタンの株式市場(時価総額は700億ドル程度)は流動性に乏しく、乱高下します。

それから中国とパキスタンは両方ともプロジェクトの発表時には大きな数字をぶち上げるけれど、実際には竜頭蛇尾に終わるケースが多いです。従って今回の460億ドルの投資がキッチリ実行される保証はありません。

さらに言えば過去にパキスタンは同じような支援を受けた経緯があります。それは米国で、1950年代からの米国の経済支援の累計は約400億ドルにのぼります。そのような支援にもかかわらず、パキスタン経済はテイクオフしなかったことは心に刻んでおくべきでしょう。