クローズアップ現代「いのちをめぐる対話〜遺族とJR西日本の10年〜」 2015.04.21


命を奪われた遺族。
命を奪った企業。
異例の対話が行われていました。
107人が亡くなり562人がけがをしたJR福知山線脱線事故。
今週、発生から10年になります。
遺族とJR西日本。
被害者と加害企業が同じテーブルに着き共に原因を考えようと向き合いました。

なぜ家族は死ななければならなかったのか問い続ける遺族。

その視点が、加害企業に気づきをもたらしました。

異例の対話は何を生んだのか。
遺族と加害企業の知られざる10年の記録です。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
なぜ、事故が起きたのか。
なぜ、家族は命を奪われなくてはならなかったのか。
企業の責任追及を切り離してでも徹底して究明したい。
JR福知山線の脱線事故で家族を失った遺族の強い思いから異例ともいわれるJR西日本との共同作業が始まりました。
重ねられた対話は27回。
去年の春まで4年にわたって続けられました。
大惨事となった事故のあとご覧のようにさまざまな問題が指摘されました。
事故から2年後国の事故調査委員会が出した報告書では事故の直接の原因は運転士のブレーキ操作の遅れであるとされミスの背景として日勤教育といわれた懲罰的な運転士の管理方法があったとしています。
一方、ダイヤ、ATS・自動列車停止装置については問題点は指摘しているものの事故原因としては直接言及しませんでした。
この報告書に多くの被害者が事故の原因が徹底して究明されていないと感じたのです。
4年にわたって行われた異例ともいえる遺族と経営幹部との対話。
事故に関わる主要な問題について分析、議論が行われ事故の原因は運転士のミスにとどめるのではなく背景には経営の在り方企業組織の問題があったと踏み込みました。
企業が引き起こした事故の検証に被害者の視点を加えて進めるという新たプロセスは安全文化の構築にどんな影響を与えたのか。
初めに、対話に臨んだ当事者たちの思いです。

あの日、脱線した列車はマンション1階の駐車場に突っ込み、大破しました。
救助は難航しました。
木下廣史さんです。
息子が1両目に乗っていました。
大学への通学途中に事故に巻き込まれた和哉さん。
身元が確認できたのは3日後でした。

息子の死の背景に何があったのか。
木下さんは2年にわたり毎日、福知山線に乗り駅への到着と出発の時刻を記録。
すると、事故後ダイヤが改正されたあともたびたび遅れが発生していることが分かりました。
ダイヤに余裕がないと感じた木下さん。
JR西日本は、事故を十分に反省していないのではないかと考えました。
どうすれば、JR西日本を事故に向き合わせることができるのか。
木下さんは、ほかの遺族と話し合いを重ねました。
妻と妹を亡くした淺野弥三一さんです。
淺野さんは遺族とJR西日本が一緒になって事故の原因や背景を分析できないかと考えていました。
そこで、JR西日本が受け入れやすいように責任を追及しないと約束し共同作業を提案したのです。

事故から4年。
遺族の粘り強い呼びかけにJR西日本が応じました。
対話に参加したのは7人の遺族とJR西日本の安全に関わる部署の責任者たち。
月に1度議論することになりました。
JR側の出席者たちは遺族の姿勢に驚かされたといいます。

しかし、安全に対する両者の考えは大きく隔たっていました。
対立したのが木下さんが調べてきたダイヤの問題でした。
今も列車の遅れを取り戻すための無理な運転が行われていると指摘する木下さん。
これに対し、JR西日本は制限速度は守っておりダイヤに問題はないと繰り返しました。

転機になったのがダイヤと運転士のストレスに関するアンケートでした。
30人に、列車が遅れたときに負担を感じるか聞いたところかなり感じる非常に強く感じると答えた人が合わせて3人、1割でした。

しかし、遺族の受け止めは違っていました。

事故の検証はJR西日本の組織の問題にも踏み込みました。
専門家を交え取り組んだのは事故に至るまでの社内の動きを詳細に調べる作業。
事故の背景にある組織の課題を洗い出していきました。
着目したのはATS・自動列車停止装置です。
もともと、事故の前に設置されるはずでしたが計画が遅れ事故を防げませんでした。
浮かび上がってきたのは社内の相反する2つの動きでした。
福知山線では、ダイヤ改正のたび所要時間を短縮する速達化が重ねられていました。
その一方で、ATSの整備計画を遅らせる判断が繰り返されていたのです。

4年にわたって続いた対話。
その成果は、2冊の報告書にまとめられました。
その中で、JR西日本は巨大なシステムを安全に運営する際の相互の連携が私たちには欠けていたと組織の問題を認めました。

今夜のゲストは、大規模事故を長年、取材をされてきました、柳田邦男さんです。
そして、このJR福知山線の事故では、多くの被害者の方々と交流を続けていらっしゃいます。
今回の対話でも、最初の1年半、オブザーバーとして参加されているんですけれども、改めて、この対話を見ていきますと、被害者の方々のこの視点と、企業側の視点のこの大きなずれというのを感じますね。

今のビデオレポートはですね、問題を整理するうえで、非常によくまとまっているなと感じたんですね。
どういうことかっていうと、被害者が、なぜこんな事故が起こったのかと追究する場合に、日本の歴史の中で、ほとんど責任追及のような形で行われる。
その代表的なのは刑事責任を追及する捜査であり、裁判であったと。
その次には、損害賠償としての民事裁判であったわけですけれども、そうしますとね、組織っていうのはかならず自己防衛、できるだけ責任を回避してっていう組織防衛に逃げてしまうんですね。
さまざまな事故の背景要因って、明らかにされない。
ところが、今回なぜね、大きな実りがあったかといいますと、被害者が責任追及したいんだけれども、本当は真実を明らかにするのを優先するために、責任追及を横に置くという、これを会社側との間で合意したうえで議論しちゃってるのが一つと。
それから、どんなに納得できないとか、感情が高ぶっても、議論を続けるという、この忍耐の姿勢ね。
これを会社側もご遺族の方々も共に守り抜いたということが、一つの到達点にいく大きな要因だったんですよね。
そこで明らかになったことは、被害者の視点は何を明らかにするかっていうことですよね。
2つありましてね、これはビデオのレポートにありましたけれども、一つはやはり被害者ならではの気付き、それは会社側でいいますと、確率論というのかな、30人のうち3人だから大したことない。
こういうね、数字が小さければ安全だって考え。
ところが被害者から言いますとね、1人でも、あるいは0.1%でも、もし大変なことになったら、それはもう確率の問題じゃないという、それが現実に起こってしまったわけですよね。
そういうところへ切り込んだところが、被害者の視点で非常に重要な一つ。
もう一つは、会社の組織の縦割りっていう中で、見落とされていた落とし穴ですね。
それが非常に鮮明に出たということですね。

その縦割りといいますと、やっぱり横の連携が足りず、国側の事故調査委員会に比べて、今回の報告書はより幅広く組織全体の問題というところまで踏み込めたわけですよね。
それぞれが連携し合っていると。
そういう連携というのが、安全を向上させるうえでの落とし穴に、ただなりがちなんですか?
そうですね。
それは多くの大企業の事故、あるいは工場事故なり、交通機関の事故見てますとね、まさにそういう縦割りの中で、穴が開いてしまうところがある。
見落としてしまう。
ところが見落としていることに気付かないというのが縦割りの欠陥であるわけですよね。
そこを被害者の側から見ると、全体をふかんして、なんでうちの息子が死んだのか、なんでうちの妹は死んだのかとかいう、そういう目で見ますと、もう全体に対して、落とし穴っていうのがはっきり見えてくるんですね。
ですから、被害者の視点に立つっていうことを、企業側が初めて気付かされたということで、これ、先ほどのビデオにも出てましたように、会社側の方がやっぱり、はっとなったとか、あるいはこう思ってたのが覆されたという、これはね、JR西のほうも、非常に謙虚な姿勢を見せたんだろうなということを思いますね。
それにしても、ご遺族の方が2年間、毎日毎日、電車に乗って、遅れはないかと、ダイヤをチェックしていたっていう、その執念、もう、やっぱりすごいですね。
これは組織の立場に立ちますと、統計数字とか、パーセンテージで割り切っちゃうわけですが、被害者の立場に立ちますと、本当に現場で自分が立ってみる、乗ってみる、そしてそれをもう、執念深く1年でも2年でも続ける。
その違いですね。
これがはっきりとその被害者の視点と、組織防衛の視点の違いになってくるんだと思いますね。
遺族との対話によりまして、ご覧いただきましたように、JR西日本の社内の横の連携が欠如していたことが浮かび上がってきました。
組織としては改善する取り組みを進めてきたわけですけれども、10年たった今も、さまざまな課題が浮かび上がっています。

去年6月、JR山陽線で大事故につながりかねないトラブルが発生しました。
遮断機が下りていない状態の踏切を回送列車が通過したのです。

原因は運転士のミスでした。
回送列車の線路の信号は赤。
しかし、隣の線路の青信号を見て誤って発車したのです。
JR西日本では運転士個人のミスとして終わりにするのではなく4つの部署が集まり検証を行いました。

こちらです。

部門間の連携は再発防止のためのさまざまなアイデアを生み出しました。
信号を見間違えないように何番線か分かる大きな看板を設置。
例え赤信号で発車しても踏切の手前で停止させるATSを新設しました。
さらに、ダイヤの見直しも。
回送列車の停車時間を6分半から1分に短縮。
停車時間が長すぎると運転士の集中力が落ちミスを起こしやすくなると考えたのです。

JR西日本ではトラブルが起きた場合だけでなく小さなミスを見逃さず未然に事故を防ぐための取り組みも進めてきました。
そこで課題になっているのも社員の連携です。

私たちは2005年4月25日に発生させた列車事故を決して忘れず…。

複数の部署が参加して業務の課題を話し合うクロスオーバーミーティング。
各地で行われてきました。

この日は、同じ支社の車掌運転士複数の部署が集まりました。
話題になったのは運転士の後方確認についてでした。
見通しが悪い駅では運転士が窓から顔を出して後方確認することが義務づけられています。
しかしこの業務が車掌に戸惑いを与えているというのです。

車掌の戸惑い。
実は、運転士が一部の駅で後方確認を義務づけられていることを知らされていなかったのです。

同じ列車に乗るときにも事前に打ち合わせすることがない車掌と運転士。
日頃のコミュニケーション不足が明らかになりました。
JR西日本では、今後も異なる部署が話し合う機会を繰り返し持つことでトラブルを未然に防ぎたいと考えています。

柳田さん、JR西日本は事故のあと、ミスに対する考え方を改めて、気付いたリスクは報告する、安全報告という制度を作ったそうなんですけども、平成25年度で報告は1万2000件に上ったと。
そういうことをやっていても、今見たように、縦の関係性をずっと密に保つというのは、難しいんですね、なかなか。
事故というものを、古い考えでいうと、現場の誰かがミスをする、そしてそれが破綻につながったということで、終わってしまった。
ところが新しい事故の捉え方は、キーワードでいいますと、組織事故っていうことばがあるんですね。
つまり組織のさまざまなところに落とし穴や見落としがあって、それらが鎖状に、いろんなリスク要因がつながって、破局が来るっていう、こういう考え方に変わって、ですから、先ほどの運転士と車掌のコミュニケーションの不足というのは一見小さそうでそれがすぐに大事故になるの?っていうと、クエスチョンがつくんですけれど、そうじゃなくて、そのミスにさらに別のミスが加わって、2つも3つも加わったときに、破綻がくるっていう、こういう目で見るとね、ミスの報告制度なんかに出てくる一つ一つは、些細に見えても、それを日頃から潰していくような取り組み、まさに組織事故っていう視点で取り組んでいくことが大事なんですね。
そういうことを組織だけの中でいうと、なかなか見えてこないんですが、先ほど言いましたように、被害者の視点からですね、なんでこちらとこちらがつながってなかったのとかね、そういうものが見えてくる、そういう意味では、JR西の取り組み、またそれを動かした被害者、ご遺族たちの働きかけっていうのはね、とても重要な前例になったと思うんです。
どういうことかっていうと、企業に被害者の視点の重要性を気付かせたということ。
その視点を導入したことで、いろいろと細かいことが見えるようになってきて、そういう取り組みを恒常化した、つまり日常において絶えずそれをやるんだっていう、そういうシステム化していったということですね。
これは日本の企業の中では、非常に先駆的な形といえると思うんですね。
今や、エレベーター事故でも、原発事故でも、責任回避的なそういう刑事罰の問題、訴訟の問題、そういうところだけで、責任追及がなされがちなんですが、やはりもっと根本的に安全というのを考えたときには、そういう被害者の視点に立って、上からの目線では見えないものをどんどん発見して、その悪の連鎖を防いでいくっていう、この取り組みが問われている。
そういう意味では、このJR西が被害者と対話をして、新しい取り組みを始めたっていうのは、これからの企業の安全取り組みの一つの新しい道を開く窓を開いた、あるいはドアを開いた、そういうものだというふうな認識が必要だと思うんですね。
どんどんしかし、専門性が高まっていたり、企業が大きくなったりする中で、これをどう一つ一つ事故を起こす前に構築していくかっていうのは、本当に大きな課題ですね。
もう技術は進む、事業規模は大きくなる、そういう中で、巨大企業というのは、いっぱい落とし穴抱えますから、ここで見たような教訓こそ、今、問われているんだと思います。
今夜はどうもありがとうございました。
2015/04/21(火) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「いのちをめぐる対話〜遺族とJR西日本の10年〜」[字][再]

107人が亡くなったJR福知山線脱線事故から10年。遺族と加害企業の間では、“安全”をめぐる対話が続けられていた。遺族が巨大企業に突きつけた安全とは何だったのか

詳細情報
番組内容
【ゲスト】作家…柳田邦男,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】作家…柳田邦男,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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