NHK大阪ホールの2階客席に来ております。
このホールね1階と2階を合わしますとなんと1,400も席あるんです。
そういう大きなホールで開いております「上方落語の会」。
このすばらしいホールにふさわしいすばらしいゲストを今日もお招きしてます。
女優の北川弘美さんです。
どうぞ。
よろしくお願いします。
北川弘美です。
私はようドラマで拝見してますんやけどもこのごろバラエティーも出てはりますな。
そうなんです。
私京都出身の関西人なのでお笑いが大好きなんです。
生活の中にお笑いが常にありました。
ええ日に来はりました。
今日このあと登場する2人の噺家さんが京都出身なんですよ。
あ〜いいですね。
楽しみです。
まず京男1人目若い方から。
桂ちょうばさんの「明石飛脚」です。
(拍手)え〜ありがとうございます。
桂ちょうばでございます。
まずは私の方で一席おつきあいを願いますが。
私は今日は「明石飛脚」というネタをやろうと思ってるんですがこの飛脚という言葉も今お子さんには伝わりにくくなりましたね。
通用しにくくなりました。
特に小学生なんかは分かりにくいんでしょうかね。
我々若手ですから小学校にお邪魔して小学生の前で落語をするというそういう機会が結構多いんですが伝わりにくくなってますねいろんな事が。
例えばしぐさ。
「この扇子と手拭いを使っていろんなものを表現しますので皆さん当ててみて下さい」言うて小学生に当てさすんですね。
例えばこういう手紙を書いているしぐさなんですけれどもこれも子どもには通じにくくなってるんですね。
この間行ってびっくりしました。
「さあこれは何をしてるとこに見えますか?」言うたら「しゃぶしゃぶを食べているところ」。
何でやねんと。
これも分かりませんでしたね。
チッチッチッチッ…。
「おかしいなあ…」。
チッチッチッチッ…。
「う〜ん何でやろうなあ?」。
これはそろばんをしているところなんですがこれもあきませんでしたね。
「さあみんなこれは何をしてるとこに見えますか?」言うたら「おっちゃんが舌打ちしてるところ」。
何でやねん。
そのままやがな。
これも駄目でしたね。
ふう〜。
ふう〜。
これは昔のタバコでございますね。
キセル。
これも小学生には分かりませんでした。
「さあこれは何をしてるとこに見えますか?」言うたら「麻薬を吸うてるところ」。
えらい時代になってしまいましたけれども。
「明石飛脚」のこの飛脚これは何かと言いますと手紙とかちょっとしたお金小さな荷物などを配達するそういう職業に就いている人の事を飛脚というたんやそうでございますが今と違いまして車もバイクもございません。
走ってものを届けておったというそういう飛脚がおった頃のお話でございますが…。
「いてるかい?いてるか?」。
「お〜こら甚兵衛はんでっかいな。
へえへえ何の御用で?」。
「いや〜よういててくれたこっちゃがな。
いやいや実はなちょっと今日中に手紙をな明石まで届けたいんや。
ああ1本やねんけどもな。
…でじきに飛脚宿へ行たところがもう皆出はかろうてしもて誰もおらんやがな。
そこでお前は足が自慢じゃ。
走る事にかけたら誰にも引けを取らん。
負けんちゅう事を聞いてんやがでやなひとつ今日は明石まで飛脚に立ってもらえんやろうかな」。
「あ〜明石ねいや〜わたい明石てなとこいっぺんも行た事おまへんやがそれいつごろまでに?」。
「そうやな。
今日の晩方までに届けてもろたらええんやがな」。
「あ〜晩方ね。
…で大阪から明石まではこれどれぐらいおまんね?」。
「そうやな。
昔から15里というで」。
「15里でっか。
なるほど。
まあそれならなんとか間に合わん事はないと思いますが」。
「あ〜そうか。
よかったよかった。
ほならこれひとつよろしゅう頼む」という訳でこの男手紙を1本言づかります。
脚絆甲掛わらじ履き。
足ごしらえも厳重に西へ向かって走り出した。
「ヤッドッコイさのサッ」。
「あ〜結構走ってきたな。
ちょっとここらで尋ねよか。
あの〜ちょっとお尋ねします」。
「はいはい」。
「ここは何というとこです?」。
「ああここは西ノ宮ですがな」。
「西ノ宮。
あのえべすさんのあるとこでんな」。
「ちょっと尋ねますがえ〜大阪から明石まではどれぐらいおんまっしゃろ?」。
「大阪から明石っちゅうたら昔から15里といいまんな」。
「え?結構走ってきたと思うねんけどな。
まだ15里おますか?あ〜分かりました。
こらうかうかしてられんわ。
先を急ごう。
えらいすんません。
おおきにどうも!ヤッドッコイさのサッ」。
「はあはあ…。
ちょっとお尋ねします」。
「はいはい」。
「ここは何ちゅうとこです?」。
「ああここはね三ノ宮ですが」。
「三ノ宮。
ああ聞いた事おますわ。
あの大阪から明石まではどれぐらいおまんやろな?」。
「大阪から明石っちゅうたら15里と違いますか?」。
「まだ15里?だいぶ走ってきたで。
おい。
甚兵衛さんうそつきやがったんやな。
こらあかんわ。
馬力かけて走らないかん。
おおきにどうも!ヤッドッコイさのサッ」。
「ちょっとお尋ねします」。
「はいはい」。
「ここは何というとこです?」。
「ああここは兵庫ですがな」。
「兵庫…。
兵庫の港っちゅうのはここでやすか?あの…大阪から明石まではどれぐらいおまっしゃろうな」。
「大阪から明石っちゅうたらそら15里でんな」。
「まだ15里!?なんぼ走っても15里やな。
どないなってんねん。
もう日はだいぶ西へ傾きだしたがな。
こらあかんわ。
ヤッドッコイさのサッ」。
「はあ…ちょっとお尋ねします」。
「はいはい」。
「ここは何というとこです?」。
「ああここは須磨ですが」。
「須磨。
須磨の浦っちゅうのはここでやすか?大阪から明石まではどれぐらいおまんねん?」。
「大阪から明石は15里や」。
「走っても走っても15里15里。
どないなってんねん!ほんまにもう…ヤッドッコイさのサッ」。
「ちょっとお尋ねします」。
「はいはい」。
「ここは何というとこですか?」。
「ああここはね舞子です」。
「舞子…。
はあはあ…。
大阪から明石までは15里か!?」。
「そのとおりや」。
「ヤッドッコイさのサッ」。
この男フラフラになって明石の町へ飛び込んでまいります。
人丸さん人丸神社の境内へ飛び込んでまいりますというとそこにあった茶店の赤い床几の上で「カ〜ッ」と横になって寝てしまいます。
「もしもし!にいさんにいさんこんなとこで寝ててもうたら困りまんがな。
店片づけんなりまへんや。
なあ。
早い事起きとおくんなはれ」。
「あっあっああ〜。
えらいすんません。
もう疲れてたもんでねついつい眠り込んでしまいました。
あのすいませんがここは一体どこでんねん?」。
「え?ここはあんた明石の人丸神社でんがな」。
「え?何です?」。
「ここはな明石の人丸さん。
明石の人丸神社でんがな」。
「え?ここ明石ですか?あ〜走るより寝てる方が早かったかな」。
(拍手)この飛脚が…あっまだ続きますよこれ。
(笑い)何で終わらそうとするんですか?
(笑い)いやいやこれまだ続きますねん。
もうしばらくお待ち頂いておつきあい願いたいと思うんですが…。
まだ続きがございましてね。
この飛脚がですね行きしなはえらい目に遭うたもんですから帰りはちょっとでも早く大阪に帰りたい。
大阪に去にたいっちゅう事でこの男近道近回りをとって走り出した。
「ヤッドッコイさのサッ」。
「え〜っとこの街道はこっちへずっと曲がってるさかいにこのあぜ道を抜けていったらこら僅かやけども近道やな。
これ道は悪いがしゃあないな。
近道近道。
近回り近回り。
ヤッドッコイさのサッ」。
「え〜っとそうかそうか。
この神社の境内を抜けるとこの街道へ抜けるさかいに…あ〜こら近道やな。
ああありがたいありがたい。
近道近道。
近回り近回り。
ヤッドッコイさのサッ」。
「あ〜しもた。
便所へ行きとうなってきたがな。
ええこれなあ…小さい方ならまだしも大きい方やでこれ。
昔から小便一丁糞八丁っちゅう事があるさかいなあ。
こないに近道近回りと急いでんのにかなわんなほんまにもう…。
これなんとか辛抱でけんか。
あかん。
あかんあかんあかん…。
あっちょっと出た。
こらあかんわ」。
こればっかりは辛抱でけんという訳でこの男田んぼの傍らにありましたのぜっちん。
今で言う公衆便所でございますね。
ここにこの男しゃがみ込みます。
しゃがみ込むなり懐に入れてあった握り飯の包みが下へスト〜ンと落ちた。
「ああ〜っ近道しよった」。
(拍手)
(笑い)この飛脚が…まだ続きますよ。
(笑い)何でそない終わらそうとするんですか?あの〜僕もうちょっとNHKに映ってたいんです。
どうぞよろしくお願い致しますが。
まだ続きはございましてですね。
この飛脚はあまりにも近道近回りととって走ったもんですからとうとう道に迷うてしまいまして山道のようなとこへ迷い込んでしまいます。
「はあ〜えらいこっちゃ。
あんまり近道近回りてな事考えるもんやないなあ。
とうとう道に迷うてしもうたがな。
あ〜寒なってくるし腹は減るしたまらんなあ…。
けどなあ方角は間違うてへんねん。
とにかくこのままどんどんどんどん突っ切ってしまうとまたいずれ街道へ戻るはずやねんけどな。
今更これ引き返してもしゃあないわい。
もうこの方角や。
何でもかめへん。
いてこませ。
この方角じゃ!ヤッドッコイさのサッ」。
「へえ…」。
さあこの男どんどんどんどんと走ってまいります。
そこへ凄んどりましたのはウワバミでございましてね。
ウワバミといいますと大きな大きな蛇でございます。
蛇もウワバミと呼ばれるようになりますともう魔物ですね。
牛を丸ごとペロリと飲み込んでしまうという大きな大きな蛇でございます。
一抱えもあろうかという大きな鎌首をグ〜ッと持ち上げますと…。
「あ〜向こうから飛脚が飛んでくるなあ…。
口開けて待ってたら口の中へ飛び込むやも分からんな。
よし口開けて待っといたれ」。
さあこのウワバミ大きな大きな口をガバ〜ッと開けまして待っとります。
こっちの男はそんな事知りません。
お構いなしで「ヤッドッコイさのサッ」。
「あれ?いっぺんに日が暮れたぞ。
ええ?こんな不思議な事はないな。
いっぺんに真っ暗けになった。
あ〜そうか。
そういうたら最前大きなウワバミがな口開けて待っとったんや。
あまりにも夢中で走ってきたもんやさかい口の中へ飛び込んだんやな。
…とするとこれはウワバミの腹の中か。
うわ〜足元がジメジメジメジメしておかしな具合や。
けどなあ…今更引き返す訳にもいかんわい。
とにかくこの方角や。
いてこませ。
ヤッドッコイさのサッ」。
「あっ向こうに明かりがチラチラチラチラ見えてきたぞ。
あ〜あれはウワバミの尻の穴やな。
出口は近い。
ありがたいわい。
いてこませ。
ヤッドッコイさのサッ」。
さあこの男ウワバミの尻の方からズボッと出ましてそのままタタタタタタタタッと走っていってしまいます。
後を見送ったウワバミがひと言…。
「あ〜フンドシしといたらよかった」。
(拍手)
(笑い)この飛脚が…。
(笑い)え〜まだまだこの噺続きやりたいんですが実はこの噺もうこれ以上ないんです。
これで終わりたいと思います。
「明石飛脚」でございました。
ありがとうございました。
(拍手)桂ちょうばさんの「明石飛脚」でした。
いかがでした?ちょうばさんのお噺は本当に親近感が湧いて笑いどころがたくさんあったのでとっても面白かったです。
ちょうばさんといいますとざこば師匠のお弟子さんなんです。
あっそうなんですか。
ざこば師匠ご存じですね。
はい。
ドラマで共演させて頂いたんですけど初めて私が落語に触れたのがざこば師匠でした。
どうでした?ざこば師匠。
DVDもわざわざ持ってきて下さって初めて見たざこば師匠は本当に面白くて聴きやすい落語だなという印象ですね。
ではそのざこば師匠の弟弟子の桂米二さんの登場です。
出し物は「持参金」です。
(拍手)私のところもよろしくおつきあいのほどを願います。
お金のお噺でございますが私は結構長い事噺家やってますんでね稼いでると思てはる人があるかもしれませんがそれは大きな間違いでございましてですね相変わらず苦労してる訳なんでございますが。
やっぱりもっとジャンジャンと稼いで銀行を利用したいなと思うんですけどもたまに行く事はありましてね。
何しに行くかといいますと交通違反の罰金を払いに行ったりするんでねあれは捕まってすぐに払うんではなくてそのあとで銀行とか郵便局で振り込む事になってるんですが考えてどっちに行こうと思ってね銀行へ行く事に決めたんですね。
というのは銀行というところはですね若い女性の銀行員がねたくさんいてはりますからね気が紛れるやろうというそういう思いでございます。
別にね郵便局不細工や言うてんやないですよ。
そうじゃないですけども全体的にパッと見てですね見た感じがたくさんいらっしゃいますんでねそっちの方がええかなと思ったんですけどもこれは間違うてましたですね。
ああいうの払いに行くのに銀行は合いませんね。
というのは愛想がよすぎる訳ですね。
大体嫌な気持ちで堪忍してもらいたいと思て行くんですけどもそれでもう銀行へ入りますと明るい声で「いらっしゃいませ!」とこう言いますわね。
もうこの声でムカッとしますわ。
…で手続きしまして2万円やから2万円の罰金を払いましたら…。
「ありがとうございます」。
「何がありがたいねん」てなもんですわ。
帰ろ思たらもうひと言「またどうぞ!」言うて「誰が来るかい」てなもんでね「もう二度と来るかい」と思うんですがそれでも半年にいっぺんぐらいは払いに行かんならんというそういう生活を送ってるんですが。
この落語の世界というのはこれなんか明治時代のお話でございますが5円やとか10円やとか今でもあるんですけどもねそれとは値打ちが違います。
今よりもず〜っと値打ちがあったという時分の話でございまして…。
「おはようさん」。
「あっ番頭はんですか。
お越しやす」。
「お〜感心に起きてたな。
いやお前のこっちゃさかいまだ寝てるやろうと思て案じながら来たんやけどな」。
「いつもやったら間違いなしに寝てますわ。
どういう訳か今日はない事に早うに目が覚めてしもたんですわ。
まあええわい。
たまにはシャレに早起きしようと思て」。
「シャレに早起きするやつがあるかいな。
相変わらずけったいな事言うてるな。
いやいや朝早う起きるという事はええこっちゃで。
昔の人がええ事を言うてるさかいな『早起き三両宵寝は五両』てな事言うてやなそらまあ長年積もり積もったら三両や五両どころやないけどもいや実はなこないはよ出てきたというのはおまはんに頼みがあって来たんや」。
「ええ何でんねん」。
「ずっと前におまはんに金を20円貸した事があったな」。
「ええ忘れてやしまへん。
よう覚えてます。
あの時困ってるのに助けてもろてお返しせんならんお返しせんならんと思いながらも相変わらずつまらん所帯はってるもんですさかいなそのままになってえらいすまんこって」。
「いやいやわしもな偉そうに催促はでけんというのはあの金を貸した時にわしはおまはんのお父っつぁんに昔えらい世話になってるさかいないわばその恩返しで金を貸すんやさかいにいついっかまでに返してくれてな事は言わん。
都合がようなったら戻してくれたらええがな。
ある時払いの催促なしやて偉そうな事言うた手前まことに言いにくいんやけどもなあの20円返してもらえんやろかな」。
「あ〜そない言われたらこっちの方がつらいな。
もろたんやないんでお借りしたんですさかいな返さないけまへんけどほなまあなんとか今度の節季までに段取りして…」。
「それがな節季やとか月末やとかそういう悠長な事言うててもらうと困るねん」。
「ああ急ぎまんのやな。
ほな10日ほど待ってもろて」。
「いやその10日が待てんねん」。
「4〜5日」。
「4〜5日具合悪いねん」。
「2〜3日」。
「2〜3日困るねん」。
「明日」。
「明日どんならんのやがな。
なんとか今日の晩方までに段取りしてもらいたいねん。
いやそれは無理や分かってるわいな。
急な話やさかいな。
おまはんとこ手元にないやろ?ほなおまはんがちょっと走り回ってどっかからかき集めてきてくれるか?それを借金は借金としてまたこっちの方から返してもええ。
後で返してもええと思ってるぐらいとにかく今日の晩にな20円要るさかいな頼むわ。
さいなら」。
「ちょっと待ってちょっと!お〜い!行ってしもた。
たまに早起きしたらろくな事あらへんなほんまに。
20円やて。
そんな大金あるかいな。
今日び財布逆さまに振って50銭玉も出てきぃひんちゅうのにな。
何が『早起き三両宵寝は五両』や。
早起きしたかてええ事何にもあれへんがな。
もっぺん寝直したろ」。
「おはようさんで」。
「ああ佐助はんですか。
お越しやす」。
「お〜感心に起きてたな。
お前の事やさかいまだ寝てるやろと思て案じながら来たんやけどもな。
いやいや朝早う起きるというのはええこっちゃで。
昔の人がええ事を言うてるさかいな。
『早起き三両宵寝は五両』」。
「そらもうあかんわそれは」。
「何が?」。
「何がてそらあきまへんで。
昔の人の言うた事っちゅうのは当てにならん」。
「そんな事あらへんで。
古い人の言うた事に間違いはないとしてある」。
「いや〜当てになりまへんな。
あの年寄りがよう言いましたやろ。
三日に小豆たいたら火事に遭わんてな事言うてあれはうそでっせ。
座摩の前のぜんざい屋ね年がら年中小豆たかん日ないけど火事に4へんも遭いましたで」。
「そんなおかしな理屈を言うやつがあるかいな。
まあまあそうとしたもんやっちゅうねんな。
けどおまはんなせっかくはよ起きてもそないして寝床でゴロゴロしてたんでは何にもならへんがな。
いっぺん起きてやな床上げて掃除して表グル〜ッと歩いてきてみ気持ちがええで。
そないして寝床でタバコばっかりスパスパ吸うてるようではなしまいに患いつくっちゅねん。
おまはんがそういう事をしてるというのもヤモメやさかいや。
独り者というのは具合が悪いな。
嫁はんもらえ」。
「そら何を言いなはんねん。
己一人が食いかねてんのにどないして嬶養いまんねん」。
「それがいかんのやな。
昔から」。
「あんたまた昔や言うてるな」。
「まあまあちょっと話を聞きなはれや。
昔からな一人口は食えんけど二人口は食えるというて」。
「へえ〜2人の方が食えますか」。
「そういう事があるんやて。
独り者は無駄が多いさかいな家でごはんごしらえするのが邪魔くさいもんやさかいじきに店屋もん取ったり外へ食べに出たりするけどもやなその金を女房に渡しておいたら夫婦三度のオカズ代が出るっちゅうぐらいのもんやで。
家帰っても誰もいいひんさかいじきに外へ酒を飲みに出るやろ。
同じ金で酒屋行って酒を買うてきて家で嫁はん相手に飲んだら何杯飲めるや分からへんで。
あんた身につけるもんでもそうや。
足袋でも肌着でも汚れたりしたらじきにほってまうけど嫁はんがいてたらそれを洗うたり繕うたりして長い事もつがな。
朝かてそうやで。
おまはんが起きて顔洗うたり便所行ったりしてる間にそこら辺きれいに片づけてくれてごはんごしらえができてはるがな。
それを食べてじきに仕事に出られるてなもんやがな。
そら長い年月上下大きな違いになるで。
悪い事言わへん。
嬶もらい」。
「あっさよか。
まああんたがそこまで言うてくれはんのやったらねもらわん事おまへんけどほなあのどっかに掘り出しもんがおますかい?」。
「掘り出しもんっちゅうやつがあるかいな。
いやいやわしもこんな話をするんやさかいなまんざら当てがない訳やないのや。
わしがおまはんに世話をしようという女はな年は22や」。
「あっそれやったらちょうど私と年回りよろしいな」。
「ええやろ?えろう別嬪というほどの事はないねんけどもな背がスラッと…」。
「高いんですか?」。
「低いねん」。
「あっさよか」。
「…で色がくっきりと黒いねん」。
「ちょっと待ちなはれあんた。
スラッと低うてくっきりと黒いんですか?」。
「うん。
…でまあ鼻はうちらへ隠居してるようなもんやな」。
「隠居した鼻っちゅうのは一体どんな鼻でんねん」。
「そのかわりでこちんがグッと前へせり出して両頬のべたが前へ回って顎もとがってるさかいなまあこけても鼻は打たんな。
目はちいちゃいけど口は大きいで。
両方のこの眉毛の長さの違うところに愛きょうがあるな。
右の目元にはつれがあんねんけど左の口元にあざがあるさかいこれちゃんと入れ合わせはついたあんねん。
お茶やとかお花縫い針琴三味線そういう女一とおりの道は何をさしても半人前やが飯は5人前食いよるわ。
人との応対やとか折り目切り目の挨拶こういう事はあんまりよう言わんけどいらん事はようしゃべりよんのやがな。
仕事は遅いけどつまみ食いは早いで。
…でこの女にな一つ傷があんねん」。
「まだおまんのかいな」。
「おなかに子どもがあってもうぼちぼち生まれるやろ言うてんねんけど…どや?これ嫁はんにもらう気ないか?」。
「ああさよか。
よう言うとくなはったこれな。
せっかくのお話ですけどもなそれちょっとじっくりさせてもらいまひょうかなやめときまひょうかな」。
「悪い話やないと思うけど…」。
「あんまりええ話やおまへんでこれは」。
「ああそうかな。
いやいや。
どういう訳かこの女子はちょっと縁が遠いねんな。
まあまあしょうがないな。
ご縁のもんやさかい無理やりに押しつけるという訳にもいかんさかいな。
えらい邪魔したな。
また誰ぞほか当たってみる事にするわ。
まあこういう女子でもな金の20円もつけるっちゅうたらまだ誰ぞがもろてくれるやろ。
さいなら」。
「あっちょっと待った!ちょっと待った!ちょっと待った!そう気ぃ短うせんとそこはいかようともご相談にお乗り申します!」。
「何を言うてんの?ほんまに。
古手屋なもの買うてんのと違うで。
どないしたんや」。
「何ですか?その女もろたら20円つきまんのかいな」。
「まあまあこういう女やさかいな持参金というほどの事もないけどもな20円だけは段取りさしてあんねん」。
「あっさよか。
フフフッ。
もらいまひょ。
もらいまひょ」。
「手ぇ出しないな。
ほんまにもらうんかい?」。
「おくんなはれ20円」。
「いや20円もらうの違うがな。
嫁はんをもらうねん」。
「あ〜そうでんな。
嫁はんつきで20円」。
「違う違う。
嫁はんつきで20円ちゅうたらややこしいがな。
20円つきで嫁はんをもらう」。
「もうどっちでもよろしいがなそんなもん。
もらいまひょ」。
「手ぇ出しなっちゅうの。
けったいなやっちゃなほんまに。
ほなら傷の事も承知やな」。
「え?」。
「いやおなかの傷や」。
「おなかの傷て?」。
「子どもややこやがな」。
「あらおなかに子どもがあったら傷ですか?」。
「そら傷やでそれは。
今から縁談を進めようという娘の腹がもう臨月やというのはこら立派な傷やと思うけどもな」。
「わたいはそうは思わんで」。
「そうか?」。
「そらね男の腹に子どもがあったら傷でっせそれは。
相当大きな傷やと思うわ。
女子の腹に子どもがある当たり前のこってんがな。
考えてみなはれ。
長年連れ添うた夫婦でもね間に子どもがなかったら赤の他人を養子に迎えて身代譲る人かておまんのやろ。
その事思たらこっちゃ片っぽだけなとほんまもんやがな。
それに向こうからこっちへ運んでくる間おなかん中へ入れてきたら風邪ひく心配ないで」。
「考えようやなこれは。
いやわしもおまんがそない言うてくれたら気が楽やけど…ほなこの話進めてええな?」。
「進めるてそんなのんきな事言わんと今晩もらおう今晩」。
「いや今晩てお前…猫の子もらうんやないでお前。
今晩っちゅうのはあまりにも急な…」。
「何を言うてなはんねんあんた。
私はね今晩やさかいもらいまんねんで。
明日になったらもういらんで」。
「ちょっと待ちぃな。
何か話間違うてへんか?仮にも嫁はんをもらうんやがな。
おまはんかて誰なと相談する人がいてるやろ」。
「いや〜相談する人はないねん。
もう親は死んでいいひんし兄弟はいいひんしね。
もう親類かて遠いとこばかっりでつきあいも何にもしてまへん。
己さえ得心したらそれですみまんのやがな」。
「あ〜身軽な体やな。
いやいやわしもこんな話を持ってくるんやさかいな出しなにちょっと暦だけはのぞいてきたんや。
今日はまことに日がええのやがな。
それに先方もおなかの事もあるさかいな急いでる事は急いでんのや。
ほんなら本人に話をしてやなかまへんと言うたら今晩連れてくるっちゅう事にしようか」。
「あっどうぞそういう事でよろしゅうお頼申します。
あっ何やったらね20円だけ今晩で嫁はんは来年っちゅう事に…」。
「いやいや…。
そういう訳にはいかんわいな。
いやしかしそうと決まったら今晩婚礼や。
汚いなお前んとこは。
男ヤモメにうじがわくっちゅうけどお前そこらほこりだらけやないかいな。
襟あかが真っ黒けについてるで。
風呂屋は行けへんのかい?」。
「風呂はねきっちり2へんずつ入ってまんねん」。
「お〜偉いな。
日に2へんも入るの」。
「春と秋に入りまんねん」。
「お彼岸やがなそれやったら。
年に2へんではちょっと具合が悪いな。
ちゃんとな掃除もして風呂屋も行って…でまね事だけやけど杯事をしたいさかいなおまはんとこなかったら家主さんとこへ頼んでやな杯を借りておいで。
…でイワシでもええさかいに尾頭付きを用意して酸い酒の1合ぐらいあったらそれで事が足りるやろ。
向こうがちょっと具合が悪い言うようやったらな人をよこすけど何にも言うてきぃひんかったらもう今晩婚礼やさかいなあんじょお段取りせなあかんで」。
「へえ分かりました。
よろしゅうお頼申します。
あっえらいすんまへんな。
お茶もあげまへんと。
どうぞ家へ帰ってからゆっくりおあがり」。
「あほな事ばっかり言うてんのやないで。
ちゃんとしときなはれや」。
「へえおおきに!はあ〜今日はおかしい日やな。
朝起き抜けに忘れてる借金催促されて困ったなと思たらもう今度はその金持って嫁はんが来るっちゅうんやがな。
わしゆうべ寝るまで何にも知らんのやけどもな。
世の中っちゅうのはおもろいもんやで」。
「最前はどうも。
お…おい!まだ寝てんのかいな。
わしゃ今晩20円要るっちゅうたやろうな。
今からちょっと走り回ってなんとか20円段取りしてもらわん事には…」。
「ええそれもう大丈夫」。
「何が大丈夫?」。
「ええできました」。
「何が?」。
「20円できました」。
「20円。
金の段取りできたお前。
何かいなその寝床でゴロゴロしててタバコばっかり吸うててそれで20円できたんかいな」。
「へえへえできる時っちゅうのはこんなもんでんな。
できへん時はなんぼ走り回ったかてできやしまへんねん。
今日らあんた20円向こうからころ込んできたで」。
「ほんまかいなおい。
そんなもん当てになんのかい?」。
「ええ。
当てにしてもろて結構でっせ。
長い事借りてすんまへんなんだな。
ええ。
日が暮れに来てもろたらもうできてますさかいに」。
「いやほんまにできた?はあ〜そうか。
助かったわ。
いやおまはんがあかんかったらどないしようしらんと思ってたんやがな。
ほなら晩方取りに来るよって頼むで」。
ややこしい日が暮れます。
この男それから掃除をしたり風呂へ行ったり家主さんとこで杯を借りてきたりして待っておりますところへ金物屋の佐助はんという人がある。
昔は町内に一人ぐらいはこういう世話好きな人があったもんでね親切なもんで花嫁を連れてやって参りまして。
「さあさあここのうちやさかいな。
はい。
今晩はまことにお日柄もようておめでとうさん」。
「あ〜佐助はんか!20円!」。
「しゃい!しゃい。
いや何でもない何でもない。
さあ上へ上がんなはれ。
今日からあんたのうちになんのやさかい大きな顔してなはれや。
おまはんもそこへ座って。
さあさて話をしてたんはこの人や。
おまはんと同じこっちゃ。
身寄り頼りのない人やさかいな目をかけてかわいがってやってもらいたい。
杯の用意できてるか?ああこっち貸してこっち貸して。
なっどんな貧乏長屋というても儀式やさかいな。
さあさあお杯を受けなはれ。
いやわしもな金物屋の佐助というたらこの町内に古うから住んでいろんなお世話やらしてもろて仲人も何組も引き受けてなこれがまた皆うまい事いってんのやがな。
嫌な話を聞かされた事はいっぺんもないぐらいやで。
おまはんとこもちゃんとなまるうに収まって幸せになってもらいたい。
そら今までな他人やったのがこないして一緒に住むんやさかいいろんな事あるわいな。
おまはんもなつらい事やとか困る事があったりしたらなあんまりきなきな思わんとわしとこへ話持っといでや。
なんぼでも聞いてあげるさかいな。
おまはんかてそうやがな。
なっ?この人に言うばっかりやあらへん。
わしとこへ話持っといで。
こうなったらもうとことんまでお世話さしてもらうんやさかいな。
はいはい。
それではめでとう杯も納めて。
それでは幾久しゅうよろしゅうにお頼申します。
まあまあ仲人は宵の口という事があるさかいな私はこの辺でお開きという事に。
あとはどうぞお二人で…」。
「ちょちょちょっと佐助はんちょっとちょっとちょっと」。
「何や?」。
「あれ」。
「え?」。
「肝心のもん」。
「肝心のもんっちゅうと?」。
「あらあんな忘れてもうたがな。
あれだんがな。
20円」。
「20円…。
ああまあええ」。
「まあええ事あれへんがな。
あれ肝心でんねん。
どうなってまんねん。
あれ20円」。
「え〜20円な。
20円は…忘れた」。
「忘れた?忘れたらあかんがな。
嫁はん忘れても別にかまへんで。
20円忘れたらどんならんがな」。
「おかしな事言いないな。
いや〜それがなちょっとな段取りが狂うてしもうてな明日の朝っちゅう事になったさかいそれで辛抱して」。
「いやそれあきまへんねん。
うち今晩要りまんねん。
今晩。
今晩っちゅうさかいもろたんで。
今晩なんとか…」。
「いや〜それがなもうあかんねん。
狂うてしもて明日の朝っちゅう事になったんや。
もうそれで堪忍して」。
「いやそれ困りまっせそれは。
私は今晩やさかいもらうて言いましたやろうな。
今晩…!」。
「やいやい言いないな。
わしかて金物屋の大きな看板上げて商売してんのやがな。
20や30の金で逃げ隠れするかいな」。
「そらせやしまへんやろうけどあんた。
今晩やっちゅうさかいに…!」。
「明日間違いなしにこの手で届ける!なっ?それまで待って」。
「そらあかんてあんた。
そんなん今更そんな事言うたって…。
でっしゃろうがそんなの。
今になってそんなあんた…あきまへんの?どない言うてもあきまへんか?あっそう。
分かりました。
もうよろし。
明日でよろしいわ明日で。
そのかわり明日の朝早うに届けておくんなはれ。
間違いのないように頼んまっせ!だまされたなこれはな。
20円持たんとあんなんだけ置いていきよった」。
「あんたねそんな隅の方で借りてきた猫みたいに小そうなってもっとこっち寄りなはれ。
もっとこっち寄りなはれって。
まあ妙な縁であんたとこういう事になりましたけどもなこれからひとつ兄弟同様によろしゅうお頼申します。
どうです?今から将棋一番さしまひょか?一緒にどうです?え?知らん?あ〜あんまり婚礼の晩にする事ではないな。
ほなちょっとお酒…というたかてそのおなかやさかいねそれも無理でっしゃろな。
ほなもう寝まひょうか」てなもんでほかにする事がないもんですさかいそのまま横になってゴロッと寝てしまいます。
明くる朝「おはようさんで」。
「あっお越しやす」。
「あ〜昨日はすまなんだな。
あれだけやいやい言うててな肝心の出ようっちゅう時になって急に田舎の取引先の旦那が来はってなこれがまたわしがお相手をせんなんらんという人でな酒のつきあいさせられてとうとう夜中になってしもてなそれで家を出てこなんだ。
えらいすまんな。
20円できてるか?」。
「それがねうちも今朝っちゅう事になりましたんや」。
「え?大丈夫かいな?」。
「ええ大丈夫でっせ。
確かな人が引き受けてくれてますさかいに。
もうじき持ってきてくれるよって思うてまんねん」。
「あ〜そうか。
それやったらええねんけどもな。
いやわしもな番頭さんやとか何とか偉そうに言われてるけども奉公人やろ。
いっぺんな店へ帰ってしもたらまた出てきにくいっちゅう事があんのやがな。
ちょっとすまんけどここで待たせてもろてもかまへんやろうかな」。
「え〜どうぞどうぞ。
あのそこ掛けて一服してとくなはれ。
もうじきに持ってきてくれますわ」。
「あ〜そうか。
ほなちょっと掛けさせてもらうわ。
いやほんまにすまなんだな。
わしもおまはんが引き受けてくれてやれやれや。
いやわしかてなこの町内古いんやさかい20や30の金やったらどないでもなるてなもんやけどもな今度ばっかりはちょっと人に言えん事情があってな。
う〜ん去年のあれいつごろやったかいな。
仲間内の寄り合いがあったんやけどもなこれがな酒の席やがな。
ほんまやったら旦那が出んのやけどもな旦那が風邪ひいてわしが代わりに行ったんや。
ほならもう周りが承知するかいな。
旦那の名代で来たんやったら飲まないかんで言うて八方から勧められてなわし飲めんのに無理やりにそんな目に遭わされてえらい悪酔いして帰ってからあげたりさげたりして苦しんでたんや。
ほならうちにおなごしでお鍋というのがいてたんやけども知ってるやろ?えっ知らんか?いっぺんぐらい会うてると思うけどもな。
不細工な女子やこれが。
これがなかなか親切な女子でなわしが苦しんでたらな水持ってきたり薬やとか背中さすってくれたりいろんな事介抱してくれてなそのうちにわしも気分が治まってくるわな。
そうなるとそう2階のわしの部屋で夜中にやで若い男と女子が2人きりてな事になってやなその妙な仲になってしもうたんやがなこれがな。
それから独り者同士やろ。
ちょいちょい忍び会うてるうちに相手は受け身やおなかがこうなってしもうてやな。
こんな事旦那の耳に入ったら来年ののれん分けの話もわやになるしどないしようっちゅうてな金物屋の佐助はんに相談したんやがな。
ほな佐助はんの言うのにはとにかく早い事宿下がりをさせえと。
どこぞへ押しつけてしまおう。
こういう女やさかいに金の20円もつけるっちゅうたらまだどこぞのあほがもろうてくれるやろっちゅうのやな。
頼んでたんやがな。
ほたらまたそのあほがあったんやて。
気の変わらんうちに早い事話をまとめてしまいたいさかいに20円はよ持ってこいはよ持ってこいって昨日からやいやいやいやい言うてきて。
こういう事はうっかり人に言われへんやろ?おまはんばっかり責めたてるような事になってしもうてえらいすまなんだ」。
「あっさよか。
お鍋ちいいまんの。
そういうとまだ名前聞いてなかったな。
いや〜実はね番頭はんわたいゆんべ嫁はんもらいましてな」。
「えっ!?嫁はんもろた!?知らんがなそれ。
そんな事があんのやったら言うてくれたらええのやがな。
こんなややこしい話持ってきぃひんのやがな。
えらいすまなんだなお取り込みのとこ。
いや〜しかしまあそれはめでたいな」。
「うん…。
あんたこれめでたいと思うか?」。
「何がやねん?めでたいやろ」。
「実はねわたい金物屋の佐助はんの世話で嫁はんもろたんねん」。
「ええ!?佐助はんの世話で!そうか。
あの人世話好きやさかいな何か別な話があったんやな」。
「それが別やないねんそれが。
ホ〜ン。
つきまんのやが20円」。
「いや…ほなあのお鍋!?」。
「そうらしいおますわ」。
「おまはんかいな!?もろうてくれるあほ。
いやいやもろうてくれる相手っちゅうのは!ええ!?これえらい事になったがなこれ。
それそんなお前そんな事で収まってくれるかい?」。
「いや収まるも収まらんもあらへんがな。
婚礼も何も済ましてしもうたさかいねまあまあよろしい」。
「よろしいておまはんこれもろうてくれる!?」。
「いやいやもうよろしいて…これが縁ですわ。
こういう事がありますのやがな。
そない気ぃ遣わいでもよろしいがな。
もう縁ですわ。
私もねおなかの子のてておやがどこの馬の骨や牛の骨や分からんよりもねあんたっちゅう事がはっきりしてたらまたなんぞの時に頼りになる」。
「そんなおかしな言い方せんといて。
もうそんなん心細うなるがな。
ほなもう何もかも承知の上で収まってくれる」。
「いやそういう事にさしてもらいますんで」。
「ああそうか。
う〜ん。
ほなまあ重ね重ねやけどよろしゅうお頼申します。
ほなあの20円はどうなんねん?」。
「あっ20円もうじき佐助はんが持ってきてくれまんねん」。
「佐助はんうちでわしが帰んの待ってんねんけどもな」。
「え?どういうこってんで?つまりこの20円はどこにもおまへんの?誰も持ってまへんねんなこれな。
『でけたでけた』言うてどこにできたんやそんなもん。
何時間待ってもあきまへんなあ」。
「そういう事になるな。
えらい事になりました。
ほなまあここにある手拭いねこれ仮に20円としましょうか。
これあんたにお返ししますわ。
長なありがとうございました」。
「わしがこれを受け取って佐助はんに渡すと佐助はんがまたここ持…。
ほなこれグルッと一回り回る訳や」。
「なるほど。
ほんに金は天下の回りもんや」。
(拍手)桂米二さんの「持参金」でございました。
いかがでした?分かりやすいストーリーなのに噺家さんによってあんなふうに膨らんでいくんだっていうのがとっても面白かったですし米二さんは人物像の表現がとっても好きでした。
褒めてくれてありがとうございます。
これがもう落語のだいご味でございます。
…というところで本日の「上方落語の会」これでお開きでございます。
ではまた次回。
さよなら。
2015/04/24(金) 15:15〜16:00
NHK総合1・神戸
上方落語の会 ▽「明石飛脚」桂ちょうば、「持参金」桂米二[字]
▽「明石飛脚」桂ちょうば、「持参金」桂米二▽第249回NHK上方落語の会(27年2月5日)から▽ゲスト:北川弘美▽ご案内:小佐田定雄(落語作家)
詳細情報
番組内容
桂ちょうば「明石飛脚」と桂米二「持参金」をゲストの北川弘美のインタビューを交えお送りする。▽明石飛脚:大阪から明石まで手紙を届けてくれと頼まれた男、大阪から明石までは十五里、西宮まで来て「大阪から明石まで何里」と聞くが…。▽持参金:二十円の借金を夕方までに返せと言われた男のところに佐助さんが来て、お腹に子供がいる娘をわかったうえで嫁にするなら、持参金を二十円持たすと言うが…。▽ご案内:小佐田定雄
出演者
【出演】桂ちょうば,桂米二,【ゲスト】北川弘美,【案内】小佐田定雄
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劇場/公演 – 落語・演芸
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