ETV特集「終わりなき戦い〜ある福島支援プロジェクトの記録〜」 2015.04.25


放射能を帯びた雲がこの町を襲ったのは2011年春まだ浅い3月半ばの事でした。
その日にはまだ生まれていなかった福島の子供たちです。
原発事故で汚染されてしまったふるさとで子供たちに何とか健やかに育ってほしい。
福島の人たちはさまざまな努力を重ねてきました。
今子供たちは事故の前に生まれたおにいさんやおねえさんたちと同じように豊かな自然に包まれすくすくと育っています。
地面に落ちた木の実を拾い好奇心いっぱいのまなざしで自然と戯れる子供たち。
まるで原発事故などなかったかのようです。
こうした笑顔を取り戻すために住民を陰で支えてきた専門家たちがいます。
渡利地区の保育園で先生たちの相談に乗っているのは75歳の放射線防護学者安斎育郎さん。
測定した放射線量がびっしりと書き込まれた航空写真を見ながら安全な散歩道を探してきました。
(齋藤)多分ここでこの辺をずっと歩いてたんですねこの辺を。
安斎さんたち専門家集団…福島の人たちの安心と安全を支えるボランティアです。
0・1歳のはいはいしてる子たちとかがもしはうとしたらどのぐらいになりますか?ここをちょっとはったりよちよち歩きで歩いたりしたら。
(安斎)0.4ぐらいですよね。
このぐらいの高さでしょ。
はいそうですね。
(安斎)そんなに高くはない。
そんなに心配するようなレベルじゃない。
明らかにね。
除染が終わったあとにもかかわらずまだ高い放射線を発しているホットスポットを見つけだし対策を検討するのも福島プロジェクトの仕事です。
これ一回全部取ったんだけどねこの辺ね。
南相馬市のこのお宅では家の周りから毎時5マイクロシーベルトの放射線を計測。
5.0。
5マイクロシーベルト。
コンクリートの隙間に放射性物質が染み込んだ土が残っていたのです。
これを取り除かなければ線量を下げる事はできないと判断しました。
汚れてない。
土を取ったあとには砂利を敷き詰めます。
30分ほどの作業で放射線量は4分の1に下がりました。
住民が被ばくするリスクを減らすため放射線は可能なかぎり低くすべきだと安斎さんは言います。
起こってしまった事は悔やんでいても元に戻らない。
だからでは次に何をすべきか。
次に打つ手は何かっていうのを考えるっていう事がやっぱり命を紡ぎ出すという観点からすると必要だと思うんですね。
もちろん原因を突き止めたり責任を追及したりするという事は不可欠な事だからそれはじっくりとやればいいけども。
現に起こっている災害にさいなまれてる人々の命を救う事が真っ先に大事な事なのでそのために何ができるかっていうのはね。
福島市です。
4年前原発事故で放出された放射性物質がこの町を汚染しました。
安斎育郎さんたちの福島プロジェクトが市内でも特に強い汚染に見舞われた渡利地区にやって来ました。
この日のミッションは阿武隈川の河川敷で放射線を測定する事。
地元で学童保育を行っている佐藤秀樹さんの依頼です。
(佐藤)この土手の上を散歩というかたこ揚げしたいなと…。
昔はここでたこ揚げしてたんですよね。
去年もここでたこ揚げしたいなって話したんだけど保護者の方からまだ焦んなくてもいいんじゃないみたいな話でね。
去年はやらなかったんだけど今年もしできればと思いまして。
古くから住民たちの憩いの場となってきた阿武隈の河川敷。
子供たちを以前と同じように川辺で遊ばせたいというのは当然の願いでした。
既に国の除染が終わっているという土手の住宅側。
(安斎)確かに低い。
どれぐらいですか?国が除染の目標とする1時間当たり0.23マイクロシーベルト以下の数値でしたところがいまだ除染が行われていない土手の川側。
0.7…0.8。
向こうは0.1。
メンバーの一人エンジニアの早川敏雄さんがGPSと連動させた線量計を手に歩き回って河川敷の全体の汚染状況を把握していきます。
0.7超えてますね。
高いとこは0.8。
ちょうどここの高い土手の上の方。
下行って0.7。
0.7ぐらいね。
除染を担当する環境省は河川敷は生活空間ではないため除染の対象にはならないとしています。
河川敷を管理する国土交通省も除染に消極的です。
当面このままの状態では使うのはやめておいた方がいいというかお勧めできない。
それで国に除染を申請するのがいいでしょう。
反対側の住宅地側は試験的に除染して明らかに効果が出てるから同じ事をやればいいだけの話なので。
学童保育の教室に戻り調査の結果を伝え今後の対応策をアドバイスします。
ですからここが…0.1台ですね。
水色が0.2〜0.4まで。
黄緑が0.4〜0.6。
大体0.4の前半ぐらいですね。
黄色が0.6以上オレンジが0.8以上。
それでたこ揚げ30分やれば0.2とか0.4マイクロシーベルトしか浴びないのでそれを2・3回やったからといって被ばく上は大した気にするレベルにはならない事は歴然としてるんだけども汚染があるっていう事がはっきりしていて。
だから除染しろっていう要請は一方できちっとやった方いいと思いますね。
これで除染でもして表面でも少しでも削ってくれればね保護者も少々の放射線ではねあんまり動揺はしないんだけど何にも手付かずだっていうのが何となくこうやな感じというそういう感じはあるんですね。
ありがとうございます。
おじちゃんがひとつじゃあ手品をやってみる。
手たたく。
こうやる。
ここ入れる。
いろんな指を使って入れる。
なくなっちゃう。
わ〜お!え!?何で?さようなら。
(笑い声)安斎育郎さんは立命館大学名誉教授。
放射線の影響から人体を守る研究を続けてきました。
福島の子供たちには「手品のおじいちゃん」と呼ばれています。
人間がいかにだまされやすいかという事を示すためにこういうスプーンとか使ってね。
ごく硬い普通のスプーンですけどね。
左手の指先に気を込めて軟らかくなれ軟らかくなれ…一心不乱に念じると徐々に金属組織学的な変化が起こって熱を帯びて軟らかくなる。
十分軟らかくなったら左手で軽く持って右手の横に軽く当てると123ってこう簡単に曲がるというわけですよね。
だからスプーン曲げるっていうのこの程度ものだけれどもスムーズにやるともしかすると的にさせられる。
(取材者)おお〜。
(安斎)それなりの硬さではある。
だからてこの原理ですよ。
小学校5年生が習う支点力点作用点ってね。
左手の親指をくびれから数センチ下にこうあてがってスプーンの尻尾は薬指の第2関節で腹で受け止めてね。
あと指は軽く添えてやればいいんですけど。
それでこう指こうやって。
必要なのはこの3点。
支点力点作用点ってね。
これで必要な力をかければ曲がるんですけどね。
それを上手にスムーズにやるかどうかっていう問題ですね。
こういう自然現象っていうかたあいのないものだったらだまされても別にどうって事ないけども全て世の中の社会的な現象も含めて人間の認識っていうのはすぐある方向に導かれていきがちだから自分がかなりしっかり事実をきちっと把握して自分なりの主体的な判断をできるようにしておかないと。
安斎さんはもともと東京大学工学部原子力工学科の1期生。
日本の原子力を担っていく人材として将来を嘱望されていました。
しかし放射線の研究を進めるにつれて安全性ばかりを強調する原子力開発の在り方に疑問を抱くようになっていきます。
日本の原発建設は経済優先で行われていると厳しく批判した安斎さん。
やがて反原発の論客として国際的にも知られるようになります。
安斎さんの長年の危惧が的中したのが4年前の福島原発事故でした。
大量の放射性物質がばらまかれた事を知った安斎さんは福島で暮らしている人たちの顔を思い浮かべ専門家としての責任を痛感していました。
やっぱり最初によぎったのは申し訳ないっていう気分なんですよね。
僕は原発政策批判してきたんだから54基の原発造ったのが僕でない事は確かだとしてもしかしこの国で原子力の専門家なんていうのはごく一握りの限られた集団。
その一員であった私が結局力及ばずこんな危険な事態が現実化するのを防げなかったっていう事に対する責任意識っていいますかね非常に衝撃的だったですね。
福島県民がより危険の少ない生活を営むためにはどうしたらいいのかっていうのはやっぱり放射線の専門家として積極的に状況と関わってリスクを少なくする方法を提起して一緒に向き合っていくという事が最低限責任だと思ってますね。
3月福島プロジェクトが福島市の渡利地区にある保育園を訪ねました。
原発事故の直後から支援してきたところです。
4年前ここは福島で最も放射線量が高い保育園と言われていました。
原発事故の2か月後に訪れた安斎さんは早速除染を実行。
庭の土を表面から3センチ剥ぎ取り放射線量を劇的に下げてみせたのです。
土を削ってそれを測定していくという。
たった3センチぐらいなんですけど円を大きくすればするほど線量が下がっていくという事を私自身が目で…体験しましたね。
何だろう?どこか息が抜けたというか緊張状態がずっと続いてましたので息したかなっていう。
もう一つ頭を悩ませていたのが給食でした。
放射線を測りたくても従来の測定器では食材を細かく切り刻まなければならず時間がかかり過ぎて実用的ではありませんでした。
これ福島産のもやしです。
そこで安斎さんが開発したのが食材をそのままで測れるこの測定器。
測定にかかる時間も短く子供たちに食べさせて大丈夫かどうかをその場で判断する事ができます。
赤魚。
福島市では保育園が食材を測定するための補助金を設けています。
しかし安斎さんが開発した測定器は行政が指定する機種ではないため補助金の対象になりませんでした。
保育園では借金をして費用を賄いました。
この日の相談は子供たちの散歩道についてです。
従来からプロジェクトのメンバーが測定したデータに基づき散歩道を決めてきました。
もう少し歩く範囲を広げる事ができないかといいます。
私たち卒園式があさってで今練習してるんですよ。
「ず〜くぼんじょ」って入場してくるんですけど「ずくぼんじょ」ってつくしんぼの事なの。
でも「つくしんぼって知ってる?」って言ったら「知らない」って。
すっごいショックだったんですよ。
何か今までは何でもなく摘んでたのにやっぱり摘んでないものになってるし目も留まらないしうわ〜何かすごいショックだよねとかって。
今日つくしんぼもありますね。
(齋藤)その辺も見てほしいかな。
採って測っていきます。
原発事故が起きてから一度も歩いていないというこの道。
景色がよく坂道なので子供たちの体力を養うためにも役立ちます。
測定をしてみると思いの外放射線量が低い事が分かりました。
でも総じてここは低いですよ。
そうですね。
あそこの坂道からずっと低くなってましたね。
コンマ5まではいかないです。
高くてもコンマ4・5。
確かにここまで来たら子供には絶景だね。
子供たちが手を触れる可能性があるものは何でも測ってみようと考えています。
ツバキの実は殻の形が面白いので保育園に持って帰って飾りにしたりするそうです。
そして「ずくぼんじょ」ことツクシです。
散歩道のツクシはどの程度の線量なのでしょうか。
申し訳ないが採るよ。
採ってきたツバキの実やツクシを食材測定器に入れて放射線を測ります。
この測定器何でもそのまま測れるすぐれものです。
ツバキの実の測定結果が出ました。
1キロ当たりセシウムが674.75ベクレル。
あんまりない。
前どのぐらい?
(齋藤)前1,000でしたね。
国が食用の基準にしている1キロ100ベクレルを超えていますが触るだけなら問題はないというのが安斎さんの見立てです。
しかし放射線は低ければ低いほどいいというのが放射線防護の基本。
台所で洗ってみる事にしました。
(安斎)半分以下。
半分以下に減った。
放射線は半分以下の300ベクレル弱。
放射性物質はどうやら表面の土についていたようです。
洗い落とせば更に安心できます。
手に汚染が移るとかいう心配は全くないので。
気になれば面白い形として観察するのにはいい素材だと思うので一応園にみんなで持って帰ってきて。
簡単ですからね。
5分も袋の中に入れて中性洗剤入れてこうやってやればすぐ済む事なのでやれば心配も半減するでしょうという事です。
ツクシは380。
低かったね。
ツクシも触るだけなら心配ないといいます。
天然の放射能カリウムがこれぐらいあってどっこいどっこいってとこで。
だから事故がない時もこの天然の放射能はあったので。
それとちょっと毛が生えたぐらいがあるというだけだから別に何の心配もないけどね。
そうですか。
や〜よかった。
ツクシぐらい摘まなくちゃ。
ツクシ分からなくなってるんですよ。
福島プロジェクトのメンバーは5人。
いずれも豊富な経験を持つ専門家ばかりです。
桂川秀嗣さんは73歳原子核物理学者です。
大学を退職後は趣味の太極拳を教えるなど悠々自適の日々を送っていました。
福島原発事故が桂川さんを再び最前線に引っ張り出した形です。
専門家として住民が持つ放射線への根深い不安に寄り添っていきたいといいます。
怖いと思ってる人に対してつまり科学的にはそれは恐れる事はないと思ってもその事とそういう感情とは別物ですから。
だからそういう感情を私たちは否定したりするような事はしないできてます。
それは心情とですね科学とまた別ですから。
全て科学的な知識だけで我々は生活してるわけではありませんから怖いと思う方は怖い。
だけど科学としてはこうだという事を伝えていかなきゃいけないなというそういう立場で臨んでます。
プロジェクトの技術開発を担当するのは山口英俊さん。
さまざまな測定器具を設計してきた56歳のエンジニア。
同じくエンジニアの早川敏雄さん61歳。
GPSと連動させた測定器と共に福島中を歩き回ってきました。
福島学院大学教授の佐藤理さんは68歳。
食事に含まれる放射線の問題に取り組んでいます。
それぞれに忙しい日程をやりくりしながら毎月3日間必ず福島に集まってきます。
この日の訪問先は南相馬市の高倉地区です。
国は去年の暮れこの地域で指定していた特定避難勧奨地点を解除しました。
除染が終わった事で住民の被ばくは避難が必要とされる年間20ミリシーベルト以下になったという理由です。
しかし今も至る所にホットスポットが残され不安を感じる住民は避難を続けていました。
福島学院大学教授の佐藤さんが持ち出してきたのは研磨機です。
汚染されたコンクリートの表面を削り線量を下げられないか試します。
国に対する批判は批判として住民のためにまずできる事をやってみようというのが福島プロジェクトのスタンスです。
しかし研磨をしても期待ほど線量が下がりませんでした。
放射性物質はどうやら周辺のタイルなどにも染み込んでいるようです。
次の手だてを探る事にしました。
大して変わってない。
使われていないコンクリートの敷石を見つけました。
幸い汚染はされていません。
ホットスポットに敷き詰め放射線の遮蔽を図る事にしました。
安斎さんによれば放射線から身を守る手段は4つ。
除染と遮蔽そして放射性物質に近づかない事放射性物質の近くにいる時間を短くする事です。
減ってますよ。
まあ当面こんなんで。
続いて訪れたお宅でエンジニアの山口さんは新しい測定装置を使う事にしました。
一枚の写真に複数地点の線量を記録し現在の汚染の分布を視覚的に把握しようというものです。
コンクリートの端。
そうですねそこ。
除染で庭の砂利を入れ替えましたが雨樋から雨水の流れに沿って再び汚染されているのが分かります。
安斎さんが疑問に思ったのは雨樋は屋根の両側にあるのに片側にだけ汚染が観察された事。
最大で毎時15マイクロシーベルト。
除染のあとになぜこれほど強い汚染が残っているのかまずは原因の究明です。
まず疑ったのは屋根が傾いていて汚染された雨水が片方に流れたのではないかという事。
水平ですね。
大体ここ真ん中なんですけども右手がちょっと杉の葉がたまってます。
雨樋に杉の葉がたまっているとの報告にひらめくものがありました。
(安斎)風がこっち向きに吹いてたとか。
風が線量の高い杉の葉を吹き寄せた事が地面の汚染に影響した可能性があります。
杉の葉っぱがですね真ん中よりもこっちの方にある。
たくさん集まってるので多分風で運ばれたんですかね。
だから屋根からは平等に集まったけどその後吹いてる風でどっちかと言うとこっち側に吹き寄せられてきてそれが重点的にここに落ちてきたと考えるのが今のところ一番合理的だね。
南相馬では冬の間強い西風が吹き荒れます。
除染が終わったあとに汚染された杉の葉が落ち屋根の東側に吹きたまって雨水を汚染した可能性がありました。
高倉の住民は国に対して除染のやり直しを要請しましたが国はこれを拒否。
被ばくのリスクを減らそうとすれば現状では住民自身がどうにかするしかありません。
除染の時に敷き詰めた砂利はその後に流れた放射性物質を含んだ雨水で既に汚染されています。
取り除いてまた新たな砂利を入れるしかありません。
汚染された砂利は敷地の片隅に穴を掘って埋める事にしました。
国が再除染をしない以上持っていき場がないからです。
当面は上に土をかぶせておき放射線が住民に影響を及ぼさないようにしておきます。
終わりの見えない放射性物質との闘いです。
平均年齢66.6歳の福島プロジェクト。
住民のため自ら汗を流す事も珍しくありません。
最初ここ15あったんですよ。
激減したんですよ。
応急手当てでこれだけ減れば真面目にやればもっと減るっていう証明だから。
あ〜随分…。
音が違う。
やっぱり風の影響まで考えないと。
今まで風っての考えた事なかった。
雨樋で風を考えた初めてのケースだなこれは。
いやまだほんとかどうか分かんないけどね。
「原町区高倉字神前高倉公会堂付近2.472.88」。
原発事故の直後から南相馬の人たちは不安と背中合わせで暮らしてきました。
「原町区矢川原字堂前矢川原公会堂1.041.44」。
この地域では「阿武隈おろし」と呼ばれる強い西風が吹きます。
住民は風から家を守ろうと「いぐね」と呼ばれる屋敷林を張り巡らせてきました。
そのいぐねの杉の木に放射性物質が付着し住民の不安を駆り立てていました。
原発事故が起きた2011年の秋あるお宅で撮影した映像です。
子供たちの健康に影響が出る事を心配しながらいぐねのある家に残って生活していました。
なるべく被ばくさせないようにしたいと思いまして一応中だけという事ではい。
(取材者)外では遊んじゃいけないよというふうに言ってあるんですか?そうですね。
子供たちも…。
子供たちが一番その事は一番理解してると思いますので。
親から特に強く駄目だとは言ってはいないんですけども「外に出ちゃいけないんだよね」という事で自分から外に行かないように子供たちがそういうふうな考えでいてくれてますんで。
万が一甲状腺の異常とか体に異常が出た時にほんとにすごい後悔しそうですよねほんとにね。
原発事故から1年たっても国による除染は始まりませんでした。
思いあぐねた門馬伸博さんはいぐねの杉の木を切り倒す事にしました。
3年前の秋でした。
この時期代々大切に守ってきたいぐねを切る人たちが相次いでいました。
子供たちのために先祖が残してくれたいぐねを切った門馬さん。
しかしその結果は予想を裏切る残酷なものでした。
今年の1月福島プロジェクトの2人のエンジニアが門馬さんのお宅を訪問。
下がるはずだと思っていた放射線量はほとんど変わっていませんでした。
もっと下がってるかと思ってたんですけど。
0.6弱。
まだ結構…ありますよね。
平均0.5くらい。
高いな。
1メートルで0.7。
山口さんは土の放射線量を測定する事にしました。
いぐねの木ではなく下の土が汚染されてるとしか思えなかったからです。
土からは大量の放射性物質が検出されました。
(門馬)結構高いですね。
(山口)2万8,000ベクレルぐらい。
(門馬)そんなにありますか?
(山口)ええ表面はね。
(門馬)え〜そんなにあるんですか。
2万ですか。
当初は杉の木についていた放射性物質が雨などによって流れ落ちいぐねを切り倒した時には既に地面に染み込んでいたのです。
いぐねを切ったあと門馬さんのお宅でも国による除染が行われました。
家の正面では土を剥ぎ取りましたがいぐねの跡地はそのまま残されました。
いぐねは登記簿上宅地ではないため土を剥ぐ必要はないとされたのです。
(取材者)いぐねの所もあれは森林扱いだから土は剥がないとか。
この距離で実際そこは対象外だっていうのはやっぱり皆さん納得しないと思うんですよね。
これだけの近い距離なんだから実際に来て見て頂ければ分かると思うんですけどね。
なかなかこう…。
みんなで声を出しても届かないですよね。
報告を受けた安斎さんたちが門馬さんのお宅を訪ねました。
除染システムのはざまで苦しむ住民を何とか手助けできないのか対策を考えてみようというのです。
よろしくお願いいたします。
門馬と申します。
放射性物質が土に染み込んでいるとすれば汚染された土を剥ぎ取るしか抜本的な対策はありません。
しかし広い面積を住民自身が手作業で除染するのは無理があります。
ここでお子さんが遊ぶような事もありうる?ありますね。
除染終わってから友達が来ると田舎なもんですから遊ぶものがなくてたまに鬼ごっことかかくれんぼしたりとかもして。
お子さん小さいんですか?まだ小学生なもんですから。
(安斎)あとは減りようもないので。
30年…。
5〜10センチに減れば半分以下に。
5センチでいいでしょうけどね。
正直もう4年たちましていろんな心配から何からでもう精神的にも肉体的にも相当ダメージも受けてましてくたびれて…それからまたとなるとやっぱりつらいものがありますね。
つらいですね。
(安斎)好ましいのは5センチ。
どうすれば力になる事ができるのか。
重い宿題が残されました。
どこに潜んでいてどこから襲ってくるのか分からないのが放射性物質です。
福島プロジェクトのもとには住民からのSOSが後を絶ちません。
川俣町の山あいのお宅。
裏山はうっそうとした杉林です。
どうもはじめまして。
よろしくお願いします。
新関と申します。
遠いところすみません。
いえいえ。
それで家の周りの対策を。
はい。
それから何か気になってる事の一つがまきをたくのでそのたいた空気を吸い込んで体の中に被ばくがないかどうかが気になってる?あと周りにどうなのかって影響。
(安斎)飛び散らせてないかですね。
昔ながらにボイラーでまきを燃やす生活に不安を感じているといいます。
裏山は生活空間ではないという理由で除染は行われません。
しかし新関さんのお宅ではこの山からまきを切り出して生活しています。
放射性物質が飛び散り近所に迷惑をかけてしまうのではないかと恐れていました。
あの屋根の上あたりに積もってる灰があれば集めて。
そんなに遠くには行きません。
あ行かないんですか。
だからうちの周りで大体落ちちゃいます。
(安斎)しかも煙突が結構長いからね。
ボイラーの燃焼温度からいって放射性物質が遠くまで飛散する事は考えられません。
問題は煙突やボイラーの中に残ったすすや灰だと考えました。
出た。
ごめんなさい。
これだけあれば測れる?すすや灰にどれだけ放射性物質が含まれているのかまずは測定です。
残った灰をいつまでも家に置いておくわけにもいかず不安を感じながらも自分の畑に捨ててきたといいます。
すすプラス灰。
1キロ当たり8,000ベクレル以上の放射性物質を含む焼却灰は「指定廃棄物」として国が責任を持って管理する事になっています。
強いね。
これは強いねやっぱり。
すごい強いですね。
強いよ。
これは何万ってあるよ。
万だね。
すすには1キロ7万ベクレル以上が含まれていました。
新関さんのお宅では毎日指定廃棄物が生み出されてきた事になります。
すすが一番高いですね。
すすは表面のやつが先に出ますからすすになって。
圧倒的に高い。
圧倒的に高い?うわ〜…。
キロ7万ベクレル。
その3分の1以下になってる。
ほんとは8,000ベクレル以上は駄目ですよね国の…。
数字の上ではね。
数字の上では。
全体量は少ないです。
3分の1以下。
そうですか。
灰は3分の1。
1キロ当たり2万ベクレル。
2万ベクレルぐらい?灰にも含まれてはいると。
できればまきそのものを測ってみようかと。
チップになってますか?チップにはなってないんですよ。
なたとか何かあれば。
あると思います。
まきがどの程度汚染されているのかを調べる事にしました。
細かく切り刻んで測定した結果他の木に比べて杉の汚染が強い事放射性物質のほとんどは木の皮に付着している事が分かりました。
芯の部分だけを燃やせば汚染を低く抑える事ができそうです。
こういうのは放射線防護学では習わなかった。
できれば杉の木じゃない木がまきとしてはいいんだけどもせめて杉の木は表面を削った方が。
手間は大変だね。
大変ですね。
(安斎)風呂はどうしようか。
何かいい方法ないかね。
一番いいのはまきを燃やさない事です。
ガスや灯油のボイラーに交換する費用を東京電力に請求する事になりました。
ありがとうございます。
それで私は東電に請求…。
(安斎)長年杉をたいて風呂をたいてきたにもかかわらずそれが使えなくなったのが原発事故が原因であるという事で。
それまではそんな心配せずもう自給自足的にやってたので。
それはやってみる価値はありますね。
東京電力の電気風呂でもいいから。
ここに出てるのが電源入れてからの累積線量で。
更に放射線が新関さんの健康に与える影響を把握するため毎日の被ばく量を記録する積算線量計を持ってもらう事にしました。
なるべく杉の木を燃やさないように。
そうですね。
おかげさまで。
ありがとうございます。
新関さんに預けた積算線量計を分析し被ばくの実態について検討する日がやって来ました。
最新型の積算線量計。
1日ごとの被ばく量が棒グラフで表示されます。
ここが極端に低いですね1月17日。
(新関)はい神戸に行ってたんです。
15日東京に行って…。
まさにそのとおりですね。
15が会議で東京で最後の日が神戸です。
夜中帰ってきて川俣ですね。
いやこれ明らかですね。
すごい。
(新関)結構高くないんですか?それって。
安斎さんが年間の被ばく量に換算します。
(安斎)365倍すると1.5ミリシーベルト自然放射線もちろん込み。
安斎さんによればラドンなど自然にある放射線で日本人は平均で年間0.6ミリシーベルトの被ばくをしています。
更にカリウムなど食べ物に含まれた放射線による内部被ばくが年間1.6ミリシーベルト。
平均1.6ミリシーベルトぐらいで1年間でね。
あなたも多分内部被ばくいっぱい浴びてるという事はあんまりなさそうなので。
(新関)自分で気を付けてますね。
川俣町で生活している新関さんは平均的な日本人に比べ1年に1ミリシーベルトほど多く被ばくしている事になります。
3.1ぐらいで1ミリシーベルト程度高い範囲に収まっているという事で。
安斎さんが作成した資料です。
新関さんは原発事故によって平均的な日本人以上の被ばくをしていますがもともと自然放射線が強い北欧諸国やフランスの人々に比べれば低い水準に収まっています。
ああすすも結構舞ってるのが。
(新関)そうなんですよ。
あのすすが高いと思うとね結局この辺がだから高いっていう…。
東京電力はボイラーの交換には応じられないと返答してきました。
今後汚染されていないまきを購入する場合はその費用については補償するとしています。
納得できない新関さんですが当面は今の生活を続けるしかありません。
(取材者)やっぱり皮むくのは大変ですか?
(新関)大変ですね結構。
これをむくのに1時間半ぐらいかかってるという。
ここにある分で。
多分私が慣れないせいもあり。
(取材者)これ1日ぐらいで使っちゃいますでしょ?
(新関)使っちゃいますね。
1回でこれは使っちゃいますね。
放射能に汚染された環境に暮らし目には見えない放射線を見つめる毎日です。
不安な…そういう燃やす事とか食べるものとかっていうのはありますけれどもそれを今数値ではっきりできるようになったじゃないですか。
そういうところで私はここで大丈夫かなというふうに思わせてもらったので。
(取材者)数値を知る事で自分で判断できる?そうですねはい。
何も知らなかったら判断の材料がないじゃないですか。
だからそれは大事な事だと思いますね。
福島プロジェクトでは住民の求めに応じて小規模な相談会を開いています。
この日は南相馬市の高倉地区の人たちが集まりました。
(安斎)今日も測定してみましたけども被ばくは総じて低いレベルになっているとはいうものの…。
放射線の測定や除染の方法のみならず原発事故で汚染された福島で生活する上でのさまざまな悩みに答えようとしています。
悩みと我々向き合いながら我々の目指すところはできるだけ被ばくを少なくなるだけ安全にという事でそういう具体的な実行可能な方法を提案していきたいと思っています。
名人だな。
先生どう思います?食べた方がいいですそれは。
その考え方非常に科学的だと思う。
季節の恵みですよそれは。
今30ベクレルという事だったので…。
佐藤さんが10グラム30ベクレルのマツタケを食べた場合の内部被ばく量をはじき出します。
安全係数を多めに見込んで0.0006ミリシーベルト。
日本人の平均的な内部被ばく量に比べれば誤差の範囲だといいます。
測ってそれで実際食べる量からどのぐらい被ばくするのかというのを見てそれでこれはもう駄目だとかというふうに判断されるといいんじゃないかなと思いました。
何なら一覧表か何か作ってマツタケだと10グラム食うとどれだけあるのかというのを一覧表差し上げますけども。
若い世代が減りこのままでは地域が成り立たなくなるとの声が上がりました。
だからここに戻ってきたからここで暮らしたから急に病気が増えるとかそんな事は全く考えられない事なのでそういう知識としてきちっと実態がどうなってるのかを理解するというのは一つですが同時に明らかに汚染がもたらされている現に残ってるんだから瓦を含めてですねそれはできるだけ取り替える努力はするしホットスポットがあればそれは除去する努力をするしみんなで努力してより安全な環境をつくってるというそういう努力が地域社会として息づいてるかどうかでやっぱり子供たち孫たちも帰っていっても大丈夫かという判断が随分違ってくると思うんですよね。
敵は…と言うと何だけどセシウム137は10分の1に減るのにちょうど100年ぐらいかかる代物だからそれが4〜5年やったからこれにて終わりというわけにはいかないんですよね。
全部行政に任せるというんじゃなくて我々自身ができるところからやっていくという事がとても大事だと思うんですね。
やればできる。
除染のやり方については我々専門家から見てもいろんな問題があるしそれは請け負った業者の質によってもいろんな問題が起こってるけども明らかに除染した所としてなかった所では顕著な違いがあり更にそれが適正に行われたかどうか我々が調べる事によってそれを適正化する努力をしていけばより安全な生活空間ができる事も確実なのでそれは決して諦めてはいけないというふうに思いますね。
そのお手伝いをしっかりとやっていきたいと思っています。
(取材者)これからもお続けになる?私の体が続くかぎり10年は続けたいと僕は宣言した立場にあるのだから頑張りますできるだけね。
もう後期高齢者になってあまり無理がきかなくなってきてるけれどもそれでもそれはやっぱり社会的責任だと思っています。
3月。
原発事故から4年の節目を迎えた南相馬です。
この日訪ねたのはいぐねを切った門馬さんのお宅です。
安斎さんたちが出した答えは自ら除染に乗り出す事でした。
取りかかったのは母屋に近い2メートル四方の土地。
広い敷地に比べればほんの一部ですが何とか子供たちが安心して遊べる場所を確保するつもりです。
5人でやれる事には限りがあります。
しかしこうして少しずつでも安全な場所を増やしていくしかありません。
よいしょ。
せ〜の…。
よいしょ。
手ごわいぞ。
手ごわい。
平均年齢66.6歳の専門家集団福島プロジェクト。
住民の暮らしを支えるフットワークが身上です。
放射線量は除染前の6分の1。
国が除染目標としている数値を下回りました。
6分の1。
ちょっとできすぎじゃない?できすぎです。
本来はこの事を起こした企業とそれを監督する立場にあった行政がやるべき事だと思いますけどね。
子供はそんな事待ってられないのでやれる事はやると。
一度起きてしまえば取り返しがつかないのが原発事故です。
ああ子供これなら遊べるわ。
福島の人たちはこれからも気が遠くなるほどの歳月を放射性物質と向き合って過ごします。
安斎さんたち福島プロジェクトの闘いにも終わりはありません。
5人の福島通いが続きます。
2015/04/25(土) 00:00〜01:00
NHKEテレ1大阪
ETV特集「終わりなき戦い〜ある福島支援プロジェクトの記録〜」[字][再]

毎月福島に通い被ばく量を減らす実践的な対策や放射線とのつきあい方のアドバイスを続けている「福島プロジェクト」。彼らの活動現場に密着し、フクシマのいまを見つめる。

詳細情報
番組内容
3.11以降、毎月福島に通っては住民の不安に耳を傾け、被ばく量を減らす実践的な対策や放射線とのつきあい方のアドバイスを続けている人たちがいる。放射線防護学者の安斎育郎さんを中心としたメンバー5人の「福島プロジェクト」である。除染が済んでもなお残るホットスポットや暮らし続けることに不安を抱える住民、幼児たちのさらなる安全を求める保育園など。福島プロジェクトの活動現場に密着し、フクシマのいまを見つめる
出演者
【出演】放射線防護学者…安斎育郎,【語り】三宅民夫

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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