サイエンスZERO「細胞技術が毛髪再生を変える」 2015.04.25


全国で800万人が気にかけているという薄毛。
その治療法が変わろうとしています。
こちらのマウスの黒い毛植毛ではありません。
人工的に生えさせたもの再生医療なのです。
薄毛治療に再生医療。
もちろんあの細胞も使われています。
最先端の細胞技術を駆使した毛をよみがえらせる治療法。
再生医療でゼロから作り出せるようになりました。
毛を作る場所は1センチにも満たない大きさですが立派な臓器です。
それを再生させるカギは生き別れた2種類の細胞の出会いでした。
私たちが考えたのは…今日は知ってそうで知らない頭皮の下の深〜い世界をのぞいてみます。
…ていう感じですね。
毛の再生医療万々歳ですよ。
間に合ってほしいな〜。
やっぱりこのテーマ興味ある人多いんじゃないですかね。
多いですよ。
ところで奈央ちゃんはどうやって自分の髪の毛が生えて抜けるか知ってますか?えっ!毛穴から生えてくっていうのは分かるんですけど詳しい仕組みは知らないです。
そのメカニズムを知るカギは毛穴の中にあるんですよ。
お〜出てきた。
あの〜通常毛穴毛穴っていいますけどもこれ医学的には毛包といいます。
毛包。
でこの毛包は髪の毛の製造工場なんですね。
製造工場。
ここが?この毛髪工場は大きく2つに分かれています。
メインの部分は毛包。
これは毛を包む部分ですね。
それから司令塔の毛乳頭細胞。
でこの毛乳頭細胞がカギなんですよ。
へえ〜。
この毛乳頭細胞は毛包の中の毛母細胞を刺激して細胞分裂を促します。
すると古くなった細胞がところてん式に押し出されてニョキニョキニョキ〜ッと伸びていく。
これが髪の毛が生えるという事なんですね。
へえ〜!そっか。
細胞分裂して押し出された細胞の集まりが髪の毛なんですね。
そうですね。
で実際に髪の毛が伸びる映像があるんですが…。
お〜すごい。
確かに押し出されてるって感じしますね。
問題はどうしてこれが薄毛になっちゃうかという事なんですがそれについては専門家に伺いましょうか。
薄毛の仕組みを理解するのに毛周期という考え方が重要になります。
毛周期ですか。
はい。
毛周期は毛の成長の生え変わりの周期を表してるんですね。
毛周期には3つの期間がありまして1つ目は成長期。
これは2年から6年ぐらい続きます。
え〜長いですね。
そのあとに細胞分裂が衰える退行期。
それで細胞分裂が止まってしまう休止期になります。
わ〜最後毛が抜けちゃいましたね。
これを繰り返していくっていう事なんですか?これを何回か繰り返している。
でも全体としては成長期が長いので髪がフサフサに見える訳ですね。
薄毛は毛周期が乱れるっていう事ですよね。
この男性ホルモンがある酵素の働きで毛周期に影響を与えるあまりよくない男性ホルモンに転換されてそれの影響でこうなってしまうんですね。
あ〜もう働かなくなってしまう?そうですね少し弱くなってしまうんですね。
へえ〜確かに弱ってきましたね。
はい。
そして細胞分裂が衰える退行期が早く始まるのでこういうふうに毛周期が短くなっていくんですね。
へえ〜!そしてこの短いサイクルが繰り返すと…。
あ〜成長する前に毛周期が繰り返されるから髪の毛の量が少なくなってしまうんですね。
そうですね。
成長期が短くなる事によって成長しきれずに薄毛に見えてしまうんですね。
実際に薄毛の人の髪の毛をよ〜く見てみると…。
産毛みたいな毛がたくさん生えてるんですよ。
確かに。
細い毛がありますね。
全く毛がないっていう訳ではないんですね。
じゃあ今薄毛治療はどうなってるんですか?毛周期に影響を与える男性ホルモンを抑える薬が実際処方されてましてある程度の効果はあるんですけれどもやはり毎日使い続けなきゃいけないというちょっとおっくうなところがあります。
それは大変ですね。
そこで今司令塔を元気にする抜本的な治療が開発中なんですよ。
横浜市にある大手化粧品メーカーの研究所です。
細胞技術で抜本的な改善をねらう新しい治療法の開発が進められています。
プロジェクトのリーダー岸本治郎さんは髪の毛を研究し続けて20年の大ベテランです。
これを研究用に…これは人の頭皮の実物です。
手術などで出た貴重なサンプルの提供を受け研究に活用しています。
岸本さんたちが注目しているのは毛包の中のある細胞の働きです。
それは毛乳頭細胞の下にある…毛乳頭細胞を包み込んでいてやがて毛乳頭細胞になる若い細胞だと考えられています。
つまりこの細胞が毛乳頭細胞を活性化させ毛の成長期を延ばすカギだというのです。
これは片耳だけにこの細胞を注入されたマウスの写真。
注入後6か月です。
片耳だけ毛が多いのが分かります。
この働きを人にも応用しようというのです。
治療の作戦はこのとおり。
まずは一般的に髪の毛が残りやすい後頭部から毛包を採取。
そこからこの細胞を取り出して培養し増やします。
そして頭皮に戻します。
するとこの細胞が毛乳頭細胞を活性化。
成長期が延びて毛が増えるはずなのです。
実際の治療はどういった手順で行われるのでしょうか。
まず使うのは頭部から切り取られた頭皮です。
そこから毛の付け根にある毛包を採取します。
すごい。
毛包を切って出てくる黒いものはできたばかりの髪の毛。
でも大事なのは画面右の小さな塊です。
それを裏返すと上の突起物が毛乳頭細胞の塊で下のキノコのかさのような形をしているのが毛球部毛根鞘細胞の塊です。
そこからキノコのかさの方を切り取ります。
僅か0.3ミリほどの塊を切り取る微細な作業です。
それを独自の技術で培養し特性を失わせる事なく数を増やします。
そして増やしたこの細胞を頭皮に注入。
この細胞は自ら毛乳頭細胞の周りに動いていくといいます。
すると毛乳頭細胞が刺激されて若返り元気を取り戻すのです。
毛周期の中でも特に成長期が延び髪の毛がよみがえっていくんです。
幅広い年代シニアの方を含めて…岸本さんたちは今後再生医療の集積している神戸に拠点を構え医療機関と臨床研究を進めながら2018年の実用化を目指します。
え〜自分の細胞を頭皮に注入って結構斬新なやり方ですね。
ですよね。
いや僕も注入してもらいたいですけど。
これって生産ラインが止まってしまった工場に若い人たちが大勢やって来てもう一度工場を盛り上げるって何かそんなイメージみたいですよね。
確かに。
これ実際に治療が始まるとどういうふうになるんでしょうか。
診療所とか病院で患者さんが受診されてそこで頭皮を切除します。
まあサンプリングですね。
それを企業の施設に送りましてそこで細胞を培養加工してそのあとにまた診療所へ戻します。
そうしますとお医者さんが患者さんに注入をするというプロセスになります。
先ほど後頭部から採取してましたけど…よく薄毛の方は特に高齢者を見るとですね前額部とか頭頂部は薄毛なんですけども後頭部は立派な毛が生えてる方多いですよね。
ですからそこから組織をとって培養して…いわゆる置き換えてあげるという方法が優れた点ですね。
男性はですね特にお薬があったりしますが女性はまだまだ治療薬が少なくてなかなか解決してない問題が多いんですね。
ですから女性にはこういった技術が有効だというふうに強く思ってます。
これって実際に細胞を注入するから効果が持続するんですか?入れた細胞は恐らくですね毛乳頭の中に定着して機能を出し続けるんじゃないかと思います。
うわ〜。
いずれはこの技術が完成したら私も実際の患者さんに適用してみたいと考えています。
これさえあれば薄毛に悩む人も少なくなるんじゃないですかね。
しかしですねこれは毛包という毛を作る工場が残っている人にだけ適用する方法なんですね。
それで苦しんでいる方々もいっぱいいらっしゃいます。
例えば…更なる革新的な方法が今研究されています。
そこで活躍するのが毛包という器官そのものを作り出す再生医療です。
マウスに画期的な手法で毛を生やさせた…私たちが考えたのは…そこでさんが注目したのは2種類の細胞です。
1つ目は毛乳頭細胞。
毛包の司令塔です。
2つ目はこのバルジ領域と呼ばれる部分にある細胞です。
上皮性幹細胞といわれさまざまな種類の細胞に変化できます。
この2種類の細胞実は受精のあとに別々のグループに生き別れた細胞だったのです。
受精後2か月を過ぎた頃の頭皮の断面をのぞいてみましょう。
バルジ領域の幹細胞はこちら。
皮膚になるグループ上皮系細胞。
規則的に並んでいます。
一方の毛乳頭細胞。
間葉系細胞と呼ばれるグループに所属。
細胞の間を柔軟に動けるのが特徴です。
この時期2種類の細胞は呼び寄せられるように近づき出会います。
そして互いに連絡を取り合いながら体に初めて毛包ができるのです。
そのためには…さんたちはこの発生初期の出会いを再現するために試行錯誤を繰り返しました。
悩んだ末に考え出したのは高密度で細胞同士が密着する空間を作る事でした。
たどりついたのはこちら。
ネバネバした粘性の高いコラーゲンゲル。
ヒトの頭皮下の成分に近い性質を持つ物質です。
その中に上皮系と間葉系の細胞の塊を注入します。
ゲルの粘性が高いため2種類の細胞は散らばりません。
高い密度で接する状態を作る事ができました。
2種類の細胞が出会う時と近い状態です。
この状態で数日間培養しました。
それを毛のないヌードマウスにうち込んだところ3週間ほどで毛が生えてきました。
えっ…え〜!これが実際にできた毛包の断面図。
毛乳頭や脂を出す皮脂腺などの組織も再生されていました。
更に再生した毛包では自然に抜けては生え抜けては生えが繰り返されていました。
つまり毛周期が再現されていたのです。
その周期はおよそ3週間。
普通のマウスとほぼ同じでした。
今さんは人の細胞でも実験を進め10年以内の実用化を目指しています。
毛のない所から自然に毛が生えてくってすごいですね。
あのマウスかわいいですね。
ねえかわいいですね。
でもどうしてこの2つの細胞の出会いが必要なんですか?実は2つの細胞の間にはこんな事が起こってるんですね。
まず上皮系の細胞からWntというタンパク質が間葉系に送られます。
いわゆる意味としては毛乳頭になりなさいという司令なんですね。
そのあとにその間葉系の細胞からBMP4というタンパク質が上皮系の細胞に送られます。
その意味は上皮系の細胞に毛母細胞になって髪の毛を作りなさいという2つの信号のやり取り…つまり1人で盛り上がって毛包を作るぞって言っても駄目で。
そっか。
出会った2人が力を合わせていかないと毛包はできないんですね。
なんですね。
そうこのキャッチボールというのがキーワード。
実はさんこの研究を突き詰め髪の毛にとどまらない複雑な器官の再生も視野に入れています。
髪の再生がほかの器官の再生にもつながるっていう事ですか。
そうなんですね。
ほかの臓器も毛包みたいに2つの細胞の出会いでできてるんですね。
ほかの器官もこの2つの細胞のキャッチボールによって器官が形成される事が分かっています。
へえ〜!あと体の中ですと…これつまり毛包の再生が臓器の再生につながっていくという事ですね。
そうですね。
毛包の再生は比較的もうゴールが近く見えていると思うんですがこの技術を研究して臓器の再生まで持っていけるんじゃないかと研究者たちは考えています。
それは楽しみですね。
そうですね。
だけど毛包の再生にまだ課題とかってあるんですか?この生き別れてしまった2つの細胞ですね。
この細胞を使って再生医療を行っていくんですが人間の頭皮から取れる組織には限りあります。
その取ったものからどのぐらい髪の毛を増やすのか。
例えば1本取ってそれを1本しかならなきゃしょうがない訳で1本取ってやっぱり1,000本とか1万本に増やさない事には医療につながりません。
で現状ではまだ上皮系の細胞の培養技術は確立してません。
これをクリアすればいずれは先生がおっしゃってるような完全な体性幹細胞を使った再生毛包ができると思うんですがまだまだこの技術は実用化というのは難しいんですね。
自分の毛を抜いたはいいけど細胞が増えなかったら抜き損ですよね。
それはもう死活問題ですよね。
何かピンときませんか?方法ですか?はい。
そうです正解です。
今iPS細胞を使った毛包の再生が進められてるんですよ。
ヒトiPS細胞を使った毛包の再生に取り組んでいるのは皮膚科医の大山学さんです。
まずターゲットにしたのはケラチノサイト。
皮膚を構成する上皮系の細胞です。
この細胞を誘導するにはiPS細胞にレチノイン酸とタンパク質BMP4を加えればいい事が分かっています。
こちらが実際にケラチノサイトを誘導していく様子。
この時は1か月以上かけて完全な細胞になりました。
ケラチノサイトは上皮系細胞ですから間葉系の細胞を出会わせれば毛包が生まれるかもしれません。
しかし大山さんはここで一工夫考えます。
ケラチノサイトが完全に出来上がる前の途中の細胞を使う事にしたのです。
大山さんは…そしてマウスの皮膚の下に注入。
するとこのような毛包を含む構造が再現されました。
下に突き出した針のようなものの中に毛包が隠れています。
隠れていた毛包です。
緑色の部分がヒトiPS細胞由来。
僅かではありますが皮膚の中では毛ができていました。
皮膚の下だけどちゃんと毛が再生されてましたね。
ありましたね。
これって発生の過程を再現するというのがポイントなんですね?実際はいつごろからこのiPS細胞で作った髪の毛使う事ができそうですか?それはまだまだ先のようです。
このiPS細胞でまだ間葉系の細胞が作られてないんですね。
ですから大山先生のご研究でも間葉系の細胞はマウスのものを使ってます。
ですからそういった事をクリアしていかないとなかなか現実化というのはもっともっと先かもしれません。
でもマウスで成功したら人でもすぐできそうですよね。
それがなかなか難しいんですね。
実は過去にも動物実験でうまくいった例がいくつも…いろんな方法があったんですが人間の実験になるとなかなかうまくいかないという事が一つですね。
もう一つですねマウスは今体毛の研究をしています。
残念ながら人間は頭髪という違う種類の髪の毛を再生しなければいけないのでそこには2つのハードルがあるかもしれません。
体毛と毛髪っていうのは違うんですか?一般にですね人の体毛まあ無駄毛ですけども体毛っていうのは大体毛周期が4週間ぐらいなんですけどもまゆげとか2か月とかまつげもそのぐらいですし毛の種類によって毛周期が全然違うんですよ。
へえ〜そうなんだ。
形態的には毛乳頭細胞の数が違うといわれていて体毛の場合は一般的に数百個。
ところが頭髪は3,000個ぐらい毛乳頭細胞があるんですね。
まゆげはその真ん中ぐらい1,000個ぐらいの細胞からできてます。
そういった細胞の数の違い。
あと恐らく毛乳頭には番地が書いてあって何号何番地にはこういう毛を生やしなさいという司令が遺伝子の中に組み込まれてるんですね。
ですから頭の毛は頭髪まゆげはまゆげ体毛は体毛というふうに分化していくんですね。
じゃあまゆげを取って頭に移植しても駄目なんですね。
同じまゆげの性質の毛しか生えないので2か月で生え変わると。
そうか。
床にいっぱいまゆげが落ちてるという事になります。
iPS細胞の研究の副産物としてその方の髪の毛の細胞を試験管の中で再現できる訳ですね。
そうしますと…例えば10種類ぐらい入れて1種類効けばそれが効くんだと。
効くものだけ組み合わせてその方が使うと。
AとDとEが効果があればその3つの育毛剤をミックスしてその人へ処方するという事が可能なんですよね。
そういう事を進めていくとある疾患のグループというんですか例えば円形脱毛症の人はこういった薬が効くんだろうという研究に進みますし…いや〜この毛髪の研究ってすごく進んでるんですね。
実は研究者の数が非常に少なくてですね…国内でですね。
えっそんなに少ないんですか?早くこういった夢の技術を困っている方々に届けたいんですけどもそのためには多くの方々に興味を持って頂いて一緒に研究をして頂くと我々は本当に将来早くこういったサービスを届けられると思っています。
いや〜奈央ちゃん今日はどうでしたか?私最初薄毛の治療という事で結構ピンポイントだなと思ったんですけど髪の毛の毛包が小さな臓器というのがすごい印象的でしたね。
そこからやっぱりほかの臓器にも展開できそうですごく広がる研究ですよね。
僕は個人的にやっぱり頭髪再生。
これ結構危機的状況なんですよ僕ね。
だから本当に早く実用化してほしいなと思いますこれは。
期待したいですね。
はい。
佐藤さん今日はどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2015/04/25(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「細胞技術が毛髪再生を変える」[字][再]

2種類の細胞の出会いを演出することで、毛髪を生み出す器官の再生に成功。胎児での毛髪発生を再現したものだ。この技術はほかの器官の再生にも大きく影響するという。

詳細情報
番組内容
全国で800万人の男性が気にかけているともいわれる薄毛。男女問わず、病気やけが、先天的な要因などさまざまな理由で毛髪の悩みを抱えている人は多い。しかし今、iPS細胞に代表される細胞技術の急速な発展で、毛髪を生み出す器官、毛包を新たに作り出すことまで可能になりつつある。その鍵は、2種類の細胞の「出会い」。そしてこういった毛髪再生の実用化は、他のさまざまな器官・臓器の再生にもつながる重要技術だという。
出演者
【ゲスト】北里大学特任教授…佐藤明男,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】土田大

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
情報/ワイドショー – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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