花燃ゆ(16)「最後の食卓」別れの夜に家族が交わした約束 2015.04.25


回想
(文)帰ってきてつかぁさい。
英雄になんかならんでええから。
(寅次郎)文。
兄は死にたいんじゃ。
旦那様…。
(玄瑞)今戻った。
おけがは?京で危ない目に遭われたと聞きました。
お体は大事ありませんか?ああ。
旦那様…。
お前も大変じゃったな。
ここにはもう誰もおりません。
兄上の心を救う者は誰もおりません…。
私も…。
共に探して下さいませ。
一体何を?書物を探しとるんです。
寅兄様が教えてくれました。
「文。
本は人じゃ」。
回想人と出会うて兄は変われたんじゃ。
兄上を元の姿に戻す本がこのどっかにきっとあるはずです!旦那様とならきっと見つかります!文…。
(百合之助)文!久坂殿は戻ったばかりだぞ。
ずっと待っておったんです!旦那様をずっと…。
そうじゃな。
探そう!先生の本は大抵のもんは知っておる。
お前より早う見つけるかもしれんぞ。
旦那様…。
(百合之助)標やったんじゃ。
(亀)標?文にとって寅次郎は道を照らす掛けがえのない明かりじゃった。
塾のお世話も賄いも文さんそれは楽しそうじゃったもんねえ。
今文は何より己のよりどころを見失うとるんかもしれんな。

(テーマ音楽)・「愚かなる吾れのことをも」・「友とめづ人はわがとも友と」・「吾れをも友とめづ人は」・「わがとも友とめでよ人々」・「吾れをも友とめづ人は」・「わがとも友とめでよ人々」・「燃ゆ」江戸からの召喚状が長井雅楽の手によって萩にもたらされた。
「吉田寅次郎ご吟味の筋これあり」。
江戸町奉行所よりの呼び出しじゃ。
(伊之助)寅次郎を江戸へ…。
老中暗殺のたくらみが漏れたのでございますか。
ご公儀を逆賊と断じた意見書が井伊大老の手に渡ったのでございますか。
(晋作)つかめん。
幕府が先生の何をどれほどつかんどるんか一向に見えん。
(周布)梅田雲浜様の詮議が日増しに厳しさを増しとるという。
その中であるいは寅次郎の名が…。
もちいとあたってみます。
(長井)周布殿が今江戸で探っておる。
もしすべてが露見しとるとしたら…。
まずは死罪。
藩の関与もいずれただされる事となろう。
まさか…その疑いを払うために一刻も早う寅次郎を江戸へやれと?私を江戸に?
(梅太郎)奉行所からお前に召喚状が来た。
寅次郎。
わしは…。
(寅次郎)花が…。
どこかで花が咲いとるんです。
今朝から時折香ります。
匂いだけで姿は見えんのですが…。
花?いよいよでございますな。
江戸送りの段謹んで承りました。
お知らせありがとうあんした。
一つだけお願いがあるんですが。
肖像画?
(滝)絵を描いてほしいというんですか?寅が。
(亀)そねな…。
まるでお別れのようじゃあね。
(文之進)そのつもりであろうの。
江戸に呼ばれるからには厳しい詮議は免れまい。
江戸で寅はどうなるんですか?お調べの後は。
死罪になるんでございますか?文。
小田村の兄上様のとこに参ります。
兄上様なら詳しい事情をご存じのはずです。
やめれ!見苦しく動き回るな。
見苦しい?見苦しいんは寅兄の方ではありませんか。
何じゃと?文。
今寅兄は誰も信じようとはせずただひたすら死ぬる事ばかりを願うております。
兄上にはもっと大勢の方の明かりとなってもっと…もっと生きてもらわんと。
このままやすやすと江戸へ送られてええ訳がありません!ならばどうするというんじゃ?えっ?お前の叫びごときで揺らぐ兄ではない。
寅次郎はとうに覚悟を決めておる。
この上お前が背負う事ではない。
ですが…。
お前は兄ではない!我らは我らを生きねばならん。
たとえ寅次郎をなくしたとしても。
父上。
うちを生きる…。
久坂の呼びかけにより野山獄の松陰のもとに萩に残る塾生が再び集まっていた。
こたび私は江戸へ赴く事となった。
ひとたび送られれば再び帰国はできまい。
じゃが悲しむ事はない。
私の心はとうに決まっておる。
死を求めもせず死を辞しもせず獄にあっては獄で獄を出ては出たで命の限りできるだけの事をするつもりじゃ。
(百合之助)これは…。
よう似ておいでですねえ!この辺りが特に!
(滝)そうそう。
寅はいっつもこちらの肩がちいと上がっとるんです。
懐にほれようけ本を詰め込むから。
ほんによう描けちょる。
(百合之助)この手。
寅の手じゃ。
父も母も亀太郎さんの絵を大層喜んでおりました。
ありがとうあんした。
(亀太郎)あっいえ…。
商いで山ほど魚を見てきました。
はい。
いよいよさばかれるという時魚は体中であらがいます。
押さえつけて動かんくなっても目だけがこのままじゃ終わらんと。
終わらん…。
同じ目をしておりました。
兄上が?
(富永)江戸へ行くそうじゃな。
富永殿。
何をするつもりじゃ?江戸で。
ついに来たんです。
この時が。
江戸で幕府の者たちを前にじかに私の意見をぶつけるんです。
私の言葉私の思うところのすべてを!どのように?今こそ我が国はナポレオンを呼び起こしフレーヘードを唱えて立ち上がるべきじゃと。
フレーヘード自由。
ならば問う。
お前の思う自由とは何じゃ?民の輝きです。
何者にも縛られん自由な者たち在野な者たち。
すなわち草莽こそがこの国にとっての真の武士。
世の中を変える事のできるただ一つの力なんです。
忠義を尽くす道にもはや身分などいらん。
天朝もいらん。
幕府もいらん。
藩もいらん!草莽崛起。
この国を守る事ができるのは草莽だけじゃ。
じゃが今のお前の言葉に従う者なんぞ誰もおらん。
故にお前のもとから人は去った。
光を見せろ。
お前はかつてわしに言うた。
人は変われると。
人は善であると。
ならば今こそそれを見せろ。
お前の言葉で生きる者を見せろ!富永殿…。
(風の音)富永殿…。
寅次郎を獄から出す?江戸送りになる前に家族のもとへ帰して頂きたいんでございます。
私からもお願い致す。
このとおり!寅次郎は幕府から出頭を命じられた身。
もはや我らがどうこうできるものではない。
うちには寅兄がこのままおとなしゅう江戸へ送られるだけとはどねぇしても思えんのです。
寅次郎には何か含むところがあると?それが知りたいんです。
先日父上に言われました。
「この先寅がどうなろうとお前はお前を生きよ」と。
ですが今までのうちは兄と共にあったんです。
兄を見つめ兄を学び久坂という夫も得る事ができました。
寅兄が何を望んで江戸へ送られるんか。
それを知らずにこれからのうちは何も始められません。
江戸では決してご公儀に逆らってはならぬ。
そう言い含める事はできますか?できんと言うた兄を恨むか?己を偽り思うところを語れん寅などそれはもう寅ではない。
お知恵をお貸し下さい!
(福川)ならぬならぬ!たとえ僅かでも兄を家族と過ごさせてやりたいんです!小田村様にお頼みするんじゃな。
断られました。
ですからほかの手だてを!福川様!高須様…。
もはや牢を出ようが出まいがどうでもいい事ではありませんか?これに糸を刺してほしいと頼まれました。
兄上が?「至誠にして動かざるはいまだこれあらざるなり」。
これは孟子の…。
至誠を尽くせば人は必ず動く。
変わる事ができる。
あのお方は何も揺らいでいないのです。
獄にあっても家にあってもあの人の魂は何も。
そのために身を滅ぼす事になっても?誰もあのお方を滅ぼす事なんてできませんよ。
己の志を江戸のほかならぬご公儀の面前で思いの丈述べる事ができるのです。
あのお方にとってそれ以上の幸せがありますか?幸せ…。
兄の事を言わんくなりましたね。
文なりに思うところがあるんでしょう。
せわぁない。
我らも生きていかねば。
江戸への出立が決まった。
明日じゃ。
明日。
一つ言うておく。
江戸では何も申すな。
すべてのみ込みひたすら耐えろ。
もはやこねな言葉でお前が動かんのは百も承知じゃが…。
お前が死ぬべきは今ではない。
長井雅楽様は優れたお方じゃが藩を守るためならお前一人に逆賊の汚名を着せる事もいとわんじゃろう。
お前が志に殉じるんはもう止めん。
じゃが…お前の死に泥を塗られるんは我慢ができん!伊之助…。
あとを頼む。
出立は明日の朝です。
夜中までには戻られよ。
福川殿…。
礼は表の者に。
責任は私が取ります。
(寿)金子は要らぬと突き返されました。
お前が…。
旦那様のお言いつけでございます。
杉家にはすでに知らせが行っております。
皆首を長うして待っております。
兄上の妹である事が嫌でした。
兄上を誇りに思えと迫る父上も母上も叔父上も文も何もかも大嫌いでした!小田村に嫁がせてくれたんは兄上でした。
(寿)篤太郎。
久米次郎。
ここでお別れ致します。
道中お気を付けて。
寅兄がもう?兄上…。
ただいま帰りました。
寅…。

(梅太郎)亀!亀!ちょ…どねぇされましたその格好!水だるが倒れて畑が水浸しじゃ!畝も苗も台なしで…。
おお!ええところに来た!来い!手伝え!えっ?えっ?
(梅太郎)敏も来い!おお寅。
よう来た。
手伝うてくれ。
畝が崩れてもう何が何やら。
まずは倒れた苗を拾いましょう。
ああげたを脱げ。
泥に足を取られるぞ。
何じゃ言うてるそばから!
(笑い声)兄弟そろうて。
大丈夫か?
(笑い声)けがはないか?おっちょっと待った。
ん?命とはまことに不思議なもんじゃの。
こねぇなちさなもんの中にもちゃんと宿っちょる。
ほれ。
そして続いてくんじゃ。
続いてく。
ああ分かるな。
ハハハハ。
よ〜し畝を作り直すぞ。
まず残っちょる苗を拾え。
(梅太郎)はい。
長崎から帰った時も脱藩してこっそり萩に戻った時もこうして流してあげましたね。
そうでした。
そん時聞いた話は全部覚えとりますよ。
へえ!こねぇな大きなガラスちゅうもんを初めて見た話や江戸の大福がどねぇにうまいかみちのくで霜焼けがかゆうてたまらんかった話や…。
そうでした。
今度はどねぇな話を聞かせてくれるんじゃろうね。
母上…。
江戸ではやりの新しい芝居の話やろうか。
粋じゃという火消しの話。
そうそう。
江戸のおなごの話もそろそろ聞きたいもんじゃねえ。
聞かせてくれますね?はい。
必ず。
必ずお聞かせします。
それまでどうぞ末永くお達者で。
文。
お話があります。
風呂のたき口の横にわらじとかさがあります。
それに路銀も。
どうぞここを出てそのまま遠くへ行ってつかぁさい。
今なら山を越えられます。
文…。
逃げろと言うとるんではありません。
生きてほしいんです。
兄上の志を全うできるどこか新しい土地で。
かつて兄上は藩を捨て国を捨て異国へ渡ろうとされました。
同じ事をなさればええんです!このまま江戸で新たな獄につながれる前に。
お願いします。
早く。
早く行って…。
文。
行って!早く!文。
文!お前には今まで多くのものをもろうた。
力をもらい叱咤をもらい人をもろうた。
人?伊之助と出会い久坂と出会い高杉と出会い大勢の塾生たちに出会うた。
何もかんもお前のおかげじゃ。
やのに僕はお前に返してやれるもんが何もない。
ですから今ここを出て…。
これは…。
金子が…そしてお前が託してくれたボタオじゃ。
密航の夜僕と金子が生きた証しじゃ。
今の僕はあのころのようにただ無防備に己を投げ出していた私ではない。
さまざまな人と結び分かち合いそうして生きてきたんじゃ。
ここで…この国で。
私はどこにも行かん。
このボタオを連れて江戸へ行く。
至誠を貫きご公儀を動かすと?文。
私は死なん。
あるだけの私と魂をもって井伊大老と向き合い必ずご公儀を説き伏せそうして必ず再び萩へ戻ってくる。
(寅次郎)約束する。
兄上…。
(足音)文と探しておりました。
先生にもう一度出会うて頂く本を。
やっと見つかりました。
これは…。
(玄瑞)「学は人たる所以を学ぶなり」。
この塾を興される時先生が最初に記された本です。
僕の…。
これからもずっと伝えていきます。
文と。
「恒産なくして恒心ある者はただ士のみ能くすることを為す。
この一句にて士道を悟るべし」。
(塾生たち)「恒産なくして恒心ある者はただ士のみ能くすることを為す。
この一句にて士道を悟るべし。
仁は人なり。
人に非れば仁なし」。
始まったな。
干せ。
門出の酒じゃ。
寅の門出か。
ううん。
お前のじゃ。
お前なくして今の寅次郎はありえんかった。
お役目まことに。
何を言うか。
…何を言う。
「至誠にして動かざるはいまだこれあらざるなり」。
(塾生たち)「至誠にして動かざるはいまだこれあらざるなり」。
「至誠にして動かざるはいまだこれあらざるなり」。

(久子)先生。
ご家族とはゆっくりお話できましたか?おかげさまで。
空に何か?花の香りが…。
樗です。
樗…栴檀ですか。
はい。
樗は高い木の上に雲のように小さな花が開きます。
葉や枝に遮られて姿は見えませぬが香りで分かるのです。
姿は見えなくとも…。
これを。
(久子)お気に召すかどうか分かりませんが。
大丈夫じゃろうか…。
私は私でいられるじゃろうか…。
最後のその時まで見苦しゅうなく…。
(久子)吉田様。
何も怖くはありません。
人とはこれでございます。
さみしさも慰めも…悲しみも喜びも。
ただこれさえ覚えておられれば。
松陰が萩をたつ日は雨となった。
今朝の汁は芋と青菜じゃ。
ゆうべかまちに上がっておった。
では。
先生。
私は…。
文の手を離すなよ。
明日晴れたら新しい種をまこう。
種を?うん。
秋には実をつけるじゃろう。
それをおかずにみんなで夕げをとろう。
ええ。
そうですね。
お手伝いします。
(百合之助)おお。
ああお前もか。
忙しゅうなるぞ。
(亀)はい。
(百合之助)明日はみんなで総出じゃ。
(護送人)止まれ!
(護送人)先生。
涙松です。
ここで萩は見納めとなります。
(護送人)あいにく何も見えませんな。
いやよう…実によう見えます。
戦いを挑む覚悟にございます!江戸に送られた松陰がついに井伊と対決。
助かるんですか?
(井伊)許さぬ。
生きろ。
お前らしく。
江戸送りの命令が下された松陰は護送される前夜獄吏の福川犀之助の厚意により自宅へ帰る事が許されました
この時松陰は最愛の母を悲しませないように明るく振る舞ったと伝えられています
翌日松陰は江戸に出発します。
そしてこの日が松陰と文にとって最後の別れになったのです
二度と故郷に帰る事ができないと覚悟した松陰は城下が見える最後の場所涙松でその悲しみを歌に残しました
野山獄で共に投獄されていた高須久子へは別れ際に手拭いを贈られた事への感謝の思いが詠まれています。
自分を支えてくれた人々への万感の思いを胸に松陰は一人江戸へ送られていったのです
生字幕放送でお伝えします2015/04/25(土) 13:05〜13:50
NHK総合1・神戸
花燃ゆ(16)「最後の食卓」別れの夜に家族が交わした約束[解][字][デ][再]

吉田松陰(伊勢谷友介)に、幕府からの召喚状が届いたとの知らせが来る。江戸で詮議にかけられ、死罪が下されるかもしれないという危機に、文(井上真央)は奔走する。

詳細情報
番組内容
久坂玄瑞(東出昌大)が京都より無事に戻り、安どする文(井上真央)。しかし、野山獄に捕えられている吉田松陰(伊勢谷友介)に、江戸幕府からの召喚状が届いたとの知らせが来る。詮議にかけられ、死罪が下されるかもしれないという危機に、文はがく然とする。一方、松陰は静かに出発の日を待っていた。文は、せめて一日でも兄を家に帰らせたいと思い、奔走する。そして松陰は最後の一日を文たち家族と杉家で過ごすことになり…。
出演者
【出演】井上真央,大沢たかお,伊勢谷友介,東出昌大,高良健吾,原田泰造,優香,久保田磨希,森永悠希,音尾琢真,鈴木伸之,阿部亮平,内野謙太,冨田佳輔,檀ふみ,奥田瑛二,長塚京三,石丸幹二,井川遥ほか
原作・脚本
【脚本】宮村優子

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
ドラマ – 時代劇

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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