高級リゾート地や古代遺跡に代表される豊かで明るいイメージの地中海が今、悲劇の海と化している。

 アフリカ大陸から欧州をめざす難民らを乗せた船の発見や保護が相次いでいる。貧弱な船に多くの人がすし詰め状態となり、遭難も多い。先週にはついに700人以上といわれる犠牲者を出す大事故が起きた。

 多数の人命にかかわる緊急の事態である。欧州連合(EU)が中心となり、国際社会は全力を挙げて対応を急ぐべきだ。

 危うい航海には犯罪組織や違法業者がかかわり、だまされて乗った人も多いようだ。多くの船が出航する北アフリカの国、リビアでの業者の取り締まりも欠かせないが、現地は内戦状態で、政府が崩壊している。

 事態の打開に向け、リビアの安定に力を注ぐ必要がある。

 地中海を越えた難民らは昨年1年間で22万人近く、遭難による犠牲者も3千人以上に達した。今年に入ってもすでに難民らの数は3万6千人、死者はすでに1700人を超えたと、国連機関が集計している。

 こうした動きは、中東の民主化運動「アラブの春」を機に、2011年ごろから急増した。これに伴い事故も増え、13年には2件相次いだ遭難で600人近くが犠牲になった。

 これを受け、イタリアは船を捜索する作戦を始めたが、昨秋にEU機関が引き継いだ際に作戦の規模が縮小された。予算面の負担のほか、移民に厳しい右翼政党が各国で支持を広げていることも、及び腰の態度の背景にあったという。この頃に抜本的な対策に乗り出していたら、と悔やまれる。

 EUはおとといの首脳会議で、警備や救助の予算増額などを決めたが、まだ不十分だとの声が内部からも出た。もっと危機感を強めるべきだ。救援の強化や受け入れ態勢の充実だけでなく、リビアや周辺国の安定をめざす包括的な取り組みに本腰を入れなくてはならない。

 リビアが内戦に陥った大きなきっかけは、英国やフランスを主力とする空爆によってカダフィ独裁政権が崩壊したことにある。しかし、期待したリビアの民主化は進まず、逆に混乱を招く結果となった。その意味でも、リビアの安定は欧州が責任を担うべき課題といえる。

 もちろん、特定の国だけの重荷にならないよう、欧州内で各国が分担する仕組みも必要だ。原油供給やビジネス、安全保障面で北アフリカ地域とつながりをもつ米国や日本も、しっかり協力の道を探りたい。