74
第73話 4/24 20:00に投稿、このページの第74話は25日0:00投稿です。
前話を未読の方は注意してください。
フランクリン・バルガ公爵は言っていた。
『王城や晩餐会に連れて行ける護衛は、男女合わせて2名だけだからね』
つまり、ラピティリカ様の護衛は、俺ともう一人の女の二人でおこなう。
「お待ちしておりましたわ、シャフトさん。アシュリー姉さま、彼がもう一人の護衛のシャフトさんです」
ラピティリカ様が向かいに座るアシュリーに俺を紹介している。俺の後ろでは、静かにサロンの扉が閉められていく。逃げ場が閉じていく、なぜかそんな気がした。
アシュリーさんが椅子から立ち上がり、こちらへ歩いてくる。
サロンの大きな窓からとり入れられた朝日の光が、彼女の赤金の髪を輝かせ、歩くのに合わせてミディアムボブの髪が揺れるように、妙に艶のある首筋に光るミスリルチェーンと赤いルビー。
ケブラーマスク越しに思わず見蕩れてしまう。アシュリーさんが俺の目の前に来るまで、俺は一歩も動けなかった。
「初めまして、私はアシュリー・ゼパーネルです。約一ヶ月の間、共に護衛の任につきます。よろしくお願いしますね、シャフト――?」
そこで、真っ直ぐ俺を見ていた彼女の首が横に折れた。見る見るうちに表情が変わっていく、明らかに何かに疑問を持っている。薄く整えられた眉が中央により、長いまつげの上がり目がどんどん細くなっていく。
「シュバルツさん、マスク被って何やっているんですか?」
サロンの入り口から、ラピティリカ様が座っているスペースまでは少し距離がある、アシュリーさんは小声でそう言い、後方のラピティリカ様には聞こえないように配慮してくれたようだ。
いや、問題はそこではない! 何故ばれた?! まだ一言だって発していないし、ケブラーマスクを被っているし、その下はゾンビフェイスだ。服装だってこの組み合わせは見せたこともない。
「シャフトだ、誰かと間違えていないか?」
なぜか俺も小声で返してしまった、声は震えていないと思う。
「一緒にに護衛をする方が、黒面のシャフトだとは聞いております。よろしければ、その仮面の下、見せていただけますか?」
彼女もまだ小声のままだ。距離は更に近づき、ケブラーマスクに唯一あいている目のレンズを、覗き込みそうな勢いで顔を近づける。
見せてシュバルツではないと認識させるしかない。
ケブラーマスクに手をかけ、ゆっくりと外していく。アシュリーさんの後方に俺がマスクに手を掛けたことに、少し反応するラピティリカ様の動きが見える。
アシュリーさんの瞳は、ゆっくりと露になる俺のゾンビフェイスを見ても、一瞬たりとも外れることはなかった。
俺のゾンビフェイスは、白く濁り剥きだしの目、表情筋が露な肌、赤く膨れ爛れた額、とても女性が目の前で見て、正気を保てる顔ではないはずだが。
「あぁ、シュバルツ、どうしたのこの顔……」
アシュリーさんの瞳は俺の顔から決して背けられる事はなかった。しかし、その瞳が朝日を照り返す、涙だ。
彼女の瞳には今にも溢れそうなほどの涙が溜まっていく、それが光っている――
アシュリーさんの右手が俺の顔に近づくが触れることはしない。しかし、それは忌避感からではない、触れると痛いのでは? という憂慮からだとすぐにわかった。
俺は再び仮面を被り、アシュリーさんの後ろへと声を掛ける。
「ラピティリカ様、少しだけお待ちいただけますでしょうか?」
「え? えぇ、私は構いませんが……」
俺の顔の前で、ふわふわと軽く握ったり開いたりしているアシュリーさんの右手を取り、一旦サロンの外へアシュリーさんを連れ出す。サロンの扉から少し離れていたところに立っていた衛兵が、急に出てきた俺達に何事かと目を向けるが、なんでもないと手で制止し、通路を少し進み周囲に話を聞かれないであろう場所までアシュリーさんを引いてきた。
「ここならいいでしょう、アシュリーさん」
「これは、どういうことですか? シュバルツさん」
「詳しい話は後で話します。簡単に話せば、色々合ってシュバルツとシャフトの二重生活をしています。今は、俺のことはシャフトとして応対して欲しい」
俺を見つめるアシュリーの瞳は、決して納得してるとは言えない。
「……わかりました。でも一つだけ、お顔は大丈夫なのですか?」
「大丈夫です、これは偽装です。何も心配はありません」
「そうですか――よかった……」
「戻りましょう、ラピティリカ様を待たせてますからね」
「お話は終わりましたの?」
「お待たせいたしました、これよりラピティリカ様の護衛につかせていただきます」
と、護衛の開始を宣言したが、俺の心はとてもそんな状況ではない。
よくわからないが、一目見ただけでシュバルツとばれた。どこが悪かったのか判らないが、それは後でアシュリーさんに直接聞こう。偽装を修正できるのなら、修正せねばなるまい。
そして、アシュリーさんにはシャフトのことを話さなければいけない。しかしそれは、同時に俺がシャフトとして王都で起こした、殺戮とも言える殺人を教えることも同じ。
その事を考えると、俺には、VMBの力を教えることよりも、俺が殺人鬼の一面を持つことを教えることの方が辛い、そう感じていた。
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