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マヌケなFPSプレイヤーが異世界へ落ちた場合 作者:地雷原

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 フランクリン・バルガ公爵から受けたラピティリカ様の護衛依頼、一体何から守るのかと問えば、全ての魔導貴族だと答えを返された。

 全て? このクルトメルガ王国の魔導貴族達は、それほどに危険な貴族たちなのだろうか?


「スティード、それは大げさだよ。シャフト君、たしかにラリィに害を成そうとする者がいるとすれば、それは高い確率で他の魔導貴族だろう。だが、必ずしも襲われるわけでもないし、全ての魔導貴族が敵なわけでもないよ」

「そもそも、なぜ公爵閣下のご息女であるラピティリカ様を、同国の魔導貴族家が害を成すと思われるのですか?」


 バルガ公爵は、俺の問いに細い鋭い目を更に細く光らせ、俺と真正面から見合う目線を外し、隣に座るマルタさんのほうへ振った。


「王位継承権第三位、アーク・クルトメルガ王子でございますね」


 振られた目に答えるように、マルタさんが答えた。


「今年、アーク王子は15歳の生誕日を向かえ、成人となられます。今後、1年の時間を掛け、国内の魔導貴族の令嬢の中から妃を選ばれます。私の記憶が正しければ、ラピティリカ様は迷宮討伐という大成果を挙げられた魔導貴族令嬢の中では、一番お若いはず。家柄もバルガ公爵家と爵位も高く、お妃候補の一番手に挙げられます」

「その通りだね。勿論、表立って襲撃をかけるなどはないだろう。それでも私は、念には念を入れておきたいのだよ」

「畏まりました。しかし、それですと私が一ヶ月間だけ護衛しても、その後に何かあっては無意味になるのでは?」

「はっはっ、その心配は要らないよ。一月あれば私が全ての魔導貴族と話を付けよう、それで決まりだ」


 これはすごい自信だな、一月で政治的に他の魔導貴族を引かせると言う事か。


 その後、俺とマルタさんは執務室から移動し、スティード団長と共に別室で細かい日程や、報酬について確認をした。護衛任務にはすぐ着くことになり、明日の朝一に再登城して護衛任務の開始となる。





 マリーダ商会へと戻る馬車の中、俺とマルタさんは向かい合って先ほどまでの会談を振り返っていた。


「シャフト様、お受けしてよかったのですか? 黒面を外された時は驚きましたが、あのお顔は一体……」

「ふふ、あの顔を見れば、俺がシュバルツだとは連想できないでしょう。それに護衛中に使用する武器も、普段とはまったく違うものにしようかと考えています」

「そうでございますか、シャフト様がお受けすると判断されたのなら、私も出来る限りのご協力を致します」

「助かります。一ヶ月の間、無属性魔石を買う時間が無いかもしれません。商会にある魔石、買い占めますよ」

「御代を頂かなくても、ご提供させていただきますよ」

「いや、ちゃんと払いますよ。お互いに儲けているのだから、お陰で俺の資金にもかなりの余裕がありますから」

「それこそ私共が儲けさせていただいております」


 そんな頭の下げ合いをしながらの帰宅となった。





 マリーダ商会、バルガ支店の従業員宿舎の空き部屋を、シャフト用の個室として借り受け、明日からの護衛任務に向けての装備のチェックをおこなっていた。
 もしもラピティリカ様に、シュバルツと同じ通常の銃器による中・遠距離射撃を見られれば、シャフトとシュバルツの間に、何かの関係性を感じるかもしれない。それを避けるために幾つかの装備を選択した。


 TSSタクティカルサポートシステムによって召喚された黒い補給BOXから、大量の武器を取り出していく。

 まず一つ目は、『スミス&ウェッソン E&E トマホーク』だ。これはアメリカのS&W社が販売している投擲可能な近接武器の手斧で、全長は40cmほど、斧刃は斧頭の突起を含め20cmほどになる。
 これを4つ取り出し、次に取り出したのは今回のメイン兵装になるであろうイギリスで開発された消音銃、ウェルロッドver.VMBだ。

 このウェルロッドはWWII(第二次大戦)で特殊作戦用に開発された消音銃で、見た目は近接武器のトンファーと酷似している。使われる弾丸は9×19mmパラベラム弾だ。
 この銃は実際に開発されたモデルを元に、VMB用にオリジナル武器として発展させたもので、装弾数が5発から8発、1発ごとに手動で装填をおこなうボルトアクションから、自動で装填をおこなうセミートオートマチックに改良されている。
 また、その形状を利用して、近接武器のトンファーとしても使用できるという設定になっている。


 今回の依頼では、このウェルロッドver.VMBとS&Wトマホーク、そして特殊電磁警棒を基本装備とし、護衛を開始後は予備としてFMG9を隠し持つ予定だ。
 近接武器中心の構成にしたのは、護衛場所となる邸宅や夜会会場で銃器を発砲するのを避けるためと、シュバルツとは明らかに違う戦闘方法、近接戦での警護によりラピティリカ様の目を誤魔化すつもりでいる。

 しかし、これには一つ問題があった。それは、俺の近接戦闘能力である。だが、これには嬉しい発見があった、年明けからの牙狼の迷宮での探索で、魔水の貯水をおこなう時間を利用し、迷宮内のマッピングを進めていたのだが、この時に近接戦闘能力のチェックをおこなっていた。

 その際の目的は、パワードスーツによって強化された腕力や脚力で、魔獣・亜人種に力任せの攻撃を加えるとどうなるのか? それを確認するためのテストだったのだが、特殊電磁警棒を使用し、VMBをプレイしている時の近接攻撃アクションを思い浮かべると、俺の意思とは別に体が動こうとする力を感じた。

 その力に身を任せると、VMBをプレイしていた時同様の、警棒使用時のCQC(Close Quarters Combat)ムーブが発動した。


 対峙していたスケルトンファイターの右手より繰り出された刺突を、外から内へと弾き飛ばし、返すように左ひざに一撃を加えて崩す、そのままスケルトンファイターの右へと抜けながら首を警棒で絡めとり、体を回転させながらスケルトンファイターを引き倒した。

 VMBならば、この段階で相手プレイヤーの首の骨を折りキル判定が出るのだが、今の相手は魔石を体から分離させないと斃せないので、警棒で魔石を叩き飛ばして斃すことにした。


 前の世界で暮らしていた俺は、当然の事ながら近接格闘技術など、一切身に付けてはいない。しかし、それはVMBのプレイヤーの大半が同じであり、VRFPSという仮想現実の世界で戦闘をするには、近接格闘に関してはゲームシステムによる、サポートとアシストを必要としていた。
 それがこの世界でも適応されている。それが判ってからは、ひたすらに近接格闘をおこなって戦闘をしてきた。ナイフ、トマホーク、警棒、トンファー、スパナ、バット、鉄パイプ等々、インベントリに収納しているありとあらゆる近接武器を取り出し、VMBのゲーム内で使用してきたCQCムーブの数々を、思い出すように繰り返してきた。

 まだまだ練習量が足りていないが、それは今後の課題とし、今後は近接格闘(CQC)/近接戦闘(CQB)を織り交ぜながら、探索をおこなっていくつもりだ。





◆◆◇◆◆◇◆◆



 そして翌朝、俺はバルデージュ城へと向かうマリーダ商会の馬車の中にいた。


「マルタさん、これ持てますか?」

「はぁ、なんでしょう?」


 俺は最終確認として、装備している近接武器のS&Wトマホークと特殊電磁警棒をマルタさんに手渡した。


「持てますが、これが何か?」


 次にウェルロッドVer.VMBを渡してみる。


「これもですか? はぁ――!?」



 近接武器であるS&Wトマホークと特殊電磁警棒は、光の粒子となることはなく、マルタさんに手渡すことが出来た。しかし、銃器であるウェルロッドは光の粒子となっててから消えていった。


「ありがとうございます、助かりました」

「はぁ、シャフト様が結構ならば私は構いませんが」


 ラピティリカ様の護衛に着く前に、これを確認しておきたかった。銃器は他人に譲渡できないが、アバターアイテムの服は可能だった。では、銃器ではない近接武器はどうなるか? その答えがこれだ、銃器ではない武器は譲渡できる。
 これを何故確認しておく必要があるか?


「到着したようです、それではシャフト様、いってらっしゃいませ」

「あぁ、行ってくるよ、マルタ」


 マリーダ商会の馬車を降り、城門前に立つ衛兵に用向きを伝え、衛兵の案内に従い城内へと向かった。


「城内は武器の持ち込みは禁止です。武器の類と道具袋をこちらへ」


 昨日、マルタさんと一緒に登城したときにも武器の持込のチェックはおこなわれた。しかし、事前にマルタさんに聞いていたので、武器の一切を持たずに登城をした。だが、今日は違う、これから護衛に着くと言うのに装備無しとはいかないだろう。

 衛兵に促されるままに、出された台に電磁特殊警棒を置き、S&Wトマホークを4本置く。俺が出したS&Wトマホークを見た瞬間、衛兵の眉が寄る。「あれが黒面の武器か?」と周囲に立つ衛兵の小さな声が聞こえた。武器を置いたところで、衛兵によるボディチェックがおこなわれる。

 チェックが終了し、これでラピティリカ様が待つところへと向かう事になる。



「失礼します。ラピティリカ様、シャフトをお連れしました」

「どうぞ、お入りになってください」


 連れられた先はプライベートな部屋とは思えない、サロン――応接室かな?

 衛兵が扉を開け中に進むよう促す、彼は入らないようだ。


 応接室の中はクリーム色に統一され、城外からの光を十分にとり入れるためか、大きな窓が設えてあった。その光を受けるように二人の女性がテーブルを挟んで座っている。


 一人は短く切りそろえられた金髪、薄い青のドレスを着た10代の少女、親譲りの柔らかい物腰は、向かい合う女性との歓談で生まれる微笑に表われ、その笑う唇は小さな桜の花びらのように桃色をしている、ラピティリカ様。

 そして、向かい合う椅子に座るのは……




 アシュリー……


第74話は4/25日0:00に投稿します。
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