村上さん、こんにちは。
僕は早稲田大学第一文学部を1978年に卒業した後輩です。
文学部出身なのにここ30数年来村上春樹だけしか読んでない奇人です(笑)。さて、質問です。
村上さんがエッセイとメール本のなかで2度こんなことを書いています。
「恋はそれがどんな形で終わろうとも恋はしたほうがいい。なぜなら後から思い出したときポッと心を暖めてくれるから」
うーん、何度反芻してもいい言葉ですねえ。僕のお気に入りなんです。そこで、娘の二十歳の誕生日に新宿のとあるバーに連れていきお祝いをしたときにその言葉をプレゼントしたわけなんです。
そしたらですね、一人悦に入っているオヤジに向ってこう申したのです。
「うん、私も恋はしてるわよ。だけどねえ、新しい恋が始まると前の恋に上書き保存しちゃうから思い出さないんだよねえ」なんか釈然としないオヤジは、この話を職場の何人かの若い女性に話してみたところ、
「私も前の恋は思い出さないなあ」とか「私も上書き保存しちゃうなあ」とか。男の同僚は、恋のファイルはみんな取ってあるから、それぞれ懐かしいですよねえって。
村上さん、どう思いますか?
男と女は違うんですかねえ? もちろん個人差はあるでしょうけど。
(GGG、男性、61歳、サラリーマン)
そうですか。男性と女性とでそんなに違いがあるんだ。知りませんでした。とても興味深いです。
でもばりばりの恋愛現役の年代と、既にそのへんをいちおう通り過ぎてしまった年代とでは、恋愛に対するものの見方は少し違ってくるのではないでしょうか。たとえ上書きをして、前のを消しちゃったとしても、記憶というのはそんなにすっかりは消えないものです。ある程度時間がたてば、消したはずのものがちゃんと消えていなかったことがわかるとか、そういうこともあるはずですよ。人生ってなかなかわからないものです。奥は深いです。と僕は思いますが。
村上春樹拝