小泉政権幹部が三菱の秘密接待施設に
JR品川駅の南西、お屋敷街として名高い
高輪の国道に沿って長い石垣が続く.石垣の
大都会に突如出現した森のようだ。そして、
森のむこうに時折見えるのは、文明開化の時
代を彷彿とさせる、瀟洒な洋館−。
2003年10月のある日、この広大な敷地と瀟洒な
洋館を有する施設に数台の黒塗りの
車が入っていった。車から降り立ったのは、
この国の最高権力者である小泉純一郎首相の
秘書官・飯島勲と、自衛隊の統括責任者であ
る防衛庁長官・石破茂。さらには、2カ月前
に防衛事務次官を退官したばかりの伊藤康
成、防衛参事官の河尻融といった防衛庁背広
組幹部、また、制服組のトップである統合幕僚
会議議長・石川亨の姿もあった。
折しも10月といえば、小泉政権が自衛隊の
イラク年内派兵に向けて、本格的に動きはじ
めた時期。そんな時期に、小泉政権と防衛庁
の最高幹部たちが、まるで身を隠すように防
衛庁から離れた高輪に集合していたのであ
る。いったいこれはどういうことなのか。
実をいうと、彼らが集まったこの施設は
「三菱開東閣Lという。その名のとおり、三
菱財閥2代目の岩崎弥之助が明治41年に自宅
として建てた建物であり、現在は一般に公開
されないまま、三菱グループの迎賓館として
使用されているものだ。
となれば、勘のいい読者はもうおわかりだ
ろう。そう。この「三菱開東閣」で小泉政権
と防衛庁の幹部たちを迎えたのは他でもな
い、三菱グループ関係者だったのである。そ
れもただの社員ではない。この日、三菱グル
ープからは小泉政権・防衛庁側のメンバーに
負けず劣らずの重鎮が顔を揃えていたのだ。
″グループの首領″ ともいわれる三菱商事会
長・槙原稔を筆頭に、相原宏徳・米国三菱商
事社長などの三菱商事幹部、さらには三菱重
工、三菱電機の幹部たち……。
そして彼らは飯島秘書や石破長官らととも
に点在する建物の中でもひときわ蒙華な洋館
の一室に入り、数時間後、何事もなかったか
のように引きあげていったという。
「この開東閣は三菱グループの大事な商談相
手との接待場所として知られている場所で
す。この洋館の中には個室のレストラン施設
があり、フレンチのフルコースを楽しめるん
ですが、ひとりひとりに給仕がつくというそ
れは豪華なものです。また、別棟には宿泊施
設もあり、賓客に特別なサービスを用意する
こともできる。まさに″最高級の接待場所″
なんです。その出席者の面子が事実なら、三
菱グループが総出で政府幹部を接待したとい
うことでしょうね」(三菱グループ閑係者)
しかも、驚くべきことにこの会合は1度き
りのものではなかった。その翌週、そして11
月の第2遇にも同様の会合が持たれ、この時
は、自民党防衛族の首領である額賀福志郎代
議士や、防衛庁出身で自民党防衛族でもある
月原茂時代議士も出席。三菱側からは前出の
相原米国三菱商事社長らに加えて、三菱重工
会長である西岡喬も加わっていたという。
ある政府関係者がこう解説する.
「3回の会合にはすべて小泉首相の秘書官・
飯島さんが出席しているようですから、おそ
らく政府側でこの会合を仕切っていたのは飯
島さんでしょう。防衛政策に関するなんらか
の切迫した目的があって、飯島さんと三菱の
軍需部門が組んで防衛庁幹部や自民党防衛族
を引き込み、根回しのための会合をもったと
いうことではないでしょうか」
周知のように、三菱グループといえば、戦
前から兵器製作会社として太平洋戦争に大き
な役割を果た、現在でも防衛庁との取引受
注額が日本企業の中でダントツという、わが
国の軍需産業の根幹となっている企業グルー
プ。それも1社ではなく、国産超音速支援戦
闘機や88式地対艦ミサイル、イージス艦など
を製作している三菱重工、海外の兵器輸入の
代理業務を行なう三菱商事、偵察衛星をはじ
めハイテク軍事技術を開発している三菱電機
と、グループ全体が日本の軍事政策に密接な
関係を持ち、防衛庁からの天下りも多数採用
している。
しかし、である。だとすれば、小泉政権や
防衛庁幹部と日本最大の軍需企業グループが
この時期に極秘会合をもった日約とは一体な
んだったのか。
●イラク復興利権を狙う三菱グループ
まず考えられるのはやはり、自衛隊のイラ
ク派兵との関係だろう。
前述したように、会合のあった10〜11月は
防衛庁が自衛隊の年内派兵に向けて、武器の
選定や砂漠仕様への改造といった具体的な準
備を開始した時期であり、軍需産業である三
菱グループとしては当然、その売り込みをは
かる必要があったはずだからだ。
「携行する武器そのものには、三菱製はあり
ませんでしたが、通信機器などの備品を三菱
は多く納入していますからね。それにイラク
派兵をめぐっては、航空機や艦艇、艦船、車
両などの維持メンテナンスのため三菱をはじ
め日本の軍需産業の技術者をイラクやクウェ
ートなどに派遣する計画もあります。予算委
員会では、三菱に次ぐ防衛庁との契約高の高
い川崎重工に対し、技術者派遣の準備要請を
した内部文書が問題になりましたが、もちろ
ん川崎重工だけではなく、契約高トップの三
菱にも打診があったと聞いています」(軍事
ジャーナリスト)
しかし、である。たかが700人程度の自
衛隊派兵にからむ武器の売り込みやメンテナ
ンス問題のためだけに、三菱グループの重
鎮、防衛庁幹部や自民党防衛族、さらには首
相秘書官までがズラリと顔を揃えて、秘密会
合を開くなどということがあるだろうか。
防衛庁関係者もこんな証言をする。
「武器やそのメンテナンス程度の売り込みな
ら、担当者レベルで十分。おそらく今回の会
合の目的は同じイラク関連でも、もっと別の
ところにあるはずです。というのも、イラク
には、三菱にとって、武器の提供などとは比
べものにならない、もっと莫大な利益を生む
利権がありますから」
その莫大な利益を生む利催とはズバリ、イ
ラクの復興事業に関するものだ。
現在、未だ治安の安定していないイラクだ
が、6月の政権委譲を見据え復興ビジネスを
巡る動きは着々と進んでいる。特にそのほと
んどを手中におさめると見られる米国は顕著
で、例えばチェイニー副大統領がCEOを務
めた石油関連大手のハリバートンは早々にイ
ラクの油田復興事業を独占受注、またプレマ
ー米文民行政官が以前重役をつとめ、シュル
ツ元国防長官が顧問でもある開発会社・ベク
テルはイラクの電気、道路などのインフラ事
業を受注している。さらに現プッシュ大統領
の父親(元大統領)が顧問であり、またラム
ズフェルド国防長官とも関係が近いといわれ
る投資会社・カーラィルは、これらのイラク
利権分配の機能を果たしている。米国事情に
詳しいジャーナリストが語る.
「そもそも米国によるイラク攻撃の理由が、
プッシュの狙う石油利権にあったことはいま
や定説ですが、それを裏づけるように、ブッ 墟
シユ政権に関係する企業が次々と復興利権を l
手中におさめ始めており、米国内でも批判が
おきている」
だが、その利権にありつこうとしているの
は何も米国企業だけではない。1千億ドルと
もいわれる復興ビジネスだが、派兵や経済援
助で米国に協力した61カ国はその入札に参加
できることになっており、日本企業もイラク
戦争終始宣言直後からクウェートの駐在社員
の増員を開始するなど、利権獲得を虎視眈々
と狙っているのだ。
そして、こうした日本企業の中でももっと
も利権参入に執念を燃やしているといわれて
いるのが、三菱商事を中心とした三菱グルー
プなのである。三菱商事のある社員が語る.
「70年代から80年代前半は商社はもちろん大
手ゼネコンなどが次々とイラクに進出するな
ど、まさにイラクブームだった。その中でも
三菱商事は74年からイラク産原油の輸入を手
掛けるなどビジネスでの関係が最も深かった
日本企業です。だが、その後の湾岸戦争で、
撤退を余儀なくされ、そのためイラクに対す
る未回収の債権が4千億ドルを超えるといわ
れている。特に三菱商事、重工、電機という
三菱グループの手掛けた化学肥料プラントや
火力発電所での債権は、1500億ドルほど
と膨大な額になっているのです。そんなとこ
ろから、三菱グループ内には『イラク利権参
入は当然の権利』という思いがある。また、
現実問題として、自らが関与したプラント施
設などの図面も持っていることから、復旧工
事受注のための条件も整っているとの意識も
強いですからね」
●自衛隊に日本の商社を守らせる計画が?
実際、イラク戦争終結宣言直後から三菱グ
ループの動きはきわめて活発になっている。
まず昨年には、三菱商事が日本企業として最
初に、イラク産原油を日本に輪入する長期購
入契約を結び、今年にはいってからは、三菱
自動車がイラクでの販売を決定、東京三菱銀
行もイラク貿易鈍行を委託された銀行連合に
参加する、という具合に・・・。
そして、その三菱が今、イラクでもっとも
虎視耽々と狙っているのはやはり、エネルギ
ー、石油プラント関係の利権だという。中東
を専門とするある商社の関係者が語る。
「すでに三菱商事が中心となり、伊藤忠やプ
ラント会社など9社共同で、イラクのエネル
ギー関連施設建設を受注しようと企業連合を
結成、また南部の石油プラント復旧整備事業
に関する調査を三菱商事、重工主導で受注し
ていますからね。おそらく三菱さんの最大の
狙いはここでしょう」
また、三菱はそのために、復興利権にも影
響力を持つ、米国のアーミテージ国務副長官
にまで接近しているという。今度はある政界
に詳しいジャーナリストが語る。
「アーミテージが来日する際、しばしば三菱
グループの幹部が夜の接待をしているんで
す。先ごろ、アーミテージは復興支援につい
て話し合うために来日しましたが、この時も
三菱関係者と会っていたようです」
つまり、今回の「開東閣」での会合も、三
菱費グループによるこうしたイラク利権参入工
作の延長線上にあるのではないだろうか。米
国だけでなく日本政府に対しても工作を本格
化しようという動きの表れ……。
実際、この会合がもたれたのは、小泉政権
が来日したプッシュ大統領に対し、”お土
産”として15億ドルものイラクに対する無償
ODAを決定、日本の復興関連企業がこぞっ
て「イラク復興の日本企業受注の可能性が高
くなる」と色めき立っていた時期でもある。
これは決して偶然の一致ではないだろう。
しかも、この会合ではもっととんでもない
計画が話し合われたとの見方も囁かれてい
る。前述したように、この会合の政府側出席
者は首相秘書官の飯島以外、すべて防衛関係
者で占められていたのだが、これは他でもな
いイラクに派遣された自衛隊が三菱のイラク
利権参入に協力する体制をとるための話し合
いだったのではないかといわれているのだ。
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