7月からスタート 「出国税」って何だ?
“出国税”なるものをご存じだろうか。平たく言えば、外国に居住地を移す場合に課される税金のことだ。アメリカやヨーロッパではすでに導入されているのだが、2015年度の税制改正で、“国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の創設”という形で、この7月から日本でも導入される。
「国内に居住していた人が海外に移住する場合、株式やその他の有価証券、未決済のデリバティブ取引といった金融資産に対し、転出時に譲渡・決済したものとみなして含み益に課税する、というもの」(経済部記者)
例えば、時価2億円の株式を保有している人が海外に移住する場合、実際には売却していなくても、20%のキャピタルゲイン課税を納めなければならない、ということになる。
「租税条約上、日本人が海外に移住して日本の株式を売却しても、キャピタルゲインに関する課税権は原則として日本にはなく、居住先の国にあります。これを利用して、巨額の含み益を有する株式を保有したまま出国し、キャピタルゲイン非課税国で売却するといった課税逃れが可能となっています。今回創設する“特例”は、こうした不具合を解消するためです」(財務省)
キャピタルゲインが非課税の香港やシンガポールに移住することでの、富裕層の“資産フライト”を阻止しよう、というわけなのだ。対象は、国外転出日前の10年以内に、国内に住所や居所を有していた期間が5年超で、時価1億円以上の金融資産を持っていること。
だが資産額が大きい分、納税額も大きくなり、現金で用意するのは難しい。
「納税資金が不十分であることを勘案し、最長で10年の納税猶予を選択することができます」(同)
また、転出後5年を経過する日までに帰国し、その間、資産を所有し続けていた場合は、この課税を取り消すこともできる。
■複雑な仕組み
「この“出国税”、富裕層の“資産フライト”を抑止するための威嚇効果はある程度ありますが、一方で、海外でビジネス展開しようとする人たちを萎縮させることにもなるでしょう」
と言うのは、ジャーナリストの山田順氏。
「株などだけで1億円以上の資産というと、相当大きいように思えますが、ベンチャー企業や、地方の中小企業経営者などは案外、このくらいの資産を持っていたりします。彼らがその資産を使って海外で事業を興そうというのに、“みなし課税”で税金を取ったら、彼らを国内にとどめてしまうという弊害をもたらすことになる」
問題は他にもある。税理士の松嶋洋氏が説明する。
「そもそも国が違えば、税金の仕組みは違います。今回の“出国税”は、出国段階で含み益に課税できればいいというだけで、その後のことについては出国後の居住国でやってくれ、ということでしかありません」
移住先によっては、現地で資産を売却すると、キャピタルゲイン課税が発生することもある。二重課税になるわけだが、これが居住国で調整されない場合、
〈納税猶予の適用を受けている者については外国所得税を納付することとなった日から4カ月を経過する日までに、更正の請求をすることで、転出した年にさかのぼって外国税額控除の適用を受けることができる〉
といった仕組みもあるが、
「この制度には複雑なところがあります」(松嶋氏)
だがいくら複雑とはいえ、スタートしてしまえば税金は払わねばならない。
「それでも転出したい人は出ていきますよ。資産を全部ドルに替えたり、居住どころか日本国籍そのものを捨てる人だっているし、子供に外国籍を取らせることで、将来の相続に備える人もいますから」(山田氏)
したたかな税金には、したたかな防衛策を?
「国内に居住していた人が海外に移住する場合、株式やその他の有価証券、未決済のデリバティブ取引といった金融資産に対し、転出時に譲渡・決済したものとみなして含み益に課税する、というもの」(経済部記者)
例えば、時価2億円の株式を保有している人が海外に移住する場合、実際には売却していなくても、20%のキャピタルゲイン課税を納めなければならない、ということになる。
「租税条約上、日本人が海外に移住して日本の株式を売却しても、キャピタルゲインに関する課税権は原則として日本にはなく、居住先の国にあります。これを利用して、巨額の含み益を有する株式を保有したまま出国し、キャピタルゲイン非課税国で売却するといった課税逃れが可能となっています。今回創設する“特例”は、こうした不具合を解消するためです」(財務省)
キャピタルゲインが非課税の香港やシンガポールに移住することでの、富裕層の“資産フライト”を阻止しよう、というわけなのだ。対象は、国外転出日前の10年以内に、国内に住所や居所を有していた期間が5年超で、時価1億円以上の金融資産を持っていること。
だが資産額が大きい分、納税額も大きくなり、現金で用意するのは難しい。
「納税資金が不十分であることを勘案し、最長で10年の納税猶予を選択することができます」(同)
また、転出後5年を経過する日までに帰国し、その間、資産を所有し続けていた場合は、この課税を取り消すこともできる。
■複雑な仕組み
「この“出国税”、富裕層の“資産フライト”を抑止するための威嚇効果はある程度ありますが、一方で、海外でビジネス展開しようとする人たちを萎縮させることにもなるでしょう」
と言うのは、ジャーナリストの山田順氏。
「株などだけで1億円以上の資産というと、相当大きいように思えますが、ベンチャー企業や、地方の中小企業経営者などは案外、このくらいの資産を持っていたりします。彼らがその資産を使って海外で事業を興そうというのに、“みなし課税”で税金を取ったら、彼らを国内にとどめてしまうという弊害をもたらすことになる」
問題は他にもある。税理士の松嶋洋氏が説明する。
「そもそも国が違えば、税金の仕組みは違います。今回の“出国税”は、出国段階で含み益に課税できればいいというだけで、その後のことについては出国後の居住国でやってくれ、ということでしかありません」
移住先によっては、現地で資産を売却すると、キャピタルゲイン課税が発生することもある。二重課税になるわけだが、これが居住国で調整されない場合、
〈納税猶予の適用を受けている者については外国所得税を納付することとなった日から4カ月を経過する日までに、更正の請求をすることで、転出した年にさかのぼって外国税額控除の適用を受けることができる〉
といった仕組みもあるが、
「この制度には複雑なところがあります」(松嶋氏)
だがいくら複雑とはいえ、スタートしてしまえば税金は払わねばならない。
「それでも転出したい人は出ていきますよ。資産を全部ドルに替えたり、居住どころか日本国籍そのものを捨てる人だっているし、子供に外国籍を取らせることで、将来の相続に備える人もいますから」(山田氏)
したたかな税金には、したたかな防衛策を?