「やらせ」をめぐり週刊文春(文芸春秋発行)とNHKの大手メディアが真っ向対立の様相を呈している。18日発売の同誌が、同局の看板番組「クローズアップ現代」の出演者の一人が「架空の人物を演じた」と証言したと報道。NHKは調査中と前置きした上で、同日の段階では、やらせはないとの認識を示した。文春記事が事実なら、ハイヤー代金支払い問題で窮地に立たされている籾井勝人会長(72)の言動にまつわる一連の問題と併せて、局を揺るがす事態を迎えるが…。
文春の報道についてNHKの森永公紀理事は同日の記者会見で「今の時点でやらせがあったとは考えていない」との見解を示した。
やらせとの指摘があったのは、昨年5月14日に同番組で放送された「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」。出家すると法名へ改名できることを悪用し、借金を重ねた末に戸籍上の別人と化して多重債務を逃れるのが出家詐欺。文春は、番組内で詐欺に関わるブローカーとして匿名で紹介された人物が、NHKの記者に頼まれ「架空の人物を演じた」と証言する内容などを掲載した。
NHKでは記事の内容を精査しているといい、森永理事は「取材の過程は明らかにできないが、これまで聞いたところ問題ないと思っている」と述べた。文春では、NHKの担当記者がブローカーとして登場した人物に口止め料を払う意思があることを、ブローカーと番組に出演した多重債務者との電話で会話されたとも報じている。
NHK広報局は「今回の番組は、十分取材を尽くして制作したものであり、やらせがあったとは考えていません。記者がブローカーを演じるように依頼した事実はなく、また、記者が口止め料を払うといった事実もありません」と全面否定。文春とNHKが真っ向対立する構図となった。
文春側は、この“やらせ”が行われた昨年3月が、世間を騒がせた佐村河内守氏(51)のゴーストライター問題が「NHKスペシャル」などで報じられ、NHK内でもより正確な報道がなされるべきと再確認されていた時期だったことも問題視している。
番組ホームページによると「クローズアップ現代」はスタートして22年目を迎え、放送回数は3500回を超える。「戦後の日本社会の大きな転換点と向き合い、格闘してきた」という老舗の企画報道番組だ。通称「クロ現」と視聴者にも親しまれ、看板番組として続いている。
その番組でやらせがあったとなれば、局を揺るがす大問題になりかねない。報道が事実なら、記者の個人的な不祥事だったとしても、局に構造的な要因があったのかも問われよう。政界では、籾井会長問題でNHKへの攻勢を強めている野党にとって絶好の“燃料”。会長辞任要求が突きつけられても不思議ではない。
追及されるNHK側もその場しのぎで否定したわけではない。現時点という前提つきながら“やらせはない”としたのには理由がある。
「文春がNHKに取材をかけた以降に、この担当記者から“事情聴取”を行ったところ、文春に情報提供したブローカーを演じたという男性の素性や、取材時の不審な点が出てきた。NHKとしては文春が偽情報をつかまされたと判断しているようです」(事情通)
大手メディア間で勃発した格好の“バトル”の行方はいかに――。
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