社説:ドローン事件 速やかにルール作りを

毎日新聞 2015年04月24日 02時31分

 警備の隙(すき)を突いた前代未聞の事件といえるだろう。

 首相官邸の屋上から小型無人機「ドローン」が見つかり、取り付けられた容器からは、微量の放射性セシウムが検出された。何者かが意図的に飛来させた可能性が強い。

 フランスのエリゼ宮付近で不審なドローンが見つかり、米国でも1月、ホワイトハウス敷地内にドローンが墜落する事故が起きた。国内でも落下による負傷事故が起きている。

 ドローンは農業や防災などさまざまな分野で利用され、便利さもあって急速に普及している。一方、空港周辺以外ならば、高度250メートルまでの飛行に規制はない。

 適切な利用を進めるためにも、政府はドローン飛行のルール作りを早急に進めねばならない。

 ドローンが見つかった官邸の屋上は、3月22日以来使用されていなかった。警視庁は同日以降、官邸近くで操縦が行われたとみている。

 直ちに人体に影響がないレベルとはいえ、放射線が検出されたことは見過ごせない。まずは捜査を尽くしてもらいたい。

 官邸上空への備えはどうだったのか。警備体制についても併せて検証し、今後に生かすべきだ。

 機体を遠隔操縦できるドローンは、世界的に流行している。国内の家電量販店にも愛好家向けの手ごろな価格の商品が多数並んでいる。

 だが、落下事故や航空機とのニアミスなどが世界中で起きている。英国や米国では、操縦者の目の届く範囲にドローンの飛行を制限するなど規制の網がかけられ始めた。

 政府は今回の事件を受け、官邸など重要施設上空については、ドローンの飛行を原則禁止することなど、法規制を検討する方針だ。

 また、操縦者の免許制度や機体の登録制度を導入すべきだといった考え方も出ている。テロ防止の観点から、国民の安全を守るための最低限の法規制はやむを得ないだろう。

 ただし、ドローンは公共的な用途での利用の広がりが見込まれる。商業目的でも、市民生活にとって有益な利用は少なくないだろう。

 一律に法律で縛るのではなく、利用形態に応じて飛行のルールを定め、それを尊重させるといった柔軟な制度を検討してほしい。山間部か人口密集地かで飛行による危険度は異なる。そうしたことも念頭に弾力的にルール作りをしたい。

 国土交通省の検討会が、ドローンの規制について議論を始めていたが、経済産業省や警察庁などを含めた関係省庁連絡会議を新たに設置して今後検討を進めるという。多角的な視点で、利用と規制のバランスを図ってもらいたい。

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