ここ数年、飛行機開発の分野で日本メーカーの新たな躍進が始まっています。その一つ、大手自動車メーカーである本田技研工業が作り出した『HondaJet』は世界を驚かせました。この世界に誇る飛行機について取材しました。
■HONDAは「自由な移動の喜び」を追求する!
――HONDAさんといえば、自動車、オートバイを作っている会社だと思っている人が多いと思います。なぜ飛行機を開発しようと思われたのでしょうか?
Hondaは、皆さまへ「自由な移動の喜び」を提供することに挑み続けています。クルマやバイクそして船外機など、陸や海を舞台にさまざまなパーソナルモビリティを創造する中で空を自由に移動できるパーソナルモビリティの提供は、創業当初からの夢でした。
――それは創業者の本田宗一郎さんの意思でもあったのでしょうか?
創業者の本田宗一郎は10歳のとき、浜松で開催された航空ショーを自転車をこいで天竜から見に行き、大興奮で帰ったそうです。その後、自動車に熱中しながらも、飛行機の夢は忘れませんでした。
Hondaは、創業から30年以上を経た1986年、航空機の研究に着手しました。「人」を中心とするHonda流の発想により、自ら技術を磨き上げ、今までにない価値の創造を目指しました。
■全くのゼロから17年間かかって!
――何人ぐらいの人が、どのくらいの期間、開発に当たりましたか?
1986年に、若手技術者数名でゼロから航空機の開発をスタートさせました。以降、1997年に、小型ビジネスジェット「HondaJet」のプロジェクトを開始し、6年という開発過程を経て、2003年12月に初飛行を成功させました。
――まったくのゼロからというのはすごいですね。発表の際は大きな反響があったとのことですが……。
2005年、アメリカでのエアショーでHondaJetが現れると、1,000人を超える飛行機ファンが一瞬にして取り囲むという衝撃的なデビューをしました。
――飛行機を事業化するというのは最初から決まっていたのですか?
最初から決まっていたわけではありません。まずは、性能や商品としてのポテンシャルの高さを実証し、2006年に事業化を決め、受注を開始しました。
■世界を驚かせたエンジンの「配置デザイン」
――HondaJetの開発に当たって困難だった点はどんなことでしょうか?
機体を小型化しながら、逆にキャビンサイズは大きくするという相反する技術課題をいかに解決するか、という点です。
――その回答が、主翼の上にエンジンを置くという配置なのでしょうか? このデザインは多くの航空産業関係者を驚かせたと聞きますが……。
そうですね。2012年9月18日には、主翼上面エンジン配置形態を有するHondaJetの概念を発案し、理論と実験によって実証したことが評価され、米国航空宇宙学会(AIAA: American Institute of Aeronautics and Astronautics)からHondaJetの設計者でHonda Aircraft Companyの社長&CEOの藤野道格が航空機設計賞(2012 Aircraft Design Award)を受賞しました。
過去にはBoeing 747を設計したJoseph F Sutter氏や無着陸世界一周記録を打ち立てたVoygerを設計したElbert L. Rutan氏などが受賞しておられますが、日本人の受賞は1968年の賞設立以来、初めてのことです。
――その核心的なデザインの効果はどうだったのでしょうか?
主翼の上にエンジンを搭載したデザインで、従来のエンジン取り付け位置の場合よりも、かえって空力的に有利になるという、驚異的な空力性能を実現するスイートスポットを発見したことで、空気抵抗が軽減され、従来のビジネスジェット機に比べ、燃費性能が約15%、速度が約10%、客室スペースが約15~20%向上しました。
*……従来の普通の機体は胴体後方にエンジンを付けています。しかし、これではエンジンの支持構造が胴体後方内部に設けられているため、内部スペースを利用できません。また、主翼の上にエンジンを付けようとすると空気抵抗が増すというのが常識でした。しかし、革新的な翼成形技術の採用、加えて膨大なシミュレーションの結果、HondaJetはその常識を覆すことに成功したのです。
――HondaJetの魅力はどんな点でしょうか?
HondaJetの商品魅力は、その燃費や速度などの性能だけではありません。操作性能や静粛性などにも優れ、ライトビジネスジェット機の中で競争力が高く、グッドデザイン金賞を受賞するなど、デザインの美しさも高い評価を頂いています。これらすべての分野の開発に、自動車メーカーならではのユーザー視点が生かされています。
■HondaJetは約4.2億円
――1機いくらで買えるのでしょうか?
450万USドルです(約4億1,850万円:$1=約93円)。
――どのくらいの受注がありますか?
米国、メキシコ、カナダ、欧州で受注を開始しています。2006年の受注開始以降、100機を大きく超えるオーダーを頂いております。
――100機で約420億円の売り上げですね。具体的に何機売れているのでしょうか?
競争上の理由から具体的な受注数は公表しておりません。
――HONDAではこれからも飛行機の開発を続けるのでしょうか?
はい。現在は、お客さまにHondaJetをお届けするために必要な型式認定を米国、および欧州の航空当局から取得すべく、飛行試験などの各種試験を着実に進めています。
また、Hondaは、優れた商品価値を備えたHondaJetをお届けするだけでなく、その使用期間にわたって高品質のサービスを提供し続けることでお客さまのご期待に応えていきたいと考えており、そのために最先端の設備やシステムを取り入れた生産体制とサービス体制を構築しています。
HondaJetが世界で評価されているのは、日本人にとって誇らしいですね。
(高橋モータース@dcp)
⇒HONDAのHondaJetのページ
http://www.honda.co.jp/jet/