Twitterで「ドゥラメンテのラスト1Fが10.1という記事があるそうですよ」と教えていただき、どのようなおもしろい記事に仕上がっているのか調べてみると、どうもマジネタっぽい内容だったので、ドゥラメンテのラスト1Fは実際どの程度のラップだったかを検証してみたいと思います。似たようなことは以前にも書いていますし少々マニアックな内容となりますが、関心ある方はご覧いただければ幸いです。
まずはレース映像にタイムコードを挿入するタイミングを考えてみましょう。下記画像はドゥラメンテがゴール板を通過する際のハイスピードカメラによる映像のスクリーンショットです。ドゥラメンテの脚の様子、例えば前脚の右左の曲げ具合、伸び具合を注視してみてください。


では、レース映像のスクリーンショットを2コマ分見てもらいましょう。


タイムコードが【1:58.18】と【1:58.21】の中間にゴール板を通過しているのが何となくイメージできるかと思います。ということで、ドゥラメンテが1:58.2でゴール板を通過したタイミングに合わせてレース映像にタイムコードを挿入してみました。
要はドゥラメンテが残り1F標をどのタイミングで通過したのかを調べるわけですが、そのためにはこのレース映像にバーチャルラインを引いてみるのが判別しやすいことになります。とは言っても、そのバーチャルラインをどのような角度で引くのか、そこが一番のポイントになります。では、そのバーチャルラインの角度をどのように決めるのかを考えてみましょう。

上記の画像ですが、中山芝内回り2000mで行われる皐月賞でのゲートの上下をバーチャルラインで囲ってみました。今回はBコース開催ですから内回り1周1686m。したがって314mに助走距離の約5mを加えてゴールまで約319m辺りにゲートが設置されています。この地点はまだ4コーナーを回り切っていない場所となり、バンクがあるのでバーチャルラインを引くと右上がり約1.1°程度の角度になります。

2周目4コーナーの様子です。2本のバーチャルラインの間に、ゲートを引き摺った跡が見えるかと思います。当然、このバーチャルラインはゲートを囲ったバーチャルラインと同角度となります。

この画像は芝内回り1800m戦におけるゲートを引き摺った跡が見える地点。ゴールまで約119m辺りとなる場所ですが、ここでのバーチャルラインの角度は右下がり約1.3°程度となります。
残り1Fのハロン棒にバーチャルラインを引くにあたって、もう一つ考慮しなければならないことがあります。次の画像をご覧ください。

今回の皐月賞における1周目ホームストレッチでのパトロールビデオのスクリーンショットです。左上に僅かに見えるのがゴールまで残り1Fのハロン棒ですが、このハロン棒が埋まっている場所は競走馬が走る芝部分より少し低くなっています。したがってハロン棒の根元にバーチャルラインを合わせるのは良くないんですね。アバウトな扱いになりますが、ハロン棒の根元より上の部分にバーチャルラインを合せる必要があります。
ゴールまで約319m地点におけるバーチャルラインの角度はバンク角の影響があるのであくまでも参考値としますが、ゴールまで約119mにおけるバーチャルラインの角度を基に考えると、残り1Fのハロン棒に引くバーチャルラインの角度は、右下がり約1.3°より値が大きくなることはありません。では同じ角度ならどうなるか、その画像を見てみましょう。

タイムコードは【1:47.34】を示しています。もう少しバーチャルラインをゴール寄りにずらしても、【1:47.40】くらいがギリギリのところでしょう。つまりドゥラメンテはラスト1Fで10.8より速いラップを刻んだとは考えにくいと判断していいのではないでしょうか。で、実際には次の画像辺りのタイミングで残り1Fのハロン棒を通過したと思われます。

暫定版のラップとしては11.0とTweetしましたが、10.9と判断しても差し支えないように思います。ただ、私がいつも気を付けていることは、公式ラップとの乖離差をできる限り少なくする、つまり0.1秒速くするか遅くするか判断に迷う際は、公式ラップとのズレ幅が小さくなる値を基本的に選択します。また、11.0と11.1の値の違いと10.9と11.0のそれでは、同じ0.1秒の差であっても10秒台に入ったというインパクトは大きいので、10.9と発表すると数字が独り歩きしてしまうことに懸念するわけです。
来月発売のサラブレで、この皐月賞の上位入線馬の個別ラップや完歩ピッチを記載するので詳細はお待ちいただきたいのですが、今回ドゥラメンテのラスト400mにおける100m毎の完歩ピッチは、0.435 - 0.417 - 0.420 - 0.434という推移になっており、レース映像の印象通り残り300~100m区間で強烈に伸びています。したがってラスト1Fを10秒台にしてしまうと、ドゥラメンテが単にラスト1Fで凄い伸びを見せたと受け止められてしまう可能性が高いわけで、それはドゥラメンテの走りを分析した私の本意ではなくなります。1F毎のラップでは10秒台を刻まなくとも、その値の裏には1F10秒台のスピードがしっかり含まれていますよ、ラスト100mは緩めているのにラスト1F11.0を刻みましたよ、と受け止めて欲しいのです。
件の10.1の背景には、残り1Fのハロン棒でのリアルスティールとドゥラメンテの差が8馬身ほどあったと捉えてしまったことにあります。ではその差はどの程度だったか見てみましょう。

この画像は【1:47.27】時点での上記とは別カメラのスクリーンショットです。二つの赤矢印の先にある芝の蹄跡とバーチャルラインの距離感を覚えておいてください。その距離感に合せてリアルスティールが残り1Fのハロン棒を通過したタイミングが次の画像となります。正面からの画像と併せて見てください。


この2頭の差は約0.5秒ですね。3馬身差といったところでしょうか。内外の差はかなり広がっていますから、このような状況下だと外の馬は随分と遅れを取っているように錯覚してしまいます。これが8馬身差に見えてしまうと、競走馬のパフォーマンスを推し測るのは非常に難しそうですね。
私はもともと1F毎のラップを計測していたわけではなく、数完歩といった短区間での馬のラップ差を測ったりしていたわけです。馬が刻むラップというのは馬場差やペース、あるいはスパートのタイミングの違いによって如何様にも変わってきます。数字そのものに照準を合わせるよりも、上記のように他馬との距離差、ラップ差のイメージをレース映像から読み取ることが、分析力を高めることに繋がるでしょうし、やはり基本はレース映像をしっかり見る、に尽きると思います。
今回はこのあたりで。