2013年07月10日
2013インターハイに向かって⑥ 静岡県立島田工業高校団体<下>
2013インターハイに向かって⑥ 静岡県立島田工業高校団体<下>
島田工業高校は、JRの最寄り駅からはかなり近く、便利な場所にあった。駅から学校に行く途中で見つけたお寿司屋さんで、大満足なランチを食べて、いざ島田工業へ!
校内をきょろきょろしながら、進んで行くと、あった!
新体操マットの敷かれた小さな体育館が。
そして、そこには軽く10人以上の部員達がいた。
今シーズンの島田工業の演技は、そのステキさで私を驚かせてくれたのだが、島田工業の練習を見て、もっとも驚いたのが、その部員数だった。 この日は、テスト前で集合がばらついていたため、私が最初に見たときは10人くらいだったが、じつは、3年生が6人、2年生8人、そして、1年生はなんと10人! マネージャーも3人もいる。 部員が24人いれば、頑張れば団体が4チーム組める。 私も、いろいろな高校を見て回っているが、こんなに部員が多い高校は、そうそうない。 「赴任した最初の年は、3年生が4人い るだけで、2年生はゼロでした。その年は、人集めに苦労しました。」 と語ってくれたのは、島田工業監督の鈴木康正だ。 国士舘大学を卒業してすぐに島田工業に赴任し、それから16年、ずっとここで男子新体操部を指揮している。鈴木が言うには、最初の年こそ人集めに苦労したそうだが、それからはずっとほぼ今年と同じくらいは部員が集まってくるのだとか。 ただし、ほとんどが未経験者だ。 たまに器械体操経験者がいることもあるが、「ジュニアから新体操をやっていた」という子は、過去に何人もいなかった。 仮にもインターハイ常連校なのだから、初心者には敷居が高くはないのか? と思ったが、鈴木はさらりと言う。 「部活体験の時期に、体育館の前を通った子は、どんどん引っ張りこみます。やってみれば楽しいと思ってくれますから。」 さらに、 「初心者から始める子がほとんどだから、新入生は、先輩達を見て、あの人でもできるんだったら、自分もできるじゃないか、と思うみたいです。」
そうして集めた部員達に、鈴木はまさに「前転から」教えるのだそうだ。 それでも、そんな初心者軍団が、見る見る上達する。 今まで私が見た島田工業の演技も、たとえば井原や青森山田のように洗練されているかといえばそうではなかったが、しかし、初心者軍団というほどの危うさを感じたことはなかったと思う。 「タンブリングも徒手もそこそこできる」そんな印象をもっていたのだが、それがほぼ全員が高校から新体操を始めた選手達のチームだったとは、かなりの驚きだった。 初心者を、インターハイで見劣りしない演技ができるレベルまで引き上げるのだから、練習もかなりきついのではないかと思うが、それでも毎年20人からの部員が集まり、新体操を続ける。 この鈴木康正は、そんなチームを16年間率いているのだ。 それは、決して派手ではないが、すごいことじゃないだろうか。そんな島田工業のチーム事情を聞くと、今までの作品の「オーソドックスさ」にも合点がいく。 鈴木監督の口からも、「もとは初心者の集まりだから、いつもは、とにかく彼らにできることで、いちばん確実に点数になることで作品を構成して、あまり細かな動きや凝ったことは入れないんです。そうしないとまとめきれないから。なにしろ、何年か前には、インハイ本番の途中で演技を忘れちゃった!なんて選手もいましたから。うちのチームは、素人の集まりだから、何が起きるかわからないんです。」という言葉が出た。
それなのに、今年の作品は今までとはかなり印象が違っている。 それは、なぜなのか? 「去年のインハイで、うちは実施は悪くなかったと思うんですが、点が伸びなくて。それで、いろいろな先生にアドバイスをもらったんです。今の新体操の傾向とか、どういうところが評価につながるのか、などを。」 今までは、「そこまで欲張れない」と断念してきた「動き」を、いよいよ取り入れていかないと、もう今より上を目指すことはできそうにない。 だったら、今年はやってみよう! そう思ったのだと言う。 「たまたま今年のメンバーは例年より柔軟性には恵まれていたし、とても練習熱心なメンバーなので、彼らならやってくれるんじゃないか、という気持ちもありました。」実際、この作品を作り始め、形になってくるに従って、選手達の練習には熱がこもってきた。 「うちは土日の練習は午前で終わるようにしているんですが、彼らは午後もずっと自主練をしています。 だから、練習では合っていなかったところなどを、合わせておけと言えば、合うまでずっと自分達でやるんです。」 そんな彼らだから、鈴木監督は、「今年は、まず構成を考えて、それができるようになるまでやる」ことができたのだと言う。
今回の構成に関しては、ほとんが鈴木監督が考えたものだそうだ。 「残念ながら、子ども達のほうからの提案はなかなか出ないので。」 そして、鈴木監督は、構成を考える際に、他のチームの演技の動画などを見ないようにしているのだそうだ。参考にするのは、ダンスや太極拳など、同じ体を動かすものでありながら、まったくの別ジャンル。そうしないと、知らぬ間に他チームの影響を受けてしまう。それが嫌だから、「あえて見ない」のだと言う。 そうして鈴木監督が練りに練った構成には、彼が今まで「やってみたかった(やらせてみたかった)もの」がいっぱいつまっている。そんな作品になった。例年よりも、「動きで見せる、同時性の見せ場もつくる」ことを意識したこの作品を、おそらく選手達も気に入っているんだろうと思う。 選抜大会、団体選手権と見るたびに、精度も上がっているが、なにより選手達が自信をもってやっていることが伝わってくる。 彼らも、「今までとはひと味違う作品」への挑戦を、楽しんでいるんだ。 長い自主練だって、きっと楽しいからやっているんだ。 鏡の前で、自分達の姿を映して見て、「オレたち、かっこよくない?」なんて騒ぎながら、きっと楽しく、楽しいけれど「より上」を目指してやっているんだな、と今回の練習を見て、改めて思った。
そして、なんと言ってもこのチームには、来年、再来年の出番を待つ後輩達がたくさんいる。レギュラーチームのほかに2チーム組んで練習をしていて、大会にも出るというなんとも頼もしい後輩達だ。 いや、現時点ではまだまだ頼りない1年生も多いが、そんな彼らにとって、かつては自分達と同じ初心者だったのに、今、これだけの演技ができるようになった先輩達の存在は、どんなにか励みなるに違いない。 そんな先輩達がいるから、きっと彼らも頑張れるのだ。 ほぼ全員が高校始めというチームが、毎年のようにインターハイに出場していること。 そして、常に中堅レベルの演技をしていること。 さらに、今年はより上をうかがえそうな力をつけてきていること。 こんなにたくさんの部員がいること。 ある意味、偉業と言ってもいいほどのことを、黙々と淡々とまっとうしている指導者がいること。 すべてが、いい。 インターハイで、彼らには、ぜひ最高の演技を見せてほしい。 鈴木康正という、この実直で、稀有な指導者のためにも。 全国にはまだたくさんいるだろう、高校に入ってから新体操を始めた選手達のためにも。 頑張れ! 島田工業!
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- posted by rg-lovers
- 23:15
- 2013インターハイに向かって
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