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2014年10月9日(木)

保育園と住民 トラブル急増

鈴木
「続いては、皆さんと一緒に考えたいこの問題についてです。」

子ども
「わー!」


保育園で思いきり遊ぶ子どもたち。
待機児童問題の解消のために、保育園の建設が今、急ピッチで進んでいます。
しかし、建設をめぐって住民が反対する事態が起きています。



建設予定地の近くに住む男性
「子どもがうるさい。
この辺、年配の方がほとんどだから。」



保育園を運営 アートチャイルドケア 村田省三社長
「地域の近隣の方に、できるだけご迷惑をかけない。
そうでなければ受け入れられない時代。」



保育園をめぐるトラブルの実態と、解決のヒントを探ります。

鈴木
「女性が働きやすい環境を整えるためには、全国で2万人余りにのぼる待機児童問題を解消させなければいけないと、国は保育園の建設を急いでいます。
この5年で1,000以上の認可保育園が一気につくられました。」

阿部
「その一方で、全国各地で保育園への苦情が相次いでいます。
先月(9月)東京都が発表した調査では、都内のおよそ7割の市区町村で、保育園などに子どもの声に対する苦情が寄せられていることがわかりました。
保育園をめぐって、今、何が起きているのでしょうか。」

保育園と住民 トラブル急増 その実態

待機児童数が全国1位の世田谷区。
区では今後、4年間で5,700人分の保育園を整備する計画です。
保育園の設置を加速させるため、去年(2013年)、専門の部署を設けました。
不動産業界で働いていた男性を臨時に雇い、そのノウハウをもとに保育園を建てるための場所を探して回っています。

世田谷区職員
「新たな情報をお願いしたい。」

地権者
「お世話できる範囲で心がけておきたい。」


しかし、思うように進んでいないのが現状です。
大きな壁となっているのが、住民の反対です。
世田谷区では、5年間で認可保育園の数を一気に29か所増やし、来年度末までに135か所にする計画です。
そのほとんどが住宅街の中にあります。
保育園ができることで、住民たちからは、これまでの静かな環境が乱されるのではないかと危惧する声もあがっています。
建設中の保育園の近くに住む女性です。

建設中の保育園の近くに住む女性
「(保育園を)増やすのは、お母さん方が働いて(仕事・子育てを)両立するには必要だろう。
でも、静かな住宅街が壊される。
この住宅地は環境がいい所だと思って家を建てたのに。」

こうした声は新しい部署に毎日のように寄せられています。
子どもの声が気になるということに加え、送り迎えの自転車や車が交通渋滞につながるなど、保護者のマナーに対する指摘も出ています。
区では、地道に住民の理解を求めていくしかないとしています。

世田谷区 保坂展人区長
「必要だというからには、どこかにつくらなければいけない。
“きちんとやっていきますよ”“だから認めてください”とお話していく。」



保育園と近隣住民の間のトラブルは、他の地域でも相次いでいます。
東京・練馬区では、住民が騒音などに対する慰謝料を求めて裁判を続けているほか、神戸市でも防音対策などを求めて提訴しています。

こうした中、保育園をめぐるトラブルを専門に扱うリスク管理会社も現れました。
この日訪れたのは、首都圏にある保育園の園長です。
近隣の住民から、子どもの声がうるさいとどなり込まれたといいます。



保育園 園長
「20分、30分たってもお帰りいただけなくて、こちらとしても恐怖を感じる程のどなり方だった。」



この会社では保育園に代わって住民との間に仲裁に入ったり、ケースによっては弁護士を紹介したりしています。

保育園専門 リスク管理 アイギス 脇貴志代表取締役
「私どものような会社がなくなることが一番いいと思う。
社会のニーズが高まっていると思う。」



こうした問題の背景として、専門家は、少子高齢化によって地域で子どもに接する機会が減っていることを指摘しています。

保育園めぐるトラブルに詳しい 関西大学 山縣文治教授
「子どもが減ってきたので、もはや保育所は自分たちとは無関係な施設になってきた。
自分たちにとって関係のないところで、自分たちの生活に不愉快な出来事が起こっていると見えてしまう。」



阿部
「難しい時代になったと思ってしまいますね。」

鈴木
「そうですね、やはり保育園では子どもたちが伸び伸び過ごして、成長する場所であってほしいと思うので、こうした問題が起きるというのは複雑な思いですね。」

阿部
「取材にあたった生活情報チームの清記者です。
なぜこんなトラブルにまで発展してしまうんでしょうか?」

清記者
「取材すると、多くの人が保育園は必要なのでぜひつくった方がいいと言うんですね。
その一方で、その保育園が自分の家の近くにできるとなると、事情が異なるようでした。


大きなトラブルに発展するケースでは、急ピッチで保育園をつくっているため、事前に住民に説明をしたり、理解を求めたりする時間が十分でないことが理由になっているようです。
また、反対している人の多くが、子どもの声がうるさくて生活環境が乱されることを心配していましたが、専門家は、保護者の送り迎え時の自転車の置き方など、マナー問題も原因の1つだと話していました。
こうした問題を乗り越えようと新たな工夫を始めた保育園を取材しました。」

保育園と住民 トラブル防ぐには

東京・目黒区に3年前にオープンした保育園です。

「ここが屋上になります。」

アスレチック、滑り台、そして小さな畑。
こうした遊び場所を屋上の3か所に分散させました。
大勢の子どもが1か所に固まって遊ばないようにすることで、声が大きくなるのを防いでいます。
保育園を運営する会社は、設計段階から地域の住民に説明し、理解を得る努力を続けてきたといいます。

社会福祉法人 夢工房 黒石誠理事長
「保育園側として、保護者の方も含めて、ふだん小さな迷惑をかける積み重ねを1つずつつぶしていかなくては、近隣の方の理解を得られないようになってきていると思う。」


お互いに顔が見える関係になることで、トラブルを未然に防ごうという動きもあります。
かつて近隣の住民から騒音などの苦情を受けた、大阪の保育園です。
地域の住民を積極的に保育園に招いています。
この日は、近くの高齢者施設の利用者を運動会に招待しました。


「大丈夫ね、おばあちゃんと一緒。
みんなのおばあちゃんやで。」




こうして顔の見える関係になることで、騒音などのトラブルは減っているといいます。

保育園 平和の園 篠崎直人園長
「子どもたちのかわいい姿を見てもらったり、成長の過程をしっかりと見てもらえれば、いろんな苦情につながるようなことが事前に防げる、理解してもらえるのではないかと思う。」



鈴木
「やはりお互いの顔が見えるような交流ですとか、お互いのことを知るということが大切になってくるんでしょうか?」

清記者
「そうですね。
保育園の建設、急がなければいけないのも分かるんですが、やっぱり参入する企業や法人任せにせず、自治体も時間をかけて住民に理解を求めることが欠かせないですよね。

そうはいってもトラブルに発展するケースも多くあります。
そうした場合は、先ほどの専門家は『少子化が進む中で地域で子どもをどう考えるか、子どもが育つ環境を保障するために、妥協点を探ることが今の社会で求められている』と話していました。」