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川内原発再稼働差し止め認めず 判断分かれる
4月22日 18時59分

川内原発再稼働差し止め認めず 判断分かれる
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全国の原子力発電所で最も早く再稼働の手続きが進んでいる鹿児島県の川内原発1号機と2号機について、鹿児島地方裁判所は「国の新しい規制基準に不合理な点は認められない」などとして、再稼働に反対する住民が行った仮処分の申し立てを退ける決定を出しました。
同じく国の審査に合格した福井県の高浜原発3号機と4号機の仮処分については先週、「国の規制基準は緩やかすぎる」として再稼働を認めない決定が出されていて、国の新しい規制基準について裁判所の判断が分かれました。
鹿児島県の川内原発1号機と2号機について鹿児島県、熊本県、宮崎県の住民12人は安全性に問題があるとして裁判所に仮処分を申し立て、再稼働させないよう求めました。
これに対して、九州電力は国の基準に従って対策をとったと反論していました。
鹿児島地方裁判所の前田郁勝裁判長は「国の新しい規制基準は専門的知識を持つ原子力規制委員会によって策定されている。過去10年間に当時の基準を超える地震の揺れが全国で5例観測されたが、新しい規制基準はその原因を考慮して手法が高度化されていて、最新の科学的知見に照らして不合理な点は認められない」という判断を示しました。
そのうえで、「地震の揺れの想定は地域的な特性を踏まえたうえで一定の余裕が確保されていて、巨大噴火の可能性についても火山学者の間で頻度が小さいという認識は共通している。川内原発が基準に適合しているかどうかの判断について不合理な点はない」などとして住民の申し立てを退ける決定を出しました。
一方、決定では最後に、裁判所による安全性の判断について触れ、「地震や火山活動などの自然現象は十分に解明されたわけではなく、今後、より厳しい安全性を求めるという社会的な合意ができあがればそのレベルをもとに判断することになる」と指摘しました。
22日の決定に対し、住民は取り消しを求めて福岡高等裁判所宮崎支部に抗告する方針です。
川内原発1号機と2号機は、原子力規制委員会から新しい規制基準に適合していると認められ、九州電力は全国の原発で最も早いことし7月の再稼働を目指しています。
原発の再稼働についての仮処分では今月14日、福井地方裁判所が「国の規制基準は緩やかすぎて、原発の安全性は確保されていない」として、同じく審査に合格した福井県の高浜原発3号機と4号機の再稼働を認めない決定を出していて、国の新しい規制基準について裁判所の判断が分かれました。

住民弁護団「事実誤認だらけの決定」

22日の決定を受けて、申し立てを行った住民の弁護団は、鹿児島市で午前11時すぎから会見を開きました。
この中で、河合弘之弁護士は「今回の決定は福島の事故を本当に真摯(しんし)に見つめたのかと思うほど、内容が旧態依然で非常に残念だ。鹿児島地裁の裁判官が、九州電力の主張を書き連ねただけの内容で、決して容認できないし、不服申し立てを至急検討したい。事実誤認だらけの決定で、事故が起きた場合、被害を被るおそれがある地域のほかの裁判所へ訴えるのも次の手なので、諦めることなく全国の原発、川内原発を止めるまで戦い抜きたい」と話していました。

九州電力「安全性向上に努める」

22日の決定を受けて、九州電力は午後2時から会見を開きました。
この中で、九州電力・事業法務グループの金田薫司グループ長は、「今回の決定は、『川内原発の安全性は確保されている』との主張が裁判所に認められたもので、妥当な決定だと考えている」と述べました。
そのうえで「今後も継続的に安全性や信頼性の向上に努めるほか、事業者の責務として安全対策を講じていきたい」と述べました。

新規制基準の評価に“根本的な違い”

22日の鹿児島地方裁判所の決定は、先週、高浜原発の再稼働を認めないとした福井地方裁判所の決定と判断の内容が大きく異なるものとなりました。
2つの決定は、原発に求められる安全性の考え方や専門家からなる原子力規制委員会の新しい規制基準を、どう評価するかに根本的な違いがみられます。
福井地裁の決定は、原発は破滅的な事故を招く可能性があり、その安全性は深刻な災害が起こるおそれが万が一にも無いといえるレベルが必要だとして、事故のリスクを限りなくゼロにすることを求める考え方に立ちました。
そのうえで規制委員会の新基準について、「緩やかすぎて適合しても原発の安全性は確保できず、合理性を欠く」と批判しました。
これに対し、鹿児島地裁の決定は、新基準について、「福島第一原発の事故も踏まえた最新の研究成果などを基に、多数の専門家が検討を重ねて策定したもので、不合理な点はない」と評価しました。
これは最高裁判所が、平成4年に伊方原発を巡る判決で示した科学的知見に基づく専門家の意見を尊重するとの考え方を踏襲した形です。
そのうえで鹿児島地裁の決定は、「規制委員会が作った安全目標を達成していれば、重大事故が発生する危険性は、社会通念上、無視できる程度に保てる」と述べて、福井地裁と正反対の判断を示しました。
こうした考え方の違いは、原発の地震対策を巡る具体的な争点の評価にも表れました。
電力会社は、各原発ごとに将来起こりうる最大規模の地震の揺れを想定したうえで、対策を取っています。
しかし過去10年には、この想定を超える揺れが、全国の4つの原発で5回観測されています。
このため新基準に基づいた揺れの想定の方法が妥当かどうかがどちらの裁判所の審理でも大きな争点となっていました。
これについて福井地裁の決定は、「想定を超える揺れが高浜原発では起こらないというのは根拠に乏しく楽観的な見通しにすぎない」と批判し、想定の方法を見直す必要があると指摘しました。
一方、鹿児島地裁の決定は、「新基準は、地盤の特徴など想定を超えた揺れの原因を分析したうえで、想定の方法を高度化しているので、直ちに不合理とはいえない」として、専門家の意見を尊重する判断を示しました。

原子力規制委 田中委員長「今の規制で進める」

鹿児島地方裁判所が川内原子力発電所の再稼働の差し止めを求める住民の申し立てを退ける決定を出したことに関連し原子力規制委員会の田中俊一委員長は現在の規制基準に基づいて川内原発の再稼働を前にした検査などを進める考えを示しました。
田中委員長は22日の会見で、鹿児島地方裁判所の決定について所感を問われ、「今の規制を十分検討したつもりなので、それに基づいて粛々と今後も進めていきたい」と述べ、川内原発の再稼働を前にした検査などをこれまでどおり進める考えを示しました。
原発の規制基準を巡り今回の決定と高浜原発についての福井地裁の決定で判断が分かれたことについては、「裁判官はそれぞれ独立しているのでそういうこともあると思うが、私から何か申し上げることはない」としたうえで、「国民や社会にわれわれの取り組みをうまく伝える努力をするべきだと思う」と述べ、記者会見や原発の審査を公開することで、規制基準について理解を得ていく考えを示しました。
一方、今回の決定では原子力規制委員会がつくった深刻な事故の発生頻度の安全目標について「今後、社会各層で議論を進めていくことが望ましい」としていますが、田中委員長は「社会が納得できるかどうかにわれわれは関われない」と述べて、規制委員会として社会的合意を求める取り組みには否定的な考えを示しました。

鹿児島地裁の判断は「司法の場で続く典型的な考え方」

元裁判官で桐蔭横浜大学法科大学院の中島肇教授は「原発のような公共性と危険性を併せ持つ施設は、どこまでリスクを許容できるかというのが重要になるが、鹿児島地裁の判断はほぼ完璧な安全性を求めた福井地裁に比べて許容範囲が全く違った。科学的な根拠で一定の安全性が裏付けられているとするもので、司法の場では福島の原発事故の前から続く典型的な考え方と言える。ただ、福井地裁の決定が出たこと自体、原発事故が司法に大きな衝撃を与えたことの現れであり、今後、各地の裁判所がどのように判断していくのかこの2つの決定だけでは見極めるのが難しい」と話しています。

専門家「良識的な判断」

原子力工学が専門で推進側と反対側の対話を促す活動をしてきた東北大学名誉教授の北村正晴さんは「今回の決定は原子力に関わってきた専門家の立場から見て、地震の想定や重大事故の安全対策など事実関係の認識に明らかな誤りがなく、良識的な判断だと思う」と評価しています。
そのうえで、「原発に反対の人たちにとっては今回の決定の理由に説得力があまり感じられず、最新の科学的知見に照らして不合理ではないというだけでは強い不安を抱く人たちの心には届かないのではないか。規制委員会や電力会社は不安を感じる国民の心情にも配慮してもっと丁寧に説明を尽くすべきで、今後も議論が必要だと思う」と話しています。

専門家「社会との合意欠かせず」

科学技術と社会の関係に詳しい大阪大学コミュニケーションデザイン・センターの小林傳司教授は「専門家である原子力規制委員会の判断を尊重する立場の決定と言える。今月、福井地方裁判所で出された高浜原発の再稼働を認めない仮処分の決定は原発の安全性を専門家だけで決めてはならないという立場を取っていて、裁判所の判断が分かれた。専門家がどれだけ厳しい基準を作ったとしても、安全性は社会に受け入れられることが重要だが、今回の決定には、こうした社会との合意という考え方がほとんど採用されておらず、『専門家が決めればよい』というメッセージに聞こえる」と指摘しています。
そのうえで、「原発の安全性を考えるには社会との合意が欠かせず、専門家と国民が直接、議論できるような新たな場を設ける必要がある」と話しています。

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