「ユーザーをスマホの外に向かせるのは技術者の責務」海外のUXエキスパートが語るIoT時代のデザイン論
2015/04/22公開
ビジネスにおけるUXの重要性が声高に叫ばれる昨今。シリコンバレーをはじめとする海外各国のUXのエキスパートたちは、どのような考え方と方法で日々、UXと向き合っているのだろうか。
そんな世界のUXの最前線を知るためのカンファレンス&ワークショップイベント『UX Days Tokyo 2015』が4月17~19日、都内で開催された。
初日に行われたカンファレンスでは、世界最多の利用者数を誇るメールシステム『MailChimp』のUIを設計したAarron Walter氏、FacebookとInstagramでUXディレクターを務めたNate Bolt氏ら、世界的な権威が多数登壇。ユーザーリサーチをデザインに活かす方法や、データをチーム間の連携に活かすコツなどをテーマに講演した。
その中からここでは、『iPhoneアプリ設計の極意』の著書として有名なGlobal MoxieのUXデザイナー、Josh Clark氏による「インターネット・オブ・シングスと魔法のユーザー体験」と題されたセッションの内容を紹介する。
IoTは魔法のような体験である
セッションの冒頭、Clark氏は映画『ハリーポッター』に登場するのと同じような、1本の「魔法の杖」を取り出した。芝居がかった仕草で「呪文」とともに杖を振る。するとやや遅れて、ステージ脇の机の上にあった照明がともった。
まるで魔法をかけたかのよう。しかし、もちろんこれは魔法ではなく、いくつかのテクノロジーの組み合わせによって実現したものである。
ここでClark氏が表現しようとしたのは、『2001年宇宙の旅』などの作品で有名なSF作家アーサー・C・クラークがかつて放った言葉。「十分に高度な技術は魔法と区別がつかない」というということだ。
「この30年、マウスとキーボードによって行われていたコンピュータとのコミュニケーションは、タッチスクリーンの登場によって変わった。スマートフォンこそが、フィジカルな世界とデジタルなシステムの橋渡しをする現代の魔法の杖であり、人々が手にした初めてのIoTデバイスである」とClark氏は言う。
「IoTを構成するのは、センサーとスマートさ、コネクティビティ。スマートフォンはその全てを備えている。カメラや地図といった本来動かないものにコンピューティングの力をもたらしたし、スマートフォンの脳をあらゆるものに埋め込むことで、全てがセンサーになり、コントローラーにもなる。世界はデジタルのキャンバスになるのです」
人々を注意散漫にしてきたスマホの罠
「もしこれが魔法だったら?」そんな想像力や遊び心が求められる時代であると説くClark氏
しかし、「魔法の杖」たるスマートフォンには負の側面もあるとClark氏は警鐘を鳴らす。それは、人々を実世界から注意散漫にさせてきたということだ。
「人々はみな、公共の場でも首をうなだれてスクリーンを見ている。現代人は平均で1日3時間以上も携帯電話の画面を見ていると言われています。問題は、そのために目の前で起きていることを見逃していること。スクリーン上にあることの方が重要だと思い込んでいるのです」
ここでClark氏は、観衆である技術者たちに呼び掛ける。
「技術者もまた、モバイルの仕事をしすぎたためか、スクリーンに引き込まれてしまっています。これはスマートフォンの良くない側面です。これだけ人々をスクリーンに引き込んだ技術者たちは、この問題を解決する責任も同時に負っているのではないでしょうか」
『iPhoneアプリ設計の極意』という本を著し、これまで「スマホの中」をデザインしてきたClark氏であるからこそ、その言葉には重みがある。
新たなUXは、テクノロジーを実世界に向けるべきであって、その逆であってはならない。「テクノロジーは人々をより人間的にするものでなくてはならない」とClark氏は強調する。
Google Glassの失敗に学ぶ「想像力」の大切さ
From Kārlis Dambrāns
Google Glassはなぜ“失敗”に終わったのか
セッションの終盤には、IoTのさきがけとも呼べるGoogle Glassの“失敗”についても触れたClark氏。
「Google Glassはなぜ失敗したのか。それは、Wi-FiとBluetoothを備えていて、ハンズフリーの5メガピクセルのカメラがあって、メモリは12GBで……こうしたテクノロジーについての話に尽きてしまったからに他なりません」
パロアルト研究所でGUIを発明したことで知られるアラン・ケイは、「コンピュータが完全に環境に溶け込み、見えなった世界」を究極的なゴールに置いた。Clark氏もまた、「技術はできるだけ小さく見せることが重要」と主張する。
「もしこれが魔法だったら? こうした問いから始めていれば、Google Glassの取り組みはまた違った結果を生んでいたかもしれません」
デバイス間でのコンテンツのやり取り、離れた場所からのモノの操作、ジェスチャーで言葉をタイピングする……こうした魔法のような体験はしかし、そのほとんどがすでにある技術の組み合わせで実現されている。
だからIoTの時代のデザインは、「技術の挑戦ではなく、想像力の挑戦である」というのがClark氏の主張だ。
取材・文・撮影/鈴木陸夫(編集部)
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