2012年06月14日

「4人」の挑戦~済美高校(岐阜県)

「4人」の挑戦~済美高校(岐阜県)

男子新体操の団体は6人が基本だ。
しかし、4人以上いれば大会に出場することはできる。
ただし、1人不足につき1.5点の減点になる。
2人欠ければ3.0点の減点。つまり、20点満点で採点される団体競技がはじめから17点満点になってしまう。

17点という得点は、高校生だと「けっこううまいね」というチームなら、出せる点数だが、マックス17点ということは、そこから減点されるのだから、現実的には16点出すのも至難の業かと思われる。

だから、普通は「4人」で団体競技に出ることはまずない。
(去年のインカレの仙台大学はそうだったと思うが)
せいぜい「5人」からだ。

しかし。

今年、済美高校は、「4人」で、本気でインターハイを目指している。

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臼井優華(高3)、五十川航汰(高2)、山本悠平(高1)、持舘将貴(高1)。 ジュニア時代からNPOぎふ新体操クラブで、ともに育ってきたこの4人が、今年やっと同じ高校に揃った。団体競技に出場できるギリギリの人数ではあるが、それでも、岐阜県では2000年以来の団体を組むことができたのだ。 説明するまでもないが、全員が全日本ジュニアを経験している。 能力的には、十分個人でインターハイに出ていてもおかしくない(上にいく可能性も高い)選手が4人そろって団体をやるのだ。 普通に考えれば、強くないわけはない。
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しかし、そんな彼らには、「17点満点」の壁がたちふさがっている。 さらに、高校生には多い、「団体メイン」でやってきた選手たちと彼らは違う。どの選手も個人4種目をしっかり高いレベルでやりきる力を持っている、ということはつまり、個人の練習にも今まで十分時間を割いてきているのだ。 そんなメンバーで、慣れない団体、慣れない徒手の演技をやるのだ。 じつは、周囲が思うほど、彼らにとって団体は「楽勝」ではなかった。 できない技があるわけではない。 高校生としては高いレベルでたいていのことができる。 そんな選手が4人。 しかし、団体としてまとまり、団体として人を感動させるくらいのシンクロを見せ、動きで思いを伝えることは、彼らをもってしても容易ではないのだ。
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現に、6月8日に、岐阜で初めて見た彼ら4人での通しは、 思ったほどよくなかった。 これが正直な感想だ。 悪くはないのだ。十分うまいし、かっこいいし。 ミスもほとんどなかった。 だけど、なにか訴えるものが薄い。 そんな気がした。 やっぱり4人だから迫力に欠けるのか? 個人を主にやってきた選手達だから団体らしさに欠けるのか? そんな風にも思った。
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が。 翌日の6月9日。 もう一度見せてもらった彼らの演技は、文句なしだった。 4人だから迫力に欠けるということもなく、むしろいつもはどうやってこのフロアで6人やっているのだろう? と思うくらいに、4人でも十分スケール感、ダイナミックさのある演技を見せてくれた。 前日には、個人×4に見えてしまいがちだった動きの部分も、この日はまるで違っていた。呼吸もしっかりひとつになり、6人団体に負けないくらいの一体感がそこにはあった。
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いったいなんなんだろう? たった1日で何がそんなに変わったのだろう? 不思議なくらいだった。 あとで、聞いてみたら、8日(金曜)も9日(土曜)も、彼らは定期考査の真っ最中だった。テストは月曜まで続くのだという。 8日は、テストだったので、学校は早く終わり、その分、普通なら家でテスト勉強をするのだろうが、彼らは早くから練習に来ていた。 翌日にもテストがあるのに、だ。 練習は7時には終わったが、家に帰れば翌日のテストの準備をしなければならない。前日もおそらくかなりの寝不足だったのではないだろうか。
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高校生なら、みんな似たような状況だとは思うが、私が、最初に通しを見た日の彼らはそういう状態にあった。 9日は、前日の寝不足は同じだったかもしれないが、なにしろ翌日は日曜日でテストはない。その日の練習の後は、寝てもいいという状況だった。 そういうことが、案外大きいのではないかな、と思った。 誰だって「うまくなりたい」という思いで練習しているはずだ。 だが、それだけではない思いが心を占めているときだってあっても無理はない。いくら頑張っているつもりでも、体は正直に疲れや寝不足を訴えるときもあるだろう。 同じメンバーの同じ演技でも、コンディションや気持ちの入り方で、こんなにも違って見えるのか、という驚きが彼らの団体にはあった。 そして、幸いにも「いいほう」も見ることができただけに、やはりこの団体には期待せずにはいられなくなった。
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いくら強力メンバーとは言っても、「4人」の不利は否めない。 それでも。 彼らは、本気で、「インターハイ」を目指している。 来年がどうなるかはまったくわからない。 臼井が卒業すれば、また4人にさえ足りなくなってしまう可能性も高いという。だったら、今年は彼らにとって最初で最後のチャンスかもしれないのだから。 そして、「4人」でもやれる! と彼らが証明してくれたなら、この先、ほかの高校や地域でも、「4人団体」が生まれる可能性が高くならないだろうか。 昨今、ジュニアチームは増加傾向にはあるが、6人で団体を組めるほどの人数はいない。ましてや、同じ高校でとなると団体は組めない、という地域も少なくないだろう。そういうところでも、「4人しかいないから」とはじめからあきらめるのではなく、「4人でもやってみよう」という流れになれば、ジュニア層の強化も普及もますます進むのではないかと思うのだ。
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さらに言えば、今年になって話題になっている「スポーツアクロとの融合」。これがどういう形になっていくかは、まだわからないが、なんらかの形で男子新体操がスポーツアクロと関わっていくだろうことは間違いない。 そして、アクロには「4MEN」という男子4人による競技がある。「4人団体」の在り方を模索することは、スポーツアクロとの融合を考えるうえでも有意義と言えるだろう。 「団体は6人」という先入観を持って見れば、たしかに4人ではさびしい。 しかし、その枠を取り払って見た場合に、彼らの演技は十分鑑賞に耐えうるし、感動できる。これは、評価に値するのではないかと、9日のすばらしい通しは思わせてくれた。 決戦の日・東海ブロック大会は、6月17日だ。 この試合で、2位以内に入れば、「4人団体でのインターハイ出場」が実現する。 注目したい。                                           <撮影:小林隆子>


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