群雛とBCCKS

雛はご存知のとおりBCCKSでつくられています。BCCKSはflashベースだったときから試していました。当時は簡単な写真集みたいなものしかつくれず、小説には使えませんでした。テキストの流し込みができるエディタを開発中って記事を読んで、想像を膨らませたものです。たぶんそのとき開発してたのをぜんぶ棄てて、一から新たにつくりなおしたんじゃないでしょうか。発表会のストリーミング中継を見ながら、酔っ払って意味不明な連投をしたのを懐かしく思い出します。epubが生成できるようになったときが、いちばん嬉しかったです。テキスト主体の本しかつくったことがなかったので、自信満々で鷹野さんにゴリ推ししたんですけど、図版を多く含む本ではうまくいかないことも多くて、なんか悪いことしちゃったなぁと反省したものでした。ストア配信がはじまったときも嬉しかった。ブログパーツがその場で読めるようになったのも嬉しかったな。とにかくすべて自分の望む方向で展開されているので、非常にお世話になっています。書店機能だけはよくわからないんだけど、あれもサイトを持たない著者には嬉しいんじゃないかな。あとはオンデマンドがAmazonで売れるようになれば理想です。

 報酬シェアも待望の機能でした。初期のおれの本は知り合いのモデルさんが表紙だったんですけど、撮影にかかわったひとと権利で揉めて、その写真が使えなくなったことがあったんです。実際には「無料なら揉めない」「自分ひとりでやる」ってとこに落ち着いたんで、使うには至りませんでしたけれど。epub出力、ストア配信、共同執筆……そうしたすべてが群雛につながっていったのは感慨深いです。ちなみにそのモデルさんは病気で今年亡くなりました。彼女を通じた友だちがg+に何人かいたんですが、ひどい扱いをしたと思われて関係を切られました。たぶん実際に傷つけたんだと思います。愛されるひとが先にいなくなって、おれみたいなきらわれものが生き恥を晒してるのは、世の中うまくいかないものです。

 表紙で思い出しましたが、目立つ場所にエロ本が表示されていることでBCCKSに苦情をいったことがありました。おれはエゴン・シーレの猥褻画がすきですが、本の表紙やサイトのトップに掲げようとは思いません(帯で隠れるからいいか? 笑)。そのものずばりが描かれていないからいいというものでもない。すくなくともおかしな服装でけつを丸出しにして寝室の目つきをしているようなものはだめですね。下品が煙草ふかして小説書いてるようなおれがいうのもなんですけど。だれが訪れるかわからない店は子どもの目に触れてもいいように陳列してあるのが理想です。大人の本をわざわざ手にしてひらいてしまったら、それはその子が自発的にやったことなのでしょうがない。それで傷つけられるにせよ、本好きは多かれ少なかれそんな経験をして育つものですし。エロ本をなくせという声には決して賛同しませんが(それは自らの舌を刈るようなものです)、場所の区別はあってしかるべきだと考えます。そしてそれ以上に、粗悪な表現を埋もれさすほど、優れた表現が増えればいいと思います。というわけで群雛にはこれからもけつを見せずにいてほしいです。

 群雛とBCCKSの話を書きたかったのに、品性が卑しいものでけつの話をしてしまいました。けつはともかく群雛スタッフの負担が増えすぎているようです。品質を維持したまま編集コストを減らすにはどうすればいいでしょう。自動校正ツールを活用できれば……とは思うのですが。いくつか試したんですけど、小説に使える実用性を備えたものにはまだ出会えていません。とんちんかんな指摘でイラッとさせるだけ。ドヤ顔でまちがいを指摘していながら、的外れだと困りますね。相手が機械でさえもイラッとします。実用にならないのはアルゴリズムが未熟だからです。しかし何と比して未熟とみなすか。あるいは期待値が高すぎるのかもしれません。セルフパブリッシングの時代が到来する以前はプロの校正・校閲の仕事しか目にする機会はなかったわけですから。生身の人間だって相応の知識と経験がなければ自動校正と変わらないかもしれない。

 校正を他人に頼むのであれば、それなりのスキルをもつひとに、それなりの対価を支払わねばなりません。そうする金と交渉力が必要です。群雛スタッフはボランティア。こっちは無料で載せてもらってる身分。作品の意味を理解するスキルや、自動校正が担えないほどの国語力を期待するのは、虫がよすぎるでしょう。『悪魔とドライヴ』の第一回は、考えが整理されていない部分が文章にも出ていて、それを鷹野さんに指摘していただいたおかげで、ぐっとよくなりました。と同時にほかのスタッフの指摘には意味が通らないことも多かった。鷹野さんが代わりに質問に答えてくれたのですが、負担が大きかったようです。原稿がよくなったのに味をしめて、第二回では過剰な期待をいだいたところ、表記のぶれ程度しか指摘はありませんでした。甘えであったと反省しています。自力でやれる部分はやってから提出すべきなんですよね。最低限で当然のマナーとして。問題は「自力でやれる部分」がどこまでかって話です。いちばんいいのは三年くらい寝かせて、忘れた頃に自分で校正することでしょう。でも三年寝かせたらもう読み返したくなくなる。というか書いた時点でうんざりして読み返す気になれないんですわ。なのでおれの本は誤字脱字衍字だらけです。いつか完璧な校正ツールがあらわれる希望を棄ててはいません。そしてどうせ夢みるなら校閲ツールも。「なんでおまえそんなこと知ってんだよ」って指摘で容赦なくリアリティを補強してほしい。品質の担保ってそういうことだと思うんですよね。

 募集はじめて数分で枠が埋まるほど参加希望者が増えたのは、ブランドとしてそれだけ価値を持っているということです。一年かけてそれだけ価値を育ててきたんですね。鷹野さんをはじめスタッフのみなさんには頭が下がります。群雛ブランドの売りは品質の担保にもあると思いますけれど、それ以上にわれらが大将、鷹野さんのパーソナリティだと思うんですよね。90年代末に江口寿史さんがコミック・キューって雑誌をやっていて、それが漫画の流れを致命的に変えてしまったとおれは思ってるんですけれど(ほとんど大友克洋・高野文子ショックとおなじくらいに)、それに近いものがあるように感じています。あの雑誌は参加者の顔ぶれもすごかったけれど、はたして群雛参加者のわれわれは、主宰者の鷹野さんとおなじくらいのインパクトを世間に与えているでしょうか。米田さんはプロなので別格としても、あとは正直、「鷹野さんの雑誌で書いている連中」くらいにしか見られてないんじゃないかと思います。あんがい最大のライバルは鷹野さんかもしれません。群雛がキャズムを超えるまで虎視眈々と機会を狙いましょう。日本独立作家同盟の存在感がだれからも無視できなくなるまで。

投稿者:

ヘリベ マルヲ

1975年6月、仙台に生まれる。本名、松田守正。インディーズ書籍レーベル「人格OverDrive」から代表作『Pの刺激』をはじめとする8冊の小説を刊行。アヴァンポップな作風は魔術的とも、「文章に血が染み込んでいるようなリアリティがある」(MMミリオンセラーさん)とも評される。ダイレクト出版ムーブメントを牽引するオピニオンリーダー、佐々木大輔氏から「注目の『セルフパブリッシング狂』10人」に選ばれた。著書はほかに短編集『エゴノキ ヘリベマルヲの世界』、最新作『ガラスの泡』など。NPO法人日本独立作家同盟正会員。