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ドローンと言えば少し前までは軍事用のイメージが強かったのですが、近年では民間にもマルチコプタードローンが急速に普及し、その言葉をよく聞くようになってきました。ドローンは無人航空機全般を指す言葉で、無人標的機や無人偵察機など主に特定のミッションを行うための軍用のものがドローンと呼ばれていました。近年見るようになったラジコンマルチコプターがドローンと呼ばれるのは、高度な制御システムによって半自律的、あるいは自律的に飛行させることが可能となったことで、従来のホビー用ラジコンヘリのように飛ばすことだけを目的とするのではなく、特定の目的に沿ったミッションを容易にこなせるようになったためです。例えば日本でもTV局が空撮用マルチコプタードローンを運用するようになったり、海外ではAmazonがマルチコプタードローンによる宅配便を計画していたりしています。 個人向けにもアクションカメラを搭載できる安価なクアッドコプターが普及し、初心者でも手軽にドローンよる空撮などが行えるようになってきています。しかしながら、国内では航空法により飛行可能な高度や場所が定められており、これを守らないと法令違反になるばかりか下手をすれば大事故に繋がる可能性があります。実際米国ではドローンと旅客機がニアミスするという事案が起きており、国内でもドローンによる航空法違反により書類送検されたという事例が起こっています。 しかしながらドローンと航空法について詳しく書いたサイト等がまだあまり無く、私自身正しい情報を得るのに時間がかかったため、その情報をまとめる事としました。このページではドローンを飛ばす上で知っておくべき航空法について詳しく解説していきます。 航空法及び航空法施行規則 航空法では、ラジコン航空機や気球、パラグライダー等の航空機の飛行に影響を及ぼすものは場所によって一律でその飛行高度が規制されています。 結論から言えば、空港、飛行場から概ね10km以上離れた場所であれば、航空法的には地上から高度150mまでは飛行させることが可能で、上空に航空路が無ければ最大250mまで飛行させることが出来ます。10km以内の場合、空港によって飛行制限されている高度の範囲が違います。 それでは、航空法がどうなっているのかを詳しく見ていきましょう。 航空法の第99条の2にて「飛行に影響を及ぼすおそれのある行為」として下記のように定められています。 航空法 第九十九条の二 (飛行に影響を及ぼすおそれのある行為) 何人も、航空交通管制圏、航空交通情報圏、高度変更禁止空域又は航空交通管制区内の特別管制空域における航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのあるロケットの打上げその他の行為(物件の設置及び植栽を除く。)で国土交通省令で定めるものをしてはならない。ただし、国土交通大臣が、当該行為について、航空機の飛行に影響を及ぼすおそれがないものであると認め、又は公益上必要やむを得ず、かつ、一時的なものであると認めて許可をした場合は、この限りでない。 2 前項の空域以外の空域における航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為(物件の設置及び植栽を除く。)で国土交通省令で定めるものをしようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に通報しなければならない。 この航空法第99条の2における第一項では、空港周辺や航空機に関連する空域での国土交通省令で定める飛行に影響を及ぼすおそれのある行為を規制しており、第二項でそれ以外の空域において国土交通省令で定める飛行に影響を及ぼすおそれのある行為を行う場合について規定されています。ここで言う国土交通省令で定める飛行に影響を及ぼすおそれのある行為というものの詳細が航空法施行規則の第209条の3及び4にて定められており、具体的に以下の様なものです。 航空法施行規則 第二百九条の三 (飛行に影響を及ぼすおそれのある行為) 法第九十九条の二第一項 の航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為で国土交通省令で定めるものは、次の各号に掲げる行為とする。 一 ロケット、花火、ロックーンその他の物件を法第九十九条の二第一項 の空域(当該空域が管制圏又は情報圏である場合にあつては、地表又は水面から百五十メートル以上の高さの空域及び進入表面、転移表面若しくは水平表面又は法第五十六条第一項 の規定により国土交通大臣が指定した延長進入表面、円錐表面若しくは外側水平表面の上空の空域に限る。)に打ちあげること。 二 気球(玩具用のもの及びこれに類する構造のものを除く。)を前号の空域に放し、又は浮揚させること。 三 模型航空機を第一号の空域で飛行させること。 四 航空機の集団飛行を第一号の空域で行うこと。 五 ハンググライダー又はパラグライダーの飛行を第一号の空域で行うこと。 2 法第九十九条の二第一項 ただし書の許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならない。 一 氏名、住所及び連絡場所 二 当該行為を行う目的 三 当該行為の内容並びに当該行為を行う日時及び場所 四 その他参考となる事項 第二百九条の四 法第九十九条の二第二項 の航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為で国土交通省令で定めるものは、次の各号に掲げる行為とする。 一 ロケット、花火、ロックーンその他の物件を法第九十九条の二第二項 の空域のうち次に掲げる空域に打ちあげること。 イ 進入表面、転移表面若しくは水平表面又は法第五十六条第一項 の規定により国土交通大臣が指定した延長進入表面、円錐表面若しくは外側水平表面の上空の空域 ロ 航空路内の地表又は水面から百五十メートル以上の高さの空域 ハ 地表又は水面から二百五十メートル以上の高さの空域 二 気球(玩具用のもの及びこれに類する構造のものを除く。)を前号の空域に放し、又は浮揚させること。 三 模型航空機を第一号の空域で飛行させること。 四 航空機の集団飛行を第一号の空域で行うこと。 五 ハンググライダー又はパラグライダーの飛行を第一号イの空域で行うこと。 2 前項の行為を行おうとする者は、あらかじめ、前条第二項第一号、第三号及び第四号に掲げる事項を国土交通大臣に通報しなければならない。 航空法施行規則の第209条の3及び4の三号の模型飛行機というのがラジコンヘリやドローンにあたり、一号に定める空域で許可無く飛行させることが出来ないと定めています。第209条の3の一号が空港周辺、第209条の4の一号ロが航空路内、ハがそれ以外の空域になります。順番に見ていきましょう。 空港周辺の空域 まず、空港から9km以内は航空交通管制圏(又は航空交通情報圏)と呼ばれるエリアであり、航空法第99条の2第一項の適用を受けます。航空法施行規則第209条の3によりこのエリア内ではいかなる場所でもドローンを高度150m以上に許可無く飛ばすことが出来ません。 さらにこの管制圏のうち、航空法施行規則第209条の3の一号に書かれている進入表面、転移表面、水平表面、延長進入表面、円錐表面、外側水平表面では更に厳しく高度が規制されています。これらは空港近辺に存在するエリアで、この内の進入表面、転移表面、水平表面はどの空港にも存在しますが、延長進入表面、円錐表面、外側水平表面については空港によって存在したりしなかったりしていて、範囲もまちまちなので、個別に調べる必要があります。これらのエリアは総称して制限表面と呼ばれており、ドローンはこの制限表面より上空を許可無く飛ばすことが禁止されています。具体的にどのような範囲かは下の画像を見ていただくと分かりやすいと思います。 ▲成田国際空港株式会社HPより制限表面概略図 上図の範囲は成田空港のものですが、範囲は空港によって違います。例えば水平表面の範囲は空港の滑走路の長さによりAからJまでの等級によって定められており、最大で半径4km、最小で半径800mとなります。また、延長進入表面などは滑走路の片側だけ存在するというケースも有ります。上図の成田空港の制限表面の範囲はいずれも航空法における最大値となっています。 制限表面のうち、延長進入表面、円錐表面、外側水平表面は空港法第4条で規定される拠点空港と呼ばれる比較的大きい空港にのみ設定されており、国際空港である成田、羽田、伊丹、関空、セントレア及び地方空港の一部に設定されています。 ▲等級による水平表面の範囲 制限表面上空でのドローンの飛行はできませんが、逆に言えば制限表面より低ければ空港周辺でも飛行させることが可能で、例えば赤色の水平表面の範囲内では高さ45mまではドローンを飛行させることが可能です。ただ、DJI PhantomシリーズやWalkera X350シリーズなどの350サイズのクアッドコプターの場合、45m程度はあっという間に到達するため、テレメトリシステム等でドローンの高度を知る手段がない限りはこの範囲で飛ばすことは避けるべきです。Phantom3やBebop Droneなどでは気圧高度計とINUによる高度データをテレメトリによりリアルタイムに知ることが出来るので、注意しながら飛ばすことは可能と思われますが、フライアウェイの危険性を考えるとあまり近い所は避けたほうがいいでしょう。 ちなみに、Phantom2シリーズは特定の空港付近では飛行制限がかかる機能が標準で有効となっています。しかしながら、日本の空港は全て登録されてるわけではないため、あまりこの機能は当てにせず、事前に飛行できる場所かどうかや制限高度を確認しておきましょう。 ここでいくつかの空港の制限表面の例を見てみます。 ▲愛知県HPより 上図は県営名古屋空港の制限表面の範囲を示しています。名古屋空港では水平表面、進入表面、転移表面が設定されており、延長進入表面、円錐表面、外側水平表面は存在しません。大部分を占めている水平表面は空港の標点から高さ45m、半径4kmの範囲です。標点というのは滑走路の中心を指します。進入表面は着陸帯の端から3kmのスロープ状になっており、3km地点での高さは60mとなります。 ▲成田国際空港株式会社HPより 上図は成田空港の制限表面を示しており、真ん中の赤い円が水平表面、黄色い円が円錐表面、緑の円が外側水平表面です。名古屋空港とは違い、延長進入表面、円錐表面、外側水平表面が設定されており、その範囲が非常に広大であることが分かります。この内の緑色の線の外側水平表面は高さが295mあるのでドローンを飛行させる上で基本的に気にする必要はありません。 また、滑走路が3本あるため、進入表面も滑走路の数だけ存在しています。このように滑走路が3本ある場合の標点は3本の滑走路の重心の位置に設定され、そこから水平表面が4km、円錐表面が16.5km、外側水平表面が24kmの範囲に設定されます。進入表面や延長進入表面は標点は関係なく、着陸帯の端からそれぞれ3km、15kmに設定されています。 ▲成田国際空港株式会社HPより断面概略図 ▲東京航空局HPより羽田空港の制限表面 上図は羽田空港の制限表面を示した図です。最も内側の赤い円が半径4kmの水平表面です。その外側には成田空港同様に延長進入表面、円錐表面、外側水平表面が設定されていますが、延長進入表面は滑走路の片側のみで、円錐表面及び外側水平表面は高層ビルの立ち並ぶ都心部を避けるように特殊な範囲設定となっています。 その他の国が管理している空港の制限表面は各航空局HPで参照することが出来ます。 東京航空局 大阪航空局 それ以外の空港については個別に調べてみてください。 ここまで空港の制限表面の例を見てきましたが、空港以外にも自衛隊の基地や民間の小さい飛行場などにも制限表面が存在します。 下図は航空自衛隊入間基地の制限表面を示した図です。 ▲狭山市HPより入間飛行場の制限表面 入間基地では名古屋空港同様に水平表面、進入表面、転移表面のみが設定されています。最も大きい青色の部分が水平表面で、半径3kmの範囲となっています。高さは海抜135mとなっていますが、入間飛行場の標点の標高が90mなため、他の空港と同様に標点から45mです。 基本的には自衛隊の基地・飛行場では延長進入表面、円錐表面、外側水平表面は設定されていません。ただし、拠点空港である那覇空港と共用している那覇基地においては存在しています。 なお、米軍の飛行場については国内航空法の対象外のため、制限表面も告示されていません。米国航空法(FAR)が適用される可能性もありますが明確になっていないため不明です。いずれにせよ近くでの飛行は避けた方が良いと思われます。 航空路内 続いて空港周辺以外の空域を見ていきます。航空法施行規則の第209条の4の一号のロにて航空路内で150m以上を飛行させる場合は国土交通大臣への通報が必要と定められています。 航空路とは何かというと、その名の通り航空機のための道路のようなもので、VOR(超短波全方向無線標識)やNDB(無指向性無線標識)と言った無線標識施設同士をつないだ航路となっています。国土交通省用語集によれば 「航空路とは、航空機の航行に適する空中の通路として国土交通大臣が指定するものをいう。その幅は原則として18Km又は14Kmであり、 地上の航空保安無線施設等を結んで全国各地に指定されている。航空路の名称は、英字(A, B, G, R, V, W)及び数字(1〜999)により表され、国際航空路については、 A, B, G, Rを、国内航空路についてはV, Wを使用している。」(国土交通省用語集) 航空路がどこを通っているかというとこんな感じです。 ▲国土交通省HPより 赤い線が航空路です。大体の位置はわかりますが小さくて分かりにくいですね・・・拡大しても大雑把すぎて細かい位置がいまいち良く解りません。 ということで参考になるのがSkyVectorというWebサイトです。 このサイトでは世界中の航空路を見ることが出来、地図の拡大縮小も自由にできます。ここを見れば自分の住んでいる場所に航空路があるのか無いのかが一目でわかると思います。 航空路は線で示されていますが、前述のとおり幅が18km又は14kmと定められています。国内ではVOR同士をつないだヴィクター航空路が殆どを占めており、ヴィクター航空路の幅は14kmとなります。そのため、航空路の線から7km以内であれば航空路内と考えると良いでしょう。 ちなみにNDB同士をつないだ航空路はヴィクター航空路よりも幅が大きく設定されており、幅が18kmになっています。これはNDBの精度がVORに比べ低いためで、国内ではNDB自体が廃止されつつあります。 この航空路内で前述の空港周辺の空域以外であれば地表面から高度150mまでドローンを飛行させることができます。 ちなみに、航空路とは別に広域航法経路(RNAV経路)というものが存在し、国土交通省HPやSkyvectorでも見ることが出来ますが、こちらのほうが数が多く範囲も広大で、近年ではこちらのほうが航空機の経路としてよく使われています。この広域航法はINSなどの自律航法装置やGPSや航空保安無線施設の電波により機体位置を割り出し、自律航法により任意の経路を飛行するもので、航空路を使わないため特定の航空路に航空機が集中するといった事態を避けられます。このため、近年ではVORも縮退傾向にあります。航空法における航空路扱いにはなっていないため、ドローンの飛行には直接関係はありません。 航空路の名称は国内航空路についてはヴィクター航空路がV30のようにVから、NDB航空路がWから、RNAV経路がY384などのようにYから始まります。Skyvectorで見る際の参考にして下さい。 航空路外の空域 前述の空港周辺の空域でなく、上空に航空路も無い場合は航空法施行規則の第209条の4の一号のハの空域に該当し、地表面から高度250mまで飛行させることが出来ます。この250mが国内で許可や通報無しに飛行できる最大高度となります。250mまでドローンを上昇させるとほぼ目視できるぎりぎりの距離で、音も聞こえない程の高さになります。 ただ、航空法施行規則第174条にて航空機の最低安全高度は地表から150mと定められており、ドローンを150m以上で飛行させている場合衝突の危険性がゼロではないということを留意しておいて下さい。 なお、航空法の第99条の2の第一項の空域以外では第99条の2の第二項により通報を行うことで、高度250m以上でも飛行させることが可能です。具体的には、飛ばしたい空域の管轄の空港事務所に連絡し、「模型飛行機の飛行許可申請書 模型航空機の飛行通報書」をFAX等で送ってもらい、日時や場所、高度、飛行経路などを記載して一週間以上前に送付する、といった手続きになります。 各空港事務所の管轄区域 このようにドローンを飛行させる際は航空法に従って適切な高度を順守させる必要がありますが、ドローンの高度が分からなければ気付かずに制限高度を超える恐れがあります。航空法第99条の2に違反し航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為を行った場合、航空法第150条にて50万円以下の罰金が課せられます。そのため今からドローンを入手するならば気圧高度計などを搭載し機体の現在高度がテレメトリーで分かる機体をお勧めします。 現在日本で入手可能なテレメトリー搭載型の空撮用のマルチコプタードローンとしてはDJI社のPhantom2 Vision Plusやその後継のPhantom3(公式HP)、パロット社のBebop Drone(公式HP)があります。これらの機体は高価ですがGPS、INUにより安定した飛行が可能で、それぞれカメラに機械式又は電子式のスタビライザーを搭載しているため空撮用としては最適です。 初めに高度が分かる機体で慣れておくと、後からテレメトリーの無い機体を飛ばしても大体の高度が感覚で分かるようになります。 航空法以外 航空法以外でもドローンの飛行において注意しなければならないことがあります。 民法207条において「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と定められており、私有地の上空にも土地の所有権が及びます。そのため私有地で飛行させる際は厳密に言うと地権者の許可を得る必要があると思われます。 法的に問題がなくても人の多い場所や幹線道路周辺などでは飛行させないようにしましょう。DJI PhantomやWalkera X350などの350サイズのクアッドコプターは重量が1kgを超えます。もしこれが何らかの原因で高度100mから落下し、人に当たるなどした場合怪我では済みません。もし高速道路に落下した場合大事故につながりかねません。 ドローンが高度な制御システムを備えているからといって絶対に落ちないわけではなく、機体のコンディションが万全でも様々な要因でいきなり墜落することがあります。そのため、いつ落ちてもおかしくないということを常に心がけて飛行させるようにしましょう。 |