クローズアップ現代「“行方不明児20万人”の衝撃〜中国 多発する誘拐〜」 2015.04.22


中国の街角で写真を掲げる人たち。
子どもを誘拐された親たちが救出を訴えています。

今、中国では子どもの誘拐が大きな社会問題になっています。
年間20万人の子どもが行方不明になっているといわれる中国。
都市部の小学校。
下校時間になると誘拐を恐れる出迎えの親たちであふれ返ります。

取材を進めると誘拐された子どもは農村部に売られていることが分かってきました。
貧しい農村では老後を支えてくれる子どもがいないと生活できないといいます。

急速な経済発展の陰で多発する、子どもの誘拐。
中国社会のひずみが生み出す犯罪の実態に迫ります。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
耳を思わず疑ってしまいますが中国で行方不明になる子どもは年間20万人といわれています。
何者かに連れ去られ売り渡される大勢の子どもたち。
こちらは去年11月に中国で発売され爆発的に売れている子どもの靴です。
GPS発信機が取り付けられていまして親はいつでも子どもの居場所をスマートフォンで確認できるようになっています。
今、大きな社会問題になっている子どもの誘拐。
この問題は中国では実は古くて新しい問題です。
1979年に一人っ子政策が始まったことで男の子がいない家庭が増え後継ぎや働き手となる男の子が欲しいとして誘拐事件が起きるようになりました。
その後、経済発展に伴い誘拐事件はさらに増えここ数年、誘拐事件について広く報じられるようになって事件に対する社会の意識が高まりようやく大きな社会問題となりました。
それにしてもなぜ経済発展に伴い子どもの誘拐が多発するようになったのか。
誘拐された多くの子どもたちは収入が沿岸部の大都市のおよそ4分の1にとどまる農村で買われています。
農村の人口は中国の人口のおよそ半数の6億5000万人。
経済発展に伴い、拡大した都市と農村の格差。
加えて農村では年金など社会保障が都市と比べて著しく低く老後の生活を支える働き手として多くの子どもたちが買われています。
中国政府は捜査能力の強化や犯罪者の処罰を徹底する方針を打ち出し年間およそ3000件が摘発されていますが根絶には程遠い状況です。
子どもの誘拐の実態からご覧ください。

2月子どもを誘拐された親たちが街頭に立ちました。
いなくなった子どもたちを取り戻そうと手がかりとなる情報の提供を呼びかけました。

子どもを誘拐された親の一人孫海洋さんです。

誘拐された現場は大都市・深の繁華街。
3歳の息子が、目を離した隙に何者かにさらわれたのです。
そのときの様子が防犯カメラに映っていました。
白いシャツを着ているのが誘拐犯と見られる男。
男は道端に何かを置いたように見えます。
それにつられるように黄色い服を着た孫さんの息子が近づきます。
このあと行方が分からなくなりました。

子どもを自宅から連れ去られたケースもあります。
一人息子を誘拐された伍興虎さんです。

1歳の誕生日を迎えたばかりだった嘉誠ちゃん。
深夜、寝ている間に誘拐されました。
それから7年。
伍さん夫婦は今も息子の帰りを待ち続けています。

深刻化する子どもの誘拐。
その背後では大規模な犯罪組織が暗躍しています。
これは警察が組織の拠点を摘発したときの映像です。
この組織は数百人のメンバーが全国14の省にネットワークを張り巡らせ100人近い子どもを誘拐していました。

誘拐はどのように実行されているのか。
警察の捜査に協力しているNGOの担当者に話を聞くことができました。

この人物によるとまず仲介役が子どもが欲しいという依頼を受けます。
次に、誘拐の実行役が依頼者の希望に沿った子どもを誘拐。
移送役が依頼者のもとに子どもを連れていき金を受け取ります。

私たちは誘拐された子どもが多く買われているという内陸部の農村を訪ねました。
都市部で進む開発から取り残された地域です。
平均年収は日本円で20万円足らず。
沿岸部の大都市のおよそ4分の1です。

金額は、男の子の場合平均年収の5年分。
それでも老後の暮らしを支える働き手が欲しいと借金をしてまで買うといいます。
実際に、誘拐された子どもを買ったという人が取材に応じました。
李玉蘭さん、58歳です。
これは20年前に買って息子として育ててきた男性の写真です。
娘はいたものの男の子に恵まれなかった李さん。
農村では受け取れる年金や医療保険が僅かなため生きるためには息子を買うしかなかったと主張します。

中国の法律では誘拐された子どもを買っても虐待したり逃げ出すのを妨げたりしなければ必ずしも罪に問われません。
糖尿病を患い、医療費もかさむ李さんは息子だけが頼りだといいます。
李さんに買われ息子として育てられた牛同友さんです。
北京にある自動車の整備工場で働いています。
住んでいるのは安アパートの地下室。
生活費をぎりぎりに切り詰めて李さんへの仕送りに回しています。

牛さんは今誘拐されてから一度も会えていない実の母親を捜しています。
各地を訪ね歩き、最近ようやく実家を捜し当てました。

母親は牛さんが誘拐されたショックから家を飛び出し行方が分からなくなっていました。

今夜は中国社会、そして農村の実態にお詳しい、東京大学大学院准教授の、阿古智子さんをお迎えしています。
涙ながらに消えた子どもを捜す親たち、そして一生懸命、生みの親を捜そうとする子ども。
本当に胸が痛む光景なんですけれども、なぜ、中国では年間20万人、そして大規模な犯罪組織が暗躍するような実態を、放置しているのですか?
一つは、そういう組織、需要があるわけですから、ビジネスのチャンスとして、展開すると、それは警察が本来であれば、取り締まらなければいけないわけなんですけど、時によっては、警察がそういった犯罪組織と癒着をしてしまっていると、中国は大きい国ですから、中央政府が取締りを加速しようとしても、各地方に行けば、警察組織、司法、行政が一体化してしまうという、癒着してしまうという構図があります。
もう一つは、なぜ需要があるかということですが、社会保障が農村ではやはり遅れていると。
例えば年金ですけれども、全国で平均した額があるんですけれども、都市部のほうで、日本円で3万円、受け取れるわけですけれども、農村ですと、ひとつき1500円でしかないと。
これぐらいの金額で生活しろといわれても、うまくいかないわけですね。
頼れるのは制度ではなく、伝統的な中国社会では、やはり信頼できる家族ということですから、お金を借金しても、老後のことを考えて、子どもが欲しいという人たちがいるわけです。
経済成長するさなかで、誘拐が多発していると聞くと、豊かな人が子どもがいないので、子どもを買っているのかなとか、あるいは豊かな人から子どもをさらって、身代金を要求しているのかなとイメージしてたことと全く違うことが起きていることに驚いたんですけれども、この誘拐の多発問題を通して、貧しい農村で子どもたちが買われている。
これは中国のどんな構造的な問題が背景にあると考えたらいいんでしょうか?
私たちには想像できないことだと思うんですが、中国は戸籍制度というのがありまして、農村と都市で、制度が異なります。
特に土地の所有の形態が違うんですけれども、農村では人民公社の時代から、土地は分配されていると。
そこで集団で所有しているわけですけれども、都市部は土地を持っている、不動産を持っていると、使用権を自由に売買できる、つまりそれが資産として、自分で活用できるわけですけれども、農村では、農業、農業用地を転用することは難しいですし、その政府からすれば、土地があるから、それで食べ物は確保できると。
社会保障の代わりにもなるんではないかという議論もあるんですけれども、資産として活用できませんので、そのへんで大きな格差が開いてしまう、そして先ほど申しましたように、社会保障もポータビリティーがありませんので、大都市部の恵まれた地域の水準はとても高いわけですね。
生活保護とか、医療費の補填ですとか、いろんな面で、農村地域のほうは遅れているというのが実態だと思います。
ポータビリティーとおっしゃったんですけど、ポータビリティーというのは、農村における社会保障制度が都会では通用しないということですね。
それは、ベースにあるのは、なぜそれが通用しないんですか?
例えば上海で、一定の所得以下の人に生活保護を渡していましたけれども、農村の、私が調査している農村の地域の人たちの所得は、そのレベルよりもずっと低いわけですね。
そうするとそこの人たちが全員、上海に移住すれば、全員が生活保護を受けることができると。
そのような状況であれば、上海で戸籍をもし開放すれば、貧しい地域の人たちが全員移住するという、極端にいえば、そういうことが起こりうるわけですね。
ですので、戸籍によって生活保護ですとか、医療保険なんかも、区切るしかないという状況だと思います。
なるほど。
そうすると、格差が広がる中で、格差というのは、ある程度、制度によって固定化されてしまうという状況なんですね。
そうですね。

中国社会のさまざまな矛盾が凝縮したようになっています、この子どもの誘拐の問題。
警察や政府に頼るのではなく、市民みずからが、誘拐事件撲滅に取り組み、そして背景にある貧困の問題にまで、向き合おうとする動きも出てきました。

あるNGOの活動を紹介したドキュメンタリー番組です。
NGOのメンバーが子どもの誘拐事件についての情報を警察に通報しています。

警察に働きかけて誘拐犯の逮捕と子どもの救出につなげようとしています。
このNGOを立ち上げた飛さんです。
中国各地で起きた子どもの誘拐事件についての情報を独自に集め毎日、インターネット上に公開。
活動に賛同する500万人のネットユーザーに子どもの目撃情報などを提供するよう呼びかけています。

NGOがこの活動を始めたのは中国の警察が抱える構造的な弱点を補うためでした。
国土が広大な中国ですが警察の管轄は地域ごとに細かく分かれています。
このためある地域で誘拐事件が起き子どもが別の地域に連れ去られた場合速やかに連携して捜査を行うことが難しいのです。
NGOは誘拐された子どもの目撃情報があれば全国どこへでも駆けつけ居場所を突き止めます。
その証拠を警察に示して捜査を促し子どもの救出につなげようというのです。
このNGOの働きかけにより4年間でおよそ100人の子どもが助け出されました。
さんは誘拐問題に取り組むうちその背景にある農村の貧困を解消しなければならないと考えるようになりました。
今、中国政府は農民を都市に移住させ農業以外の職に就かせることで収入を底上げする都市化を推し進めています。
しかし、国の経済成長が頭打ちとなる中計画は難航が予想されています。
農村にとどまる農民をどう支えていくのかが大きな課題になっています。
さんは今農村の自立を促すために各地を回り特産品の発掘に取り組んでいます。

これまでおよそ10の村で特産品を開発。
ネット販売に乗り出しました。
さらに今、取り組んでいるのが無料ランチと名付けたプロジェクトです。
昼ごはんも満足に食べられない子どもが多くいる農村の小学校に無料で給食を提供しています。
都市の住民や企業からの30億円に上る寄付に支えられています。

市民みずからで、子どもたちを捜そうとする動き、あるいは貧困問題をなくしていこうという、今のNGOの取り組みは、どのようにご覧なられましたか?
希望だと思います、中国にとって。
農村と都市のつながりが、中国は希薄な部分があるんですね。
都市の人たちも、自分たちの国であっても、農村でどのようなことが起こっているかということを知らない人さえいるわけです。
そういう中で、こういうソーシャルメディアを使って、NGOの人たちが社会的な関心を集めると、そして実際に行動する人たちも出てきたわけですから、それは中国にとって、大きな希望だと思います。
この多発する子どもの誘拐、先ほど解説していただいたように、その背景にあるのが格差の固定、都市と、そして農村のシステムの違いっていう、戸籍の問題から来る、格差の固定化という問題も見えてきたわけですけれども、中国経済に勢いがある中で、なんとか統一したシステムにする、あるいは国民皆保険制度を作るとか、これ、チャンスだと思うんですけれども、ところが少し勢いが、経済に勢いがなくなってきた。
本当にこれ、急がなくてはいけないのではないですか?中国にとって。
そうですね。
中国、経済成長して、お金を持っている国のように見えるんですけれども、全国で統一的に同じレベルで社会保障を普及させようとすると、ばく大なお金がかかるわけで、予算がかかるわけですね。
その中で経済が減速してきてますから、所得の分配という面でも、政策を進めなければいけませんけれども、そうしますと、成長が見込める分野への投資が減ってしまうわけですね。
ですので、分配と成長というものを、どのようにバランスさせるかというところで、とても難しいかじ取りを迫られていると思います。
そして、その都市部にいて、恵まれた制度のもとで暮らしている方々が、本当にどこまで痛みを分かち合うかというところですよね。
そうですね。
都市部の既得権益層の方々が、その分配を重視する政策に転換されれば、自分たちの身を切らなければいけない。
上海に住んでる人たちが、今、所得を10分の1に減らせといわれると、どれだけの人が受け入れるかということになりますよね。
問題は大きいと思います。
果たして、不満をコントロールできるか、かじ取り、難しいのではないですか?
そうですね。
かじ取りをするために、社会的な不満を抑えるためのコストというものも、どんどんかけようとするんですけれども経済的に減削すると、そこのコストも絞らなければならなくなるわけですね。
難しいと思います。
きょうはどうもありがとうございました。
2015/04/22(水) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“行方不明児20万人”の衝撃〜中国 多発する誘拐〜」[字][再]

中国で子どもの誘拐が社会問題に。犯罪組織によって農村部に労働の担い手や後継ぎとして売られるケースが多いという。中国社会のゆがみを象徴する誘拐の実態と背景に迫る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京大学大学院准教授…阿古智子,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京大学大学院准教授…阿古智子,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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サンプリングレート : 48kHz

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