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<ずっと支えたい 発達障害者支援法10年>(下) 中・高の連携

世界自閉症啓発デーPRのため青くライトアップされた名古屋テレビ塔の下で、発達障害者への理解を求める関係者=名古屋市で

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 東京都在住の女性(50)は、対人関係を築くのが苦手なアスペルガー症候群の長男(21)を横浜市で産み育てた。同市は早期発見と療育の先進地。四歳のときに診断が付き、専門の療育機関でコミュニケーションの方法を学ぶなどしてきた。

 小学校入学直前に都内に引っ越した後も、継続した支援を受けられると思っていたら、入学前に訪ねた教育委員会の就学相談窓口で「お子さんのような例は区で初めてです」と言われた。

 「アスペルガー症候群など、知的障害を伴わない発達障害の子は多いと思っていたのに、孤立感を覚えました。ショックでした」

 長男のクラスにも、コミュニケーションに問題のありそうな子は何人かいた。学校現場の工夫で、普通学級に属しながら一部の時間で特別支援教育を受ける仕組み(通級)を使っており、相談窓口との意識の“落差”に驚いた。

 女性は振り返る。「親も正しい知識を持っておらず、障害児扱いされたら嫌だと相談に行かない人が多かったのでしょう。もちろん、窓口の担当者の知識不足は問題」

 発達障害者支援法は、従来の障害の枠に入らない発達障害の子の支援が主な目的。施行前には、こんな自治体が多かった。

 今では、保育園、幼稚園、小中学校で「継続した支援」が意識されるようになってきたが、それが途切れてしまう「高校の壁」が新たな問題になっている。

 国立特別支援教育総合研究所の笹森洋樹総括研究員は「集団と異なる行動を、単なる問題行動とみなして修正しようとすると、不登校などの不適応になることもある」と指摘する。高校が教科担任制で、生徒を総合的に把握できないことが影響している。

 特別支援学校の高等部には、知的な遅れを伴う自閉症の生徒は「知的障害」、知的な遅れのないアスペルガー症候群などの生徒は「病弱」の名目で入学している。小中学校と高等部の連携が不十分で障害に応じた教育が分断されるうえ、高等部では就労に向けた指導が重視されている。このため、生徒の不登校や中退につながりやすい。同法の成立に貢献した辻井正次・中京大教授は「ゆがんだ体制だ。高校にも特別支援学級を設けるなど、選択肢を増やしてほしい」と訴える。

 四月二日の世界自閉症啓発デーを前に、東京で一日に行われた法律施行十年の記念イベントでは、超党派の「発達障害の支援を考える議員連盟」会長の尾辻秀久元厚生労働相(自民)が「支援法をもう一度、見直す必要がある」と改正に意欲を示した。議連からも「支援のプロが育っていない」「全国の発達障害支援センターが力不足」といった課題が出された。

 同法が施行された二〇〇五年に、自閉症の子を持つ立場で「ぼくらの発達障害者支援法」(ぶどう社)を出版したペンネーム・カイパパさん(愛知県在住)は、「この十年で早期発見と療育の体制は整備されたし、義務教育では教員を増員することも当たり前になった」と評価する。とはいえ、高度化・複雑化した社会からはじき出されてしまう若者が多い現状があるという。「就労の前段階である高校の取り組みも含め、若い世代全体、障害者全体の支援の中に発達障害者がきっちり位置付けられ、個々のニーズに合わせた支援が受けられるようにしてほしい」と今後の法改正を期待する。

 (編集委員・安藤明夫、安食美智子)

 

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