forGamer.netイギリス紀行:独占インタビューシリーズ<4> 3/6

Toby Gardインタビュー

トゥームレイダーの成功による開発者個人へのインパクト
「売れるゲームのデザインを,本当に自分で理解できているのかを試してみたいのです」−Toby Gard氏

 Confounding Factors社が社屋を構えるのは,英国鉄道で東に2時間あまり走ったブリストルという中堅都市である。大航海時代から産業革命に移行した17世紀には,この街も造船や鉄鉱業で栄華を極めたというが,現在ではその面影もほとんどなく,むしろ寂れたような印象のある田舎町である。イギリスの地方都市らしくノッポなビルは存在せず,街の中心部もカテドラル(聖堂)を中心にして成り立っている。
 Confounding Factors社は,そこから車で10分くらい走った民家沿いにある2階建てのオフィスにあり,通りには花屋や靴屋,パブなどが並んでいる。しかし,ウインドウショッピングを楽しんでいる人などいるわけでもなく,町全体がどこか眠たげな様子だった。こんなところに,ゲーム開発を生業とする若者達が集まっているのも不思議ではあるが,あのララ・クロフトを生み出した張本人がいることを知っている人が,いったい周囲にどれくらいいるのだろう?
 Galleonのデモを見せてもらった後,ほかの開発者のいる部屋から会議室へ移ってトビー・ガード氏にインタビューし,これまで日本では知られていなかったさまざまな事情を話してもらった。

forGamer.net(以下,4GN):
 こんなところにオフィスって妙な感じですね。

Toby Gard氏 (以下,ガード):
 いいところでしょ? 別に開発チームがロンドンとかダービー(Core Designの本拠地)にある必要なんてないしね。何しろ,ブリストルはロンドンと比較にならないほど地価が安いんです。

4GN:
 では,Confounding Factorsを設立された経緯からお聞きしていきます。「トゥームレイダー」第1作の後に,Core Designから退社したのはどうしてでしょう?

ガード:
 基本的にCoreに従事してきたデザイナーに過ぎない身分でしかないですから,自分の手掛けた作品の権利が全て会社に持っていかれて,自分の意思以外のところで動いていくのは面白くなかったですね。自分たちの会社を作ろうって思ったのも,キャラクターや技術のような自分で作ったものの運命を,自分たちで決めていきたかったからです。

4GN:
 トゥームレイダーのリードプログラマーを務めたポール・ダグラス(Paul Douglas)氏が,Confounding Factorsの共同設立者となってますね。

ガード:
 はい。でも,Galleonの技術的な骨格はかなり早い段階でできてしまったので,ポールの役どころ(プログラミング)がなくなってしまったんですよ。残念ですが,彼はすでにこの会社からも辞職してしまっているのです。

4GN:
 トゥームレイダーでは,ダグラスさんがプログラミングを,ガードさんがデザインをしたということですよね。

ガード:
 そうです。どういうゲームにして,どんなキャラクターを使うのかという部分を始め,ゲームデザイン全般を担当していました。あのプロジェクトは元々非常に小さなもので,第1作では最初から最後まで関わっていたのって4人くらいしかいなかったんじゃないかなあ

4GN:
 昔,オクラホマかどこかで「ララ・クロフトの生みの親」って人がニュースになってた気がするんですけど。

ガード:
 え,ホント!?

4GN:
 ええ。東海岸あたりの中年で,Coreにキャラクターデザインを売りつけたとかなんとか……。

ガード:
 まあ,そんなことを言い出すファンがいるくらいのソフトになっちゃったっていうことなんでしょうね(笑)。

4GN:
 元々,トゥームレイダーに関するアイデアというのは,どこから出てきたのでしょう? 当時は,一般的なアドベンチャーゲームというジャンルが,死につつある傾向になったと記憶していますが。

ガード:
 死にかけてましたよね。トゥームレイダーのそもそもの企画というのは,いろんなゲームの要素を積め込みたいというのがあって,「Ultima Underworld」のゲームプレイを基本に面白いものを作ってみたいと考えていたんです。そこへ,「Doom」を始めとするシューティングゲームが登場することとなり,あの軽快さに影響を受けることになったのです。だから,本来なら第一人称視点型のゲームになる予定だったんですけど,どうもしっくりしたゲームにならなかったんです。そうしているうちに,主人公の姿をゲーム画面に組み込むことで,日本のゲームに通じるようなビデオゲーム的なテイストになり,かつ映画のようなダイナミックな構図が取れるようになったんですよね。

4GN:
 そこで生まれたのが,ララ・クロフトですね。

ガード:
 そもそも当初は,主人公キャラクター自体も男にするか女にするかさえ決めていなくて,いろんなモデルを作ってみては置きかえるような作業をしていました。一番最初は男型のキャラクターでしたしね。でも,FPSでは女性のキャラクターモデルを使ってマルチプレイヤーモードを楽しむ男性プレイヤーも少なくなかったですし,(女性でプレイすることに)それほど違和感がないんじゃないかと考えるようになってきたのです。だって,女性のお尻を見ながらゲームを楽しんだほうが理に敵っているじゃないですか(笑)
 とくに,女性キャラクターにすることで女性ゲーマーも狙えるようになりますし,映画を例にするまでもなく,主人公が女性であったほうが物語に感情移入しやすいという利点を考えるようになっていったという経緯があるのです。

4GN:
 開発しているとき,U2がコンサートツアーのマスコットキャラとして使うというような社会現象にはなると思ってましたか?

ガード:
 いや。僕を含めた開発に携わっていた人間も,ヒットする予感はあっても,そこまでになるなんて思ってもいなかったですよ。作っているときは楽しかったので,その気持ちもプレイヤーに通じるだろうとは感じていましたけどね。でも個人では釈然としない部分があって,リリースされてから何日たっても,いったい何がトゥームレイダーを成功に導いたのかをずっと考えていました。それだけに,そういうフォーミュラを「Galleon」でもう1度考え直してみる必要があるのです。売れるゲームのデザインを,本当に自分で理解できているのかを試してみたいのです。

Confounding Factors社の外観。ブリストルの街から少し走った閑静な住宅街にひっそりと佇んでいる様子は,中にゲーム会社があるとは思えない 海外では数少ない"キャラクターゲーム"を作れるゲームデザイナー,トビー・ガード氏。いわく「(トゥームレイダー開発の)当初は,主人公キャラクター自体も男にするか女にするかさえ決めていなくて……」 第1作の「トゥームレイダー」は,セガと関係の深かったCore Designだけにセガサターンでリリースされた後,PCやプレイステーションに登場し,全世界で600万本という大ヒット作になった

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