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谷村新司が5年ぶりとなるオリジナル・アルバム『NIHON〜ハレバレ〜』を4月22日にリリースする。2003年に上海音楽学院の常任教授となった谷村新司が、生徒と向き合う中で「日本」についての作品を構想し、12年を費やして作り出したという本作。その全13曲には、どのようなメッセージが込められているのか。また、アリスのメンバーとして、70年代の日本のポップミュージックを牽引してきた谷村新司にとって、現在の音楽シーンはどのように映っているのか。独自のポップス論や創作方法のほか、海外ツアーで気付いたことや新アルバムのコンセプトについてまで、じっくりと語ってもらった。
「楽曲の作り方は結構攻めている方だと思います」
――谷村さんの音楽キャリアを振り返ると、アリス以来、洋楽的なものを咀嚼しつつ、日本のポピュラー音楽として、多くの人が口ずさめるような楽曲のあり方を提示されてきたと思います。それは意識的なものだったのでしょうか。
谷村:意識的というよりは、自然な流れですね。すべて自然のままに今まできているんです。22~23歳のときにアメリカに飛び出して、日本という国すら知らない人がまだたくさんいるような場所で日本語で歌うツアーをする、という……無茶だけど貴重な経験をさせてもらえたんですが、文化が違う人と接することに恐怖感はなかったです。いろんな国の人にナチュラルに接して、一緒にたくさん仕事もしてきたけれど、彼らのいいところは素直に学びたいと思ったし、彼らにないものが自分の内に絶対にある、ということもよくわかりました。たとえばある時、アメリカンポップスについて向こうのプロデューサーと話していると、「アメリカンポップスをコピーしている日本人がアメリカでデビューしても意味がないだろう?」と言われた。まさにそのとおりで、「ぼくもそれにはまったく興味がない」と答えました。だから、アメリカ人が絶対にできないものを自分は作っていく。でも、かといってふんどしをして和太鼓を叩くのはぼくらの日常ではないですよね。だから、「いまの日本を日本人として音楽でニュートラルに表現したい」と言ったら、彼はすごくよく理解してくれました。
――谷村さんの中では、ごく自然にアメリカンポップスを取り入れていったと。日本語の歌詞をポップスに乗せることには長い試行錯誤の歴史もあるわけですがーー。
谷村:僕の場合だと、言葉とメロディを同時に紡ぎ出して作詞作曲しているから、そういう苦労はまったくなかったですね。いろんな人たちが作った曲を聞いていると、「これはメロディが先で、言葉を無理に当て込んでいる」というのがすぐにわかりますが、どうやって音に言葉を当てはめるかという問題は、時代やジャンルがどうという話ではないと、僕は思います。理屈は昔から全部すっ飛んでいる(笑)。声質もあって保守派のような印象を持たれることが多いんですが、実はそんなことはなくて、楽曲の作り方としては結構攻めている方だと思います。山下達郎さんには「日本の音楽界で、タニさん(愛称)がいちばん過激だよね。ただ、まったく誰も過激だって気づいてないところがすごい」と言われたことがありました(笑)。周りの人がどう感じるかをあまり気にしないで、今表現したいことを正直にやっています。だからこそ、時代という概念や、どの世代の人に聞いてほしいというのもないし、音楽として「いいな」と思ってもらえれば、リスナーが何歳でも関係ないと思っています。
――なるほど。では今のお話からすると、あまり音楽的ルーツを意識することもないと?
谷村:あまりないですね。もちろん、個人的に好きな音楽はたくさんありますけど……実は、家に帰ったら一切、音を聴かないんです。その方が自分の中から出てきた音楽に対して新鮮な気持ちになれる。音のない状況にいるからこそ、いま自分が作りたい音楽を作れると思うんです。そういうこともあってか、あまり流行について考えたことがないですね。
――できあがった歌詞を推敲することは?
谷村:メロディと一緒に出てきた歌詞を見ては、いつも「なるほど」と思います。書き換えることは少ないですね。どうしても譜割りとして無理なときは、同じ意味で違うニュアンスの言葉にすることはありますけど、基本は生まれたままの形です。
――たしか代表曲「昴」も1~2時間で書き上げたと聞いています。歴史に残るような名曲が数時間でできあがったという。
谷村:「昴」が降りてきたのは、引越しの最中でした(笑)。曲が歴史に残るかどうかというのは、作った本人の意思とはまったく違うところで答えが出ていると思うんです。それは時代が拾い上げるものだと思う。流行りものを追いかけてしまいがちだけれど、いま一番注目されていないと思われているものが、次に来ることもありますよね。流行にとらわれず、いま何を感じて何を作るかというのは自然に任せています。
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