2011年11月17日

2011 ALL JAPAN直前企画⑬ 青森レポート(青森大学団体)

2011 ALL JAPAN 直前企画⑬ 青森レポート(青森大学団体)

「折れない心」

2011年11月14日。
ジャパンの開幕を、3日後に控えた青森大学の練習は、ぴりりとした緊張感に包まれていた。

試合直前なのだから、それもオールジャパンという最大の試合前なのだから、当然と言えば当然だろうが、この緊張感は、ただそれだけのものではなかった。

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インカレでは10連覇を成し遂げたものの、青大にしては、もう一歩つめきれない演技だったため、試合後の中田吉光の表情には、「10連覇を達成した監督」らしい晴れやかさはなかった。
彼が求めているものは、「勝ち」だけではないからだ。

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インカレでの演技は、悪くはなかった。
小さなミスはあったが、やはり「伝える力」はトップだな、と感じられたし、ひとりひとりの選手のよさがよく見えるように、じつによく工夫された演技だった。今年は厳しい、今年の青大は弱い、と言われながらも、工夫と努力で、しっかり連覇を守ったインカレでの演技には、十分価値があったし、花マルだったと思う。

しかし、私なんぞが「よくできました」と思うような演技では、ダメなのだ。
それは、中田が、そして青森大学が目指している演技ではない。
彼らは、もっと見る人の魂に触れるような、圧倒的な演技を常に目指しているのだ。工夫だの努力だのが見えるような演技では、満足できないのだと思う。

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「ジャパンでは、もっといいものを見せますよ」
と夏の栃木で、中田は言った。
それから3か月。
「もっといいもの」を目指して、彼らは練習を重ねてきた、はずだ。

この日、私が見た練習での演技には、その積み重ねは見てとれた。
動きの残像が見える複雑な移動が、次々に繰り出される青森大学らしい作品。実施も決して悪くない。インカレチャンピオンとして、ジャパンに乗り込むのに、なんら問題はない演技に見えた。

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しかし。
違うのだ。本来、彼らが目指していたもの、完成させつつあったもの、とは微妙に違っているのだ、という。

インカレからジャパンまでの間、青森大学の団体にはいくつかのアクシデントがあった。その影響がないとは言えない状態で、青森大学は今回のジャパンを迎えようとしている。
しかし、「アクシデント」とは言っても、そうなった場合を常に想定して、手を打っているのが中田監督だ。今回も、そういう意味では、中田の先を読む力はおおいに働いた。だから、度重なるアクシデントも、「想定内」と言えるのだ。

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だから、練習を見て、通しを見ても、私の目には「いつもの青大」「さすが青大」に見える。戦える演技、だと思う。
それが、青大の強さだ。
この日の練習を見ていても、正メンバーの6人以外に、必ず1人は、フロアマットの後方でメンバーと同じエネルギーを発しながら動いていた。ときには7人構成の演技に見えるくらいに、外にいる選手も動いていた。補欠なら当然、かもしれないが、次の瞬間、本当に自分の出番が来るかもしれない、という緊迫感を持ち続けることは難しい。しかし、彼は本気で、そう思いながら動いていた。

フロアの外にいる選手たちも、本気で自分がその中にいるような密度でメンバーたちの動きを見つめ、叱咤激励する。それは、青森大学では日常の光景だが、ジャパン直前ということを差し引いても、フロア外で見つめる視線も、より切実だった。
全員が、このチームを、なんとかしよう! と必死になっている。
その熱が、体育館に充満し、フロア上の選手たちにも伝わっている。

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インカレ10連覇、ジャパンは、2008年を除いて、2003年からは勝ち続けている青森大学だが、今大会には、ただならぬ危機感をもって臨んでいる。
奇しくも、2008年に黒星を喫したときも、会場が千葉だった。
そんな偶然さえも、今の青森大学にとっては苦々しい一致に思えるだろう。

ピンチ、には違いない。
万全、とも言えない。

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しかし、そういう状況でしか出ない力もあるし、そういう状況だからこそ伝えられるものもある、と私は思う。
なんだかんだ言っても、青大は「王者・青大」だった。楽には勝っていないというが、それでも勝ち続けてきた。
勝ち続けているときに、「勝ち」を目指していたころの必死さを持ち続けられる人間はいない。必死さは薄れ、「勝たなければならない」プレッシャーだけにとらわれてしまうこともある。

それを思えば、今の青森大学は、数年来ないほどの「必死さ」を手に入れたとも言える。そして、そういう「必死さ」ほど、見る者の心をうつものだ。
青大の演技は、いつも感動的だ。
しかし、「最上級の感動」を毎回味わえるかといえば、そうではない。
もちろん、それは青大に限ったことではないが。
男子新体操のとくに団体演技は、本当に不思議なのだ。
同じメンバーが同じ精度で同じ構成を演じたとしても、同じに感動できるわけではない。驚くほどに、そのときのチームの状態が演技に表れ、伝わってしまうのだ。そこに驕りがあれば、それは確実に伝わるし、必死さも伝わる。2009年ジャパンの青大の演技のように、亡くなった先輩への思いだって伝わった。

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だから。
今の青大だから「伝えられるもの」はきっとある。

私が見たいのは、「折れない心」だ。
そう、ちょうど10か月前に盛岡の「こん☆ステ」のラストで見せてくれた、あの「傷ついても傷ついても立ち上がり戦いを挑んでいく姿」だ。

あなたたちなら、きっとできる。

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