買主Xは,売主Aとの間で,Aが所有する唯一の財産である甲土地の売買契約を締結した。ところが,XがAから所有権移転登記を受ける前に,Aは,Bに対して,甲土地について贈与を原因とする所有権移転登記をした。
1 上記の事案において,⑴AB間の登記に合致する贈与があった場合と,⑵AB間に所有権移転の事実はなくAB間の登記が虚偽の登記であった場合のそれぞれについて,Xが,Bに対して,どのような権利に基づいてどのような請求をすることができるかを論ぜよ。
2 上記の事案において,Bは,甲土地について所有権移転登記を取得した後,Cに対して,甲土地を贈与し,その旨の所有権移転登記をした。
この事案において,⑴AB間の登記に合致する贈与があった場合と,⑵AB間に所有権移転の事実はなくAB間の登記が虚偽の登記であった場合のそれぞれについて,Xが,Cに対して,どのような権利に基づいてどのような請求をすることができるかを論ぜよ。
(出題の趣旨)
本問は,不動産に関する特定物債権の債権者について,二重譲渡関係が生じた場合とそうでない場合のそれぞれに関して,登記なくして物権変動を対抗できる第三者の範囲並びに債権者代位権及び債権者取消権の行使の可否の論述を通じてこれらの法理の理解を問い,さらに,転得者が生じた場合の法律構成の能力や権利外観法理に関する理解を問うものである。
第1 小問1
1 (1)合致する贈与があった場合について
(1) 総論
本件で,XはAから甲土地を購入しましたが,その登記はBのもとにあります。そのため,この登記を自己の下に移転したいと考えます(なお,甲土地については事案から明らかではありません。後述するように本件では登記の移転が問題になるのであり,その関係から外しているのではないかと思われます。そのため,以下はあくまで登記のみ論じます)。
(2) 登記を自己に移転する方法
本件で,XはAから甲土地を購入しているわけですから(555条),所有権を有しています(176条)。そこで,甲土地について登記を有しているBに対し,所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権を主張します。
- 債権者代位を論じる実益
- 上記出題の趣旨は「債権者代位権」について言及しています。これはどういうことでしょうか。上記のように不実な登記がなされていることを理由に,その登記の移転を求める請求のことを真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記請求といいます。上記のような二重譲渡事例において真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記請求を行うことは,判例(最判昭和30年7月5日民集9巻9号1002頁)も認めるところです。しかし,本来であれば,AからBへの登記でなく,AからXに対し登記すべきだったことを前提にすると,登記の移転はB→A→Xと行うべきではないかとも思います。実際にかかる観点から上記判例は学説の批判にあっています。判例を批判する学説は,XのAに対する移転登記請求権を被保全債権とし,AのBに対する登記請求権を代位行使すべきだとしています(いわゆる債権者代位(423条1項)の転用です)。もっとも,実務においては,方法の直接性から,かかる方式が認められているわけです。
- そうすると,わざわざ債権者代位を論じる実益があるのか,という話になるかと思います。しかし,それでは出題の趣旨が敢えて議論を要求しているのは単にそのような学説を議論して欲しいからでしょうか。私見としては,これは詐害行為取消との対比をして欲しかったのではないかと考えます。すなわち,債権者代位と異なり,詐害行為取消は転用を認めません。これは,債権者代位と異なり,詐害行為取消権には425条が存在しているからであるとされています。おそらく出題の趣旨が議論を求めたのは転用に関する議論の差異を見たかったかのではないかと思います。
- 中間省略登記に関する近時の判例
- 最判平成22年12月16日民衆64巻8号2050頁は「動産の所有権が,元の所有者から中間者に,次いで中間者から現在の所有者に,順次移転したにもかかわらず,登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において,現在の所有者が元の所有者に対し,元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは,物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の原則に照らし,許されないものというべきである。」としました。ただ,これはあくまで甲→乙→丙と順次に移転した場合に丙→甲という請求を許さないとしたものであり,本件のような事例は射程外かと思います(平成22年判決のような順次移転事例において,中間省略登記を認めた判例は今までなかったとされています。[1]
(3) 177条の「第三者」
これに対し,BもAより本件土地の贈与を受け,その所有権を取得しています。そのため,「第三者」にあたり,登記も移転しているのだから,Xはその所有権を喪失していると反論します。
これに関しては,旧司法試験平成17年度第2問において(178条の問題ですが)も解説しましたが,「第三者」とは,当事者及び包括承継人以外の者で,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者を指します。そして,主観面については,悪意者であっても保護されるが,背信的悪意者は「第三者」に当らないとされています。答案においてはこれを簡潔に論じることになるでしょう。
(4) 詐害行為取消権の要件[2]
仮に,Bが第三者に当たる場合,Xの請求は認められません。かかる場合,Xが更に請求を認める方法としては,Aの贈与を詐害行為取消権(424条1項本文)で取消すということが考えられるでしょう(甲土地が唯一の財産というのがポイントです)。
詐害行為取消権の要件は,まず,①債権者を害することを知ってした法律行為(詐害行為)(424条1項本文)が挙げられます。また,詐害行為取消権の趣旨である責任財産の保全の趣旨からすれば,②詐害行為前に被保全債権の存在[3],③債務者の無資力も要します。さらに,④受益者または転得者の悪意(ただし書き)⑤「財産権を目的」とする法律行為(424条2項)なども要件として挙げられます。
(5) 詐害行為の判断方法
債務者のなした法律行為が詐害行為に当たるかについて,判例は相関関係説(行為の客観的性質と主観的要素,債務者がとった手段の相当性を総合的に判断する見解[4])を採用しているとされます。
相関関係説に立つと,贈与のような無償行為は詐害性が強い行為であり,その認識をもって詐害行為と評価できることになります(これに対し,弁済のような義務的行為は,通謀を要するというのが一般的見解です)。
本件でも詐害行為性は問題なく認められるかと思います。
- その余の見解
- 以上の相関関係説に対し,客観的要件と主観的要件を分けて検討する見解を二元説といいます。予備校本の解答でたまに見かけますが,学説で採用するものも少なく,おそらく試験では上記相関関係説の認定が問われます。試験対策としては,相関関係説について抑えるべきでしょう。
- 中田債総253頁においては,詐害行為の成否の基準について以下の様に述べられています。
- 判例の詐害行為の成否の基準「第1は,債務者の財産…が行為によって減少するかどうかである。減少する場合には,行為が無償行為か,有償行為か,有償行為の場合は,減少額がどの程度か検討する。この場合,債務者の認識があれば足りる。第2に,債務者の財産が減少しない場合,配当率が減少するかどうかである。弁済や相当価格の物での代価弁済が問題となる。第3に,財産も配当率も減少しない場合でも,財産が不動産から金銭に代わることにより,隠匿・消費が容易になるのではないかである。相当価格での不動産売却,担保の供与による借入れが問題となる。第2・第3の場合は,①債務者の行為の目的・動機の妥当性,②目的・同期との関係での手段としての相当性,③債務者と受益者の通謀・害意の有無,④債務者が既に無資力状態にあったのか,その行為により無資力になったのか…などを検討する」としています。詐害行為判断の一つの目安になるかと思いますので,余裕がある方は押さえておきましょう。
(6) 被保全債権の内容
本件では,Xは自己のAに対する登記請求権を保全するため,詐害行為取消権を行使しますが,この様な非金銭債権(特定(物)債権)を保全するための,詐害行為取消権の行使は認められません。上記責任財産保全の趣旨からすれば,被保全債権はあくまで金銭債権でなければならないからです。
もっとも,判例(最判昭和36年7月19日民集15巻7号1875頁,百選7版Ⅱ16事件,百選6版Ⅱ15事件)は,特定債権も究極において損害賠償請求権に転化する,という理由の下,詐害行為取消権の行使を認めています。本件ではこれを論じることになるでしょう。
- 論点に関する注意点次に上記37年判決の射程は,あくまで詐害行為までに損害賠償請求権に転化していなくてよいとするまでです。最終的にどの時点までに転化していないといけないかは明らかにはしていません。これに関して,我妻債総180頁は,取消権の行使時点までに転化していればよいとしています[6]。さすがにそこまでの時点で転化していなければ,責任財産の保全とならないからでしょう。
- まず,これはあくまで,被保全債権を損害賠償請求権と捉え,その保全のために詐害行為取消権を行使するという構成です。特定債権の保全ではないことに注意してください。この様に,債権者代位と詐害行為取消権で転用に差異が生じるのは,425条が詐害行為取消権に存在するからであるとされています[5]。
- 受益者の悪意
- なお,我妻債総191頁は,受益者悪意要件に関して,詐害行為の当時,詐害行為の客観的要件を備えることを知っていること,としています。
(8) 詐害行為行使の効果
以上の要件を検討した結果問題となるのは,詐害行為取消権の効果として,自己に登記を移転するように求めることが出来るかということです。まず,詐害行為取消権は上記の様にあくまで,責任財産を保全するための制度であり,債務者に対し,登記を戻すにすぎないのだというのが結論になるでしょう。
それでは,次に登記がAに戻ってきた際に,XがAに対して有する登記請求権を行使し,登記の移転を求めることが出来るのかということです。こちらも,否定されることになるでしょう。判例(最判昭和53年10月5日民集32巻7号1332頁)もかかる見解に依拠しています。
- 登記請求権を行使できないことの理由付け[7]
- 登記請求権を行使できないことの理由付けとしては,損害賠償請求権に転化していることを挙げる見解もあります(潮見債総251頁等)。しかし,中田債総266頁は「二重譲渡の後,売主が第二買主から登記を取り戻した場合に,第一買主に対して登記移転義務を負うと解されていることと区別できるか」ともしています。私見としては,素直に責任財産保全の趣旨からすれば許されないとするので良いかと思います。すなわち,あくまで二重売買における登記の帰結は177条で決するべきであり,背信的悪意者でないと認定しておきながら,424条を経由し,登記の移転を認めることは出来ないと考えるべきでしょう(53年判決百選解説参照)。
2 (2)合致する所有権移転がない場合
合致する所有権移転がない場合とは,つまり,AB間の贈与が,虚偽表示の場合といえるでしょう(94条1項)。かかる場合,所有権移転がないわけですから,Bは登記の欠缺を主張する正当な利益がなく,第三者とはいえません。
Xの請求は認められることになるでしょう。
第2 小問2
1 (1)合致する贈与があった場合
(1) 背信的悪意者からの転得者
かかる場合,小問1同様に,Cに対し,登記の抹消及び移転登記を請求していくことになります。そして,前述のように,Cが背信的悪意者であれば,請求は認められます。
なお,これに関して,Bが背信的悪意者である場合,背信的悪意者からの転得者という論点が問題になります。これについては,旧司法試験平成17年度第2問でも解説したように,①背信的悪意者も権利自体は取得すること,②背信性はその者の性質との関係で個別的に検討すべき事由であることから,転得者であることをもって当然に排斥されるわけではありません。この点についても軽く触れておきましょう。
(2) 転得者に対する詐害行為取消権
Cが背信的悪意者でない場合,この場合にはCに対し詐害行為取消権を行使していくことになります。
この場合に,問題になりうるのは,仮に,詐害行為について,Bが善意でCが悪意のときどうかという問題です。これには以下の2説があります[10]。
- 絶対的構成
いったん善意者を経由した以上,それより後に登場する者に対しては,たとえ悪意であっても取り消すことができないという見解です。その理由[11]としては①取引の安定確保②善意受益者が取り消しを恐れ自己の財産の処分を躊躇するおそれを防止すべきというところにあります。
- 相対的構成(通説)
転得者が悪意であれば取消すことができるという見解です。その理由としては,①悪意の受益者はおよそ保護に値しないという価値判断②詐害行為取消の効力は相対効であり,善意受益者は悪意受益者と異なり保護に値しないことが挙げられます。
本件では,仮に相対的構成に依拠すれば,認められることとなります。ただし,この場合も移転登記請求までは認められないのは前述の通りです。
- 判例は相対的構成なのか
- 潮見債権284頁は,相対的構成を判例の見解であるとしています。この判例というのは,最判昭和49年12月12日金法743号31頁です。しかし,この判例については,直ちにそういってよいのかという問題があります。すなわち,同事件は受益者悪意,転得者善意,転転得者悪意の事例であるからです。そのため,答案においては,一応絶対的構成に軽く触れる実益はあるのではないかと思われます[12]。
2 (2)合致する所有権移転がない場合
合致する所有権移転がない場合,原則として,Cは無権利者との間で取引したにすぎず,権利取得しないのであり,登記の欠缺を主張する正当な利益を有しません。そのため,「第三者」にあたらず,所有権に基づく移転登記請求が認められるようにも思えます。
もっとも,Cとしては,Bの登記を信頼し,取引したのだ,そのため,94条2項により保護されるのだと主張するはずです。
もっとも,94条2項の善意とは,あくまで虚偽の外観についての善意であり,詐害行為については悪意ということもあります。かかる場合には,詐害行為取消権を行使できます(これは大判昭和6年9月16日民集10輯806頁も採用するところです)。
- 二重譲渡と94条2項の規律[13]
- 本件は,既にCが登記を移転しているため,かかる議論を行う実益がどこまであるのか難しいです(実際のところ,答案としては終盤で,紙面・時間ともに厳しいところです。そのため,答案で書くにせよ,軽く流すようにしましょう。ただ,Cが背信的悪意者であれば保護されないのは今まで論じてきた通りですから,軽くは触れておきたいです)。ただ,かかる論点は過去に旧司法試験(平成6年度第2問)でも出題されたことがありますから,余裕のある方は押さえておいてください。
- なお,かかる通説の見解を前提とすると,Xは177条の下,Cに敗れたのであり,自らに登記を移転するよう求められないという結論は,かかる場合にも是認できるでしょう。
- 本件のように二重譲渡の後,一方の転得者が94条2項で権利取得した場合,他方の譲受人との関係でその優劣をどう決するかという問題があります。かつて,有力説とされていた見解は次のように考えます。すなわち,善意の第三者の保護の必要性を強調し,と第三者が登記を自らに移転していなくとも,他方の譲受人との関係でも優先するという見解です(四宮説[14])。しかし,かかる見解には,94条2項は,あくまで善意の第三者の権利取得を基礎づけるものにすぎず,それを虚偽表示の当事者以外の者に対抗できるかは,一般原則である177条によるべきだとの批判があります。そのため,通説は,善意の第三者は登記を備えなければ,権利取得できないとしています。
参考答案
第1 小問1(1)
1 まず,XはAとの売買(555条)により,甲土地の所有権を取得している(176条)ところ,かかる所有権に基づく妨害排除請求権として甲土地に関し登記を有するBに対し,真正な登記名義の回復を原因とする移転登記請求権を行使する。
これに対し,Bは,自らはAより,甲土地を贈与(549条)され,その所有権を取得している。そのため,「第三者」にあたり,登記も移転している以上,Xはその所有権を喪失すると反論する。そこで,「第三者」の意義が問題となる。
(1) 177条の趣旨は,自由競争を前提に,不動産取引の安全を登記によって画一に決する点にあるところ,「第三者」とは,当事者及び包括硝敬人以外の者で,登記の欠缺を主張する正当な利益を有するものをさす。そして,自由競争のもと,単純悪意者は「第三者」であるが,それを逸脱し,信義(1条2項)に反するような背信的悪意者は,「第三者」ではない。
(2) 本件で,Bは贈与により,甲土地所有権を取得しているものの,背信的悪意者であれば,「第三者」でなく,請求は認められる。
2(1) もっとも,Bが背信的悪意者でない場合,かかる請求は認められない。そこで,かかる場合には,詐害行為取消権(424条1項本文)により,贈与を取消すことが考えられる。
(2) 債務者が債権者を害することを知ってした法律行為(詐害行為)は,当該法理行為の客観的詐害性と,当該債務者の主観面を相関的にみて判断する。本件では贈与がなされている。贈与は無償行為であり,それ自体責任財産を逸失させる行為である。特に,本件ではAの唯一の財産が甲土地であり,贈与によって,Aにさしたる財産はなくなる。かかる無資力状況を創出する贈与は客観的な詐害性が高く,Aが認識しつつ贈与に臨んでいると考えられる以上,詐害行為といえる。
(3) そして,424条の責任財産保全(425条)の趣旨からすれば,被保全債権が詐害行為前に存在していること,債務者の無資力を要するが,本件の被保全債権は,XのAに対する,売買契約に基づく移転登記請求権である。これは,上記贈与の前に生じていた。また,唯一の財産である甲土地の贈与で,Aは無資力となる。
(4) もっとも,424条の趣旨からすれば,被保全債権は金銭債権であることを要するはずである。しかし,上記のように被保全債権は特定物債権(非金銭債権)である。
ア 特定物債権も究極的には金銭債権に転化するのであり,詐害行為取消権行使までに金銭債権に転化していれば,責任財産保全の趣旨は妥当し,その要件は満たす。
イ 本件で,AがBに登記を移転した時点で,Xの登記請求権は,Aの責めに帰すべき事由により履行不能になり,損害賠償請求権(415条前段)という金銭債権に転化する。そのため,行使時に金銭債権に転化しており,かかる要件を満たす。
(5) また,受益者であるBが甲土地が唯一の財産であることを知って譲り受けたような場合は,424条1項ただし書の要件も満たす。なお,本件贈与は「財産権を目的としない法律行為」(424条2項)とはいえない。以上から,要件は満たす。
(6) もっとも,かかる場合,Xはその効果としては,責任財産保全の趣旨及び177条の潜脱を防止する観点からして,自己に登記の移転は請求できない。また,かかる趣旨を貫徹するため,Xは,Aの下に戻った登記を自己の下に移転するよう請求することできない。あくまで,XはAに対し,上記損害賠償を請求するのみである。
第2 小問1(2)
かかる場合,AB間の贈与は虚偽表示であったといえる(94条1項)。そのため,Bは甲土地の所有権を取得しておらず,「第三者」ではない。そのため,Aの所有権に基づく移転登記請求権は認められる。
なお,このような場合,物権移転の実態を反映するという登記制度の趣旨からすれば,Xは,AのBに対する登記請求権を債権者代位権(423条1項本文)の転用で行使し,Aの下に戻った登記を自己に移転させるのが登記制度から望ましい。上記手段はあくまで直截的処理のための例外である。このように債権者代位と詐害行為取消で転用に差異が生じるのは,後者に425条が存在するためである。
第3 小問2(1)
1 かかる場合,XはCに対し,小問1同様に所有権に基づく移転登記請求権を行使する。Cが背信的悪意者であれば,請求は認められる。なお,Bが背信的悪意者であっても,Cの背信性が当然に認められるわけではなく,かかる事実が結論を左右するものではない。
2 Cが背信的悪意車でない場合,「転得者」Cが詐害行為に悪意であれば(424条1項),詐害行為取消権を行使することになる。この際,Bが善意で,Cが悪意であるような場合に,なお詐害行為取消を認めてよいか問題になるが,①悪意の転得者は保護に値しないこと,②取消の効果は相対効(425条)であり,善意の受益者の地位を何ら害さないことからすれば,認められる。
第4 小問2(2)
1 かかる場合,原則として,Cは無権利者からの譲受人であり,Xの所有権に基づく移転登記請求権は認められる。もっとも,Cはこれに対し,自己は虚偽表示について善意であり,94条2項により,保護されると反論する。まず,この場合,Aとの関係では,Aに虚偽の外観作出の帰責性があり,Cは無過失であること,権利保護要件の登記を要しない。また,Aから権利取得する以上,Aとは当事者の関係にあり,対抗要件の登記も要しない。そのため,CはAから甲土地の所有権を取得する。ただし,これはあくまでAからの承継を基礎づけるもので,Xとの優劣については,なお対抗関係として登記を具備する必要がある。これは具備している。そのため,Cが背信的悪意者でない限り,請求は認められない。
2 もっとも,94条2項の善意と,424条1項ただし書の善意はその内容が異なるのであり,Cが別途詐害行為につき悪意であれば,詐害行為取消権を行使し,Aに対し,損害賠償を請求することとなる。
[1]金子直史「判解」民事篇平成22年度(下)781頁
[2]潮見債権総246頁,中田債権238頁
[3]もう少し具体的に説明すると,詐害行為以前に発生した債権の債権者は,詐害行為以前の債務者の一般財産を引当てにし,取引に入っているため,責任財産回復について保護すべき利益を有するという考えによります。
潮見債総247頁
[4]潮見債総263頁,中田債権248頁
[5]潮見債総241頁
[6]中田債権265頁も同旨です。なお,36年判決補足意見も通説同様の立場を採っています。
[7]53年判決の調査官解説(篠田省二「判解」民事篇昭和53年度461頁)も金銭債権への転化を理由として挙げていません。
[8]中田債権236頁
[9]なお,判例(大判明治41年11月14日民録14輯1171頁等)は,虚偽表示である場合に,敢えて詐害行為取消権を行使することを認めていません。上記41年判決の原審である高裁判決もかかる見解に依拠し,虚偽表示のみ判断しました。
しかし,学説(前掲我妻債権総論177頁)には,虚偽表示と詐害行為の機能の同質性から債権者が詐害行為取消権を行使した場合にはそれを認めるべきとの見解も少なくなく,内田権総・担物298頁では,虚偽表示であることを主張し,詐害行為取消権を封ずることは信義則上許されないとしています。
もっとも,本件のような特定物債権が問題になる事例においては,詐害行為取消権によることは,却って意にそぐわない結果となるのであり,敢えて論じる実益は乏しいでしょう。
なお,判例は,転得者が虚偽表示につき善意であり(94条2項),詐害の事実について悪意であれば,取消しうるとしています(大判昭和6年9月16日民集10輯806頁)。
[10]潮見債権284頁
[11]そもそも詐害行為が成立するのかという問題
上記理由づけの他に,絶対的構成は,受益者が善意である以上,詐害行為が成立する余地はないのではないかとしています[11]。もっとも,これに対し,相対的構成からは,受益者の悪意は詐害行為取消権の成立要件ではなく,あくまで阻却要件であって,問題ないとの反論があります。
新注民10-Ⅱ債権(1)899頁
[13]山本総則162頁
[14]四宮=能見・総則167頁