河童のひとりごと

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旧司法試験平成17年第2問

平成17年度第2問

 

 Aは,Bから3000万円を借り受け,その担保としてAの所有する甲土地及び乙建物(後記の庭石を除いた時価合計2900万円)に抵当権を設定して,その旨の登記をした。甲土地の庭には,抵当権設定前から,庭石(時価200万円)が置かれていたが,抵当権設定登記後,A宅を訪問したCは,同庭石を見て,それが非常に珍しい物であったことから欲しくなり,Aに同庭石を譲ってくれるよう頼んだところ,Aは,これを了承し,Cとの間で同庭石の売買契約を締結し,同庭石は後日引き渡すことにした。このAC間の売買契約を知ったDは,日ごろよりCを快く思っていなかったことから,専らCに嫌がらせをする意図で,Aとの間で同庭石の売買契約を締結して,Cが引渡しを受ける前に,A立会いの下で同庭石をD自らトラックに積んで搬出し,これを直ちにEに転売して,Eに引き渡した。

 この事案について,次の問いに答えよ。

1CE間の法律関係について論ぜよ。

2Bは,Eに対して物権的請求権を行使したいが,その成立の根拠となるBの主張について考察せよ

 

 

(出題趣旨)

 動産の二重譲渡(背信的悪意者,背信的悪意者からの転得者等)及び抵当権の効力(抵当不動産の従物,抵当権の追及力・対抗力,物権的請求権)に関する基本的理解を試すとともに,関係者の主観的態様(善意・悪意等)により適切な場合分けをし,整合的に論述する能力を問うものである。

 

第1 小問1について

1 まず,Cとしては,庭石をもっているEに対し,それは自分が買ったものであるのだから自分に渡して欲しいと考えるでしょう。

そこで,CはEに対し,所有権に基づく返還請求権としての庭石引渡しの請求を行います。この要件は①自己所有と②相手方占有であるところ,Cは,A所有の本件庭石を売買契約(555条,176条)により取得し,①を満たします。また,②についても庭石はEが占有しています。

 

2 Eの反論:対抗要件具備による所有権喪失の抗弁

 これに対し,Eも自分も庭石を買ったのであり,かつ先に引き渡しを受けているのであるから,そのような請求には応じられないと考えるでしょう。

すなわち,Eは自己が「第三者」(178条)に当たり,「引渡し」を受けている以上,Cは所有権を喪失すると反論[1]します。そこで,「第三者」の意義が問題となる。

 178条の趣旨は,自由競争の範囲内において引渡しによる公示方法を持って動産の権利関係を明確にし,動産取引の安全を図ることにあります。そのため,「第三者」とは,かかる趣旨,文言からして,当事者及びその包括承継人以外のもので,引渡しの欠缺を主張するに正当な利益を有する者をさすと考えることができます。

 本件で,Eは当該庭石について,売買により所有権取得しており(555条,176条),Cとその所有権を争うものである以上,「第三者」といえるようにも思えます。

 

  • 本問の出題の意図
  • 177条の第三者の議論を応用できるかが問われているといえるでしょう。177条の議論を類推しながら,自分なりに論証を行ってください。なお,実際に判例において「当事者及び包括承継人以外の者で,引き渡しの欠缺を主張するのに正当な利益を有するもの」としたものとして,最判昭和33年3月14日民集12巻3号570頁があります。

 

 

3 それに対する反論:Eの主観が悪意だとしたら

 これに対して,CはEが本件Cの権利取得につき,悪意であるとしたら(上記出題趣旨からもわかるように,本件では場合分けが要求されています),「第三者」に当たらないと反論することが想定されます。

 「第三者」に当たるためには悪意者であってもよいです。なぜなら,単なる悪意者は正当な自由競争の範囲内にあるし,文言上善意が要求されていないからです。

 もっとも,背信的悪意者は,自由競争の範囲を逸脱し信義(1条2項)に反する者であるため,登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者とは言えず,「第三者」には当たりません。

本件でも,Eは背信的悪意者ではないといえます。

※ 後述するDに対する事情との対比で,少なくとも背信的悪意者ではないでしょう。

  • 判例は背信的悪意者論について,信義則ではなく,177条の枠内で議論しているとされます[2]。これが後述の背信的悪意者からの転得者の議論にも影響するのであり,本論点はその前提として出題されたといえます。
  • 背信的悪意者排除論などは主に177条で議論されてきたことですが,178条も同様に議論してよいでしょう。

 

4 背信的悪意者から承継人であることの反論

もっとも,本件DはAに専らいやがらせをする目的でCから庭石を購入しており,背信的悪意者といえます。かかる場合にはAはDに自己の所有権を対抗することができ,かかる地位を承継したEにも対抗できるのではないでしょうか。

 背信的悪意者は,信義に反し,登記の欠缺を主張できないだけで,全くの無権利者というわけではないです[3]。そのため,転得者も「第三者」としての客観的地位は有しているといえます。また,背信性は属性的なもので,転得者が必ずしも背信性を有するものではありません。

 したがって,転得者自身が背信的悪意者でない限り,「第三者」に当たります。

本件でもE自身が背信的悪意者でないと考えれば,「第三者」に当たり,請求は認められません。

  • 不動産の事例ですがかかる帰結にたった判例として,最判平成8年10月29日民集50巻9号2506頁(百選Ⅰ6版57事件,Ⅰ7版58事件)があります。

 

  • 転得者が背信的悪意者といえる場合はどのような場合か
  • 上記平成8年判決の調査官解説(大橋弘「判解」民事篇平成8年度(下)845頁)は,「どのような場合に転得者自身が背信的悪意者と評価されるか,例えば丙が背信的悪意者であることを丁が知ることで足りるかどうかについては,本判決は明らかにしていない」としています。本解説は学説の見解として,転得者は第2の信義則違反について認識があれば,それ以上,自ら積極的に不当な二重売買に関与しなとも,信義則違反と解してよいとする見解を紹介しています(同848頁)。そうすると,本件でもDが嫌がらせをする意図をもっていたことについて悪意であればEは背信的悪意者であるといっていいのでしょうか(他方で,前主の背信性を知っていれば直ちに背信的悪意者といってしまうことは取引の幅を狭めてしまうのではないかとも思えます。両説存在しうる議論ではないでしょうか。答案ではチャレンジして書いてもいいですが,そこまで書けなくても十分合格レベルです)。

 

  • 背信的悪意者にあたる事例としての一般的な紹介[4]
  • まず,実質的に当事者といえるような場合である。例えば,近親者である事例や,法人と代表者の関係がある事例です。次に,不動産登記法5条に準じるような場合である。例えば,第三者が相手方の登記移転を妨害している(最判昭和44年4月25日民集23巻4号904頁)ような場合(不公正な某会社で自給競争者とはいえない)や原権利者相手方間の紛争の仲介者であった(最判昭和43年11月25日民集22巻12号2671頁)場合(競争に身を置くことが許されない)です。また,不当に利益を上げようとする意図,他人の利益を害する目的がある場合もこれにあたります。不公正な妨害者であるからである例えば,恨みを晴らすために行った場合(最判昭36年4月27日民集15巻4号901頁)や,廉価で買い受け相手方に高値で買い取らせようとした場合です(最判昭和43年8月2日民衆22巻8号1571頁)。最後に,矛盾挙動を有している者です。例えば,第三者が相手方の権利取得を承認するような態度を取りながら,権利取得をするに至ったような場合が挙げられます(最判昭和35年3月31日民集14巻4号663頁)。

 

第2 小問2について

1 本件でBとしては,せっかく抵当権を設定したにも関わらず,そこに設置されていた庭石が持ち出されてしまいました。特に本件では庭石を抜いた担保価値は2900万円であり,このままでは被担保債権3000万円は全額担保されません。そこで,Bとしては庭石を持っているEに対し,それを返して欲しいと考えるはずです。

そこで,BはEに対し,抵当権に基づく妨害排除請求権としての庭石原状回復請求[5]を主張することとなります。

 これが認められるためには,①抵当権の効力が庭石に及ぶこと及び②それに対する妨害が存在することが認められなければなりません。

 

2 庭石に対する抵当権の効力(①)

(1) そこで,Bは本件庭石が抵当目的物である甲土地の「付加…一体…物」として抵当権の効力が及ぶことを主張(370条)します。

 しかし,庭石は「従物」(87条2項)に当たります[6]。そこで,Eとしては物理的に独立性を有する従物は「付加…一体…物」に当たらないとの反論を行います[7]

  • 従物の意義
  • なお,従物の要件[8]について「常用に供する」とは,主物の経済的効用を補助するために継続的に役立ちせしめるものであることを指します。「自己の所有に属する他の物」とは,二つの物が同一の所有者に属し,また,独立した存在でなければならないとされます。「附属」とは,従属していると認められるほどの場所的関係にあることです。両者が結合している場合には,従物ではありません。答案においては以上の意義を踏まえ,端的に当てはめることができればより丁寧な答案といえるでしょう。

 

(2)「付加…一体…物」の意義

 370条の趣旨は抵当権者に目的物の交換価値を支配・把握させることにある。そこで,「付加…一体…物」とは,抵当目的物と経済的価値的に一体であるものをいいます。

 そして,従物は主物の効用を継続的に高めるものであり,主物と経済的価値的に一体であるといえるので,従物は「付加…一体…物」に含まれます。

本件でも,庭石は「付加…一体…物」に含まれ,抵当権の効力自体は及びます。

 

  • 抵当権設定時の従物
  • 抵当権設定時の従物に抵当権の効力が及ぶことに争いはありません。そのため,本問でも上記論点を長々と論じる実益はないかもしれません。後述の分離物に対する処理が重要であり,ここはあっさり終えましょう。なお,抵当権設定後の従物に及ぶかについて,かつてこれを否定的に解した判例もありましたが,現在は争い[9]なくこれを認めるといってよいでしょう。理由としては,370条の趣旨である価値把握は及んでいること.換価金の配当において錯綜を回避することが挙げられます[10]最判昭和44年3月28日民集23巻3号699頁(判例百選Ⅰ6版84事件,Ⅰ7版82事件)も抵当権設定時の従物について370条により効力が及ぶとしています(厳密にいえば何条によるかは明示していません。しかし,判旨の流れからして,調査官解説(鈴木重信「判解」民事篇昭和44年度(上)149頁)は370条としています)。なお,設定後の関係について,判例はありません。

 

3 搬出物に対する規律

もっとも,本件庭石は抵当目的物上から搬出されている。その場合に,なお,その変換を請求できるのでしょうか。

 これについては,大別すると以下の2通りの考えがあります。

まず,前提として,たとえ搬出されたとしても,抵当権の効力は及んでいると考えていいでしょう。しかし,問題は分離物に及ぶ抵当権の効力を第三者に対抗できるかがです。

 

公示説[11]

抵当権は登記を対抗要件とする非占有担保物権であるところ,分離物における抵当権の効力は外部から認識しえないのであり,分離物が登記による公示の領域外にある場合には分離物に効力は及ぶものの,それを第三者に対抗できないと考える見解です(177条)。もっとも,第三者が背信的悪意者であれば別です。

※「公示の衣」というキーワードでごまかすのではなく,しっかり説明しましょう。

 

即時取得

 抵当権者の保護を重視し,第三者がこれを買い受けても,即時取得の要件を満たさない限り抵当権の追及効があるとする見解です。

 

 

本件で前者の見解に立てば,甲土地から搬出されてしまっている以上,第三者たるEが背信的悪意者でない限り,対抗できないこととなります[12]。もっとも,Eが背信的悪意者[13]であったような場合は,対抗でき,請求が認められます。

これに対し,後者の見解に立つと抵当権の効力が及んでいることについて悪意ないし有過失であれば,即時取得の要件は満たさないため,請求が認められます。

このような差異は,本論点について,優先弁済を受ける立場にあったはずの抵当権者を強く保護すべきか。それとも,公示がない以上,取引の安全を優先すべきだと考えるのか。その差異であると思われます[14]

 

  • 判例の理解 
  • 判例この論点は特に相手方の主観が悪意・有過失の場合に問題になります。学説は後者の立場に立つものが多く,それらの立場からは,最判昭和57年3月12日民集36巻3号349頁(百選Ⅰ6版89事件,Ⅰ7版87事件)が,即時取得が成立するまでは原状回復ができる,としたことが主張されています。しかし,これは工場の判例であり,同列には論じるはできないとの理解もでき,判例の射程は及ばない中での議論といえるでしょう[15](工場法は供用物権についても登記され,一応の公示がある点で民法と異なります)。

 

  • 公示説からなお抵当権者の保護を強める見解 
  • かかる論点につき,前掲道垣内担保物権181頁は以下のように述べています。占有者が設定者である場合,設定者である以上,対抗要件の不備を主張することはできない。抵当不動産上に存する時点で譲り受けた者も同様である(もっとも,抵当権の負担のない所有権であることに善意・無過失である場合は即時取得(192条)の余地がある)。搬出後に処分を受けた者にはその者が背信的悪意者でない限り主張できない。

 

  • 担保価値に対する影響
  • なお,搬出により,不動産の価値が減少し,被担保債権の完済が受け得なくなることを物権的請求権の行使要件とする学説もあります(これに依拠すれば,低下後の不動産の価値は2900万円で被担保債権3000万円を下回るという認定を要します)。しかし,抵当権は不動産全部に及ぶ権利であり,不要と考えるべきでしょう[16]

 

  • 仮に請求を認めた場合の救済手段
  • 仮に,請求を認めた場合に,原則からすれば抵当権は被占有担保物権なのであり,抵当目的物に本件庭石を戻すことになりそうです。しかし,戻したところで再度搬出されてしまうのではないかとも思えます。そのためBのもとに戻すというのが一つ妥当な処理でしょうか(不動産の事例ですが,最判平成17年3月10日民集59巻2号356頁(百選7版Ⅰ88事件,百選6版Ⅰ88事件)はこれを認めています)。

以 上

 

 

参考答案

第1 設問1

1 CはEに対して所有権に基づく返還請求権としての庭石引き渡し請求を主張する。原則として,CはAより本件庭石を購入し所有権を取得し(555条,176条),Eはそれを占有しており,請求は認められるようにも思える。

2 これに対し,Eは反論として自己が上記庭石につき「引渡し」をうけ,対抗要件(178条)を具備した以上,Cは所有権を喪失したと反論する。そこで,本件Eは「第三者」に当たるか。その意義が条文上明らかでなく問題となる。

(1) 178条の趣旨は自由競争の範囲内において,引き渡しにより公示を図り,それによって動産取引の安全を図るところにある。かかる趣旨と,文言からして,「第三者」とは当事者及びその包括承継人以外のもので、引渡しの欠缺を主張するに正当な利益を有する者をいう。

(2) 本件で、Eは売買により権利取得している(555条、176条)。そのため,本件庭石の権利関係に利害関係を有し,当事者及びその包括承継人以外のもので,引渡しの欠缺を主張するに正当な利益を有する者にあたる。

3 これに対して,仮にEが本件Cの権利取得に悪意の場合,それ故にEは「第三者」ではないとCが反論することが想定される。そこで,悪意者は「第三者」か。

(1) 上記趣旨からして,単なる悪意者は自由競争の範囲内で「第三者」といえる。もっとも,信義(1条2項)に反するような背信的悪意者の場合には,正当な利益を有さず「第三者」ではない。

(2) そのため,単にEがAC間の売買契約について悪意者の場合には,Eは「第三者」であり,Cの反論は失当である。

4 もっとも,更にCとしては本件Eの前主Dはもっぱら嫌がらせ目的でCから庭石を購入しており,信義(1条2項)に反するような背信的悪意者である。そして,かかる前主から権利取得した者は「第三者」ではないと反論することが想定される。そこで,背信的悪意者からの転得者は「第三者」とはいえないのか。

(1) 背信的悪意者が「第三者」に当たらないのは上記のようにその背信性にある。そして,背信性はその主観に影響を受けるもので一身専属的なものであるから,背信的悪意者からの転得者であることのみをもって「第三者」ではないとはいえない。そのため,転得者自身が背信的悪意者である場合を除いて「第三者」といえる。

(2) 本件でもEが背信的悪意者でなければ「第三者」といえる。

5 そのため,かかる場合,Cは所有権を喪失し,Cの請求は認められない。

第2.設問2

1 BはEに対して抵当権に基づく妨害排除請求権としての原状回復請求を主張する。

まず,本件Bは抵当権者である。もっとも,Eが庭石を運び出したことをもって抵当権に対する妨害といえるか。そのためには,庭石が抵当目的物である甲土地の「付加…一体…物」として抵当権の効力が及ぶことを主張(370条)する必要がある。本件庭石は抵当目的物と同一所有者Aが,目的物上に景観などの庭の効用を向上させるため設置した独立の物であり,「従物」(87条1項)にあたる。そこで,従物のような物理的な独立性を有する物が「付加…一体…物」といえるか。「付加…一体…物」の意義が条文上明らかでなく問題となる。

(1) 370条の趣旨は抵当権者に目的物の交換価値を支配・把握させることにある。そのため、「付加…一体…物」とは、物理的な一体な物ではなく,抵当目的物と経済的価値的に一体であるものをいう。

(2) そして、本件で問題になっているような従物は主物の効用を継続的に高めるものであり、主物と経済的価値的に一体であるといえるので、「付加…一体…物」に含まれる。

 よって,これを持ち出す行為は本件抵当権に対する妨害といえる。

2 もっとも,本件では既に抵当目的物上から持ち出されている。かかる場合でも,抵当権の効力が及んでいるといえるか。

(1) 上記370条の趣旨からして搬出物にも効力は及ぶ。もっとも,抵当権は登記を対抗要件とする非占有担保物権であるところ、分離物における抵当権の効力は外部から認識しえないので、分離物が登記による公示の領域外にある場合にはそれを第三者に対抗(177条)できないと考える。

(2) そのため,原則として搬出されている以上,第三者Eには対抗できない。

 もっとも,仮にEが抵当権の効力が及んでいたことについて背信的悪意者である場合は,対効力が及んでいないと主張することはできず(177条)請求を認める余地はある。もっとも,単純悪意である場合には請求は認められない。

これは,抵当権が登記によって公示されている以上,それを欠けばいくら抵当権者が優先弁済を受ける権利を有していても第三者を保護すべきなのであり,やむを得ない帰結である。

 よって,かかる場合には請求は認められる。

以 上

 

 

[1]Cが引渡しを受けていない以上,CはEに対抗できないという設定の仕方も全く不可能ではありません。しかし,Eが引渡しを受けている以上,Cがそれを備える余地は事実上なく,所有権喪失とした方が実態に沿ったものになるかと思います。

 なお,このような攻撃防御の構造については,新問題研究80頁以下参照

[2] 大橋弘「判解」民事篇平成8年度(下)840頁

[3]これは背信的悪意者論をあくまで177条の枠内で納める帰結です。

[4]佐久間物権79頁以下

[5]返還請求権とする見解もありますが,その場合でも抵当権者に返還されるのではなく,抵当目的物に返還されるとされています(例外的に抵当権者への引渡請求を認める見解もあります)。なお,原状回復請求権の法的性格の詳細については篠田省二「判解」民事篇昭和57年度227頁が参考になります。

[6]最判昭和44年3月28日民集23巻3号699頁

[7]この論点につき,いちいち従物概念を出す必要はなく,端的に370条の解釈問題とするべきとする見解もあります。しかし,370条の解釈において,いかなる結合の度合いを要するかの解釈基準として,附合物や従物という考えは必要であるとされています。試験的にも,そのような検討が無難でしょう。

古積健三郎「抵当権の効力及ぶ範囲(1)―従物」百選6版Ⅰ171頁

[8]我妻=有泉コンメ194頁

 新注民(2)総則(2)634頁

[9]これについて,87条2項の問題とするか370条の問題とするかに争いはあります。これについては,87条でドイツ法の従物という考えを導入しておいて,従物概念のないフランス法の考えを導入したことによるゆがみとされます。両者は別の沿革から生じているものであり,370条で差し支えないでしょう。

 道垣内担物137頁

[10]道垣内担物138頁

[11]答案を見ていると「公示の衣」というキーワードを使って説明しているものをよく目にします。しかし,これは公示説をわかりやすく説明するための比喩表現であり,答案で使用するのは適当でないかと思います。

[12]その場合には通常抵当権侵害に基づく損害賠償請求をAやDに対し行うこととなります。もっとも,本問では設問の形式からしてその見当は求められていないでしょう。

[13]第三者が背信的悪意者である場合とはどのような場合なのかは悩ましい問題です。私見ですが,上記の様に前主が背信的悪意者であることに悪意であれば背信的悪意者であるとの議論がある以上,抵当権が及んでいることを知りながらそれを譲り受けた場合には背信的悪意者であると評価する解釈論もありうるのではないでしょうか。

[14]小問1は自由競争の範囲内での同一目的物について,いずれも売買を行った当事者の対立でした。それに対し,小問2は,一方は優先弁済を約束されていたもので,他方は取引によって公示なき動産を取得したものです。小問2については,抵当権者と第三者のそもそもいずれを優先するか悩ましいものであり,それを狙った出題といえるでしょう。

[15]篠田省二「判解」民事篇昭和57年度229頁も及ばないとします。

[16]道垣内担物181頁