工場用機械メーカーAは,Bから工場用機械の製作を請け負い,これを製作してBに引き渡した。その工場用機械(以下「本件機械」という。)は,Bが使用してみたところ,契約では1時間当たり5000個程度の商品生産能力があるとされていたのに,不具合があって1時間当たり2000個程度の商品生産能力しかないことが判明した。そこで,Bは,直ちに本件機械の不具合をAに告げて修理を求めた。この事案について,以下の問いに答えよ。なお,各問いは独立した問いである。
1 Bはこうした不具合があったのでは本件機械を導入する意味がないと考えているが,本件機械を契約どおりの商品生産能力の機械とする修理は可能である。Aが修理をしようとしないので,Bは代金を支払っておらず,また,Bには商品の十分な生産ができないことによる営業上の損害が発生している。この場合に,Bの代金債務についての連帯保証人であるCは,Aからの保証債務の履行請求に対してどのような主張をすることができるか。
2 Aが修理をしようとしないため,Bはやむを得ずDに本件機械の修理を依頼し,Dは修理を完了した。その後,Bは,営業不振により高利貸からの融資を受ける状態になり,結局,多額の債務を残して行方不明となり,Dへの修理代金の支払もしていない。この場合に,Aは本件機械の引渡しの際にBから代金全額の支払を受けているものとして,Dは,Aに対してどのような請求をすることができるか。
(出題趣旨)
小問1では,主債務者が契約を解除できる場合や損害賠償請求権を有する場合に,保証人がどのような主張をすることができるかを論じることが求められる。また,小問2では,契約の履行行為として修理をしたことにより第三者が利益を受けた場合に,債務者が無資力であることを踏まえて,どのような事案の解決が適切であり,それを法的にどのように実現するかを考察することが求められる。
第1 小問1について
1 総論
本件で,Aは保証契約に基づいてその履行請求を主張します。それに対し,Cがどのような反論を行うか考えていくこととなるわけです。まず,答案で表す必要があるかは微妙なところですが,思考順序としては,C自身地位に基づく抗弁権により反論を行うことが考えられます。Cは保証人ですから,検索・催告の抗弁権(452条、453条)が思い出されるかと思います。しかし,本件の保証には連帯保証の特約(454条)があるため,この主張が排斥されてしまいます。しかし,そもそも本件の契約においては,Aが提供した本件機械に不具合があるのであり,Aがその代金を請求してくること自体どうなのかという問題があります。これは,Bが「機械を導入する意味がない」と考えていることからも明らかでしょう。そこで,CとしてはこのBの不満を肩代わりして反論していけないか考えていくわけです。
第2 解除
1 Bの解除権
Bは「機会を導入する意味がない」と考えているわけですが,これは契約を白紙に戻したいという意味でしょう。具体的には解除が考えられるのではないかと思われます。本件はAB間に請負契約(632条)が締結されているところ,担保責任による解除(635条本文)が考えられるでしょう。
635条について,「瑕疵」とは,契約の趣旨に照らして目的物が通常有すべき品質・性能を欠いていることをさすところ,本件機械は契約では1時間当たり5000個程度の商品生産能力があるとされていたにもかかわらず,実際には1時間当たり2000個程度の商品生産能力しか有していませんでした。そのため,これは「瑕疵」があるといえますし,かかる性能では「契約をした目的を達すことができない」ともいえるでしょう。仮に,Bが解除を主張すれば本件では解除される事案といえます。
2 Cによる解除主張の可否
もっとも,問題は契約の解除をCが主張できるのかという点にあります。
契約の解除は本来契約当事者が行うものです。保証人はあくまで主債務と別の債務を負っているのであり,主債務者の契約を勝手に解除することは認められないとも思えます。ただ,他方で,それでは保証人があまりに不利益を被りすぎるのではないかとも思えます。付従性により,保証人は主債務より重い責任は負わないはずです(448条参照)。例えば,457条2項の存在は保証人が主債務者の抗弁権を援用することを想定した規定といえます。そこで,現在の通説[1]は,主たる債務者が解除の当否を決するまではその履行を拒絶できる。ただし,主債務者が解除しないことを明らかにした時は履行責任を負うと考えられています。
そのため,Cとしてはかかる構成により請求を拒絶することになるでしょう。
- 判例の見解
- 判例には保証人による取消しを否定したものがあります(大判昭和20年5月21日民集24巻9頁)。しかり,これは保証人が取消してしまうことを否定したに過ぎず,上記構成を否定するものではないでしょう。
第3 同時履行,相殺
1 総論
もっとも,本件機械は「修理することは可能」とされています。そうすると,Bがやっぱり解除はやめて本件機械を修理して使おう,と考えるかもしれません。そうすると,解除しないことが明らかになってしまい,Cは上記構成で拒絶することができなくなってしまいます。
もっとも,本件で気になるのが,本件機械によってBに営業上の損害が生じているということです。Bとしてはこれを払ってもらいたい。何なら代金債務と相殺(505条1項本文)したいと考えるのではないでしょうか(本件ではAが修理する気もないので,同時履行により拒絶すると考えるのもよいでしょう。ただ,Aが履行してしまうと,代金の支払い請求を受けるわけですから,Cとしては出来るだけ少ないと考え相殺を主張するでしょう)。また,その前提として,本件では代金債務の支払いをしていませんが,これにより遅延損害金が発生してしまいます。これを封じるために同時履行の抗弁権も問題になるでしょう。
2 同時履行の抗弁権
本件機械に「瑕疵」があるのは上記の通りです。そのため,まずBはAに対し,瑕疵修補請求(634条1項本文,ただし書)ができます。そして,本件ではそれに代えて損害賠償請求(634条2項)を行使することとなります。その際の「損害」は,修理の費用や営業上の利益でしょう。そして,その場合に当該賠償請求権と代金支払請求権は同時履行の関係に立ちます(634条2項)。
もっとも,この場合に賠償請求権の額が代金より少額の場合に全額について同時履行の抗弁権を主張できるかという問題が想定されますが,これが認められるのは旧司法試験平成16年第1問で解説したところです(これについて議論するかは難しいところですが,敢えて事案に金額が書いていないこと,他の検討量が多いことからすれば不要ではないかとも思えます)。
なお,保証人が主債務者の同時履行の抗弁権を行使することは,付従性から認められるとされています[2]。
- 同時履行の抗弁権の論じ方
- 本件では瑕疵修補に基づいて同時履行の抗弁権(この場合は533条)を主張することもできます。ただ,その瑕疵修補も含めて損害賠償請求する構成も考えられますし,本問は論じる内容も多いですから,その方がいいかと思われます(勝手に修理してその費用だけ請求するという意味です。私見としては,瑕疵修補を同時履行で主張すると,修理してくれない間中営業損害がかかるわけですから,取りあえず自分で修理し,その費用を請求するのが事案に沿っているのではないかと思われます)。
3 相殺
相殺については,同時履行の抗弁権が付着している場合に相殺ができるかという議論がありますが,本件のような事案においてこれが許されるのは旧司法試験平成16年度第1問で解説したところです(なお,あくまで相殺が可能であることを前提に,履行を拒絶するだけですから,遅延損害金の発生日の論点は不要でしょう)。
そして,保証人は主債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができます(457条2項)。これにより,請求を相殺額の範囲で拒むことができるでしょう。
- 457条2項の法的性質答案においては大展開する必要はありませんが,一言理解を示せると良いでしょう。
- 457条2項の法的性質については,保証人は主債務者の債権をもって相殺する処分権限をもつとの見解と,そうではなく,相殺で消滅する限度で弁済を拒絶するに過ぎないという見解があります。保証人に主債務者の権利を処分する権利までは付与されていないでしょうから,前者が妥当でしょう。通説もそう解しています[3]。
第2 小問2
1 総論
本件でDはBより本件機械の修理を依頼され(632条),それを修理したにもかかわらず,Bが多額の債務を残し行方不明になってしまいました。Bがいないわけですから,Bに代金を弁済してもらうことはできませんし,このようなBにはさしたる財産も残されてないでしょう。そのため,Dとしてはどうにかしてお金を取り返したいと考えるわけです。その際に方法としては,Bのお金を増やすことと,別のだれかから取ってくることが考えられるでしょう。
2 債権者代位
(1) 総論
Bの財産を増やす方法としては,例えば,Bが有している債権を行使し,それを金銭に代えることが考えられます。すなわち,本件ではBがAに対し有している損害賠償請求権を代位行使(423条1項本文)する方法が考えられます。
(2) 債権者代位の要件[4]
そこで,債権者代位の要件を確認していきましょう。まず,「自己の債権を保全するため」(423条1項本文)とは責任財産保全の趣旨からして,①原則として金銭債権を保全するためのものであること②債務者が無資力であること要するとされています。本件では,Dは自己の代金債権という金銭債権を保全するために代位するわけですし,また,上記事情からしてBは無資力といえるでしょう。
また,本件で「債務者に属する権利」とは上記賠償請求権です。さらに,明文にはありませんが,かかる権利が債務者により行使されていないことも要件とされており,本件ではこれも満たします。
加えて,かかる権利は「一身に属する権利」(ただし書)ではありません。最後に裁判外の代位によるのであれば,被保全債権の履行期の到来を要しますが(423条2項参照),本件請負債権について,事情は明らかではありませんが,おそらく満たすでしょう。
(3) 債権者代位の効果[5]
債権者代位権を行使した結果,原則,Aが支払う金銭はBに帰属します。責任財産保全の趣旨から代位行使した以上,その金銭は債務者に帰属させ,責任財産を構成させるのが趣旨に沿うものであるからです。
もっとも,金銭については,無資力の債務者に帰属させたところで消費散財してしまうのが通常です。しかし,それでは責任財産保全の趣旨が損なわれてしまいます(また,債務者が受け取らない場合の不都合性を理由として挙げる見解もあります)。そのため,金銭については例外的に代位者が金銭を受け取ることができるとされています(大判昭和10年3月12日民集14巻482頁)。そして,さらに,代位者は受領した金銭を債務者の責任財産へと返還する義務を負うところ(通説は703条としていますが,646条とする見解もあります[6]),これと被保全債権を相殺(505条1項)することで事実上の優先弁済を受けることとなります。
- 事実上の優先弁済
- 上記事実上の優先弁済を許すことは他の債権者との平等を害するのではないかという問題はあります。しかし,これについては制度の不備でありやむを得ないとする見解(前掲新訂債権総論(民法講義Ⅳ169頁)や努力した債権者に利益を与えるべきなどと説明されています(前掲中田債権総論206頁)。答案においては端的に上記見解を記述すればよいでしょう。むしろ,本件ではかかる理解が後述の不当利得返還請求の解釈に影響してきます。
3 不当利得
1 総論
また,本件においては,DはAに直接請求をしたい,とも考えるのではないでしょうか。すなわち,本件でDが修理を行ったのはAが修理をしないためです。そして,本件では修理をしたDがその代金を支払ってもらえず,他方のAは修理をせずに済んでいるがこれはおかしいと考えるわけです。
そこで,DはAに対し,不当利得に基づく返還請求(703条,704条)を行使していくわけですが,このように契約上の給付が契約の相手方以外の第三者の利益になったような場合に,その給付をした契約当事者が第三者に対してその利益の返還を請求する場合を,「転用物訴権」といいます。
2 「法律上の原因なく」以外の要件
まず,本件で,DはBに請負代金を支払ってもらえないという「損失」を被っており,それに対し,Aは,修補をしていないのに代金を受け取るという「利益」(利得)を受けています。
次に,かかる利得と損失の間に因果関係があるのかについて,本件Bのように中間者がいる場合には,因果関係が欠けるのではないかが問題になります。
しかし,これについて通説は,不当利得制度の公平の趣旨に鑑みて,社会観念上の因果関係があればよいと考えています。本件においては,上記のようにBの無資力を契機にし,Dが損失を被り,他方でAは利益を受けているわけですから,両者の間には社会観念上の因果関係があるといっていいでしょう。
- 中間者と因果関係の判例の変遷[7]
- かつて,判例は結論の妥当性を因果関係の検討の中で図る傾向にあり,中間者が介在している場合には因果関係の直接性がないとした判例もありました(大判大正8年10月20日民録25輯1890頁)。しかし,いわゆる騙取金弁済が問題になった事例において判例(最判昭和49年9月26日民集28巻6号1243頁)は「社会通念上Xの金銭でYの利益をはかったと認められるだけの連結がある場合には,なお不当利得の成立に必要な因果関係がある」としました。
- 近時の判例の不当利得に関する考えは,因果関係でなく,後述する「法律上の原因なく」の要件において妥当性を図るものであるといっていいでしょう。
- 因果関係のあてはめ
- 転用物訴権が問題になった場合の因果関係の当てはめについては,必ず中間者の無資力について,指摘して下さい。すなわち,転用物訴権について初めて問題になった最判昭和45年7月16日民集24巻7号909頁(ブルドーザー判決)が,因果関係について認定するに際して,中間者の無資力に触れています(「Aの無資力のため,右修理代金の全部または一部が無価値であるときは,その限度において,Yの受けた利得はXの財産及び労務に由来したものということができ…」(なお,因果関係の内容については「直接の因果関係」と認定しています)。
3 法律上の原因なく[8]
最判平成7年9月19日民集49巻8号2805頁(百選Ⅱ6版73事件,百選Ⅱ7版76事件)は,「法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは」「契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られるものと解するのが相当である。」としました。
平成7年判決は,その理由として,「丙が乙との間の賃貸借契約において何らかの形で右利益に相応する出捐ないし負担をしたときは、丙の受けた右利益は法律上の原因に基づくものというべきであり、甲が丙に対して右利益につき不当利得としてその返還を請求することができるとするのは、丙に二重の負担を強いる結果となるから」としています。
本件においても,AはBに対し,損害賠償請求権を負っている以上,契約全体としてみて,対価関係なしに利益を受けているとはいえません。そのため,「法律上の原因なく」利益を得たとはいえません。Dとしては債権者代位によるべきだということになるでしょう。
- 転用物訴権に関する判例の変遷・評価
- 転用物訴権が問題になる類型には以下の3類型があるとされています[11]。①中間者が受益者の利得保有に対する反対債権を有するような場合②中間者が受益者の利得保有に対する反対債権を有しない場合であって,受益者の利得保有が契約全体から有償[12]とみることができるとき③中間者が受益者の利得保有に対する反対債権を有しない場合であって,受益者の利得保有が契約全体から無償とみるべきとき。そして,平成7年の調査官解説は,平成7年判決は①②の場合の転用物訴権の成立を否定したとしています。本件は,①の類型にあたると思われます。
- 転用物訴権については上記のように昭和45年のブルドーザー判決により,議論が盛んになりました。しかし,昭和45年判決以降,転用物訴権を認めた判例の立場には学説から批判が高まりました[9]。そこで,登場したのが平成7年判決です。当該判決は転用物訴権の成立範囲を限定しました[10]。
4 本問の出題の意図
本問は小問1・2を通して,本来責任を取るべきものが取れないときに他者がどのような根拠の下責任を取らなければいけないかが問われているのかと思います。小問1は保証人である以上,契約責任として履行する義務を負うのではないか,ということを念頭に置きながらも,付従性による保証人の利益保護をどのようにどこまで図ることができるか問われていたといえるでしょう。小問2は,契約の相手方ではないAに対し,しかし,Aにも利益になっている部分はある中で,いかなる手段で責任を負わせるべきかが問われているでしょう。ただ,小問1とは異なり,契約者の相手がではないAに対し,安易に不当利得返還義務を負わせてよいのか。債権者代位という制度が民法上認められているのではないかについて,判例を前提にどのように考えるのか問われていたのではないでしょうか。
以 上
参考答案
第1 小問1
1 本件はAがCに対し,保証契約に基づく履行請求権を行使するものである。前提として,本件では連帯の特約があるため(454条),催告の抗弁(452条)及び検索の抗弁(453条)は主張できない。そのため,Cとしては主債務者Bに関する事由について主張する。
2 (1) 本件でBは本件機械を導入する意味はないと考えており,契約を解除する可能性がある。
まず,本件でAと主債務者Bの間には本件機械に関する請負契約(632条)が成立している。そして,「瑕疵」(635条本文)とは,その契約に照らし,通常有すべき品質・性能を欠いていることをいうところ,本件では,契約において1時間当たり5000個程度の生産能力があることが確認されていたにもかかわらず,実際には2000個程度の生産能力しか有さなかった。そのため,契約に照らし,通常有すべき品質を欠いていたといえ,「瑕疵」がある。そして,このような状態では到底「契約をした目的を達することができない」。そのため,ただし書にもあたらない以上,BはAに対し解除権を有する。
(2) もっとも,Bが有している解除権をCが行使できるか。
ア 契約の解除権は契約当事者(本件では「注文者」)の地位に基づいて有する者であり,保証人がそれを行使することはできない。しかし,保証契約の付従性(448条),特に,457条1項との均衡に照らせば,主債務が解除されるかもしれないのに保証人が履行をしなければならないというのは保証契約の性質に反する。そのため,主債務者が解除しないことを明らかにするまでは,保証人は解除権の存在をもってその履行を拒絶できる。
イ 本件でも,CはBが解除しないことを明らかにするまでは,履行を拒絶できる。
3 もっとも,本件機械は,修理は可能であるとしている。そのため,Bが本件機械を別の業者に修理を依頼し,使用を継続した場合は,解除をしないことが明らかになり,解除に基づく反論はできない。しかし,この場合でも,その「瑕疵」の「修補」(634条1項本文)に「代えて」Bが,上記修理費用及び本件瑕疵によって生じた営業利益の損失に関し,「損害賠償」請求権を有する。なお,同条は債務不履行責任の特則でもあり,履行利益も含むため,営業上の損失も「損害」といえる。
そして,これは代金請求権と同時履行(634条2項,533条)に立つのであり,前記解除権でも述べたように,付従性からCはBの同時履行の抗弁権を主張し,その履行を拒絶できる。また,これにより遅延損害金の発生を防止できる。
4 (1) ただし,Aが上記賠償請求権に対し,履行をした場合には,同時履行により拒絶できない。そこで,Cは,その場合に備えて,上記賠償請求権をもって,相殺(505条1項本文)の主張を行うことで,代金請求額を縮減したいと考えるはずである。
まず,上記賠償請求権には同時履行の抗弁権が付着しており,「債務の性質がこれを許さない」(ただし書)ようにも思える。しかし,請負の瑕疵担保責任に基づく賠償請求権は実質的には代金減額請求権として機能するのであり,それを同時履行させる必要性はない。そのため,「債務の性質がこれを許さない」には当たらない。本件でもこれに当たらず,Bは相殺を主張できる状態にある。
(2) そして,保証人であるBは457条2項により,「対抗」し,履行を拒絶できる。なお,これはその相殺が可能であることをもって,履行を拒絶するにすぎない。あくまで相殺する債権は主債務者のものであり,その処分権限を保証人に付与すべきではないからである。
第2 小問2
1(1) DはAに対し,BがAに対し有する上記損害賠償請求権を代位し(423条1項本文),請求することが考えられる。
そこで,債権者代位の要件を検討するに,「自己の債権を保全するため」とは,責任財産保全の趣旨からして,①被保全債権が金銭債権であること②債務者の無資力をさすところ,被保全債権は請負代金請求権であり,金銭債権であるし,Bは多額の債務を残し,行方不明になっていることから,さしたる財産もなく無資力といえる。そして,被保全債権はDのBに対する請負代金請求権であり,金銭債権である。また,「債務者に属する権利」は上記損害賠償請求権である。明文にはないが,これは債務者によって行使されていない必要があるところ,行使はされていない。そして,それは「一身に専属する権利」(ただし書)ではない。また,被保全債権が弁済期にあること(423条2項)については,請負代金請求権にDが修理を完了し,特段支払い期限も定めていない以上,満たす。
(2) この場合,責任財産保全の趣旨からすれば,原則それにより支払われた金銭はBに帰属するはずである。しかし,本件のような金銭は消費散財しやすく,債務者に戻せば再度責任財産から容易に逸失しかねないこと,そもそも本件の様に失踪してしまえば,債務者が受け取らず,責任財産を構成できないことからして,例外的に債権者Dに帰属する。そして,Dは被保全債権と,債務者BがDに対し有するかかる金銭の不当利得返還請求権(703条)とを相殺し(505条1項本文),事実上の優先弁済を受ける。
2(1) 次により直截的に,DがAに対し不当利得返還請求を行使できないか考えるに,本件でAは本件機械の修補をせずに代金の支払いを受け,「利益」を得ている。それに対し,Bから代金を支払ってもらえていない。そして,かかる第三者への請求ではあるものの,利得と損失の間の因果関係は社会通念上の因果関係があればよく,本件ではBが失踪したことで,Aは修補を免れたまま代金を取得し,対するDは代金を支払ってもらえなくなった。そのため,利得と損失の間に社会通念上の因果関係もある。
(2) そして,この場合の「法律上の原因なく」とは,公平の趣旨に鑑みる一方で,第三債務者に上記の様に債権者代位などが行使できる以上,限定・補充的に考える必要がある。そうでなければ,第三債務者に二重弁済を課しかねない。そこで,契約全体に照らし対価関係なく利益を得た場合をいう。本件では,Aは利益に対応する損害賠償義務を負っており,対価関係なく利益を得てはいない。そのため,「法律上の原因なく」とはいえず,請求は認められない。
そもそも,債務者の無資力のリスクは原則として契約当事者である債権者が負うべきことで,第三債務者に容易に転化すべきではない。債権者代位訴訟によれるときはそれによるべきである。
以 上
[1]我妻債総483頁,中田債権496頁
なお,当該議論は取消権を中心になされてきたものですが,解除にも妥当するとされています。
[2]我妻債総482頁, 潮見債総599頁
[3]我妻債総482頁,中田債権497頁,潮見債総598頁
[4]我妻債総160頁,中田債権209頁,潮見債総206頁
[5]我妻債総169頁,中田債権207,219頁,潮見債総226頁
[6]潮見債総226頁
[7]潮見基本債各Ⅰ341頁
[8]潮見基本債各Ⅰ346頁
[9]転用物訴権を否定ないし制限的に適用すべきとする学説が主張している理由づけとしては次の様なものがあります。
①中間者の無資力を受益者に転化することはおかしい。そのような契約の相手方の無資力の危険は契約者が負担すべきものである。②転用物訴権を認めると,一般債権者の一人に,他の債権者に優先した結果を与えることになる。③場合によっては受益者に二重の負担を課すことになる。というものです。
ただ,②については,上記で述べたように判例・通説は債権者代位における事実上の優先弁済を認めていますから,判例の想定している理由ではないでしょう。上記判旨からすれば,③(明示はしていないが①)が理由でしょうか。
この点,田中豊「判解」民事篇平成7年度(下)913頁も同様の趣旨を述べたうえで,「本判決の背景には,他に適切な手段がない場合の補充的手段として転用物訴権を認めるべきとの発想が存する」としています。また,学説で提唱されている「限定承認説」と呼ばれる見解を判例が素直にとっていないのではないかということも述べています。
[10]これについては,実質的な判例変更であると評する見解もありますが,調査官解説は,昭和45年判決の判断は「直接の因果関係あり」とすることのできる判断部分のみであったため,判例変更ではないとしています。
[11]なお,かかる分類に関する解説は百選解説にも掲載されていますから,百選を持っている方はぜひ見てみるといいでしょう。
[12]有償と評価できるだけの対価関係があるかについて,調査官解説は,平成7年判決は「YがAとの間の賃貸借契約において何等かの形で右利益に相応する出捐ないし負担をしたときは,Yの受けた利益は法律上の原因に基づくものというべきであ」るとしており,経済的に見て厳密に等価であることを要求するものでないとしています。なお,平成7年調査官解説916頁位以下には,平成7年の事案における詳細な検討がなされています。興味がある方は目を通してみてください。