2011年11月27日

2011全日本選手権レポート⑧ 佐々木智生

2011全日本選手権レポート⑧ 佐々木智生

「きっかけ」

佐々木智生は、試合ではあまり大きなミスをしない選手、という印象がある。そのため、大学生になってからもどの試合でもたいてい10位前後にはいる。
本人は、不本意な演技だったと反省しきりなときでも、得点はまとめてしまう力を彼はもっている。

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                                       <撮影:小林隆子> しかし、今回の全日本では、総合19位となってしまった。 佐々木にしては、「沈んだ」という感はある。 それでいて、種目別決勝には2つ残っていた。スティックとクラブでは6位だったのだ。それなのに、19位に沈んだのは、リングでの落下場外があり、8.700となってしまったためだ。 リングで、佐々木は新しい作品に挑戦してきた。 そして、この作品に合わせて衣装も新しくなっていた。 正直、初めてこの衣装を見たときは、ちょっと驚いた。紫のボディーにこれだけ花がちりばめられているというのは…。思わず「王子か?」と突っ込みたくなるような衣装なのだが、しかし、佐々木なら似合いそうだな、と思った。 案の定、この衣装を着た佐々木は、それまでのスポーティーな印象とはぐっと変わって見えた。なにか、今までとは違う佐々木を見せてくれそうな、予感がした。 リングの演技、冒頭で佐々木はこれまでにはないやわらかい動き、せつない表情を見せる。 おそらく、本人にはまだ少し照れがあると思う。 しかし、本人が思っている以上に、見ている側にはすとんと落ちる。 決して似合わなくはないのだ。 ああ、もうちょっとこなれたら、きっとこの路線でもすごくいいものを見せられるようになるだろうな、と思えた。男らしくてダイナミック、という佐々木本来の持ち味とは違う部分に、まだおおいなる可能性があるんじゃないか、と以前から思っていたが、今回のリングを見てそれは確信に変わった。
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                                       <撮影:小林隆子> リングの序盤は、曲もスローで今までにない表現を見せるだけに、佐々木はいつもとは違う神経を使っていたのだろうと思う。 それで、そのスローパートが終わったとたんに、いつもの調子に戻り、元気いっぱいにリングを放り投げた結果が、場外! ・・・あまりにも佐々木らしい。 ある意味、それだけ、今までとは違う自分に挑戦した序盤の数秒に神経を集中していたとも言えるかもしれない。だから、彼にしては珍しい今回の大きなミスも、違う自分に挑戦した結果だったのだろう。 大学2年生。まだまだ、のようでも、もう大学生としては折り返し地点にきている。 来年は、きっと勝負をかける年になる! そして、その覚悟はできている! 佐々木の表情からは、そう感じられた。
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                                       <撮影:小林隆子> 個人総合では、リングでしか着なかった紫の衣装を、佐々木は、種目別決勝ではクラブで着ていた。 クラブは、佐々木の手具操作、とくに投げの思い切りのよさが目立つ種目だが、しっかりとまとめた。王子のような衣装でも、やはりクラブのような演技だと、「おっとこまえ」な演技になっていたが、それもまた似合っていた。総合成績が奮わなかった分、種目別では! という意気込みはあったはずだ。しかし、スティックではこれも珍しく3回前転で落下してしまったため、今年のジャパンでの最終演技となるクラブに懸ける気持ちは強かったと思う。その佐々木の「ここは絶対、決める!」という思いが伝わってくる演技だった。 今年の全日本は、彼にとってはおそらく悔いの残る大会だったろう。しかし、最後に「来年につながる演技」はしっかりできたのではないだろうか。 とにかく、佐々木はすべてのことがバランスよくそろった選手だ。それだけに貪欲さだけがすこし足りない、ように見えていた。もっともっと! という欲を彼がもちさえすれば、それだけで何もかもが変わってくると思う。あと、一段も二段も、高みに上れるだけの力は、もった選手なのだから。 今までより少し下がってしまった成績も、めったにしないような大きなミスを犯してしまったことも、そして、高校時代の恩師がデザインしてくれたという新しい衣装も。なにもかもが、私には、来年の佐々木の飛躍のためのお膳立てのように思える。 佐々木智生。 来年は必ずひと回り成長した姿を見せてくれるはずだ! 期待していていい。


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