2011年11月28日
2011全日本選手権レポート⑨ 木村 功
2011全日本選手権レポート⑨ 木村 功 「奪還」 学生最後の全日本となった2009年、木村功は、2位で終わっている。この年は、春日克之(当時青森大学)が圧倒的な強さを見せて連覇を達成し、春日と同級生である木村は、学生時代には種目別も含め一度も金メダルに手が届かなかった。 この年、私はやっと男子新体操をかなり熱心に見始めていて、木村功はすぐに好きになった選手だった。だから、この年、競技終了後にぜひ話を聞きたいと思っていたのだが、たしか最後の種目でミスが出たのだったか、かなり落ち込んだ様子だった木村に、話しかけることができなかったことを覚えている。<撮影:小林隆子> その後、マッスル・ミュージカルに木村が出ると聞いて、見に行ったこともあった。笑顔で、見事なタンブリングや縄跳びを見せる木村は、新鮮ではあったが、正直、少し物足りなさを感じた。 木村の演技は、もっと、もっと情感がこもっていて、ストーリーが見えてくる、そんな演技だったはずだ。だから、あんなにも印象に残り、好きだったのだ。それをマッスルの舞台に期待するほうが間違っているのだが、「ああ、もう木村功!って演技を見ることはないんだな」と、残念に思ったことを覚えている。 しかし、今年の社会人大会。 木村功は、フロアに戻ってきてくれた。 最強社会人選手・北村将嗣に次ぐ2位という最高の形で。 演技も、あの研ぎ澄まされたような、美しい動きに陰りはなかった。もとから定評のあった表現力には、舞台で得たものなのだろうか、さらに磨きもかかったように感じられた。 現在は、地元・会津で塾講師をしながら、ジュニアクラブでの指導のかたわらの練習だというから、決して練習が十分にできているわけではないようだ。 それでも。学生時代よりも進化したように見える演技を、木村は、社会人大会で見せた。とくにリングは、おなじみの「ロクサーヌ」(2006年シーズンに高橋大輔もSPで使っていた名曲)にのせて、情熱的な演技を見せ、木村功の面目躍如だった。 このときの木村の言葉が、私はとても印象に残った。 「この曲は、去年、大舌恭平くん(当時青森大学)が、使っていいか? と言ってきたので、いいよと言ったら、すっかり彼の曲、になってしまって…。」<撮影:小林隆子> そうだった。 2010年度学生チャンピオンの大舌は、インカレでは、「ルパン3世」で軽妙で小洒落たリングの作品だったが、ジャパンに向けて曲を変えてきた。それがこの「ロクサーヌ」だったことは、私もはっきり覚えている。ジャパンの個人総合、そして種目別で見た大舌の「ロクサーヌ」は、とても激しく、力強く、私には、音楽の盛り上がりとともに、彼の「勝ちたい、勝ちたい」という気持ちが、湧き上がってきているように感じられたのだ。去年のジャパン、大舌は、絶対に「勝ち」にきていた。それを象徴するのが、あの「ロクサーヌ」で演じたリングだったように私は思っていた。 それだけに、あのたった2回の演技で、たしかに「ロクサーヌ」は、「大舌恭平のリングの曲」と強く印象づけられてしまった。 たしかに。 この曲は、以前から木村功が使っていたものだった。 私も、木村のリングの演技は、好きでぞくぞくしながら見ていた記憶がある。 「すっかり大舌くんの曲になってしまって…。」と話をしていたときの木村は笑っていたし、恨みがましさはみじんもなかった。ちょっとした「裏話」としてのリップサービスだったのだろうと思う。 しかし、木村の中には、この曲と作品に対する強い思いがあったのだろうと、今回の全日本の演技を見て、思い知らされた。 「大舌くんの曲になってしまった」けれども、本当は自分だって! と彼は言わなかったが、演技は、雄弁にそう語っていた。<撮影:小林隆子> どちらがいい、ということはない。 去年、大舌恭平が見せたエネルギーが渦巻くような「ロクサーヌ」はたしかに名作だった。 しかし、今年。 木村功が演じた「ロクサーヌ」は、大舌とはまた違った味わいで、すばらしかった。動きと手具操作で、フロアマットの上に物語を描きだす「ストーリーテーラー・木村功」ならでは、の演技だった。 なんだろう。 木村の「ロクサーヌ」は、大舌よりももっとなまめかしく艶っぽい。絶対に男女間の愛憎渦巻くドラマ、それも悲劇的な結末を迎えるようなドラマが思い浮かぶ演技なのだ。 大舌も色気のある演技をする選手だったが、どこか爽やかさの漂う大舌の色気とはまったく違う、木村のもつ艶には「狂気」が感じられるのだ。 そう感じるのは、木村がそういうストーリーをイメージして演じているのか、もしくは、彼の動きの研ぎ澄まされ方が凄まじすぎるからか。木村の「ロクサーヌ」は、私には何かに憑かれた男の物語に見えた。悪い女に惚れ込んでしまった純粋な男の悲恋のようでもあり、新体操という世界に魅入られた木村功の人生にようでもあり。 深く深く、胸に刻まれる演技だった。 結果、種目別決勝のリングで木村は優勝した。 初めて手にしたジャパンの金メダルだった。 彼は、メダルを得ただけでなく、「ロクサーヌ」も再び自分のものにした。 【参考】2011年社会人大会での、木村功選手のリングの動画です。→http://www.youtube.com/watch?v=o5sDQESE82g&feature=channel_video_title
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- posted by rg-lovers
- 18:16
- 2011全日本選手権
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