原子力規制委員会は、九州電力川内原発の2基について、「基準に適合している」と結論付けた「審査書」の案をまとめた。審査中の19基では初めて、審査は事実上終了し、再稼働に向けて大きな節目。
しかし火山対策で専門家から疑問の声も上がっているほか、避難計画が整備されていないなどの問題も。
今夜の時論公論は再稼働の前に残された課題について水野倫之解説委員。
審査書案はきのうの規制委員会に提示。5人の委員からは特に異論は出ず、全会一致で審査書案は了承。
その中身。
審査で最も重視されたのは福島の事故を教訓にした自然災害への備え。
地震の揺れについて九電は断層を長めに評価すべきとの規制委の指摘を受け入れ1割以上引き上げ、津波の高さも6mまで引き上げ。
九電はポンプなどの浸水対策をとる。
初めて規制対象となった火山活動について九電は、桜島で1万年余り前の噴火と同規模の大噴火を想定。
火山灰15cm積もって送電線切れ外部電源喪失、しかし非常用発電機で冷却は保てると。
審査書案で規制委は、すべて「基準に適合している」と評価。
審査は事実上終了し、川内原発は秋にも再稼働される可能性。
地震や津波については、専門性を持った委員が現地で地層確認したり、対策を見ており、全体としては慎重に行われた。
しかし火山活動については、専門家からより慎重に対応すべきとの声。
焦点は、頻度は低いものの、マグマが桁違いの規模で噴き出し、破滅的な被害をもたらすカルデラ巨大噴火。
九州には噴火で大きく陥没したカルデラが集中、最も影響が懸念されるのが原発から40キロの「姶良カルデラ」。
桜島のある鹿児島湾の海底に広がり直径は20キロ。
3万年前の巨大噴火で、時速100キロの火砕流が周囲を焼き尽くし、日本全土に火山灰が積った。九電は火砕流が今の原発敷地に到達した可能性も否定できないと。
仮に火砕流が原発を襲えば建屋は破壊され、放射性物質が広範囲に放出される恐れ。
しかし審査書案で九電は、
▽この地域のカルデラ噴火の間隔は平均9万年、近い将来起きる可能性は十分に低い、
▽ 噴火の前、マグマが数十年かけてたまると考えられ、変動監視すれば前兆が捉えられ、燃料を運び出すなどとし、規制委も了承。
これに対して火山学会は、噴火の前兆がわかるという審査に疑問、内部で議論開始。
また噴火予知連の藤井会長も「人類はカルデラ噴火の観測経験がなく、予測は困難で、監視すればわかるというものではない」と述べ、審査結果に疑問。
あらたに火山を規制対象にしたのはいいが、規制委に火山の専門家はおらず、審査の手引を作る際に火山学者の意見は聞いたもののその後は独自に審査。カルデラ噴火に前兆があるとする研究はまだ数例、前兆とらえるのは難しいとの意見がある中結論を急ぐのは、科学的な判断に徹するとしてきた規制委の信頼にもかかわる問題。
仮に前兆とらえられて燃料を運び出すにしても、冷却必要で数年はかかる。燃料をどこへどうやって運ぶのかも未定。
委員会で島崎委員は「批判があるのは承知している」とあえて発言、規制委は対応を電力会社に任せており、この審査書案だけで、住民の納得が得られるか。
新基準は必要最低限の安全対策で100%の安全の保証ではなく、リスクは残る。審査で安全性がどこまで向上し、まだどんなリスクが残っているのかの説明を。
そして様々なリスクに備えるためにも重要なのが避難計画だが、問題も。
一般住民については30キロ圏のすべての市と町で策定済み、だが災害弱者に対する配慮が不十分。
病院や福祉施設の多くは自分たちで避難先を決めなければならない。
原発から14キロの内科クリニック。
20人近い入院患者のほとんどが自力で歩けない。
事故で入院患者をいかに安全に避難させるかが課題、担当者が避難計画づくりを始めたが難航。
最大の理由は、避難先の病院の確保が困難なこと。
また看護師などスタッフの確保も課題。被ばくの危険もある中、クリニックに残るスタッフを決めるのは容易ではない。
さらに重症で避難が困難な患者への対応も課題、放射線を遮ることができるレントゲン室狭く、数人しか収容できず。
クリニックでは独自の対応には限界があるとして、行政による支援希望。
しかし鹿児島県の伊藤知事は、病院介護施設の避難計画は当面10キロ圏しか作らないと明言。30キロ圏内の要介護者は1万人、実現可能な計画を作れる見通しがないというのが理由。
ただ、福島の事故で最も過酷な状況に置かれたのが、要介護者。
避難計画のなかった病院で患者の避難に時間がかかり、50人が死亡。
要介護者の避難計画は緊急の課題で、知事は、これを整備してから再稼働の判断をすべき。
そして最も問題なのは避難にかかわる法制度。再稼働の要件になっていないし、計画が実現可能かどうか検証する仕組みもない。
政府は規制委の審査が終わった原発を再稼働させる方針。政府が責任を持って、避難計画を再稼働の条件と位置付け、実現可能性を確認する体制作りを。
規制委による川内原発の審査は事実上終了、しかし自動的に再稼働ではない。菅官房長官は「安倍総理が再稼働について政治判断することはない」としているが、再稼働させるかどうか最終的には政府が判断すべき問題。原発の安全対策だけでなく避難計画も含めて住民の安全がきちんと確保されたのかどうかを、地元や国民にきちんと説明して理解を得ることが求められてる。
(水野 倫之 解説委員)