2013高校選抜直前企画② 神埼清明高校
「牽引力」
試合が近づいてくると、神埼清明の練習は短くなることが多い。
試合当日や前日は、会場練習やなにかであまり長時間の練習をすることはできないなかで、本番を迎えなければならないのだから、そこでもっとも力を発揮できるように調整していくのだ。
3月12日も、早い時間に練習が始められた分、夕方にはもう練習は終わるということだった。
最後に1本全通しをやる前に、レギュラーメンバーは通しの時間に合わせて体と気持ちを整える時間をとる。その間、控えのメンバーの練習を中山監督が見ていた。
神埼清明といえば、男子新体操の名門校であり強豪だ。
近年では神埼中学校や神埼ジュニアなど、強いジュニア選手も多く育っているので、神埼清明高校の新体操部といえば、経験者のツワモノそろいなのだろうと、周囲は思う(私も思っていた)。
ところが。
案外そうでもないのだという。
毎年のように、高校から新体操を始める部員がいる。
そういう部員は、年によっては団体メンバーには入れないまま終わることもあるが、そのときの部の状況と、本人の頑張り次第では、団体メンバーに入ることは、今でもあるのだそうだ。
「あいつらは素人だけん」
と中山監督は言うが、その素人が頑張ってくれないことには、どうにもならない。神埼清明といえど、そんなときもあるのだ。
だから、だろうか。
全通しが始まるのを待っている時間に、彼らに接している中山監督の指導は、熱くも厳しくもあったが、とても論理的で説得力があった。
ひとことで言うなら、「素人が素人に見えなくなるため」のポイントを効率よく教えていた、ように感じた。
もちろん、それは小手先だけでできることではない。
彼らが、基本的な努力を積み重ねることが大前提ではあるが、それでも中山監督の指摘するポイントを押さえておくのとそうじゃないのでは、見え方には大きな差が出てくるだろう、と思った。
「素人だ」と言いながらも、引き受けた生徒達をいっぱしの新体操選手らしく育てる術を、中山監督は心得ているのだな、と改めて感じた。
現在、ジュニア~大学を合わせても監督の中ではもっともベテランと言える中山監督は、自分のチームの力をいつも冷静に判断している。
それだけに、自分のチームが、「常に優勝できる力を持っている」と思うほど楽観的ではない。
しかし、だからと言って、投げたりあきらめたりは絶対にしない。
それはおそらく、「優勝できる力を持っていてもできない」ことがどこのチームにもあることも、よくわかっているからだろう。
ならば、少々地力では劣るとしても、神埼は神埼なりのベストを尽くすことで勝機はあると、中山監督は知っている。
だから、彼は、いつも、自分のチームの状態を、本番で最高にもっていくことだけに力を注ぐ。強いときも、そうとは言いがたいときも。
その中山イズムは、選手達にも浸透している。
選抜大会のようにレギュラーメンバーの中でも比較的力に差のあるメンバーになってしまったときでも、チームの一体感があるのだ。
通しに入る直前に選手達が組む円陣。
その近くに寄ってみると、彼らがそれぞれに言葉を発しているのが聞こえた。6人が順番に通しに対しての意気込みや、仲間を鼓舞する言葉を口にしていた。
「タンブリングがっつり決むっぞ!」「軽くでよか、軽くいこ!」「できるけん! 絶対できるけん!」
そこにはなんの差もなく、6人がフラットにチームに存在している空気があり、6人で天を仰ぎ、呼吸を合わせている様は、本当に「ひとつ」に見えた。
力の差があるからこそ、みんなの力を合わせて、経験値の低い選手がいれば、その選手が力を出せる雰囲気を作っていくのが「強くなれるチーム」だと、彼らはわかっているのだ。
「今回はちょっと・・・」
とあまり自信なさそうな発言を中山監督は口にしていたが、この日見た全通しは、「それでもここまで仕上げてくるのか」、と思う演技だった。
昨年夏のインターハイのチームは、優勝もありか? と思えるだけの力をもったチームだった。そこから3年生が抜けた現在のメンバーでは、たしかに迫力の面は、やや劣るかもしれない。
しかし、それは井原高校同様、あくまで「対前年比」という話だ。
今、そこで行われている演技のレベルが低いのか? と言われれば、決してそんなことはない。
どんな状況であっても、チームを、作品をここまで仕上げてくるその監督の手腕。そして、それについていける選手達。
その力には、畏敬の念を覚える。
「強い選手が集まっているから強豪校」なのではなく、「強くする」ことができるから強豪になれるのだ。
中山監督は言う。
「素人は下手でもよか。ただ、気持ちだけは強なかといかん。」
つまり、気持ちさえ強ければ、うまくはなくてもなんとかできる!
ということではないだろうか。確固たるその自信。
指導者のもつこの自信が、選手達を強力に引っ張っている。
神埼清明は、そういうチームだ。
神埼の体育館の壁に貼ってある横断幕に、こんな文言がある。
「お前らがばい強かばい! みんなを信じて絆」
これが、中山監督の教えの真髄なんだろう、と思う。
自分で思っているよりも、自分は強いんだということを、新体操を通じて選手達に教えたい。「選手のために」なんて言葉はあまり似合わない強面の監督だが、じつはそう思っているんじゃないか。
神埼清明に行くようになって2年。
私はそう感じるようになった。
昨年までのチームは、「ジュニア時代から井原に勝ったことがない選手達。だから、一度井原に勝たせたい」と中山監督は言っていた。
今回のチームは、まだ自分に自信はもてない選手もいるチームだ。
だからこそ、勝たせたい! と監督は思っている。
それは試合の結果という形で表れるかどうかはわからない。
だが、少なくとも自分達の演技のやりきれた感は、味あわせたい!
味あわせてやる!
そう思っているに違いない。
しかし、改めて感じたのは、作品のもつ力だ。
井原にしても神埼にしても、「対前年比」で見れば、落ちる、弱いと自称するチームだが、そんな彼らが、昨年のチームがやっていた作品を必死に仕上げてきた結果、やはり見ごたえのある作品が出来上がっていることには感心する。
演じる人間が変わっても、いいと思えるだけの力を「作品」が持っているのだな、と思うとともに、その作品を演じるられるまでの力を選手に発揮させることのできる指導者の力の大きさにも恐れ入るしかない。
地元・佐賀県での選抜大会。
神埼清明は、地元の大声援に恥じない演技を必ず見せてくれるはずだ。
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