2012年09月01日

2012全日本インカレレポート⑦ 青森大学団体

2012全日本インカレレポート⑦ 青森大学団体

「定石」

インカレの男子団体では、青森大学が11連覇を達成した。

今回の青大団体は、公式練習のときから、周囲を威圧するだけの完成度を見せていた。
なにしろ、同調性がすごい! 
そこは他を圧倒している、と見えた。

もちろん、ライバルである花園大学も、強かった!
強みであるタンブリングは、やはりどの大学よりも抜きん出ていると感じさせるだけの破壊力をもっていた。また、花大独特のふわっとした動き、微妙な曲線での揃え方など、硬軟併せ持った贅沢な作品で、花大が「(インカレ優勝を)獲りにきた!」と感じさせるものだった。

青森大学前監督の中田吉光も、インカレ会場で会ったときに、「あいつら(花園大学)、びっくりするくらい強えなぁ」と舌を巻いていた。そう言わせるだけの力を、たしかに、今年の(いや、今年も)花園大学はもっていた。

しかし。
インカレ終了後の観客の反応は、青大の優勝をすんなりと受け入れていた。正直、昨年のインカレ、ジャパンのときほど、「微妙だったんじゃないか?」という空気はなかった。
もちろん、花大の演技もすばらしかった。僅差であったことには違いない。それでも、「優勝は青森大学」ということに対して、疑問をもたせないだけの演技を、今回の青大は見せてくれた、と思う。

インカレで指揮をとるのは初めてだった高岩監督も、この出来と結果ならさぞかし満足しているだろう、と大会終了後に話しかけてみたのだが、その表情は厳しいものだった。

「連覇を守れたことは、嬉しいですし、ほっとしていますが、このままではダメだと思います。ジャパンに向けては、いちからやり直しです。」

と言う。
そんなことはないのでは?
今回の青大の演技はとてもよかったという声が多いですよ、と言っても表情はほとんど緩まなかった。

「あれだけバラつきがでると…練習のやり方とか、課題が多いです。」

と言う。
バラつき? あくまで観客目線では、今年の青大の演技は、同調性に秀でており、そこで他を圧倒したように見えたのだが、それでも「バラついて」いたと高岩監督は言うのだ。

「体操のかかりのズレとか、気になりました。」

高岩監督が気にしているのは、たとえば体回旋ひとつの動き始め、そのごくごくコンマ何秒のずれのことだった。おそらくそこは、一般観客は(いや、ことによっては審判も)「おお~、さすが青大、そろい方が半端ない!」と感心して見ていた部分だ。だが、それは、青大が目指していた「そろい方」ではなかったのだと言う。

「いいときは、もっと揃っていたんですが…。本番はダメでした。」
と悔しさをにじませる。とても11連覇を達成した監督の表情ではなかった。

「この演技では、“伝わりが弱い”と言われても仕方がないです。やった! という感じよりも、まとめたな、という演技でした。」

少し驚いてしまうほど、高岩監督は、勝利に浮かれてはいなかった。むしろ、厳しすぎないかと心配になるほどの自己評価の低さだった。

しかし、それでも。
インカレでの青森大学の演技には、多くの称賛も寄せられた。
「さすが青大」「やっぱり青大」と思わせる部分は継承しつつも、今までにない雰囲気の曲調、振り付けで、新しいイメージの演技を見せてくれたし、その今までにないイメージをしっかりものにしていた。

とくに度肝を抜いたのは決勝での衣装だった。
ばらしてみると、「なんとかレンジャー」に見えてしまうような奇抜な衣装だったのだが、これが6人そろって演技するとなると、かなりよく見える衣装だったのだ。
とくに、同調性の見せ場では、この衣装もかなり力を発揮していた。
体の左右で、違う色が目立っているので、全体から受ける印象が、「青」になったり、「赤」になったりする。その切り替えの鮮やかさゆえに、揃っているという印象が強くなる。

この衣装効果からもわかるように、今回の青大の演技は、徹底して「同調性」を追究し、強調した構成だった。
そして、そのシンプルこのうえない、定石中の定石とも言える戦略で、今の彼らの持っている強さを見せつけたのだ。

たしかにタンブリング力では、花大がまさっていたかもしれない。
しかし、青大は、演技後半のタンブリングに、3バックをもってきて、それも「バック+バック+テンポ+バック+ひねり宙返り+伏臥」というすさまじさだった。これを6人がそろってやる。それによって、個々のタンブリング力の足し算以上の効果が出る。

斬新な振り付けでは、花大のほうに分があったかもしれない。
しかし、青大は、斜前屈のあとのポーズの胸のはり方ひとつ、その後の呼吸までもが揃っていた。張って見せた胸が呼吸によってわずかに動く、その動きまでもが揃って見えた。

そこまで同調性にこだわってきたからこそ、観客は満足しても、高岩監督は満足していなかったし、おそらく選手達も同じかもしれない。

「もっと見せられたのに…」

青大にとっては、そんな悔いの残る大会であり、演技だったようだ。
それでも、今回の青大の勝利に異を唱える人は、少ないだろう。

青森大学のインカレ11連覇は、達成された。
その重責から解放された彼らは、おそらくジャパンで、今回以上のパフォーマンスを見せてくれるだろう。

そして、ジャパンでも優勝することができれば、そのときには、「日高祐樹(青大4年)無敗神話」が完結する。
                                                                                         

※青森大学インカレ決勝演技はこちら(↓)。斬新な衣装も見られます。
http://www.youtube.com/watch?v=Tvzzxm1cKTw&feature=relmfu

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2012年08月30日

2012全日本インカレレポート⑥ 福岡大学団体

2012全日本インカレレポート⑥ 福岡大学団体

「伝える」

今大会での福岡大学の団体作品は、とても評判がよかった。
実施もかなりよくて、決勝では19点台にものったし、順位も3位。
昨年は、苦杯をなめることが多かっただけに、今年はかなり満足のいく大会になったのではないだろうか。

いや、福岡大学の演技を見ていると、順位や点数を根本的な部分では度外視しているようにも感じられる。

彼らの演技からは、とにかく「伝えたい思い」が、あふれ出しているようだった。そして、その思いはかなり多くの人の胸に届いた。だから、今大会のあと、「技術的なことはさておき」福岡大学の団体に一番感動した、とてもよかった! という声がかなり聞かれたのだろう。

インカレでのすばらしい演技を見ながら、私は、7月に見た彼らの練習ぶりを思い出さずにいられなかった。

監督不在の日でも、彼らは、気持ちを緩めることなく練習していた。
しかも、その練習は、いかに自分達の描こうとしている世界に、6人が同じ気持ちで入り込めるか、を突き詰めるような練習ぶりだった。

新体操は、表現スポーツだから、どのチームも選手も、見ている人に何かを伝えようとしているだろう、と思う。しかし、その「伝えようとするもの」が、演者たちにとって本物かどうかという差は大きいのではないかと思うのだ。

「せつない表情」「挑戦的な表情」・・・選手たちは演技中にさまざまな表情を見せるが、それがとってつけたように見えてしまうこともままあるように思う。おそらく、それは「表現しなきゃいけないからしている表現」なのだろう。「やらされている表現」とも言えるかもしれない。

情感たっぷりの動きも表情も、そこに本物の感情があって初めて、見る人の心に響くのだ。今回の福岡大学の演技は、まさにそうだったと思う。彼らのこの作品に対する思いが、あの3分間の演技にのって、観客の心にすとんと届いた。そんな稀有な作品だったのではないだろうか。

福岡大学団体の原曲を探してみたら、こんな動画が見つかった。

http://www.youtube.com/watch?v=EYnVM6G26zU

神々しいまでに、また哀しいまでの美しさ。
そして、はかなさ。

福岡大学の演技から感じたそんなものは、この曲の世界観そのものだったのだな、と改めて思った。

2011年の西日本インカレでの「ほたるこい」が、かなり評判になった福岡大学が、今回はまた名作演技を見せた。他大学とはひと味違うこういう持ち味を、これからも大切にしてほしいと思う。

次には、どんな作品を見せてくれるのか。
じつに楽しみなチームだ。

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2012年08月25日

2012全日本インカレレポート⑤ 廣庭捷平(福岡大学)

2012全日本インカレレポート⑤ 廣庭捷平(福岡大学)

「唯我独尊」

インカレ1日目。
廣庭捷平の最初の種目はスティックだった。

西日本インカレのDVDを見たときに、ほかの3種目に比べてややインパクト不足? にも見えたのがこのスティックだったが、この日の廣庭の演技は、会場の空気を完全に変えた。

「もののけ姫」の曲にのせた、しっとりした荘厳な美しさのある演技で、情感があふれていた。
去年、思いがけずインカレが見おさめになってしまった廣庭の演技を見るのは、1年ぶりという人も多く、期待に満ちた空気の中で登場し、彼は、「1年ぶりの演技」を堂々とやってのけた。

余計なもののない。
新体操そのもの、という印象を私は受けた。
ほかの種目では、人とはちょっと違う意外性のある動き、見せ方をする廣庭だが、こういった直球勝負の演技でも、ここまで魅せる力をもっている! ということに、改めて驚き感動した。

1年前からずっと。
「これが見たかったんだよな」と思える演技だった。

とくにミスらしいミスもなかったと思うが、得点は9.275。
受けた印象よりかなり低めだった。
見ているほうも、「えっ?」と思う得点だったが、本人もややショックだったのではないかと思う。ひとつ前の試技順だった松田のスティックはすばらしい演技で9.425。それに並ぶくらいの点数はほしかったはずだし、観客の反応は、松田の演技に近いものがあったように思ったのだが…。

このスティックの点数の影響があったかどうかはわからない。
が、結果として、廣庭は2種目目のリングの演技中盤で落下場外という大きなミスを犯し、8.700と沈む。「インカレ優勝」を絶望的にする大きなミスだった。

このリングの演技は、昨年多くの人をくぎ付けにしたあの作品のままで、まさに「1年間お待たせしました!」という演技だったのだ。ただ、落下のミスがもったいなかった。普通に通れば、間違いなく種目別決勝でも見られると思っていたのだが、8.700ではそれもない。

1日目を終えて、廣庭は、「やはりインカレは怖い」と感じていたのではないだろうか。そして、自分のやってきた新体操に対して、少しばかり自信を失ってはいないだろうかと私は心配になった。
ミスしたリングは仕方がない。
しかし、スティックでの評価の低さは、納得できていないのではないかと思ったからだ。

それでも、廣庭には、「今年は絶対にジャパン」という命題が残っていた。「優勝」がほぼなくなったところで、ジャパンには絶対に残らなければならない! そう思っていたと思う。
2日目は、ロープから始まった。正直、初日よりは慎重な感じもあり、廣庭にしては勢いに欠ける感じはあったが、とくにミスはなくうまくまとめた。走っての移動など、ただ「動く」ことでも表現できる彼の良さは十分に感じられる演技だった。しかし、得点は9.200。
これも、受けた印象よりかなり低い点数だった。

いつもマイペースで、飄々とした印象の廣庭だが、ここまで3種目、ミスした種目は別として、思った以上に点数が伸びず、さすがに気落ちしていたのではないかと思う。
最終種目のクラブは、明るくノリのいい演技なだけに、思い切りよく弾けてほしかったのだが、そういう演技をするにはちょっと難しい展開になってきてしまった。

そして、実際にこの日のクラブは、少しひやひやする演技だった。本人も慎重になっているのが伝わってきた。しかし、次につながる演技だった。去年、ジャパンを逃してしまったときとは違う。最高ではないなりに、しっかりまとめることのできた演技だった。
得点は、9.350。おそらく本人にとっては納得の演技ではなかっただろう。それでも、最後になんとかこの得点が出た。
さらに3日目の種目別決勝では、見違えるようにいきいきとしたクラブの演技を見せ、9.400で2位に入り意地を見せた。

2012全日本インカレは、廣庭捷平にとっては、やはり苦い試合だったかもしれない。
それでも苦いなりに、そのときにできる最大限のことはできた。

悔しい気持ちも、納得できない気持ちもあるかもしれないが、それを晴らすチャンスを、今年はしっかり自分の力でつかんだ。

それが1年前との大きな違いだ。

だから。
あとは、11月のジャパンまでに、どうすればいいかをしっかり考え、実践すればよいのだ。
今回、点数という評価にはつながらなかったが、彼の演技に魅力があるということは、十分証明できたと思う。なにより、彼が演技するときは、会場の空気が違っていた。

「勝ち」に向かって改善できる点は、もちろん改善すべきだろう。
だが、自分のやろうとしている新体操に対して、自信をなくす必要はまったくないと思う。
ジャパンから次には何もつながらない。
だったら、インカレ以上に思い切って、「わからないやつはわからなくてもいい!」くらいの勢いで、自分らしい演技を見せてくれるんじゃないか。私は、それを楽しみにしたいと思う。
                                            

※「Gymlove」に、全中の記事をアップしました。
http://gymlove.net/rgl/topics/report/2012/08/26/post/

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2012年08月23日

2012全日本インカレレポート④ 松田陽樹(青森大学)

2012全日本インカレレポート④ 松田陽樹(青森大学)

「超越」

インカレ2日目。
松田陽樹は、最終種目クラブを迎え、ひどく緊張した表情でフロアに入ってきた。

東日本チャンピオンとして迎えたこの大会。
1日目スティックは、完璧な演技で9.425を出し、優勝を争えるだけの力があることを証明した松田だが、2種目目のリングの第1タンブリングで落下。2日目もロープでは、投げのコントロールミスでタンブリングが抜けるなど、悪い流れに飲み込まれつつあった。

そして迎えたクラブの演技。
すでに優勝は無理な位置にはなってしまっていたが、それでも、自分がここまでやってきたことを、絶対に出し切りたい! そんな局面だったと思う。

結果、このクラブの演技は、松田陽樹の存在証明のような演技になった。美しく、力強く、体を大きく使った「体操の美しさ」を見せ、魅せる演技だった。彼の腕や指先、背中、体のすべてで描くラインが、彼がこれまで培ってきたものを物語っていた。

正直、今大会の上位選手達の演技の中では、松田のクラブは手具があまり動いていない。このところ、こういった手具の動きの少ない演技に対しては、点数が低めになる試合が多く、今回もその例に違わなかった。だから、私は、この松田のクラブを見ながら、感動すると同時に、「こんなに美しくて感動できても点数は出ないのではないか」と危惧していた。

しかし、得点は、9.375。この時点では最高点が出た。
この演技は、手具操作の多寡にかかわらず点数が出ることもある、と今大会で感じた稀有な例となった。
これだけの点数をもぎ取れたのは、投げ受けや細かいリスキーな手具操作と同等かそれを超えるだけの価値が、松田の美しい動きにあったからだと私は感じた。そうしか説明がつかなかった。

でも、こんなことがあっていい。
いや、こんなこともあるべきなんだと思う。

手具は動かしたほうがリスクは高い。それに挑む選手は評価されてしかるべきだ。だが、手具操作を磨く選手と同じように、「動き」を磨いている選手もいるのだから。

もちろん、兼ね備えた選手、演技がいちばんいい。
それは間違いないのだが、手具操作に偏向すれば見せられなくなるものもたしかにある。この松田のクラブの演技は、そのことを改めて感じさせてくれた。

演技終了後、松田は青大応援席に向かってガッツポーズを見せた。
それはおそらく。
たとえ優勝はできなくても、「自分らしさ」を貫く演技を最後に見せられた! という充足感から出たもののように見えた。
                                       

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2012年08月21日

2012全日本インカレレポート③ 祭りのあと

2012全日本インカレレポート③ 祭りのあと

インカレ終了後の様子です。
結果がよくても悪くても、「この大会があってよかった」と思える瞬間じゃないでしょうか。

●東京女子体育大学

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●日本女子体育大学

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●国士舘大学

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●花園大学 rg-lovers-343237.jpg


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●青森大学 rg-lovers-343240.jpg


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2012年08月20日

2012全日本インカレレポート② 篠原良太(国士舘大学)

2012全日本インカレレポート② 篠原良太(国士舘大学)

「ONLY ONE」

男子新体操には、いろいろなタイプの選手がいる。
そして、それぞれの魅力に私は魅せられてきた。

魔法のように巧みな手具操作だったり。
人間とは思えないほどのタンブリングだったり。
別世界に引き込むような表現力もしかり。

みんな違って、みんないい。

まさにそんな感じだ。

しかし。
最近になって気づいたことがある。

私にとって「なくてはならないタイプ」の選手がいる。

それは、見ているだけで心が洗われるような、気持ちがやさしくなるような演技をする選手だ。

たとえば、「ファーストラブ」を踊ったときの植野慎介(当時中京大学)。
鈴木駿平(国士舘大学→アルフレッサ日建産業)のスティックやリング。
どこまでも美しく、最高に伸びた姿勢で止まって見せる。
その贅沢な間のとり方ゆえに、1枚の絵に見える瞬間が何回もある。
そして、その動きに合わせて空気も動いているように見える。
そんな選手達の演技だ。

演技の内容がどんどん高度化、複雑化するなかで、そのタイプの演技では点数は出にくいかもしれないが、点数や勝敗はさておき、そういう演技が、やはり私の中では、「男子新体操の真骨頂」なのだ。

賞賛できる演技はいくらでもある。
楽しませてくれる演技もたくさんある。

ただ、私の心にすうっと入ってくるのは、そういう演技なのだ。
これはもう感性の問題としか言えない。
審判の評価がたとえ高くなくても、そんなことはどうでもいい。

私には、そういう演技が必要。それだけのことだ。


篠原良太(国士舘大学)は、今、私が知っている範囲の選手の中では最後のそのタイプだった。
だから。
彼の演技が、本当に大好きだった。
たとえミスして、演技自体の出来が悪かったとしても、あの美しくのびやかな動きを見せてくれれば、私には十分「いい演技」だった。

今大会では、1種目目のリングでミスがあり、多少気落ちしていたかもしれない中で挑んだスティックの演技は、私にとっては珠玉の演技だった。結果的には、最後の最後で落下場外があり、彼のジャパン進出を絶望的にしてしまったが、そのミスが起きるまでのあの演技は、私の一番好きな、一番彼らしい演技だったと思う。

作りこまれた美しさやかっこよさではなくて。
自分の体のもっているもっとも素直な美しさ。
そういうものを見せてくれる選手だった。

決して大きな選手ではないのに、彼がスティックを長くもって、全身を使って大きな弧を描くとき、その弧はどこまでも大きく見えた。
体の隅々までが伸びていて、スティックの軌道もどこまでも大きい。
だから、ただスティックを回すだけの動きでも目が離せなかった。

彼の演技を、ジャパンで見られないという喪失感から、私はなかなか抜けられずにいる。

楽しみな選手も、素敵な選手もいくらでもいる。
でも、彼の代わりはいないし、あのタイプの選手は本当にもうほとんどいないのだから。


舞台はどこでもいい。
いつかきっと。

もう一度、彼の演技が見られることを、私は信じている。
                                            

※篠原良太(国士舘大学)「2012全日本インカレ:クラブ」
http://www.youtube.com/watch?v=oLfW5EuGo5k

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2012年08月19日

2012全日本インカレレポート① 菅 正樹(花園大学)

2012全日本インカレレポート① 菅 正樹(花園大学)

「強さ」

突出したスター不在の混戦模様。優勝はどう転ぶかわからない。

そんな予想もあった2012年のインカレだが、終わってみれば、彼以外にチャンピオンはあり得なかった。そんな印象の大会だった。

個人総合優勝を遂げたのは、菅正樹(花園大学3年)。
それも、個人総合だけでなく3日目の種目別決勝も4種目とも優勝し、完全優勝を成し遂げたのだ。

試合後、いろいろな指導者、観客、選手に話を聞くと、みな口々に「菅が強かった」と言った。
菅正樹は、1年前の鮮烈なインカレ優勝から1年かけて、誰もが認める「強いチャンピオン」になった。


私には、今大会の菅に対しては演技のうまさや強さよりも、さまざまなものを乗り越えようとする力の強さがとても印象に残った。

何も考えずに思い切ってやった結果、優勝がついてきた去年とは違う。今年は、「優勝する」という意思をもって彼はこの大会に挑んできた。それだけに、抱えるプレッシャーも大きかっただろうと思うが、演技からはそんなプレッシャーはみじんも感じられなかった。まるで、自分が優勝することが決まっているかのように、堂々とした迷いのない演技を、個人総合の4種目、さらに種目別で4回見せた。

しかし、その堂々とした演技とはうらはらに、フロアに出てくるときの菅の表情にはやや重苦しさがあった。いわゆる「無欲でいい演技ができればいいと思ってる」という表情ではなかった。自分が勝たねばならないことがよくわかっている、そんな風に私には見えた。

個人総合最終種目のロープの演技に入る前の菅は、はっきり「これで決めてやる!」という表情をしていた。そして、いざフロアに上がる前に何度も頭を振っていた。
あれは何をやっていたんだろう?
私の目には、「雑念」を払っているように見えた。
勝つ意思をはっきり持っているだけに、そこによぎる少しばかりの不安や、強くなりすぎそうな欲、そんなすべてのものを彼は何度も振り払い、そしてフロアに立った。

音楽が流れ、動き始めてしまえば、なんの心配もない王者の演技だった。今大会では投げ受けでのミスが目立ち、落下や落下にはならなくても、待って取る、動いて取るという場面が多く見られたが、菅の演技にはそういったブレがほとんど感じられなかった。
いつも、予定した通りに投げ、キャッチする。それも余裕で。
この確かさを、単に「うまい」で済ませることはできない。

菅とて天才ではないのだから。
つまり、それだけ彼が人一倍の努力を重ねてきた、ということに他ならない。連覇のプレッシャーも、完全優勝のプレッシャーも感じないほどの強心臓かといえば、そんなこともない。忘れもしない、去年は思いがけずインカレチャンピオンになったことで、ジャパン前に気持ちが落ちてしまった。そんな危うさを抱えた選手だったのだ。

その菅正樹が、技術、能力はもちろんのこと、メンタルでもここまで他の選手を凌駕するようになるとは思っていなかった。
いったい何が彼をそう変えたのだろう。

考えすぎてうまくいかなかった昨年のジャパンの経験。
それもある。
そして、彼が常に言っていたように、「花大を選んで来てくれた1年生達のためにも、強い花大でいたい。みんなで上がっていきたい」という思い、責任感。それも大きかったのではないか。
普通なら抱えるものが大きくなればつらくなり、逃げ出したり、言い訳したくもなるが、菅は、その負荷を自分のエネルギーに変えることができたのだと思う。

その彼の強さは、もしかしたら「持たざるもの」の強さなのではないか、と思う。ジュニア~高校でも結果は残してきた選手ではあるが、いつも有名クラブ、名門校とは言えないところに所属する選手だった。
すべての要素が高いレベルで揃ってはいるが、これと言って突出したもののある選手でもなかった。
そんな菅が、花園大学で個人選手として上を目指していくためには、とにかくすべてにおいて頑張るしかなかったのではないか。

その結果、彼は、タンブリング、手具操作、表現、動き。すべてがトップレベルでそろった選手に成長した。1つ1つの要素を見れば、より上の選手もいるが、平均値の高さと、実施のたしかさが、抜けている。
そこには、足りないものを補うための、彼の努力と工夫があったのだろう。そして、そういう自分の「足りなさ」を自覚しつつやってきた者は、常にプレッシャーやコンプレックスを抱えている。その結果、耐性がついてくる。

おそらく菅も、そういったプレッシャーと戦い続けてきたのだろう。そうして、試合や本番でのプレッシャーに打ち克つ力をつけてきたのだ。
「自分の納得のいく演技ができればいい」
決して間違ってはいない、そんな言葉に逃げ込まず、「今回は、勝ちに行く!」という思いと常に本気で向き合ってきたから、彼は強かった。

記録をさかのぼれば、平成17年の野田光太郎(当時花園大学)以来の完全優勝だった。
「ぼくは、そんなんじゃないんで」と言っていた去年のインカレとはまったく違う。
狙って、意識して、戦って、もぎ取った正真正銘の誰もが認める王座だ。
ジャパンには、今度こそ、学生チャンピオンとして「勝ち」にいってほしい。今の彼なら、きっとそれができる。

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