インカレ団体決勝に向けて
団体予選では、1位・青森大学、2位・花園大学、3位・福岡大学、4位・国士舘大学という結果になったが、1位と2位の差は、わずか0.150である。予選の得点は2分の1になり、決勝の得点と合算するので、実質の得点差は、0.075とないに等しい。すべては明日の決勝で決まると言ってよい。
3位と4位についても同様で、実質の点差は0.050しかない。予選の演技はどのチームもかなり素晴らしく(観客目線でも気づくようなミスはほとんどなかった)、チームごとの個性がよく出ていたように思う。
とは言え、各チームそれぞれに小さなミスはあったようなので、決勝ではそれを修正してさらに納得のいく演技になることを期待したい。
今回のインカレ前に、4大学の練習を取材してあったのだが、予選前に記事をアップすることができなかった。すでに予選は終わってしまったが、いざ決戦を前に少しでも各チームの日ごろの様子、インカレに懸ける思いが伝わるように、あまりにもギリギリではあるがレポートしておこうと思う。
まずは国士舘大学から。
●国士舘大学
点数は伸びなかったが、予選での国士舘の演技はかなり印象はよかったと思う。比較的最近、試技会や取材で国士舘の演技を見る機会があった人に聞くと、「(予選での演技は)いい出来だった」と言う。つまり、それだけ今回の国士舘は、苦労していたということだ。それなのに、本番にはかなり合わせてこれた。そのことに価値がある。いや、もちろん、よりよい実施で決勝では、さらに上を目指してはいるのだろうが、現時点でもすでに十分チームは成長してきたと言える。
一昨日、昨日の公式練習のとき、日の丸のついた扇子を片手に、誰よりも大きな声をあげて檄をとばしていたのが、熊沢大地(4年)だ。本来なら彼がこのインカレのフロアに立っているはずだった。4年になってからの熊沢は、最高学年の自覚と責任をしっかり感じているようだった。それに伴って、演技の中での存在感も大きくなっていた。そんな熊沢が怪我をしたのは、インカレに向けての試技会が開かれた7月だった。本人もおそらくショックだったろう。4年のインカレだ。「次」はもうない。それでも、無理して出るのではなく、しっかり治癒してジャパンでの復帰を目指す選択をした彼がどんな思いでチームをサポートしているかを想像するだに切ない。チームメイト達もそれは痛いほどわかっているだろう。フロアに立つ6人だけではなく、彼らは今日、熊沢の思いも一緒に踊る。
●福岡大学
昨年はインカレ、ジャパンという舞台でミスが出てしまい、残念な結果になってしまった福岡大学だが、今年はいつもより「新体操らしい演技」にしたという。団体リーダーの木原(4年)によると、「徒手のポイントを見やすくした」とのことだが、たしかに今年の作品ではひとつひとつの動きの美しさが際立って見え、それゆえに情感がしっかり伝わってくる。
7月に取材に行ったとき、たまたま体育館が体操の発表会で使われていて、団体メンバーは体育館のロビーの硬い床の上で合わせの練習をしていた。その西日が射し込むロビーで、KOKIAの「花宴」にのせて踊る姿はなんだか神々しくさえ見えたのだ。おそらくそれは、このチームがじつに自立していることとも無縁ではないように思う。
監督不在で練習することも多いこのチームは、さまざまなことを自分達で考え、工夫し、問題解決している。だから、作品に対する思い入れもひとしおであり、そこに感情がこもるのだろう。木原の口からも「演じるときは、役に入るといイメージで。見ている人に伝わるくらいに感情を出して踊りたい。」という言葉が出た。彼らがもっとも目指しているのは「そこ」なのだ。
予選での演技は、大きなミスなく、彼らの描きたかったものは、しっかり出せていた。演技が行われている間の、観客が息をのんでいるような静寂がそれを物語っていた。決勝でも「伝わる演技」を期待したい。
●花園大学
7月に花園大学を訪れたとき、じつは私は団体の練習を見ていない。「団体は見せられませんが、それでもよければ」という条件でお邪魔させてもらったのだ。今年の花大は、それだけ団体に懸けていた。そして、勝負にこだわっていた。野田監督に話を聞いても「今回は勝ちます」という言葉が何回も出た。
しかし、そのわりには公式練習での花大には、昨年までのようなイケイケ感はなかったように思う。もちろん、勝ちをあきらめたわけではなく、勝ちたい気持ちを表に出しすぎない冷静さやしたたかさをももって今年の花大は、「獲りにきてる」ということだろう。
その意欲は、例年よりずっと早くに構成も完成させ、インカレに向けて精度をあげてきたという準備の仕方にも表れている。予選での演技にはややばらつきもあったが、十分修正可能な範囲に見えた。そして、公式練習で見たときには合わせるのが難しいのではないかと感じた、ふわあっとした動きをは本番では見事に空気を動かしていた。
決勝では、花大が歴史を動かす瞬間を見ることができるかもしれない。
彼らはそのために、この9かつき、いや1年、いやもっとずっと前から牙をといできたのだから。
●青森大学
11連覇に挑む王者青大には、今年は正念場の年になりそうだ。昨年のジャパンでの辛勝があったため、次は圧倒的な勝ちをおさめなければ、というタスクを負わされている。
リーダーの日高(4年)は、2008年のジャパンで青大が国士舘に敗れた次の年に青大に入学し、1年生からレギュラー入り。以降、青大はインカレ、ジャパン通して負けを知らない。その日高の不敗神話を守ること、を今の後輩達はかなり意識しているという。愛嬌があり、誰からも愛される日高だからなおさらのこと、みんなが「ゆうきさんを無敗で卒業させたい」と言う。
当の日高も、もちろんそれを目指してはいるのだろうが、きわめて冷静だ。「いつも通りやるべきことをきちんとやるだけ」と彼は言う。
中田監督から若い高岩監督に代わったことで、不安もあったはずだが、日高を見ている限り、まったくそんな迷いは見えない。なにをやるべきか、彼は知っている。後輩達もだ。
そして、その言葉通り、公式練習でも予選でも青大は、青大らしさに今までとは違うよさ(かっこよさと言ってもいい)を備えた演技を見せていた。その強さに対して感嘆の声があがるのは、いつものことかもしれないが、今年の青大の演技は「なんか違う」のだ。
そのひと味違う青大が、連覇をのばせるかどうか。日高の不敗神話を守れるかどうか。
それは、今日の決勝にかかっている。