国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。
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国際社会における中国の動きをどう見るか。各国の判断が分かれたのが、アジアインフラ投資銀行の設立です。日米の警戒心は正しいのでしょうか?
中国が主導するアジアインフラ投資銀行(以下、AIIB)の設立メンバー参加申請が3月31日に締め切られました。融資の受け手となるアジアの発展途上国を中心に、資金の供与側となる先進各国も含めて合計50を超える国と地域が参加を表明しましたが、アメリカは参加を見送り、日本もそれに歩調を合わせています。
アメリカにしてみれば、AIIBは世界銀行や国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行など自らが主導してつくり上げた国際金融秩序を乱す存在という認識。AIIB構想を中国が発表した当初は、日本に加え同盟国の韓国、オーストラリア、そして西側の主要国に対し、参加に慎重になるよう働きかけたといいます。
しかしフタを開けてみれば、フランス、ドイツ、イタリア、スイスなどの欧州諸国や韓国、オーストラリアがAIIBへの参加を表明しブラジルやロシアといった新興大国もそれに続きました。
この流れをつくったのは、3月12日に参加を表明したイギリスです。アメリカと関係の深い同盟国の意外な行動に国際社会は揺れ、ホワイトハウスはただちにこの動きを公式に批判しました。
ただし、これはイギリスが「アメリカから中国に乗り換える」という単純な話ではありません。AIIBに参加することで、アジア地域に対する投資機会が広がるという実利的な判断もあったでしょうが、その背景には欧州におけるイギリスの地位、目指すべき方向性という問題があります。
イギリスは危機的な状況にある欧州の共通通貨ユーロに加盟しておらず、国内ではEU脱退論もくすぶっている。だからこそ、中国との経済関係を深めることで世界の主要金融センターであるロンドンの存在価値を高め、非欧州圏も含めた国際社会全体に市場を広げておきたいのです。イギリスの参加表明からわずか5日後、ドイツやフランスが参加に踏み切ったのも、おそらくこの動きに焦りを感じたからでしょう。
面白いのは、既存の国際金融秩序の中心的役割を担う世界銀行のジム・ヨム・キム総裁が「イギリスのAIIB参加を歓迎する」と述べ、AIIBを後押ししているという事実。両組織の関係者はAIIBのある中国・北京と世界銀行のあるアメリカ・ワシントンを行き来しブリーフィングやヒアリングを重ねています。