2013全日本ジュニア直前企画⑤ ブルーミングRG
全日本ジュニアを目前に控えた10月6日から4日間、私は長野の新体操クラブをいくつか訪ねさせてもらった。
そのしょっぱなで伺ったのが、ブルーミングRGだった。
そして、そこには、全日本ジュニアに個人で出場する児玉悠がいた。
全日本ジュニア直前でさぞかし追い込んだ練習をしているのだろう、と思ったが、いい意味でそれはそうでもなかった。もちろん、4種目しっかり確認しながら練習していたし、不安の残る技は何回もやり直して精度をあげようとしていた。大きな試合を控えた選手として、やるべきことはきちんとやっていた、と思う。
が、私が居合わせた3時間ばかりの練習時間中、他の選手が使っていた手具が天井にひっかかってしまったことが2回あった。どこの体育館でもよく見る光景だろうが、この緊急事態で彼女はじつに頼りにされていた。
何人かの選手が天井の手具めがけてフープを投げ上げるが当たらない。
当たらないどころか届きもしない子もいる。
そして、次第に、児玉悠に「お願い!」「任せた!」という空気ができあがってくる。
そして、彼女はそんな周りの期待に応え、2回ともしっかり手具を取り戻すことに成功した。
彼女の投げたフープが手具に命中し、ふわっと落ちてくると、みんながワアッと沸き、称える拍手がおきた。クラブから唯一人、全日本ジュニアに出場する。つまり、実力も抜けた選手なのだろう。
おそらく、後輩達にとってはもっとも身近にいる「あこがれの選手」。
そんな児玉は、仲間の手具を取り戻すために、どこにどうフープを当てればうまく落とせるか、を工夫しながら何回も何回も、汗をかきながらフープを投げ上げる、そんな選手だった。
個人の演技を見せてもらうと、キレのいい動きの中に、かなり挑戦的な手具操作も盛り込んだ意欲的な作品で、なかなか面白かった。長野カップなどで小さいころから見る機会の多かった選手で、しかそりジャンプなどで見せる身体能力の高さが印象に残っている選手だった。しかし、中3になった今、こんなに手具操作にも長けた選手に成長していたとは。。。
代表の山浦先生も、児玉のことを「けっこう器用なんです。それに、いろんな技を自分で考えてくるんですよ。」と言う。
なるほど。
難しい操作でも、自分で思いついたり、やりたいと思ったものに自ら挑戦しているんだ!
そういう自発的な取り組みをしているから、身についたものも多いんだろう。
そう感じた。
そして、それは児玉に限ったことではなかった。
山浦先生に言わせると、「手が足りてないから」という反省の弁になってしまうのだが、たしかにこのクラブは子どもの数に対する指導者の数は多いとは言えない。
つきっきりで、手取り足取り教え込むのがいき届いた指導というのならば、おそらくこれでは足りてないかもしれない。
だが、それでも決してここの子ども達は下手ではない。
むしろ、かなりうまい。いい演技をする。
つまり、それはつきっきりの指導の賜物ではない演技だということだ。
いつもいつも先生に見てもらえるのではなく、また、演技だって自分で考えることも多いという。
それでも、この子達の心の中には、ちゃんと「ステキな新体操」がどんなものかインプットされていて、自らそこに近づこうとする意思を持っている。
だから。
ちゃんと成長していくのだ。
児玉悠もまた、そういう成長をしてきた選手なのだと思う。
体育館の半分を育成の小学生達が使っていた。
バーレッスンをひとしきりやったあと、アップをしていたが、
そのジャンプを見て驚いた。
以前から私が「ブルーミングのしかそり」と思っている、まさにその形で小学生達も跳ぶのだ。
今の育成の子達は、育成に上げるのも遅くて、なかなか手をかけてあげられなかった、と山浦先生は言うが、だからこそ、こんなにも意思をもって、やる気に満ちた子どもに育っている。
子どもってきっとそんなものだ。
この日、育成の子ども達が見せてくれた「上手になりたい気持ち」「私を見て! という気持ち」に溢れる演技は、どこまでもチャーミングでキラキラ輝いていた。
中3にもなれば、小学生のころと同じわけにはいかないだろうが、
できることなら児玉にも、全日本ジュニアという舞台でこの子達のように輝いてほしいと思う。
なぜなら、彼女は「ここ」で育ってきたのだから。