「新星の実力」<上>
今年の高校選抜大会で、男子団体6位に入った愛知県の武豊高校。
今までインターハイや選抜などの団体ではほとんど名前を見たことのない学校だ。
それがいきなり6位入賞。それも、メンバーは全員1年生(選抜大会当時)というから驚いた。
よくよく聞いてみれば、全日本ジュニアの常連である半田市立半田中学校の選手たちの多くが武豊高校に進学したのだという。
それなら、突然の6位入賞もうなずける。
しかし、実際のところ、武豊高校には新体操の練習ができる設備がなく、彼らは練習日には、自転車で40分ほどかかる半田中に移動しているのだとも聞いた。さらに昨年は、半田中の体育館も建て替え工事中で、満足に使うことができなかったというから、半田中から進学してきた新体操経験者がいたところで、決して恵まれた条件でやっているチームではないのだ。
それでも。
選抜大会6位になった武豊高校の練習を一度見てみたいと思い、初めて半田市を訪ねてみた。
2014年5月17日。
彼らが練習しているという半田中の体育館に足を踏み入れて、私はまず、その人数に圧倒された。
半田中学の生徒達も一緒に練習していたとはいえ、ゆうに30人は超えている。
この中で、高校生は14人だとのことだったが、それでも少ないほうではない。
まずは、中高校生一緒に、縄跳び(これがかなり長い!)したり、柔軟、筋トレ、さらにはアイソレーション、ダンスなどを行う。タンブリング練習は、中学生と高校生で分かれて行うが、それでもかなりの人数だ。全員が中学に入ってから新体操を始めた子ばかりという中学生は、まだバク転にも苦労しているような子もいる。が、これだけの人数いれば、練習も楽しそうだ。
真剣に取り組んではいるのだが、合間には笑い声も上がる。誰かが高度な技を成功させれば、みんながわく。「俺だって…」と張り合う空気にもなる。
それは、「部活」として、とても健全な状態に見えた。
半田中の今年の新入部員は、20名超えそうだという。全員が未経験者。
まだ新体操をやったことがない子20人に「やってみたい」と思わせることがすごい。
そんな半田中の新体操部から武豊高校に進学し、団体メンバーになっているのは、この6人だ。
高校選抜と同じメンバー。岩本司、安原尚輝、城和真、高橋淳、榊原直之、巽晶寛。全員が2年生になった。
この日は、翌日に愛知県インターハイ予選を控えていたため、団体の練習は軽めだった。
さらっと流して、タンブリング抜きでの通し。
細かいところを、詰めて合わせるような練習はしていない。
なので、私には、彼らが明日のインターハイ予選でどのくらいの精度の演技をするか、はわからない。
しかし、今日の軽い練習を見ただけでも、このチームの良さは、十分に感じることができた。
ジュニアから新体操をやってきて、高校生になるころにはすでにキャリア10年。
そんな選手が増えつつある時代において、全員が中学に入ってから新体操を始めたという半田の選手達は、個人差はあるにせよ、素直でのびやかな体操をする。
そんな選手達が6人集まれば、それは間違いなく気持ちのいい演技になる。
思い返してみれば、彼らは中学3年生だった年の全日本ジュニアで団体3位になっている。
しかし、この年は抜群の実施力をもった恵庭RGが、18・200のハイスコアで優勝した年で、それに比べれば、半田中はまだ粗も目につく演技だったように記憶している。
それもそのはず。
中学3年の10月では、彼らは新体操部に入ってまだやっと2年半だ。
「まずは前転から」始めての2年半はあまりにも短い。
それでも全日本ジュニアに出てきて、3位にまでなるだけでもすごいことだが、じつは全日本ジュニア時の彼らは、まだまだまったくの発展途上だったのだ。
半田中の卒業生には、全国の強豪チームで活躍してる選手も多い。
それは、ここで身につけた基礎がよそに行ってからも通用するという証明ではあるが、ジュニアから一貫して育てたときに、ここではどんな選手達が育つのか、ぜひ見てみたいと思った。
つまり、そう思わせる演技を彼らの団体チームはしていたし、じつは、団体の後に見た個人がなおさらそう思わせてくれたのだ。
半田中で永年、新体操の指導に携わり、現在は武豊高校も指導している杉江先生は、口癖のように「あせらない」と言う。ここにいる選手達は、経験値ではまだまだ上位の選手達と競えるレベルではない、とわかっているのだ。
ただ、それはこの先もずっと勝てないと覚悟したり、あきらめたりするということではない。
言葉通り「あせらない」で育ててきた選手達が、ここまで仕上がってきた、ということなのだ。
まずは、インターハイ予選、東海ブロック大会で、力を出し切り、代々木第一で行われるインターハイでも、彼ららしい、のびやかな体操を見せてほしい。