安全保障法制で集団的自衛権の行使に並ぶ危険な活動は、他国の軍隊への後方支援だ。周辺事態法の改正と新法(恒久法)の二本立てで、自衛隊が他国軍のために弾薬や食料、燃料などを提供したり、輸送したりできるようにする。
周辺事態法は、朝鮮半島有事など日本周辺で戦う米軍を憲法の枠内で支援する法律だが、改正により「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」ならば、自衛隊は世界中どこへでも行くことができて、支援対象も米軍から他国の軍隊へと拡大される。新法は「国連決議または関連する国連決議」があれば、日本の平和に無関係でも、やはり自衛隊が他国軍を後方支援できるようになる。
二つの法律は派遣根拠が異なるだけで、自衛隊の活動内容に変わりがあるわけではない。安倍政権が目指す「切れ目のない対応」をするため、いかなる理由でも派遣できるようにする狙いがみえる。
例えばイラク派遣の根拠となった国連決議は、米国によるイラク戦争を認めたものではなかった。新法は「関連する国連決議」にまで根拠を広げるため、国際法上の正当性が疑われる戦争であっても自衛隊を差し出せるようになる。
どちらの法律も国会の事前承認は原則とされ、事後承認もあり得る。しかも恒久法なので、目的、期限を定めた特別措置法で対応したインド洋の洋上補給、イラク派遣のような議論はなく、国会の歯止めはないに等しい。
さらに「現に戦闘行為が行われている現場」以外なら自衛隊は後方支援できるようになる。戦闘している部隊よりも燃料、食料を輸送する後方支援部隊が狙われるのは軍事常識だろう。武力行使との一体化が疑われ、周辺事態法で「行わない」と明記された弾薬の提供、発進準備中の航空機への給油まで認める方針なので、憲法の歯止めさえ怪しくなってきた。
正規軍に対して、武装勢力が自爆テロや仕掛け爆弾で対抗する非対称戦の最中に「現に戦闘が行われていない現場」がどこなのか判断できるだろうか。米国防総省はイラク戦争における米兵の死者のうち、大規模戦闘での犠牲者は百九人だったのに対し、その後のイラク駐留で三千人以上が死亡したと発表している。
戦争を知らず、戦場へ行くことのない政治家や官僚が机上で勇ましい夢をみている。 (半田滋)
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