つまるところ、免許の取り消しをちらつかせてお酒の安売りをやめさせようと…
政府などの公文書を保存、公開する国立公文書館。手狭になったいまの施設の…[続きを読む]
つまるところ、免許の取り消しをちらつかせてお酒の安売りをやめさせようということか。
自民党が、議員立法で酒税法などの改正作業を進めている。この国会での法改正を目指すという。
財務相は、酒類の製造や販売に携わる業者が守るべき「公正な取引の基準」を定める。それを守らない業者には指示や命令をし、命令に違反した場合は免許を取り消すことができる。こんな内容である。
スーパーやディスカウントストア、コンビニなどが加わる販売合戦のなかで、「街の酒屋さん」は苦戦をしいられている。中小零細業者を中心とする販売店の組合は法改正を含む規制強化を求めてきており、政権与党がそれに応じたという構図だ。
ライバルの追い出しを狙うような安売りが許されないのは当然だ。不当な販売戦略で先祖代々の酒屋さんが閉店に追い込まれる事態は防がねばならない。しかし、それは公正取引委員会を中心に独占禁止法をしっかり運用するべき問題だろう。
自民党の改正法案が言う「公正な取引の基準」の内容はあいまいなままだ。有識者からなる審議会に諮り、公取委との協議を義務付けるというが、独禁法の趣旨をなぞるだけなら業者側が黙っていないかもしれない。「価格」に踏み込んで安売りを抑えようとするなら、自由な経済活動を妨げ、消費者の利益を損ないかねない。
お酒の販売免許を巡っては、かつては一定数の住民がいないと免許を出さない「人口基準」や、既存店からある程度離れていないとダメという「距離基準」があった。それらは2000年代に入って相次いで廃止され、消費者の便利さを高める方向で制度が改められた。
安売りがもたらす弊害に関しては、国税庁が06年に公正な取引のための指針を作り、公取委との連携強化や大手業者への調査の強化を打ち出した。その指針も「常に『消費者の視点』を意識し……」とうたっていることを忘れてはならない。
お酒は飲み過ぎると体調を崩し、依存症に陥る恐れもある。だからと言って、安売りをなくすことが正当化されるわけではない。お酒との賢い付き合い方は、消費者への教育や啓発を通じて訴えていくべき話である。
消費者の関心が高く、民間の創意工夫を引き出すカギともなる「価格」を巡る競争を大切にしながら、行き過ぎた場合はしっかりと取り締まる。この原則を、自民党はいま一度思い出してほしい。
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